Fate/Silver Order -選ばれし48人目のマスターは銀髪侍-   作:天パ男

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壊れた聖女

 森を抜けた先。そこに彼女たちは立っていた。

 三騎のサーヴァント。内二騎は既に目にし、アマデウスたちからも真名を聞かされていた。

 仮面を着けたアサシンのサーヴァント、カーミラと中性的な顔立ちのセイバーのサーヴァント、デオン。

 そして今回初めて目にしたのは、十字架のような杖を手にした女のサーヴァント。

 

「──何者ですか、貴女は」 

 

 ジャンヌは敵サーヴァントに問いた。

 女はそれに、少し困ったように答えて見せる。

 

「何者……? そうね。私は、何者なのかしら。聖女たらんと己を戒めていたというのに。壊れた聖女の使いっぱしりなんて。これもサーヴァントの宿命とはいえ、無理矢理狂化されるのはやっぱり癪だわ」

『狂化…… そうか、彼ら、魔女のサーヴァントは皆、理性が一部崩壊している状態にあるんだ』

 

 管制室から見ていたダヴィンチが敵サーヴァントの状態に気づき解説する。

 英雄の性格によっては、いくらサーヴァントと言えど反発するものや、従っても本来の力を発揮でない者もいる。

 それを無理矢理解決するための方法が狂化付与ということだ。

 

「ライダー。あまり余計なことは言うものじゃない。敵に情報を与えるということは弱点を晒すことに等しいものだよ」

 

 どうやら女のクラスはライダーらしい。

 セイバーがライダーに注意するが、ライダーは素知らぬ顔で答える。

 

「あら? あなたも心中は良いものではないでしょうに、随分と真面目ね、セイバー。サーヴァントである以上、聖女の命令には従うけど、愚痴くらいはいいじゃない」

「…… 君は狂化されている割には、あまり性格に影響を感じられないな」

「それは私が聖女だからよ。…… といってもこれまで殺意の衝動を抑えきれずに、罪のない民を殺し続けてきたのだけれど」

「……っ!」

 

 あくまでも表面上ではあるが、気にしていないかのようにあっさりとライダーは言う。

 聖女を自称する彼女が理性を奪われ、人々を殺してきた事実にジャンヌは歯噛みする。

 

「そんな顔しないでよね、壊れていない── もう一人の聖女。だって私にどれだけ同情しようとも、私はあなたの敵。なら思いきり挑まなくてはならないでしょ。貴方はこの国を救おうとしているのだから」

「君は…… また、敵に激を入れるような発言を」

「まあ、仕方がないと諦めなさいな、セイバー。これはライダーの根本ともいえる性質。変えようとも変えられないものよ。今頃、城で仕置きをされているアーチャーのようにね」

  

 呆れたように言うセイバーに、アサシンが邪悪に微笑む。

 いくら精神が狂おうとも、魂に刻まれた性質は消せない。

 だからこそ、彼女たちは苦しみ続けている。善性のサーヴァントであればある程に自らの行いを悔やみ、魂の奥底で泣き叫ぶのだ。

 

「そういうことよ。だから私は止まらないし、止められない。あなたたちに敵対し、殺すわ。究極の竜に騎乗する、災厄の聖女として──」

「ガアァァァァァァーー!!!」

 

 ライダーたちの背後に亀のような巨大な怪物が現れる。

 翼はないが、ワイバーンと同様の竜種。しかしワイバーンよりも強大な力を待つ上位種だ。

 

 

「んだ、このガメラ擬きは!? 竜宮城の時にヅラが乗ってたやつか!」

「マスター、指示を!」

 

 記憶に残っていた怪物の名を叫び、戸惑う銀時。

 それに対し、マシュは冷や汗を流しながらも冷静に指示を仰いだ。

 

「さあ、私を倒しなさい。私を倒せないのならば、もとより竜の魔女になんて勝てはしないのだから!! 我が真名はマルタ。さあ、行くわよ、タラスク!」

「ガアァァァァァーー!!」

 

 明かされた真名はマルタ。

 かつて祈りのみで竜を屈服させたという本物の聖女。

 マルタの声に合わせ、タラスクは大きく動いた。

 

「うおっ!? あっぶね!」

 

 タラスクの前足が地面に勢い良くめり込む。

 銀時たちはギリギリで左右に散らばるように避けた。

 

「敵はタラスクだけじゃないわよ!」

「くっ!」

 

 マルタの持つ杖から光弾が放たれる。

 それをマシュの盾で抑える。

 

「あら、思っていたよりもやる気充分ね。あの聖女様は」

「そういう君もやる気を出さないとダメだろう。彼らを殺せ。そうルーラーに命令されているのだからね」

 

 いきなりは動かず、戦況を見ていたアサシンとセイバー。

 この場での数は相手の方が上だが、実際の戦力差はこちらの方が上と言っていいだろう。

 敵側に位置するサーヴァントの何人かは見知った顔が多いが、どれも戦闘向きとは言い難い。

 

