Fate/Silver Order -選ばれし48人目のマスターは銀髪侍-   作:天パ男

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ジャンヌ・ダルク

 まっさらな青い空、フワフワと浮かぶ白い雲。

 正しく晴天。反対から読むと天晴であっぱれって読むんだぜ。知ってた? という位に晴々とした空。

 最初、マシュはカルデアの外とはまるで違う空に感動していたが、それは直ぐに疑問へと変わる。

 その疑問は銀時も同様だった。

 

「あれは…… いったい……?」

 

 二人の見つめる先。

 空に浮かぶ雲の向こうに見えるのは巨大な光の輪。

 まるで空に大きな空洞をあけているようだった。

 

『ロマニ、あれは何!? 直ぐに解析しなさい!』

 

 通信越しフランスの空を見ていたオルガマリーはロマニに急ぎ指示をする。

 ロマニも言われずとも、何らかの魔術式ではないかと、既に解析を始めていたが、結果は変わらず。

 何もわからない。それだけだった。

 

『いったいこれは…… 人類の滅亡に関係している何かなのか……?』

「何だかよくわかんねーが、このまま空見上げててもしょーがねーだろ。取り敢えず、これからどうすりゃいい?」

 

 暫く呆けたまま固まってしまったマシュに銀時が声をかける。

 すると通信越しにオルガマリーが慌てて指示をする。

 

『そ、そうね。まずは拠点作りのために、この土地の霊脈を探し「フォーーウ!!」て、え?』

 

 オルガマリーの言葉を遮ったのは、小動物フォウだった。 

 突然現れ、銀時の頭にちょこんと乗っかったのだ 。

 

「おま、ついて来てたのかよ!」

「驚きました、コフィンに紛れていたのでしょうか?」

「たくっ…… あん? あの煙は」

 

 勝手についてきたフォウに呆れ、遠くをふと見る。ここから離れた先。建物が多く見えた。恐らくは町か村だろう。

 しかし何故か、建物からは黒い煙が大量に上がっていた。

 

「まさか戦か? おいロマニ、この時代じゃ戦争は休戦って話じゃなかったのか?」

『のはずだ…… 確かあそこはドン・レミ村。この時代に火事の記録なんてない。間違いなくイレギュラーだね』

「先輩……!」

「たくっ…… ちったぁゆっくりできねーもんかね」

 

 初のレイシフト。彼らに休まる暇はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドン・レミ村。ジャンヌ・ダルクの生誕地である村。

 美しい町並みは見るかげなく。建物は瓦礫と化している。

 煙は上がり、至るところに火がまわっている。

 

「はあはあ! くそっ」

 

 兵士の一人が槍を構え、迫る骸骨の化け物、スケルトンに突き立てる。

 一体一体はそこまで強いわけでもない。一般兵である自分でも倒せる。だが、

 

「倒しても倒してもきりがない!」

 

 疲れも感じさせず迫り来るスケルトンの大軍。

 それに比べこちらの兵は限りがあり、体力にも限界がある。 

 既に何人もの兵士が倒れ、僅かながらも敵の侵入を許してしまった。

 町は阿鼻叫喚となり、次々に火の手が上がる。

 横を見れば仲間がスケルトンの剣にやられ血を吹き倒れていた。

 それをみて兵士は悟る。ああ、自分も死ぬのだと。

 最早戦うことを放棄し、槍を掴む手をおろし顔を伏せる。

 目を閉じ、出来れば痛みなく死にたいなと思い始めた。

 

「…… ?」

 

 しかし痛みを感じない所が、意識すら途絶えない。

 どういうことかと目を開けるとそこにはいた。

 

「大丈夫ですか! ここは私たちが請け負います! 負傷者は下がってください!」

 

 華奢な体ににつかわない鎧姿。更には身の丈程もある大きな盾を構えた少女は自身を守るように立っていた。

 少女はその華奢な体からは想像できない程の力量で盾を使い、スケルトンをなぎはらっていく、

 

「な、なんだ?」

 

 まるで自分達を守るように戦う少女を見て兵士は目を丸くする。

 

「いや、守ってくれているのか!?」

 

 いったいこの者はなんなのか、まさか…… 聖処女に変わる、

 

「救世主…… ぷげらぁ!?」

「あっ」

 

 名もなき兵士は突然飛んできたスケルトンの体に叩きつけられ意識を失う。

 スケルトンを投げ飛ばした犯人、銀髪の男は気まずそうに頬をかいた。

 

「なんか、すんません」

 

 

 

 

 

 

 

