Fate/Silver Order -選ばれし48人目のマスターは銀髪侍- 作:天パ男
レイシフト
────告げる。
巨大な聖堂に声が響きわたっていく。
冷たく、悪意の込められたその声は、淡々と言葉を並べていく。
──汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
声に反応し聖堂の真ん中に刻まれた魔方陣がまばゆく光り始めていく。
──誓いを此処に。我は常世総ての悪を敷しく者。されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし 汝 狂乱の檻に囚われし者 我はその鎖を手繰る者 三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ!
天秤の守り手よ───!
魔方陣の光がより強くなり、周囲に風を巻き起こす。
そして次第に吹き荒れた風は消えていき、光も消失した。
先程まで騒がしかった聖堂内に一瞬の静寂が流れ、光と風が消えた代わりに、五人の人間が現れた。
あたかも初めからそこにいたかのように、突如として出現した五人の人間は、片膝をつき言葉を並べていた者に対し、頭を垂れていた。
「よく来ました。我が同胞であるサーヴァントたち」
五人の出現の成功に笑みを浮かべたその者はまるで主のように振る舞う。
いや、実際にその者は主だった。
聖杯戦争で執り行われる英雄を召喚する儀式。そして聖杯戦争においてその者はマスターと呼ぶべき存在だった。
しかし異常なことに、マスターにつきサーヴァントは一人というルールを無視し、五人ものサーヴァントの召喚にその者は成功していた。
さらに言えば、サーヴァントは五人だけではなかった。
カツカツと二つの足音を聖堂に響かせ、奥から現れたのは、禍々しい表紙の本を片手に持ったギョロ目の気味の悪い男と聖堂の司教と思われる老人だった。
六人目のサーヴァント。それはこのギョロ目の男だ。
彼はサーヴァント召喚の成功に自らの主以上に喜び満面の笑みを浮かべていた。
それとは対照的に老人は目の前の光景に、特にサーヴァントたちの主に怯え、体を小刻みに震わせていた。
当然だ。彼は普通の人間で目の前の異常な光景に何の知識も理解もなかった。
そしてそれ以上に理解できないことが老人にはあった。
「バ、バカな! これは夢だ!! そんな筈はない! お前は、お前は──」
震える指先が向けられたのはサーヴァントたちの主。
老人の視界に映るその姿は、決して有り得てはならないもの。
主は一人の少女だった。
血のように紅く綺麗な唇、病的なまでに真っ白な肌、金に輝く瞳。
正しく美少女と呼ぶべき少女の姿が老人には恐ろしくてたまらなかった。
「ああ、ピエール! ピエール・コーション司教! お会いしとうございました!」
瞳は変わらず冷たく冷徹なものだったが、彼女の声はまるで欲しかった玩具を買ってもらった子供かのように酷く弾んでいた。
「違う違う! そんな筈はない!」
首をふり、あり得ないと叫び続ける。
これは現実ではないと訴える。
けれども何も変わらない。目の前の幻は消えないし、夢から覚めることはない。
当然だろう。紛れもない、これは現実なのだから。
けれども現実から目をそらすために、少しでもこれが嘘であることを認めるためにピエールは声を張り上げる。
「お前は死んだ! 三日前に、殺したはずだ!」
ピエールの目前にいる少女は、既に死んだ筈の人間。
しかしその者は二本の足で立ち、ピエールを嘲笑っている。
「いけません、いけませんわ司教。現実を見つめなさって。確かにここに私は存在している。その証拠に、ほらーー」
「へあっ」
司教の口から呆けた声が漏れる。
左足に熱い感覚がした。それは直ぐに激痛に代わりに、尻を床につける。
震えながら顔を左足に向けると、真っ黒な槍が抉るように刺さっていた。
「ぎゃあああああ!!」
「私の槍は貴方の左足を貫いてしまいました。痛いでしょ? これが現実でなくてなんと言うのです。これがもし夢であるならば頬をつねるだけで目が覚めるはずですわ」
「あ、あ、ああ…… た、たすけて、助けてください。何でもします。お願いします。助けてください」
「ああ、何てことでしょう。悲しみで泣いてしまいそう。司教、あなたともあろう方がそのように命乞いをしてはいけませんわ。それもこんな醜い
