Fate/Silver Order -選ばれし48人目のマスターは銀髪侍-   作:天パ男

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終わりと始まり

 

 

「天にまします我らの父よ」

 

 黒装束に身を包む少女は手向けの言葉を投げ掛ける。

 目の前には父の名が刻まれた墓が一つ。この墓の下で父は静かに眠っていることだろう。

 だから大声を上げて泣くわけにはいかない。何故と怒声を上げることもない。

 少女、オルガマリーは目を閉じ、静かに涙を流した。

 だがこの静かな涙すら、許されるのはこの一度きりなのだと彼女は自覚していた。

 人類の未来を守る為、使命に生きた父の跡を継ぐのは、紛れもない、彼女なのだから──

 

 

 

「いい加減にして!! こんな報告書で納得すると思っているの!?」

 

 机を勢いよく叩きオルガマリーは報告書を持ってきた部下に勢いよく怒鳴りつける。

 

「いい? 私たちには人類の未来が懸かっているの!! 半端な気持ちで仕事しないで!!」

 

 父の死からしばらく。跡を継いだ彼女は魔術の名門、アニムスフィア家の当主にしてカルデアの所長となった。

 だからこそ彼女は誰にも弱みを見せようとはせず、舐められまいと威圧的な態度を取っていた。

 しかし、だからこそ

 

 ──あの所長は、駄目だよ

 

 ──所詮は親の七光りだろう?

 

 ──これじゃあカルデアも、もう終わりかもな

 

 誰も彼女にはついて行こうとはしなかった。誰も彼女を認めようとはしなかった。

 誰も彼女を

 

「褒めてくれないの──」

 

 トイレに籠り、昼間食べた物を便器の中へと吐き出す。

 咳をし、震える体をなんとか落ち着かせるとオルガマリーは、本音を漏らした。

 本当は自身に、所長としての資格も器もないことなどりかいしていたし、自覚していた。

 人類の未来を背負うなど、私には出来ないと。

 

 

 「オルガ」

 

 重たい表情でトイレを出るオルガマリーに声がかかる。

 彼女に対して、唯一愛称で呼ぶレフだった。

 

「ロマニから薬を預かっている。辛いようならこれを飲むといい」

 

 レフはオルガマリーの体を気遣い、態々薬を用意してくれていた。

 

「‥‥‥‥ あなたが所長をすればいいのに。あなたは部下の信頼も篤いし、人のまとめ方もうまいじゃない。私なんかよりもよっぽど最適だわ」

 

 オルガマリーはレフにお礼を言うどころか、半場諦めたように嫌みを言う。

 そんな彼女に、レフは涼しい顔で答えた。

 

「‥‥‥‥ らしくないな」

「らしくない‥‥‥‥ !? あなたに私の何がわかるって言うのよ!!」

「わかるとも。いつも君の隣で君のことを見てきたのだから。君は父上の跡を継ぎ、頑張ってきたじゃないか」

「っ!‥‥‥‥ 」

 

 それは初めて向けられた優しい言葉だった。

 

「大丈夫だ、オルガ。私もついてる。君を支えるよ」

 

 レフはそれ以降も、言葉通りオルガマリーを支えてくれた。

 いつだって彼はオルガマリーの味方をしてくれた。

 

 

 ──だから私は、ここまで来れた。

 

 

 

 

 

「レフ‥‥‥‥ ! レフ、レフなのよね! よかった、生きてたのね! あなたがいなくなって、私‥‥‥‥ !」

 

 モスグリーンのタキシードにシルクハット。赤みのかかった長髪と常時細目で微笑む姿が特徴的な男。

 間違いない。大聖杯の光をバックに絶壁の上で悠然と佇む彼はカルデアに所属する者の一人、レフ・ライノールだ。

 あの爆発に巻き込まれ彼もまた、死んだかと思われていた。だが生きていた。

 理由はわからないが、今はどうでもいい。

 沸き上がる喜びの感情にオルガマリーは笑みを浮かべ声を上げる。

 これまでの疲労など全て忘れ彼女はレフの元へと駆け出そうとしていた。

 

「ちょっと待て。所長」

「── え?」

 

 だが、彼女の体はピタリと止まった。

 声をかけた方へと振り向くとそこには、駆け出そうとするオルガマリーの右手を掴み、普段の死んだ魚の様な目からは想像のつかない真剣な表情で見据える銀時がいた。

 正直、レフとの奇跡的な再会を無粋にも邪魔されたオルガマリーの心情は決して穏やかなモノではなかった。だがこの戦いの中で、銀時にもかなりの信頼を抱き始めていたオルガマリーは強く否定できず、動揺してしまう。

