Fate/Silver Order -選ばれし48人目のマスターは銀髪侍- 作:天パ男
この特異点における敵、ジャンヌ・ダルク。
彼女との会合に当然、マシュは身構えるが、
「お待ちください。構えるのは当然ですが、話を聞いてもらえないでしょうか」
ジャンヌ・ダルクは武器を構える様子もなく、冷静に話し合いを持ちかけてきた。
信用していいのかと銀時たちは思うも、助けてくれたのは事実なのでここは彼女の提案に乗ることにした。
通信越しに様子を見ていたオルガマリーたちも、それに同意する。
「ありがとうございます。では、何故私の悪名が国中に流れているのか。そのことについて話をします。確定ではありませんが、全ての原因はもう一人の私の存在にあるのです」
「もう一人の…… ?」
「恐らくは、ですが。私が現界したのは、ワイバーンに村が襲撃を受ける数時間前でしたから。なので物理的にもフランスを襲う竜の魔女たりえませんし、そんな記憶もありません」
英霊はあくまで、英雄の一側面のコピーにすぎない。
それ故、同じ時代に同一の英霊が召喚される可能性は充分にあるのだ。
だからこそ、彼女の発言には信憑性があった。
「成る程ね…… ようはピッコロさんってことか、あんた」
「ピ、ピッコロですか? よくはわかりませんが、そんなところです」
『絶対違うと思うわ……』
銀時のアホみたいな解釈を聞き、通信越しにオルガマリーは呆れている。
マシュも苦笑いを浮かべていた。
「なんというか…… 変わった、あいえ、不思議なお方なのですね、あなたは」
「ええ…… んなこたぁねーと思うけど」
「はい! 先輩はかなり面白いと思います」
「あれ、マシュ? まさかの賛同?」
思わぬマシュの同意に銀時は動揺する。
「先輩は面白いです。誰よりも人間らしく、誰よりも優しい人です。こんな状況でも誰かを笑わせる。そんな面白い方だと思っています」
「そうなのですね。啓示はありませんが、どうやら私は良いマスターに巡り会えたようです」
「やべぇ、ベタ褒めだよ。これ夢じゃないよね? ここまで直球で褒められるなんて、初だよ。もし夢なら俺の髪もサラッサラに!」
『心配しなくても夢じゃないわよ。この絶対にストレートにならない呪いをかけられた天パ侍』
ここま直球に肯定されることなど滅多にない。
銀時はニヤニヤと笑みを浮かべるが、それを聞いていたオルガマリーが通信越しに冷ややかな顔で言った。
「本当だ、夢じゃねーわ。泣いていい?」
髪をいじり、半泣きになる銀時にジャンヌは差し出した。
「私の知りうる情報はこの位しかありません。それでも、もし信じていだけるのならば、今度は私に聞かせてくれませんか? あなたたちのことを」
「…… ま、確かにわかんねーことが増えただけだが、少なくともあんたが嘘ついてねーことはわかる」
銀時はジャンヌの手を握り、彼女の顔を真っ直ぐに見る。
「俺は坂田銀時。小難しい説明は苦手なんで、詳しくはマシュに聞いてくれや。ただし、聞いたからにはしっかりコキ使うつもりなんでよろしく」
「は、はい! ありがとうございます」
コキ使う。それはつまりジャンヌのことを信用してくれているということ。
夜はまだまだ続く。一行は冬木での戦いやカルデアでの日常の話など、華を咲かせた。
テントをはり、銀時とマシュ、それにフォウも中で横になる。
睡眠の必要のないジャンヌはテントの外で座り、一人で焚き火を見つめていた。
