Fate/Silver Order -選ばれし48人目のマスターは銀髪侍- 作:天パ男
白塗りの世界に異形のものたちが群れを成している。
体には皮や肉がなく、それでもなお動き続ける怪物。骸骨型のエネミー、通称スケルトン。
その数は十ほど。スケルトン達は剣に棍棒、槍を構え、カタカタと不快な音を鳴らしている。
そんなスケルトンを前に一人の少女、マシュ・キリエライトはデミ・サーヴァントの姿で立ちふさがっていた。
「すぅー……」
マシュは深呼吸をし、心を落ち着かせる。
盾を握る手により力を込め、スケルトン達を見据えた。
「マシュ・キリエライト、いきます!」
マシュの声を号令にしたかのようにスケルトンたちが一斉にマシュに斬りかかる。
マシュは焦ることなく冷静に身体中に流れる魔力を握る盾に集める。
「宝具展開、解放します!」
そしてマシュの宝具が放たれー
スカっ
「ーーっ!?」
ることはなかった。宝具の代わりに出てきたのはスカと書かれた紙1枚。
唖然とするマシュにスケルトンたちの剣は容赦なく降り下された。
『仮想敵エネミー解除。模擬戦闘を終了します』
機械的なアナウンスが流れたと同時、スケルトンたちはスッとその場から消滅した。
宝具を発動出来なかったショックと戦いの恐怖から解放されたことにから、マシュは力が抜けたようにぺたりとその場に座りこむ。
「マシュ、そろそろ訓練は終わりにしよう。いくらなんでも頑張りすぎだよ」
白塗りの扉が開かれドクターロマニ、通称ロマンが入ってきた。
彼はマシュの身を案じ言葉をかける。
「お気遣い感謝します、ドクター。…… ですが、私は未だ宝具を発動出来ていません。あの戦いを最後に……」
マシュは己の未熟さに腹がたち、下唇をかむ。
彼女の宝具。真名は未だにわからずじまいだったが、セイバーとの戦いでついに宝具を解放させた。
しかし、それを最後にマシュは宝具を発動させることができないでいた。
これからの戦いに備え訓練ルームで体を鍛えていた時に発覚したことだ。
記録から擬似的に生み出される仮想敵を相手に何度も何度も試してみたのだが、どういうわけか発動できない。
キャスターは宝具発動には覚悟が必要だと言っていた。
だからこそマシュは覚悟を決め、世界の、そして自分を信頼してくれた銀時のために戦うと誓った。
その覚悟は決して揺るがない。の、はずだ。なのに、何故? とマシュは思うしかなかった。
「キミの気持ちはわかる。だけど、マシュ。休息は必要だ。確かに努力することは大切だよ? だけれど過度に努力をしすぎると逆に体を壊すことになる。だからこそ人は休んでリラックスすることも大切なんだ」
「成る程…… ドクターの言う通りだと思います。ですが、このままでは…… 私は先輩の役にたつことができない……」
ドクターの励ましを理解しつつもマシュは引き下がる気にはなれなかった。
うつむきかけた顔を上げ、今一度訓練の再開を頼もうとした矢先。
「あのバカの役にたつ、なんて考える必要はないわよ。あのバカは、今の貴女を信頼しているのだから」
「え? しょ、所長? ど、どこにいるのですか?」
「ここよ、ここ」
聞き慣れた声。それがオルガマリーの声だと気づいたマシュは左右を見る。
しかし何処にもオルガマリーはおらず、それでも声だけが聞こえてくる。
「あーもう。下を見なさい、下」
「し、下?」
マシュは顔を下へと向ける。
目線の先。そこには手のひらサイズまでに小さくされ、可愛らしくデフォルメされたオルガマリーが立っていた。
「………… え」
「全く! 周囲をちゃんと見なさいよね。そんなんじゃ、特異点で生き残れないわよ」
「いや…………」
マシュは体を小刻みにプルプルと震わせ、
「小さッッ!!!!?」
らしからぬツッコミを入れた。
「ダ・ヴィンチちゃんの素敵な工房にようこそ! 今日は何が、お望みかな?」
時は遡り数時間前。
マシュの訓練中、銀時は体にオルガマリーの思念体を取り込んだままダ・ヴィンチの工房に赴いていた。
ガラクタにしか見えない物体がそこかしこに散らばる工房にオルガマリーは銀時の頭の中で溜め息をはく。
「すいません。透けるめがねって売ってます?」