 

「ど、どうしたのよ銀時。あなたも彼をしっているでしょ? レフよ。レフが生きてたのよ」

「‥‥‥‥」

 

 銀時は答えない。その変わり、銀時の鋭い眼光はオルガマリーではなくレフへと向けられた。

 その瞳はオルガマリーを止めた時とは、また違う。敵を見定めいつでも狩ることの出来るよう臨戦態勢を整える獣のごとき目だった。  

 その様子にマシュも流石にただ事ではないと理解し、オルガマリーを宥めるべく声をかけようとする。しかしそれを通信越しにロマニの慌てふためく声が遮った。

 

『レフ──!? そんなバカな! 彼も爆発に巻き込まれたはず…… 本当にそこに彼もいるのか!?』

 

 ロマニの声を聞き僅かにレフの眉がつり上がるのを銀時は見逃さなかった。

 

「うん? その声はロマニ君かな? 君も生き残ってしまったのか。すぐに管制室に来てほしいと言ったのに、私の指示を聞かなかったんだね」

 

 それは淡々と、穏やかで静かな話し方だった。

 しかし言葉の節々に覚える妙な違和感と何処か冷たい声色からオルガマリーを除く銀時たちがレフの異質さに気づき始めていた。

 そしてそれは、勘違いや思い過ごしてはないことを銀時たちは即座に理解することとなる。

 

「まったくーー どいつもこいつも統率のとれていないクズばかりで吐き気が止まらないな。人間とはどうしてこう、定められた運命からズレたがるんだい?」

 

 つい数秒前までのレフとは違う。いや、正確に言えばさっきまで隠しきれていなかった彼の邪悪な一面が、今になって溢れだしたと言うべきか。

 以前までの穏やかな笑みは消え去り、レフの表情はギラギラと悪魔にでも取り憑かれたかのような恐ろしい風貌に変わっていた。

 背筋に言い様のない悪寒を感とったマシュはひきつった声を上げる。

 

「マスター、所長! 下がって…… 下がってください! あの人は危険です…… あれはわたしたちの知っているレフ教授ではありません!」

「ああ、だろうな…… わっかりやすい程に黒幕感出してやがらぁ」

 

 銀時の眼光はより鋭いモノへと変わり、彼の右手は腰に下げた木刀を握っている。

 しかしこんな状況下にいても尚、オルガマリーはレフの異変に気づくことなく感嘆の声を上げていた。

 

「ああ! 良かった……  レフ。レフ…… ! 。あなたがいなくなったらわたし、この先どうすればいいのかわからなかった!」

 

 レフの姿を捉えただけで今までの気苦労や不安、蓄積された疲労など全てが零れ落ちていくような気がした。

 オルガマリーにとってレフとはそれだけの存在であり大切な人だった。

 だからこそ盲目にならざるを得ない。喜びが全てを勝り、これまでレフと銀時らの間で為されていた会話など耳には入っていなかったのだ。

 今度こそ彼の元に行こうと再び駆け出そうとする。

 

「…… 君もだよ、オルガ。爆弾は君の足下に設置したのに、まさか生きているなんて」

「…………… え?」

 

 彼女の足がピタリと止まった

 今回は銀時に止められたのではない。直接、オルガマリーに向かって突きつけたレフの言葉がついに彼女の体を止めのだ。

 

「……レ、レフ? あの、それ、どういう、意味?」

 

 オルガマリーはの声は震えていた。それでも信じられない。否、信じたくないと言葉の意味を問う。

 が、その問いにレフは答えず冷たく言いはなった。

 

「いや、生きている、とは違うな。君はもう死んでいる。肉体はとっくにね」

「な…………」

 

 レフの言葉にオルガマリーは声も出なくなる。

 マシュも、また目を見開き驚愕の表情を見せる。銀時は変わらずレフに鋭い眼光を向けてはいたが、ほんの少しその目に揺らぎが生じていた。

 

「トリスメギストスはご丁寧にも、残留思念になった君をこの土地に転移させてしまったんだ。レイシフト適正のない君は肉体があったままでは転移できないからね」

 

 あまりにも残酷で無慈悲な真実が淡々とレフの口から伝えられていく。

 

 

「わかるかな。君はーーってグフォ!?」

 