「もう一人の私…… いったいこの時代になにが起きて……」
「なんだ、まだ起きてんのか」
「っ! マスター!」
声の方を振り替えると欠伸をし、体を伸ばす銀時がいた。
契約したわけではないが、異世界の人間でありながら人理を救おうとする姿に敬意をはらい、銀時のことをマスターと呼ぶようになっていた。
ボリボリと頭をかき、相変わらず気だるそうな顔をしている。
「すみません。起こしてしまったようで」
「いや、俺も小便したくなっただけだから問題ねーよ。それよりもどうした。何があったか知らねーが、あんま落ち込んでっと、せっかくのべっぴん顔も映えなくなるぞ」
「…… わからないのです」
「あん?」
「もう一人の私がいたとして、何故このようなことをするのか。私には祖国への恨みも憎しみもない。なのにもう一人の私はこの国を滅ぼそうとしている。この違いはなんなのか…… もしかしたら私こそが偽物なのではないかと思ってしまっているのです」
記憶は確かにある。ジャンヌとして生きてきたあの日の記憶。
野原を駆け回り母に愛された記憶から死ぬ最後の時まで。
全てを覚えている。しかしこの記憶が本物なのか、ジャンヌは自信がなくなっていた。
「偽物かもねぇ…… 別にそれでもいいんじゃねーの」
「え?」
銀時の返答は予想もしていなかったことだった。ジャンヌは目を丸くし、銀時を見る。
「仮に竜の魔女が本物でお前が偽物だとしても、お前はお前だろ。お前はテメーの信じる魂に従い俺たちを救った。俺たちと一緒に戦うと決めた。本物かどーかは俺には知らねーが、一つだけわかることはある。お前は悪い奴じゃねえ」
「マスター…… ! ありがとうございます。貴方のおかげでふんぎりがつきました」
「そりゃどーも」
ジャンヌは優しげな微笑みを浮かべる。
銀時からしてみれば、この笑顔は出会って初めて見る笑顔だった。
森を抜け、ジャンヌを先頭に一向は駆けていた。
夜は明け目を覚ました彼らは朝飯を食べる暇もなく、慌ただしく動いている。
それは何故か。ロマニとオルガマリーの焦った声が目覚まし代わりに銀時たちを起こしたからだ。
通信の内容は、街、ラ・シャリテに多数の魔力の反応があるということ。
ワイバーンが襲撃したのかもしれないと、一向はラ・シャリテへと向かっていたのだ。
「おい、あれ街だよな! 燃えてっぞ!」
「はい! あそこがラ・シャリテです。やはり敵サーヴァント!」
肩にフォウを乗せて走る銀時が煙を上げている街に気づいた。
焔の臭いがここまで漂い鼻を擽ってくる。
「急ぎましょう!」
ジャンヌの声が微かに震えている。
あの街にはドンレミ村の避難民の避難先だったはずだ。
ドンレミ村はジャンヌの生まれた場所。そこからの避難民ならば、いるかもしれない。
ジャンヌの大事な人が。
「これは……」
ラ・シャリテ。そこには生きた人間はいなかった。
人の焦げた死体。四肢や頭をもがれて横たわる死体。焼け落ちた建物。屍を貪るワイバーン。
正にこの世に具現した地獄。
ジャンヌは唇を噛みしめ、死者を冒涜するワイバーンを旗の穂先で貫き倒す。
せめて誰か一人でも生きていないか。ワイバーンたちを蹴散らし周囲を確認する。
その時だった。
『あなたたち! 今すぐその場から離れなさい! サーヴァント反応よ! それも数は…… 四騎!』
オルガマリーが血相を変えて叫ぶが、最早どうしようもない。
銀時たちが気づいた時にはもう、
ドッッ!!