最早、壊れた玩具とかしたピエールは助けてとひたすらに繰り返した。
少女は相変わらず歪んだ笑みを浮かべ静かにピエールに近づき、優しく頬に手を触れた。
「ねえ、思い出して司教。貴方は私をどのようにして殺しましたか?」
その言葉を引き金に、司教の体が突如として燃え始めた。
ボウボウと燃え盛る炎は静かに笑う少女の怒りを激しく表しているようだった。
「私が聖なる炎で焼かれたのならば、お前は地獄の炎でその身を焦がすがいい」
炎に焼き付くされていく中、司教は掠れた声を出していく。
「ま、まじょ、まじょめ……」
燃えていく司教を背に少女は召喚に成功したサーヴァントたちを引き連れ聖堂を出ていく。
司教はもはやその場に少女がいなくなったことにも気づかず、恨みの言葉を寂しく言い続け、そして少女の名前を口しにた。
「ジャンヌ…… ダルク…… !!」
1431年 5月30日 享年19歳。
若くして死んでしまったフランスで知らぬ者はいない英雄。
ジャンヌ・ダルク
しかし、この日は既に三日がたっていた。
だからこそ司教は死ぬときまで信じられなかった。
だがこれは現実で、その恐怖は今正に聖堂の外へと侵食を開始した。
フランス、百年戦争の只中。とはいえ戦争の休止期間であるこの時代は仮初めの平和を演じていた。
その平和を嘲笑う影がフランスの空を包んでいく。
多数の竜。巨大な邪竜。甦った魔女。
ジャンヌダルクは笑い続けた。
──抵抗するものは燃やせ
──命を乞う者も燃やせ
──老人子供も燃やせ
──全てを燃やし、焼きつくせ
──神などいない、この地に起こすのだ、真の百年戦争を。
邪竜百年戦争を───────
一章 第一特異点
邪竜百年戦争 オルレアン
救国の聖処女
カルデア 中央管制室
そこに集められたのは銀時をはじめとする、人類の未来を背負った者たち。
その他、カルデアスタッフたちも集まり、それぞれの役割を果たしていた。
それは食堂スタッフである彼女も同様で。
「はいよ。お弁当作ったから持っておいき。特異点だとカボチャの煮付けとか黒豆とかないだろうからさ」
「いやいや、おばちゃんさ。特異点にそんなもん持っていけねーから、多分」
タラコ唇にメガネ、モジャッとした頭をしたおばちゃん。彼女はカルデア食堂の料理長を勤めるスタッフである。
ちなみに皆の母ちゃんを自称している。
何故か既視感バリバリのおばちゃんに銀時は一時期首を傾げていた。しかし特に何も問題はないので、まあいいやと今は気にしなくなった。
「そんなこと言わずにさぁ。ほら、あんたの好きなニンジンシリシリとか、ニンジンの煮物とか、ニンジンスティックとかも入れといたからさ」
「いや、ニンジンばっかじゃねーか!! そんな好きでもねーし! 言っとくけど俺たちが行く場所はウマネストじゃねーから!」
「そーいう怒りっぽい所もなおるからさ。ほらさっさと持っておいき」
「いや、だからいらねーって! しつけーな! ニンジンにそんな効力ねーし!」
「怒鳴るんじゃないよぉ!! あんたはもーう! 人の揚げ足ばっかり取って!!」
二人の言い合いは段々とエスカレートしていった。
これではキリがないと、遠巻きに様子を見ていたオルガマリーは止めに入ることにする。
ちなみに現在彼女は、フィギュア並のサイズしかない。その為、マシュの頭の上に乗り、移動してもらっていた。
「ちょっといい加減落ち着きなさいよ。おばちゃんも、気持ちはありがたいのだけれど、特異点に余計な物は持ってはいけないわ。今回は気持ちだけ受け取るから」
「そうなのかい? それじゃあ仕方がないねぇ……」
オルガマリーはあくまでも優しくおばちゃんを諭した。
「あ、そうだ。ついでなんだけさぁ、あんたにもプレゼントがあるんだよ。これババシャツ」
「え? わ、わたしに!? それは、まあ嬉しいんだけど……… そんな小さなババシャツを何処で手に入れたの?」
おばちゃんが出したのは、オルガマリーが着れる程に小さいババシャツだった。
「あー、これ作ったんだよ」
「え!? こんな小っちゃいのよく作ったわね」
「よく出来てるだろ。あんたの部屋にあった服を改造して作ったんだよ。ほら、あんた、そんなちっちゃくなっちゃっただろ? だからもういらないと思って、服をバラバラにしてさ」
「オイコラババア!!!!」