 その瞬間、誰もが口をぽっかりと開き唖然とした。

 話を強制的に終了させた銀時を除いて。

 

「き、貴様! いきなり石を投げつけるとは何事か!」

 

 レフは石が直撃し目から流れる血を抑え、怒りの声をぶつける。

 しかし銀時は悪びれもせずに鼻くそをほじくる。

 

「いや、だってすきだらけだったから」

「なんだ、その短絡的な理由は! 大体あのタイミングで石投げるか、普通! 今、ものっすごい、大事な事を言おうとしていたんだぞ! 死んだ肉体ではーみたいな事を言おうとしていんたぞーー ごふぉ!? って、だから石投げ、な!? グフォ!? いや、だから、止めて!」

「止めてじゃねーだろ。大体よぉ、うんざりなんだよ。実はこの人、黒幕でしたーみたいな展開よぉ。しかも堺○人ばりに笑みを浮かべた細目の男が黒幕とか、どんだけありきたりなんだよ。これじゃあコ○ン君もOP終了後には事件解決だよ。余った時間でラ○ねーちゃんとデートだよ」

「いや、そんな事言われても困るのだが! それにこの話重要だから! 絶対聞いてほしい、ゴホォ!?」

 

 今度は人の顔ほどの大きさもある石、といより岩がレフの顔面に直撃した。

 しかし犯人は銀時ではなく、後ろに控えていたマシュだった。

 

「マ、マシュ! 君はそういうキャラじゃないだろ!」

「いえ。レフ教授の言葉など微塵も興味がなかったので。つい投げてしまいました」

「完全に汚染されているうゥゥゥ!?」

 

 悪純粋だったマシュの、悪い意味での大きな変化に流石のレフも動揺を隠しきれなかった。

 

「おいおい、なに生意気に銀魂特有のゥゥゥ!! とか使っちゃってんの? いくら同じ杉○でも許されると思うなよ。つーか使われると紛らわしいんだよ、マジで!」

「ヘブっ!?」

 

 怒りの籠った本気の投球が炸裂した。

 このまま容赦なく銀時たちの石つぶて攻撃が続くかと思われたが、それは直ぐに終わった。

 

「いい加減にしてよ!」

 

 声の主はやはりという、オルガマリーだった。

 彼女はプルプルと体を震わし上ずった声を張り上げた。

 その声には死んでいるという無情な真実を告げられた事に対する恐怖と自分そっちのけで変な方向に話が進んでいく事に対する怒りが込められていた。

 その声を聞くと銀時は石を投げる手を下げた。マシュもどうすればいいのか分からず黙ってしまう。

 

「死んだって…… なによ…… なんなのよそれ! どうすればいいのよ! 訳がわからないわよ! ねえ! …………レフ、あなたが、あなたが何とかしてくれるのよね? だっていつも助けてくれたじゃない!」

 

 髪をかきむしりどうしようもない怒りと悲しみをぶちまける。

 それでも彼女は心の何処かでレフを信じていた。

 いつも何かあれば助け心の支えになっていてくれたレフが自分を裏切るはずかないと。必ず何とかしてれると。

 だからこそ彼女は最後の希望にすがった。

 しかし、そんな彼女を見て流れる血を抑えるレフの口元は不気味に歪んだ。

 

「いや、君の運命は既に定めれている。消滅だ。カルデアに戻った時点で君のその意識は消滅する。所詮君はただの思念体なのだからね」

 

 オルガマリーの希望はあっさりと崩れ落ちた。

 ガクッと両膝をつき、絶望の顔を向ける。

 

「だが、それではあまりにも哀れだろう。だから特別に君にはカルデアが今、どうなっているのか見せてあげよう」

 

 セイバーが消え残されていた水晶体が引き寄せられるようにレフの元へと飛んでいく。

 水晶体は空中で制止し、その姿を変貌させた。

 

「な…… カルデアス?」

 

 空中に円状の空間ができる。その中には管制室を浮かぶカルデアスがあった。

 しかしカルデアスは彼女の知る通常の状態とは違い、炎に覆われ真っ赤に染まっていた。

 

「な、なによあれ。カルデアスが真っ赤になってる…… ? 嘘よ! こんなの! ただの虚構でしょ!」

「本物だよ。君のために時空を繋げてあげたんだ。聖杯があればこんな事もできるからね。さあ、よく見たまえアニムスフィアの末裔。あれがお前たちの愚行の末路だ。もはやこの結末は変えられない。もう既に気づいているのではないかね、ロマニ?」