『お前は駄菓子屋感覚でエログッズ頼んでじゃねえぇぇ!! そうじゃなくて! ダ・ヴィンチ! 貴女に頼んでおいた私の体はどうなったのかしら!』
「あー、からだね…… そんなことより! 今ならこの透けるめがねが本来一万円の所、なんと九千九百九九円でーす!」
『あるんかい、透けるめがね! って何あからさまに誤魔化してるのよ! 値段も一円しか下がってないし! さっさと体出せや、このジャパネットバカダ!』
「冗談だよ、冗談。今出すから、ちょっとばかし待ちたまえ」
そう言うとダ・ヴィンチは工房の奥の方に行きガラクタの山を物色し始める。
「えーと、何処にやったかな…… あ、ポン酢ふんだ」
『ポン酢ってなに!? なんでそんな物が落ちてるのよ!?』
「お、あったあった。さあ、見たまえ! 英雄の中においても、もっとも優れた万能の天才レオナルド・ダ・ヴィンチが完成させた至高の逸品を!」
ダ・ヴィンチは腕を振りかぶり豪快にそれを出した。
白い髪。キリリとした瞳。柔らかそうな頬っぺた。体よりも少し大きめな顔。
所謂デフォルメ化されたものの、それは間違いなくオルガマリー・アニムスフィアを似せた姿。
彼女の体は天才レオナルド・ダ・ヴィンチの手によって見事に再現されていた。
10センチメートル程の手のひらサイズで。
『いや、ちっせえぇぇぇ!!』
オルガマリーが叫ぶ。
脳内に直接オルガマリーの声が響く銀時は嫌そうに顔を歪めた。
しかし肉体には構わず精神体であるオルガマリーは銀時を通して激しくツッコミをする。
『なんなのよ、この某メーカーが作りましたみたいなスケールの体は! これもうフィギュアっつーか、ね○ど○い○じゃないのよ!?』
「いやさぁ、予算とか時間とか、あと素材とか。ぶっちゃけ足りなくてねぇ。塗装が少しハゲてしまっているのは愛嬌ということで頼むよ」
『フィギュアの完成度の話じゃねーよ! 私の体、小さすぎんだろっつってんのよ!』
「ギャーギャーうるせーなー。所長よぉ、別にいーじゃんこれで。もうこれでいーじゃん。実際そんなかわんねーし。それにお前も嬉しいだろ。フィギュア化されて」
「いや、変わるわよ! あんた面倒くさくなってるだけだし! こんなフィギュア化嬉しくねーし!』
端から見ると一人でボケとツッコミをしている様にしか見えない銀時とオルガマリーを見てダヴィンチはヤレヤレと首を左右にふる。
「不評というのならば仕方がない。天才とは何時の世も理解されないものさ。しかし本当に良いのかい? 今から作り直すとなると一ヶ月はかかるよ」
『嘘でしょ!? これから特異点攻略始まるのに! 冗談じゃないわよ!』
「文句言われてもねぇ。まあ、作り直すというのなら、一ヶ月は我慢してもらうってことで。それが嫌なら妥協してもらうしかない」
『誰か、嘘って言いなさいよおォォォォ!!』
残念ながら、オルガマリーの願いに答える者はいなかった。
「な、なるほど。それで所長は、そんな可愛いらし………… あ、いえ。小さい姿になってしまったのですね」
小さなオルガマリーの前で正座し、敬語で話をするという世にも奇妙な光景にロマニは苦笑いをする。
ダ・ヴィンチお手製の依代、オルガマリー人形を一時的な肉体にすることにより、この世に留まることが出来るようになったのだ。
「そういうことよ。残念なことにね。まあ、ちゃんとした肉体ができるまでの辛抱よ」
オルガマリーは小さな両手を腰に当て、仁王立ちをして見せる。
「そういえば、先輩はどうしたのですか? 見かけませんが……」
オルガマリーを放っといて、何処に行ってしまったのだろうか。
そう思っていると、シミュレーションルームの扉が開き、台車に大量の本を乗せて銀時が入ってきた。
「よお、マシュ。なんか必殺技の特訓してるらしーな。つーわけで、お前にいい本を持ってきてやったぞ」
「いやジャンプじゃないのよ、それ!?」
本の正体はカルデアに保存されていた週刊少年ジャンプだった。
「それは、Aチームのとある方の愛読書ですね。いつも一人で読んでいました」
「ジャンプなんて持ってきて、どうするんだい?」
ロマニの疑問は当然だろう。ジャンプはあくまでも娯楽用品。マシュの宝具の役にたつとは思えない。