強烈な真実にオルガマリーは、思わずキャラを崩壊させた。
しかしおばちゃんは特に気にした様子もなく、続ける。
「そんな怒鳴らなくても大丈夫よ。余った生地は、ほら。こうしてハンカチに── バグション!!!」
おばちゃんは懐からハンカチを出すと、突然大きなクシャミをした。
そのまま鼻から飛び出た鼻水をハンカチで抑え、
「ふんっ!! チーーーーーン!!」
「ババア!! オイコラババア!!」
「えーと。そろそろよろしいでしょうか? 所長」
所長のキャラ崩壊がエスカレートしていく。
このままでは、いい加減話が進まないので今度はロマニが間に入った。
銀時とマシュ、そしてマシュの頭の上に座るオルガマリーへロマニは何時もとは違い、真剣な顔つきを向ける。
あとおばちゃんは邪魔なので、出ていってもらった。
「銀時くん、それにマシュたちも。充分休息はとれただろうか? メンテナンスは終わり僕たちスタっフの準備は整った。ついにレイシフトを開始したいと思うわけだけど…… 銀時君、君は大丈夫かい?」
「ああ、問題ねーよ。どーせこのまま何もしなくても人類は滅ぶし、俺は帰れねーし、やるしかねーだろ」
銀時の返答にロマニはアハハと苦笑いをする。
「最初のレイシフトは最も揺らぎの少ない時代、1431年のフランスよね。一応戦争は休止状態なわけだけど、まあ、間違いなく、特異点Fのような問題が起きてるわね……」
「まあ、そうだね。だからこそ銀時くんたちが行かねばならないわけだが、まあ安心したまえよ、君たちの存在証明は勿論のこと、サポートはしっかりと行っていくさ」
ダヴィンチが自信満々に言うが、銀時は胡散臭そうに言う。
「なーんか信用なんねーだよな。結局、所長もこんなピクミンみてーな体のまんまだし」
「まあまあ、銀時くん。彼はあのレオナルドダヴィンチ。天才の英雄だ。性格はあれだが、実力は確かだ」
「どうだかねぇ…… ん? 彼?」
ロマニの言葉の違和感に銀時は気づく。
今、ロマニはなんと言ったか。確かに彼と言った。いやそんな筈はない。だって目前のダヴィンチは確かに女なのだから。
「あれ、もしかして知らなかったかい? 彼、ダヴィンチは本当は男なんだ。彼は生前、モナリザという絵を描いたのだけど、そのモナリザが好きすぎて、自分の姿をモナリザにしてしまったんだ」
意味がわからない。
一瞬、銀時の脳裏にマドマーゼル西郷と呼ばれるオカマの姿が過ったが、ダヴィンチはそんなのとは次元が違った。
とりあえずツッコムのも疲れるし、スルーすることにした。
ロマニが話を進めていき、今回の目的をおさらいする。
第一に、特異点の調査と修正。
第二に聖杯の調査。
これらを終え人理修復を成し遂げていく。
銀時、マシュ。この二人でフランスに行き、最初の特異点攻略を行うのだ。
「私の代わりに説明ご苦労よ、ロマニ。そういう分けでさっさと準備してきなさい」
オルガマリーはマシュの頭から飛び降り、綺麗に床へと着地した。
「あれ? 所長は来ねーの?」
「私は所長であり指揮官なんだから残るに決まってるでしょ。それに私にはレイシフト適正はないし……… って、私のことはいいから早く行きなさい!」
話を終え、銀時は一度別室に移動し、早速着替えをさせられる。
「ちょっ、これすげーパッツパツなんだけど、サイコガンとか出てきそーなんですけど、これ」
「お似合いですよ、先輩。ですが残念です。レイシフトを終えると自動的に服装はいつもの和服に戻るようになっていますので」
「あ、そうなん? じゃ、着替える意味あんのかよ」
「それはレイシフトに耐える為のスーツです。冬木では緊急事態の為、生身でのレイシフトを余儀なくされましたが……」
マシュの解説を解説を聞きつつ、管制室へと戻る。
そして銀時はコフィンと呼ばれるレイシフトするための機械に入った。
──アンサモンプログラム スタート。霊子変換を開始します
機械のアナウンスが聞こえてくる。ロマンたちも何やら難しい言葉を並べている。声から忙しなさが伝わってきて、銀時も流石に大丈夫かと不安になる。
── まさか、変な世界に飛ばされねーよな…… そんで新しいクロスオーバー小説が始まるとか……
銀時の不安を他所にレイシフトは、英雄の物語は始まる。
──全工程 完了
本来ならば、交わることのなかった侍と英雄たちの物語が。
──グランドオーダー 実証を 開始します。