英梨々を甘やかして作る物語   作:きりぼー

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日曜のひとときいかがお過ごしでしょうか。

今回は平穏な一日です。


絵を描く英梨々とモデルをしている倫也

 春休みになり、長閑な一日が繰り返されている。

 

俺はベンチに座り、まだ咲いていない桜の木を眺めながら英梨々の持ってきた和菓子の道明寺を口に頬張る。品のいい甘さと桜の葉の塩見がちょうどいい。隣で英梨々もモグモグと食べながら、持ってきた水筒のお茶をカップに入れている。

「ふぁい・・・」

「飲み込んでからしゃべれ」

「・・・んぐっ。はい、お茶」

「ども」

英梨々からお茶を受け取って、一口すする。これがまた、なかなかどうして旨いお茶だったりする。

 

 英梨々と付き合ってから生活水準が少し上がった。英梨々によって自動的に引き上げられたというほうが正しいかもしれない。基本的にこういう口にする食品は上等なものになったし、外食も増え、入る店もチェーン店ではなくなってきた。

別に男としての古いプライドみたいのはないし、英梨々に任せてそれなりの贅沢を享受するようになった。一歩間違えばこのままヒモ生活がまっているのかもしれない。

 

「で、どうして桜がまだ咲いていないのに、絵なんて描きにきたんだ?」

「あんたバカね。桜が咲いていたらお花見の人が多くて絵なんてゆっくり描いてはいられないでしょ?」

「いや、そりゃそうだけど・・・」

「だから、こういう空いているときに花と関係ないところを描いておくのよ。木の部分や背景の地面やベンチは花が咲いていなくても関係ないじゃない」

「ほうぅ・・・」

「あとは花が満開になったら、花のところだけをまた描きにくればいいのよ」

「そういうもんなのか」

「そういうもんでしょ」

 

 と、いうわけで・・・今日は英梨々の油絵につきあって公園まできている。俺はさっきまで英梨々の視界に入るベンチに座り、ケータイゲームをしながら時間をつぶしていた。モデルといってもポーズをとったまま動かないようなことは必要ないらしく、けっこう自由にしていた。

 絵を見ても、俺のいるところは小さな一部でしかないし重要度はさほどなさそうだ。

 

 今日は天気がとてもよく、とても穏やかな日だった。さっきから何度かアクビがでてしまう。こうして休憩をはさんでお腹が満たされたら、いよいよ眠気に我慢ができなくなりそうだ。

 

「もう少し描いてていいかしら?」

「ああ。もちろん好きにしてていいけど・・・」

「・・・けど、なによ?」

「寝てていい?」

「別にいいわよ。でも、横にはならないでよね」

「わかった」

 

 英梨々がお茶のカップを回収して水筒を鞄にしまった。ベンチから立ち上がって軽く体操をしている。英梨々に合わせてツインテールが揺れて煌めく。絵を描いている時は集中しすぎて体が固くなるらしい。

それから、英梨々は元の場所に戻った。もってきた折り畳みイスに座って、キャンパスに筆で絵具を置いていく。俺はそんな英梨々を微睡みながら眺める。英梨々と目が合うと、微笑んできたり、ちょっと睨んできたりする。何かしゃべるように口を動かしている時もあるが、声は出していないようだ。

 

「ふあぁ・・・ぁっ」俺はまたアクビを1つする。

ここはモデルらしく足を組み、ベンチにもたれかかって目を閉じた。遊んでいる子供がいないせいか、とても静かだ。

やっぱり冬のコミケに向けてゲームでも作りたいなぁと考えつつもロクなアイデアも浮かばず、平穏な日常に身をどっぷりと沈めている。英梨々の笑顔をみるたびにこれでもいいのかな・・・などと自己欺瞞をする・・・

 

※ ※ ※

 

「倫也。と~も~や~!」

どこかで俺を呼ぶ声がする。

「倫也!」

「んあ?」

目を開けると、英梨々が立っている。腰に手を当ててあきれた表情で「何、爆睡しているのよ」と言った。

「あっ、そんなに寝てた?」

「よだれたれてるわよ」

「まじで?」服で口を慌ててぬぐった。

「恥ずかしいぐらい舟を漕いでいたわよ」

「そんなに寝てたのか・・・」

「そろそろ帰るわよ」

 

見ると、英梨々はすっかり片づけを終えて大きな鞄を手に持っている。

俺は立ち上がって背伸びをしてから、その荷物を受け取った。また、アクビが1つ。英梨々はキャンパスの方をもっている。

 

「なんかいい陽気だったな」

「春眠暁を覚えず・・・だったかしら?」

「そうだな、ほんとそんな感じだったよ」

 

並んで駅の方へ歩きながら、英梨々がそっと俺の右手を握って手をつなぐ。そんな時は俺が英梨々の方を見ても、英梨々はまっすぐ前を向いてこちらを見ていない。そして頬や耳が少し赤く染まっている。

 

※ ※ ※

 

 英梨々の家に着く頃には日は沈み始めていた。

俺は鞄を玄関に置いた。油絵の一式はけっこう重たく、おろすとほっとした。

 

「ありがと」

 

英梨々が小さな声で言ってから、口を抑えて小さなアクビをしていた。

後でいつものように晩御飯を食べてから、うちにくるか訪ねたら、「今日はやめとくわ」と英梨々が言った。少し眠そうな目をしている。

 

「んじゃ・・・また明日な」

「うん」

 

英梨々が脱いだ靴をしゃがんでそろえた。

 

「桜が咲いたら・・・みんなでお花見でもしようかしら?」

「えっ・・・みんなで?」

「うん。みんなで」

「桜を?」

「・・・倫也?」

「いや・・・うん。わかった」

 

・・・桜か・・・加藤も来るかな?

 

 俺は思わずため息をついた。

 玄関のドアを開けて帰ろうとしたら、英梨々が「倫也、忘れ物」と言った。何か忘れたかな?と振り返ると、英梨々が腕を後ろに組んで目をつむっている。口元がニヤついていることから、英梨々は自分であざといマネをしていることに耐えているらしい。

 

 英梨々のオデコを指で軽く弾く。

 

「ちょっとぉ!なによ」

「なんとなくなっ」

 

 英梨々が大袈裟におでこを両手で抑えながら、目をバッテンにしている。

俺と英梨々はこうして玄関でくだらない時間を楽しく過ごし、帰るに帰れず・・・

 

「少しお茶でも飲んでいきなさいよ」

 

と、英梨々が誘ってくれたので、俺も靴を脱いで結局あがることになった。

 

(了)

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