 サーヴァントとマスターの介入。たったそれだけのことで戦況は大きく変わりスケルトンは瞬く間に倒された。

 住民や兵士は見慣れぬ姿をする銀時たちに戸惑い、遠巻きに眺める者も多かった。

 どうしたものかと思っていると先ほどスケルトンを叩きつけられた名もない兵士が来て感謝の言葉を述べた。

 

「すまないな。助けてもらったというのに…… みんな疑心暗鬼になっているんだ。なにせあの聖処女が今じゃ最悪の敵になってしまったからな」 

「聖処女が敵? モブさん、それはどういうことでしょうか?」

「え、モブさんって俺のこと? まあいいけど…… あんたら知らないのか? 聖処女、ジャンヌ・ダルクは復活したんだ。竜の魔女となり国王シャルル七世は殺された。既にオルレアンは占拠され各地はほぼ、壊滅状態だ……!」

 

 マシュのモブ呼びに面食らう兵士だったが、ここは素直に質問に答えた。

 ジャンヌ・ダルクの復活。これは紛れもないイレギュラーだ。

 一般人ならばどのようして復活したのかはわからないが、正体は間違いなくサーヴァントだろう。

 

「国が壊滅状態になった原因。それは奴の使役する恐ろしい怪物にある。」

「怪物ってさっきのブルック擬きか?」

「いや、恐ろしいのはあんな骸骨じゃない。正直いって今回のは単なる挨拶代わりさ。本当に恐ろしい物、それは……」

飛竜(ワイバーン)だあァァァ!! 飛竜が来たぞおォォ!!」

 

 突然上がる悲鳴と警告。

 さっき戦い撃退したばかりだというのに、再び敵が来たのか。

 しかも相手は幻想種される竜。恐らく、これこそがスケルトンよりも恐ろしい怪物の正体だろう。

 

『ワ、ワイバーンですって!? なんでこの時代のフランスにそんなのがいるのよ!』

『恐らくはサーヴァントのようにワイバーンも何者かの手によって召還されたのではないかと!』

 

 頭を抱えて叫ぶオルガマリーにロマニが自身の考察を説明した。

 そう誰もが驚いている中で銀時は直ぐに駆け出していた。

 

「先輩!」

「けっ! 俺が戦やってたころも大体こんな感じだったよ、たく本当戦ってのは嫌になるぜ!」

 

 天人や幕府軍を相手に毎日死線を潜り抜けてきた銀時だからこそ出来た動き。

 だが、そんな銀時にオルガマリーが待ったをかける。

 

『待ちなさい、銀時! 勝手な戦闘は許しません。必要な情報ならば手に入れた。ただちにそこから離脱し、安全な所まで避難しなさい』

「…… っ!? 所長、なにを」

 

 要は住民を見捨てて、自分達だけ逃げろという命令にマシュは戸惑う。

 しかしオルガマリーは冷静に説明する。

 

『特異点で起きたことは修復さえすれば全てがなかったことになるわ。だからその時代の人間が死んだとしても問題はないの。でもあなたたち二人は違う。この時代で死ねば、その時点で人類の未来が終わる。目的は果たした以上、無駄な戦いは避けるべきよ』

「ですが……」

 

 非情な判断ではあるがオルガマリーの言うことは間違っていない。

 だからこそマシュは何も言えずに黙ってしまう。

 しかしこの男は、

 

「悪りぃな所長」

『っ!? 銀時、あなた──』

 

 オルガマリーが銀時の考えを察し止めようするが、それよりも早く動く。

 

「あっぶねっ!! と、セーフ」

 

 今にもワイバーンに喰われそうになっていた少女を抱き上げ、間一髪の所で救いだしたのだ。

 

「そりゃあ俺は自分の身が一番大事なもんで。こっちは最初から逃げる気満々だったんだが、命令されるのは嫌いでね。だから残らせてもらうわ」

『なっ!? ………… あーっ、もういいわ。勝手になさい』

『所長! 良いんですか?』

「いいわよ。どうせコイツはナニ言っても聞きやしない。そういう男。全く…… 今回は特別に命令違反は見逃すわ! その代わり、死なないように! それと助けるならきっちり助けてやりなさい!」

 

 ロマニは苦笑いをオルガマリーへと向ける。

 オルガマリーはため息をはくも、その表情は何処か清々しいモノに変わっていた。

 

「だから命令されるのは気分良くないって言ってんのによー。まあ、いいか。おい、マシュ!」

「はい!」

「背中の方、任せたぜ」

「は、はい! 必ず死守します、マスター!」

 

 銀時は助けた少女を一人の兵士に預け、マシュと背中合わせになる。

 ワイバーンの何匹かは危険だと判断したのか、標的を二人に集中させ向かってくる。

 

 ガキンッ!!