「さて、私は腹の立つ顔がいるから、それを潰したいと思うのだけれど、いいかしら? ついでにそれの隣にある蛇の相手もするから。その代わり、あなたにはある意味相性が良くない相手と戦わせることになるけれど」

「構わない。相手が誰であろうと、私は命令に従うだけさ。サーヴァントだからね」

 

 そして二人は動き出した。

 アサシンはエリザベートと清姫に。

 セイバーはマリーとアマデウスに。

 

「マスター…… ! エリザベートさんたちが!」

「他人の心配してる暇はあるのかしら!」

「うっ!?」

 

 仲間を気遣う余裕すら与えられない。

 マルタの光弾をマシュは盾で受ける。

 

「マシュ、あいつらのことは心配すんな! 特に大蛇丸とジャイアンなら自分で何とかすんだろ! それよりも俺たちはこのガメラ擬きと十字架女に集中するぞ!」

「はい、マスター!」

 

 銀時が木刀を構え、マルタへと駆け出す。ジャンヌもマシュも、それに続いていく。

 

「まずはお前からだ、十字架女! 竜だが、ガメラだが知らねーが、こういうのは飼い主をぶっ飛ばせば消えるもんだろーがよ!!」

「ガルアァァァ!!」

「ギャオス!?」

 

 タラスクはあくまでもマルタの宝具だ。

 つまりマルタさえ倒せばタラスクも消滅する。

 それは合っているのだが、それを許すはずもなく、マルタへと辿り着く前に、銀時は軽くタラスクの前足であしらわれてしまった。

 銀時は悲鳴をあげながら森の方へと突っ込んでいった。

 

『このバカ! いくら礼装に改造したとはいえ、木刀でサーヴァント相手に挑もうとするんじゃないわよ! ロマニ、何かタラスクの弱点とかないの?』

『任せてください、所長! 今、資料を確認し、タラスクの弱点を探っているところです!』

 

 そう得意気に言うロマニの手元には何やら映像が映っているタブレットがあった。

 タブレットから音が流れる。

 

『タガが外れてようが腐ってようが、それを守るのが私らの仕事です』

『いや、ガメラじゃん! あんた、今ガメラ見てるじゃん! 映画鑑賞してんじゃないわよ!』

 

 ガメラを見て涙をするロマニに突っ込むオルガマリー。

 管制室ではバカみたいにボケてはいるが、フランス側のマシュたちは構っていられない。

 

「はっ!」

「ガアアアア!!?」

 

 バキンッ!! とジャンヌの振り上げる旗がタラスクの顎に当たり、巨大な体が空を舞う。

 そのままタラスクは仰向けに倒れた。

 

「この程度ではやられはしないでしょう…… やはりタラスクを使役するマルタをたたくのが一番なのですが」

「そうはいかねーってな。野郎、亀の癖に、中々すばしっこいときやがる。あれじゃあ十字架女に近づく前にこっちが殺されるぞ」

 

 いつの間にか森から戻ってきた銀時はタラスクを忌々しそうに睨む。

 

「…… マスター。ここは提案なのですが、私と契約を交わせないでしょうか? 契約をすれば私に魔力が通り、本来の力を発揮できるはずです」

『はあ!? 駄目に決まってるでしょ! 銀時は既にマシュと契約しているのよ。二騎以上との同時契約なんて前例がないし、どんな負担がかかるかわからないわ!』

 

 ジャンヌが出した提案に銀時が答えるよりも早く、オルガマリーが待ったをかけた。

 しかし銀時は、

 

「いいぜ。ああー、ただ契約の仕方だとかはよくわかんねーから、ロマニ。レクチャー頼むわ。あ、あと判子とか必要だったら、持ってないから、サインでもいい?」

『サーヴァントとの契約に判子なんて使わないわよ! ていうか本気でする気!? あなた、どうなるかわからないのよ!』

「文句は俺が生きて帰れたらにしてくれや。このままじゃ全滅するだけだぞ」

『くっ…… あーもう、わかったわよ! ロマニ! 銀時に契約の詠唱を教えてやって!』

『は、はい! 銀時くん、僕に続いて同じことを言うんだ!』

 

 一か八かの賭け。下手をすれば自滅しかねない無謀な行為だが、成功すれば間違いなくマルタにとっての驚異だ。

 それをみすみす許すはずもなくマルタはタラスクをけしかける。

 

「させると思う? タラスク! 敵のマスターを狙いなさない」

「ガアアアア!!」

「そうはさせないさ!」

 

突然流れる心地の良い音色。しかしその音を聞いたタラスクの動きが大きく鈍った。

 

「これは…… アマデウス! マリーは!? 敵のセイバー、デオンと戦っていた筈では」

 

 あちらも余程の激戦なのだろう。アマデウスは体中に傷を負い、服もボロボロになっていた。

 