「宝具だかが使えねーのは、単純に思い入れがねーからだ。必殺技ってのは名前があるもんだろーよ。カメハメハとかな。だからマシュ。こいつを参考に必殺技の名前を決めろ」
「名前……! なるほど。流石は先輩です!」
「必殺技も持ってない主人公のくせによく考えたわね」
「うるせーな! 俺だってな、必殺技くらいもってたんだよ! 無双しまくってたんだよおぉぉぉ!!」
「いつまでもゲームのこと引っ張ってんじゃないわよ。しかもあれ、貴方の必殺技じゃなくて、人様の必殺技じゃないのよ」
そんな二人の掛け合いなど、耳にも入らずマシュは一人集中しジャンプを読み始める。
様々な主人公たちの熱いバトル、恋愛、ギャグと色々な内容があるがマシュはそれを全て見ていく。
例えバトル物以外でも何かヒントがあるはずだ。
巻末コメントまで読み終えたマシュは一息つくとジャンプを閉じ、立ち上がる。
「先輩、ジャンプというのは本当に人生の教科書のようですね。正しく英雄と呼ぶべき方々の姿が拝見できました」
「へっ。どうやら問題は解決したらしーな」
「そのようね。マシュ、今ならきっとできるわ! さあ貴女の力をみせて」
「はい! マシュ・キリエライト、行きます!」
盾を構え、敵はいないが、宝具を発動しようと力を込め、
「はあああああ!! 火竜のーー」
「それ、ちっがあぁぁぁぁぁぁう!!!」
マシュの宝具は銀時によって止められた。
何故、突然止められたのかわからないマシュはキョトンとする。
「ど、どうしたんです!? もしかしてフルカウンターの方がよかったのでしょうか?」
「それもちげーだろ! なんで? お前ジャンプ読んでたんじゃ……」
床に置かれた雑誌。それを確認すると、銀時は驚く。
いつの間にかジャンプがすりかわっていたのだ。
マガジンに。
「おい、こいつはいったい……」
銀時が疑問に思っていると、妙なものが視界に入った。
恐る恐ると部屋を出ていこうとするロマニの姿が。
「おいこら、ロマニ。てめー何処に行こうってんだ?」
「いやちょっとドラゴンボールを探しにラフテルへ」
「作品混じってんだろーが! テメーだな差し替えのは!」
胸ぐらを捕まれ、足を宙に浮かせるロマニ。
「ご、ごめんなさい! 実は僕、マガジン派で…… つい出来心だったんです!」
「こんな所に敵のスパイがいたなんてな。おい、マシュ! あれだ、試験管的な物をもってこい!」
「先輩、試験管はありませんが、ここにジャンプの付録のポスターを丸めたものが」
「え、ちょ。ポスターなんてどうするの!? あ、あのそれはダメだから! それは入れてはいけないやつだから! お尻には入らないから! ちょっ、やめ── あああああ!!!」
ロマニの悲鳴がカルデア中に響いた。
「マシュ……」
泡を吹いて倒れたロマニを尻目にオルガマリーはマシュに声をかける。
マシュの表情は以前暗いままだ。
「すいません、所長。やはり私にサーヴァントとして戦うなど荷が重いのでしょうか」
「…… しっかりしなさい! マシュ・キリエライト!」
オルガマリーの突然の叱咤。
思わずマシュはビクリと肩を上げた。
「貴女の役目はなに? 人理を守ること? サーヴァントととしての務めを守ること? どれも違うわ。あのバカを守ることよ!」
マシュはハッとする。
そうだ。確かにこの世界の未来を守りたい。それは当然だ。だがそれ以上に守りたいのだ。自分を救ってくれた、あのだらけたマスターを。
「申し訳ありませんでした。シールダー、マシュ・キリエライト、今度こそ、やってみせませす!」
「へっ、ようやく覚悟を決めたみてーだな」
「マシュ…… 君なら、できる…… クフっ」
銀時と死にかけのロマニにマシュは静かに頷く。
そして再び、盾を構え、
「宝具展開ーー」
今ならば、きっとできる。
自然と名前が浮かんでくる。
そう、この宝具の名は、
「───
銀色に輝く、巨大な盾の光。冬木にいた時よりも、その宝具は強く輝いていた。
「これが、私の宝具…… !」
マシュは喜びの笑みを浮かべる。そして未来を思い浮かべる。
人理を守り、平和な世で、鼻くそほじくっただらしのない男の顔を、隣で見続ける未来を。
──そう。俺たちの人理修復は始まったばかりだ。
「あれ? もしかして最終回?」
ちゃっかりですが、マシュの宝具名が少し変わっています。