 

「うぉ!? おんもォ!」 

 

 銀時はワイバーンの突撃を木刀で受け流し、なんとか交わす。

 しかしワイバーンの重い攻撃に、流石に顔をしかめた。

 

『ちょっと! ワイバーン相手に、ただの木刀でやりあうとか、何考えているのよ!』

 

 あくまでもマシュの指揮をするだけと思っていたオルガマリーも、これには驚き声を上げた。

 

『いや、一応銀時君の木刀は魔術礼装としての改造を施してはいる。だから、多少は戦える筈だよ』

『だとしても、マスターは普通、全線に立たないわよ!』

 

 ダ・ヴィンチが銀時の木刀について説明するが、オルガマリーはあり得ないとツッコミを入れた。

 

「先輩! やあああああ!!」

「グオォォ!!」 

  

 マシュの盾の一撃がワイバーンの頬に強い衝撃を加えた。  

 たまらず地面に転がるが、ワイバーンは絶命したわけではない。  

 うなり声を上げ、痛みからじたばたと暴れている。

 

「サーヴァントの一撃を受けて、尚、生きてるなんて…… これが竜種!」

  

 サーヴァントではないが、決して油断できぬ相手。それが何十といる。

 銀時たちは戦うことを決めたが、とてもではないが手が足りなかった。

 こうしている間にも多数のワイバーンたちは四方八方に村中を飛び交っていく。

 一匹のワイバーンが炎を口から吹くだけで何十人もの人の魂が消えていく。

 瓦解した建物が逃げる人々を押し潰す。ワイバーンの鋭い歯が尻尾が人体を切り裂く。

 弓やクロスボウなど意味もなし。硬い鱗は身を守り、人を狩りとる武器となり次々に地獄を作り出す。 

 悲鳴に混ざってどこからか声が聞こえる気がする。竜の魔女の笑い声。

 彼女のどす黒い感情が怒りが、ワイバーンの炎を通して村中を包み込む。

 終わる終わる。みんな死ぬ。発狂した兵士の首が飛ぶ。勇敢に立ち向かう兵士の体が両断される。逃げ隠れた民が建物ごと燃やされる。

 

「くっ、あああああ!!」

「グガァ!!」

 

 盾の攻撃を二度受けて、やっと一匹のワイバーンを絶命させることに成功する。

 しかし攻撃はまだ止まらない。次々とワイバーンが銀時とマシュに向かってくる。

 

「やあぁぁ!」

「マシュ!!」

 

 マシュはワイバーンを一匹、殴り飛ばす。しかしその隙をついたワイバーンが後ろからマシュへと口を開き迫ってきた。

 銀時は迷わずマシュを守ろうとするが、

 

 ズバンッッ!!

 

「ギガァァァァァ!!」

「なっ!?」

 

 ワイバーンの体は一撃で四散してしまった。

 しかしマシュを救ったのは銀時ではなかった。突如として二人の前に現れたローブを着て顔を隠した謎の人物。

 その者は、二人を一瞥するとワイバーンへと向かって駆け出す。

 

「先輩。あの人は」

「誰だか知らねーが…… 少なくとも敵じゃなさそうだな。トカゲ共もあのフードが出てきて戸惑ってやがる。一気にいくぞ」

「はい!」

 

 たった一人の増援ではあるが、流れは完全にこちらに来ている。 

 二人はこのチャンスを逃さず、謎の人物へと続いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後。

 何とか半数を撃退したことにより、残ったワイバーンも分が悪いと撤退。

 村人たちを無事に避難させることに成功した銀時たちは、謎の人物に誘導され、森の中へと移動していた。

 助けてくれたとはいえこの人物は信用できるのか。特にオルガマリーは不安に感じていたが、情報は欲しいので黙って通信映像を見ている。

 

「ここまで来れば安全です。すみません。正体も明かさずに、付いて来てもらって。故合ってあの場では顔を晒せなかったのです。ですがここなら大丈夫でしょう。あらためて自己紹介を」

 

 ついにその顔が現わとなる。正体は女性だった。金髪に凛々しい顔立ちはとても美しく、マシュも思わず息を呑む。

 

「私はサーヴァント"裁定者(ルーラー)"。ジャンヌ(・・・・)ダルク(・・・)です」

「なっ!?」

 

 謎の人物の正体。

 それは敵と知られていた筈のジャンヌ・ダルクその人だった。

 


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