「セイバーのことならマリーに任せてある! いやなに、最低だとは思われるだろうけど、ぶっちゃけ彼女の方がキャスターの僕より強いからね! それにジャンヌ、君はマスターと契約するんだろ? 足止めは僕とマシュに任せろ」

 

 アマデウスが手をふるい音楽を奏でる。

 

「そう何度もさせないわよ!」

「おおっと!!?」

「させないのはこちらです!」

 

 敵の妨害を見逃す道理はない。

 マルタは光弾ではなく、今度は直接杖を振りかざし、アマデウスへと迫る。

 しかしそれはマシュの盾によってふさがれた。

 

『汝の身は我が下に我が命運は汝の剣に 聖杯の寄るべに従いこの意 この理に従うならば──』

「あーと…… な、ナンシーのワッカにナンシーのケンが突き刺さり……」

『全然違うんだけど!? なんか最低な英語の教科書の音読みたいになってるんだけど!?』

 

 ロマニに続いて銀時も詠唱するが、全く違う内容にオルガマリーが頭を抱えてツッコンだ。

 しかしそんな滅茶苦茶な詠唱だっとしても

 

「我に従え── あー、もう面倒くせぇ! 銀紙で作ったような船かもしれねーが、泥船よりもましだろ? 乗ってけ、ジャンヌ!」

 

 ジャンヌに確かに魔力が流れていく。これこそ銀時との契約がなされた証拠。

 僅かではあるが今までよりも力が漲ってくるのをジャンヌは感じた。

 逆に銀時は顔を少しひきつらせ額に汗をたらす。

 

 

「おもったよりキチイな…… ま、あいつをさっさと倒せばいいんだろ。頼むぜジャンヌさんよ」

「はい、行きましょう。マスター!」

 

 この戦いを終わらせる。

 その為に二人は再び動き出す。

 それを見たマルタは鬱陶しそうに舌をうつ。

 

「ちっ…… あーもう、厄介ね!」

「くっ!」

 

 ガッ! 

 今まで盾で防いでいたマシュが力で押し負け、後ろへと飛び、仰向けに倒れた。

 そしてその隙を逃さない。マルタは乱暴に杖をふるいアマデウスへ光弾を飛ばす。

 

「がっ!? くっ、やっぱ、キャスターが前線に出るのはキッツ…… 全く僕を召喚した聖杯め。呼ぶならサリエリにしろ」

 

 まだ恨み言を吐く余裕はあるようだが、流石に膝をついてしまう。

 ようやくアマデウスの音色から解放されたタラスクは雄叫びを上げる。

 

「ガアアアアーーーー!!!!」

「ええ、タラスク。そうね、一気に決めましょう。契約された以上、何をされるかわからないわ」

『魔力反応が増大している! まずいぞ、銀時くん。恐らくこれは宝具だ』

 

 ロマニがマルタに変化が起きたことを察知し、伝える。

 しかし気づいた所でどうにもならない。

 マルタは高らかに叫び、宝具を発動する。

 

「私と共に在りし、タラスク── 愛知らぬ哀しき竜」

 

 タラスクの身体が白く変化する。

 場の空気が一気に変わり、威圧感が支配する。

 

「さあタラスク。太陽に等しく滾る熱を操り今ここに。滅びに抗わんとする気高き者に試練の一撃を与えましょうーー」

 

 タラスクの身体が大きく飛び上がる。

 見上げるとタラスクはまるで太陽のように輝いていた。

 

「なあ、ジャンヌ…… あんたもやっぱ持ってんの? うちのマシュとかあそこの亀使いの女みてーな必殺技」

「必殺…… というべきかはわかりませんが。あります。必ずこの状況を打破できる力が…… !」

『銀時、貴方はまさか!』

「はっ。もう止めたりしねーよな、所長」

 

 マルタは叫ぶ。宝具の名を。

 

「星のように、愛知らぬ哀しき竜(タラスク)よ!!」

 

 タラスクは大きく回転し、流星のように銀時たちへと向かっていく。

 

 

「じゃ、頼むわ」

 

 銀時は苦笑いを浮かべながらもジャンヌを信じ、その場から動かない。

 銀時は通常のマスターとは違う。カルデアで作られる魔力が銀時の体を通してサーヴァントへと魔力が伝わっていく。

 故に魔術師でない銀時でもマスターになれるのだが、それでも身体には大きく負担がかかる。

 二騎目の契約に続いて、宝具発動など、本来ならもっての他だ。

 なにが起きるかわからない。もしかしたら死ぬことだってあり得るかもしれない。

 それでも、銀時は全てを賭けた。

 サーヴァント、ジャンヌ・ダルクを信じ、己の悪運を信じて。

 

 

「貴方に敬意と感謝を…… 主の御業をここに──」

 

 ジャンヌは旗を掲げる。

 

「我が旗よ。我が同胞を守りたまえ──」

 

我が神はここにありて( リュミノジデエテルネッル)── !!」

 

 ジャンヌを中心に光が溢れ、

 

「この光は…… !?」

 

 タラスクとマルタを、全てを包み込んだ。

 

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