『それは…… どういう意味ですか…… 2016年が見えないことに関係あると?』

 

 これまで沈黙を保っていたロマニが通信越しに声を出した。

 

「そのままの意味だよ。人類はこの時点で滅んでいる。お前たちは未来が観測できないことにたいし未来が消滅したなどとほざいていたが、そんなのは希望的観測だ。未来は消滅したのではない。焼却されたのだ。既に結末は確定した。貴様たちの時代はもう存在しない」

『……! それはまさか…… 外部との連絡がとれないのは、通信の故障ではなく……』

「ああ、君の推測通りだ。カルデアスの磁場でカルデアは守られているだろうが、外はこの冬木と同じ末路を迎えているだろう。だがそれも虚しい抵抗だ。カルデア内の時間が2015年を過ぎれば、そこもこの宇宙から消滅する」

「嘘よ! 嘘よ! そんなのあり得ない!」

 

 オルガマリーが必死に叫ぶがレフが発言を撤回することはなかった。

 ただ変わらず、獰猛な悪魔のような笑みを浮かべていた。 

 しかし銀時が石を構えるとトラウマになりかけているのかレフはビクッと体を震わせあとさずった。

 

「てめぇ…… こんな真似していったい何がしたい? 人類滅ぼして何が目的だ。テメーも人間なんじゃねーのかよ」

「ふ、ふん。生憎だが、私と君たちとでは生物として根本的に違う。全く、別の生き物なのだよ。改めて自己紹介をしようじゃないか。私はレフ・ライノール・フラウロス。人類を処理するために遣わされた2015年担当者だ」

 

 芝居がかった動きでレフは白熱したように声をあらげ始める。

 

「わかるかね? 異世界から来たマスター適性者よ、そして人類の残当共よ。お前たちは進化の行き止まりで衰退するのでも異種族との交戦の末に滅びるのではない。自らの無意味さに! 自らの無能さ故に! 我が王の寵愛を失ったが故に! 何の価値もない紙くずのように、跡形もなく燃え尽きるのさ!」

「……」

 

 あまりにも無情で突拍子もない真実に銀時たちは黙ってしまった。

 数秒沈黙が流れるとレフはつまらなそうに口を開く。

 

「さて私はここを去ることにしよう。いずれこの特異点も崩壊するだろうしね。だが、その前に、オルガ。私からささやかなプレゼントを贈ろう」

「な、なによこれ!? 体が引っ張られるーー!?」

 

 レフがすっと手をかざした直後。オルガマリーの体が宙に浮き始めたのだ。

 

「どうせ死ぬんだ。ならば最後に君の望みを叶えてあげよう。君の宝物、カルデアスに触れるといい。苦痛というなの永遠の幸せを味わえるだろうからな」

「いや、そんな、いや! いやよ、そんなの!」

「カルデアスは言ってしまえば、ブラックホール、いや太陽か。どちらにせよ人間が触れれば分子レベルで分解される地獄の具現だ。遠慮なく、生きたまま無限の死を味わいたまえ」

 

 足が地につかない。体が引っ張られる。

 

「い、いや」

 

 

 ── なんで、どうして。やっと。私はやっと

 

 

『だが、悪い女じゃねえ。良い女だよ、お前は。少なくとも、他人の、それも嫌ってる俺の命を思ってくれる程にはな』

  

 認めて貰えたというのに。

 

「誰か助けて── 誰か」

 

 こんな時に彼の顔が浮かぶ。それは父でもロマニでもなければ、勿論レフでもない。

 侵入者と敵視していた、この時代に来て信頼するようになった彼の顔。坂田銀時の顔が。

 

「助けて、銀時!」

 

 

 

 

 

 

 

「ああ。その依頼、この万事屋が引き受けた、ってな」

 

 銀髪の侍。異世界から来た、マスター坂田銀時は、オルガマリーの足を寸での所で掴んでいた。

 

「だからよ。涙は生きて帰ってからにしな、所長」

「‥‥‥‥ ! 銀時!」

「むおおおおおお!!」

 

 彼女を物凄い力で引っ張ろうとする何かに銀時はまけじと足を踏ん張った。

 そんな銀時に続く者が一人。

 

「所長! あと、もう少しです! だから、諦めないでください!」

「マシュ…… 貴方……」

「所長…… 所長はレフ教授がいなければ、どうすればいいのかわからないと言っていましたが、それは違うと思います。だって所長がここまで指揮してくれたから私たちはここにいます。私たちは生きています! 私たちには所長が必要なんです」