地面に小さなクレーター作り砂埃を撒き散らす。
数は四つ。銀時たちを囲うように災厄は突如として現れた。
「なんて、こと、まさか、まさかこんなことが起こるなんて。ねえ。お願い。誰か私の頭に水をかけてちょうだい。まずいの。やばいの。本気でおかしくなりそうなの」
「っ!」
ジャンヌは信じられないと目を丸くし、目前の黒い鎧の女を見る。
対称的に女は顔を笑顔で歪めてジャンヌを見る。
「だってそれくらいしないと、あんまりにも滑稽で笑い死んでしまいそう! ほら見てジル! あの哀れな小娘を! なに、あれ羽虫? ネズミ? ミミズ? ねえ、ジルーー って、ああそっか。ジルは連れてきていなかったわ」
「話は…… 本当だったのですね。本当にいたのですね、貴女は!」
「何を当たり前のことを。これ以上、私を笑わせないでほしいものね」
「一度だけ問います。貴女は何故、この国を滅ぼそうとするのですか?」
目の前の、もう一人の自分へとジャンヌは旗の穂先を向けて問いかける。
もう一人のジャンヌは呆れたように口を開いた。
「全く、同じジャンヌ・ダルクならば理解していると思ったのですが…… そんなものは明白です。単にフランスを滅ぼすためです。私を裏切り、唾をはいた者たちに、この国に復讐を果たすために」
「馬鹿なことを…… !」
「馬鹿なのは貴女です。人類種が存続するかぎり、この憎悪は収まらない。このフランスを沈黙する死者の国に作り替える」
「それが、貴女の答えなのですね…… ならば私はそれを止める……! 例え主の啓示がなくとも、私の信じる私の魂に従い!」
「そう。やはり愚かですね…… 貴女という女は。いいでしょう、無様に立ち向かうというならば、殺すまで。バーサーク・ランサー、バーサーク・アサシン。まずは、その田舎娘を始末なさい」
取り囲んでいた内の二騎が前に出た。
一人は、黒い貴族服を着た白髪の男。一人は、茨を纏わせた様なドレスを着込み、不気味な仮面をつけた女。
「──よろしい。では、私は血を戴こう」
「いけませんわ王様。私は、彼女の肉と血、そして腸を戴きたいのだもの」
「強欲だな。では魂は? 魂はどちらが戴く?」
「魂なんて何の益にもなりません。名誉や誇りで、この美貌が保てると思っていて?」
「よろしい。では、魂は私が戴くとしよう」
何やら物騒な会話を二人はどこか楽しそうに語り合う。
お互いに同意を得たのか。二人はジャンヌへとゆっくりと歩を進めていく。
はっきり言って戦力差は絶望的。
銀時もマシュも構えるが、希望の見えない状況に冷や汗を流す。
カルデア管制室では、慌て狼狽するロマニを無視し、オルガマリーとダヴィンチは考えを巡らしている。
だが、この状況を覆す方法などあるはずがない。
それこそ、彼らに味方する増援でもない限り──
「
「なんだ!? ガラスの馬車だぁ!?」
高らかな声とと共に、空からガラスの馬車が駆けてくる。
「これは…… !」
「さあお願いしますわ、
「任せて! 待たせたわね、豚共ぉ!! ボエ〜!!」
馬車からこの世全ての悪意が込められたかのような、濁った歌声が響いた。
「ぎゃあああ!! なんだ、この歌はぁ!? もしかしてあの有名なガキ大将の英雄が召喚されたのかぁ!?」
銀時が耳を抑えて叫んだ。マシュも顔を青ざめ、口を抑えていた。
敵の一人、バーサーク・アサシンと呼ばれた女に至っては両頬を両手で挟み、あの有名な絵画を思わせる顔で叫ぶ。
「いやぁぁぁ!! 思い浮かぶは黒歴史よぉぉ!!」
「落ち着きなさい! バーサーク・アサシン! これはただの歌ではない!? 歌声によって発せられる魔術的強制力か…… !!」
「吐いている場合ではありませんよ。逃げます。乗ってくださいませ」
「ゲロロロロ!! なんだかわかんねーが、行くぞ、マシュ」
「うぷぅ、はい、先輩。行きましょう、ジャンヌさん」
「そ、そうですね、うぷ」
馬にまたがっていた着物姿の少女に言われ、銀時たちは馬車へと乗り込む。
中には歌を気持ち良さそうに歌い続ける角の生えた小柄な少女と赤い衣装を着こんだ女性。それに黒服に身を包んだ端正な顔立ちの男がいた。
「あら見て、アマデウス。この銀髪の方、口から虹を出しているわ! とっても綺麗」
「流れるように真名を明かすね…… まあいいけどさ。その虹は決して綺麗なものじゃないし、かなり臭いぜ」
馬車は彼らを乗せて、動き出す。
馬に跨がっていた着物の少女は敵が攻撃しないかと身構えるが、それどころではないらしい。
「おろろろろ!!」
「ルーラー! アサシンがもらいゲロロロロ!!」
「そういう貴方も吐くんじゃないわよ、バーサーク・セイバー! うわ、酸っぱクサっ!?」
「マリア! 敵は絶賛貰い吐き中だ。今の内に馬車を!」
「ええ! さあ行きましょう!」
悪臭立ち込める戦場の空を輝く馬車は颯爽と駆けて行った。