『ああ! その通りだ! だから所長、必ず帰ってきてください! 紅茶とケーキぐらいならご馳走しますから!』

    

 ロマニも通信越しに叫んでいた。

 ロマニの言葉に銀時はニヤリと笑う。

 

「つーわけだ。ロマンの野郎がケーキとパフェと虹の実を食わしてくれるっつーのに帰らねーわけにはいかねーだろ?」

『いや、ご馳走する物、増えてるうゥゥゥゥゥゥ!!』

 

 ロマニのツッコミシャウトが炸裂する中、一部始終を見ていたレフはくだらんと一笑した。

 

「どう足掻いたところでオルガ、君は死ぬ。カルデアに戻った所で体は消えるのだからね、と。さすがにこの特異点も限界か」

 

 パラパラと天井が崩れ始めるのがわかった。巨大な地揺れが銀時たちの足場を悪くする。

 

「ちょっ、やば! これ下手したら俺らも引っ張られる!」

「ええ!? ちょっと! さっきまで格好いいこと言ってたのに、それはないわよね! なんか万事屋が引き受けた(キリ!!)とかやってたわよね!」

「ちょっむり! これ無理! ほらだって、もう俺生まれたての小鹿みたいになってるもん!」

 

 さっきまでのシリアスはどこいったと言わんばかりに騒ぎだす二人に構わずレフは告げる。

 

「では、さらばだ諸君。私には次の仕事がある。君たちの末路を楽しむのはここまでにしておこう。このまま時空の歪みに呑み込まれるがいい。全員仲良くな。良かったじゃないか、オルガ。君は最後の時にようやく一人ではなく、皆と死ねるんだ」

「レフ…… ! 貴方は…… !」

 

 オルガマリーの怒りの声に耳を傾けることもなくレフは聖杯ごとその場から消え去った。

 その瞬間、繋がれていた時空が消え去り、結果、オルガマリーを引っ張る何かも消えた。

 

「ぼっ!」

 

 引っ張る力が消えたためオルガマリーは重力に逆らい銀時の体へと落ちた。

 衝撃でオルガマリーを抱えた状態で仰向けになり、銀時は声にならならい悲鳴を上げた。

 

「地下空洞が崩れます…… ! いえ、それ以前に空間が安定しません! ドクター! 至急レイシフトを実行してください!」

『わかってる! もう実行しているとも! でもゴメン、そっちの崩壊が早いかもだ!』

「それでもやんねーよりかはましってこった! おい、マシュ、フォウ! 絶対離れんなよ!」

 

 いつの間にか起き上がっていた銀時がオルガマリーを支えながら言った。

 

「はい、先輩! …… しかし、所長は…… !」

 

 マシュは苦い顔になる。

 それもそのはず、このままではレイシフトに成功したとしてもオルガマリーはカルデアに戻った時点で消滅してしまうのだ。

 そんなマシュの心情を察したオルガマリーはいつになく優しい声で言った。

 

「もういいわ。マシュ、もういいのよ。私はもう死んだ。その事実は変わらないわ。だから……」

「なに、らしくねーこと言ってんだ。んなこと言うたまかよ、オメーは」

「なによ。だってどうしようもないじゃない」

「んなことねーだろ。思念体だがなんだか知らねーが、ようは実態のねえスタンドじゃねーか。だったら考えもある。だからよ、所長。お前の本当の思いを言えよ。お前はどうしたい? ここで死ぬのか、それとも生きてーのか」

 

 何故。そんな事をきく? そんな事を言える? 自分は死んでいる。レフの言葉が確かならばオルガマリーはカルデアに戻った所で魂が消え去るのだ。

 なのにこの男の目は決して諦めていなかった。

 彼の目を見たオルガマリーは押し殺していた涙を流す。

 

「私は…… いき、たい。ええ! 生きたい! 生きたいわよ! だから…… 助けて、銀時」

 

 オルガマリーにとって、これが初めて面を向かって素直に人に助けをこう瞬間だった。

 銀時はオルガマリーの助けの声にニヤリと笑った。

 

「たくっ。本当強情だよな、オメーは。こん位しねーと、本音も言えねとわよ」

 

 銀時の右手をマシュが優しく握り、左手をオルガマリーがこっ恥ずかしそうに握った。頭にはチョコンとフォウが乗っかり全員が銀時の元に揃う。

 そして彼等は光と共に崩壊していく特異点Fから完全に消え去った。

 

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