Fate/Silver Order -選ばれし48人目のマスターは銀髪侍-   作:天パ男

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二人の聖女

 

 死体の転がる瓦礫の真ん中。

 聖女だった女はひたすらに血を啜り心臓を貪る。

 サーヴァントが世界に現界し続けるには魔力を得なければいけない。

 そしてその魔力がなければ魔力を生み出すモノを喰らうしかない。

 だから彼女は、マルタは魂を喰らった。 

 狂気に侵され自死すら許されずマルタは殺戮を繰り返した。

 

「グルル……」

 

 タラスクが心配そうにマルタを見下ろす。 

 マルタは最後の血を飲み干し、タラスクが安心できるように言葉をかけた。

 

「大丈夫よ、タラスク。貴方とこの杖に狂気がいくのだけは抑えてみせる。それに…… 私だって悪あがき位はするわ」

 

 少しでも希望があるのなら。

 マルタは出会った英雄の顔を思い浮かべ、僅かな希望にすがった。

 すがるほかなかった。

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい、ジャンヌ・ダルク…… 聖女様を血で汚しちゃったわね……」

 

 マルタの心臓には、ジャンヌの持つ旗の穂先が突き刺さっていた。

 口から出た赤い血がジャンヌの白い肌を染め上げる。

 

『霊刻を貫いた…! 銀時君達の勝ちだ……』

 

 画面越しにロマニは銀時たちの勝利を確信する。オルガマリーもヨッシャーと、ダヴィンチの頭の上に乗りながら、ガッツボーズをしていた。

 しかしジャンヌは素直に喜べなかった。

 彼女は、マルタは好きで悪となっていたわけではなかったからだ。

 マルタの謝罪にジャンヌは口をつぐむ。

 

「ああー、もう……… 本当、お互いに苦労するわね…… 貴女に伝えたいことがある。消える前に」

「……?」

「あいつに、気づかれる前に──── 頼んだわよ」

「っ! 聖女マルタ…… 貴女は……」 

「そんな顔をするものじゃないって言ったでしょ? これでよかったのよ…… これで…… ああ、全く。聖女に虐殺させるんじゃ…… ないってぇの……」

 

 マルタの体は、旗についた血を残して跡形もなく綺麗にこの世界から消失した。

 

 

 

 

 

 

「ライダー ……… っ! やられたのか」

「はぁっ…… はぁっ! どうやら向こうは決着がついたようね!」

 

 マリーを相手に、優勢を保っていたデオンだったが、仲間が倒された事実を知り、僅かに動揺する。

 

「これはこちらにとって悪い流れだな。それに──── 了解した、ルーラー…… アサシン、撤退だ!」

「そう。残念だけど、わかったわ」

 

 セイバーは、恐らく竜の魔女であるジャンヌから撤退命令が下ったのか、アサシンを呼ぶ。

 

「あっこら! 逃げるなあァァ!! せめて私の歌を聞いていきなさいよ!」

「それ、わたくしたちにもダメージが入るので止めてくれません?」

 

 そのまま逃げ出す二人を見て、エリザベートか吠えた。

 清姫は、戦闘での疲れもあるが、エリザベートの歌に対し、心底嫌そうに顔を歪めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 フランス、オルレアン。そびえ立つ城は奇怪な海魔に侵食され空にはワイバーンの群れが飛び交っている。

 最早、人の気配はあらず巨大な城内には数名のサーヴァントのみ。

 ほぼ空っぽとなった城の玉座にふんぞり返り座るのは竜の魔女と名乗るジャンヌ・ダルク。

 目前で跪く己のサーヴァントであるセイバーとアサシンに彼女は不機嫌な様子を一切隠さずにいる。

 

「ライダーは倒され完全に消滅…… 態々3騎も仕向けたというのに、敗北し、無様に逃げ帰るとは。情けない結果ね」

「ライダーを倒されたのは事実だが、呼び戻したのは君だろう。私たちは命令に従い、戻ってきたまでだ」

「戦闘に特化したサーヴァントでありながら、あのような連中に一騎失った時点で、それは敗北と同義でしょう。全く、精神を壊し使い物にならなくなったアーチャーといい…… 私は役にたたないサーヴァントを召喚した覚えはないのだけれど?」

 

 竜の魔女は心底呆れたようにため息を吐いた。

 すると今まで頭を垂れていたセイバーは顔を上げ、反論する。

 

「そう言う君こそ、ラ・シャリテではもう一人のジャンヌ・ダルクを取り逃がしただろう。まあ、あの歌は…… うぷっ、流石に想定外だっただろうけど」

「あら。マスターである私に対して随分な物言いね、セイバー。召喚され殺戮を繰り返していた頃に比べれば饒舌になったものね」

 

 竜の魔女は反論してきたことに対し嫌悪感は示さず、それどころか面白ろ可笑しそうに顔を歪めた。

 セイバーは竜の魔女が何を思ってそのような笑みを浮かべているのか察し、目を逸らした。

 だが竜の魔女は構わず話を続ける。

 

「あの王妃気取りの── いや、実際に王妃だったもの。この私と同じくフランスに裏切られた哀れな女。確か、その哀れな女はセイバーと繋がりのある英雄だったのよね?」

「……」

 

 セイバーは何も答えずに再び顔を伏せた。

 何か言い返すことぐらいのことをしてくるかと期待していた竜の魔女は反応のないセイバーにつまらないとため息を漏らした。

 その様子を見ていた玉座の傍らで佇むギョロ目の男は竜の魔女の機嫌が悪くなっていくことを察し口を開いた。

 

「おお、ジャンヌよ。もう一人のジャンヌを取り逃がした上、ライダーを失い、大変機嫌を悪くしておいでの様子。しかしどうか機嫌を直されよ。既にフランスの大半は制圧し、抵抗戦力も残りわずか。アーチャーに関しても我が使い魔で矯正を行っております。直ぐに言うことを聞くようになるでしょう」

 

 城の独房。竜の魔女が召喚したアーチャー、真名アタランテをそこに入れ、大量の海魔で体中を埋め尽くしていた。

 アタランテにも狂化がかけられ純情とは言えずとも同じく殺戮を繰り返してはいたのだが、子供を殺させられたことに怒りを感じ、反旗を翻そうとしたのだ。

 現在は、実力はあるので捨てるのは惜しいとギョロ目の男の手により矯正が施されている。

 

「ええそうね。失った戦力は召喚で補充すればいい。なにより現状でも戦力は充分。殺ろうと思えばいつでも彼女(わたし)を殺せる」

「はい。なので何も心配は──」

「けどそれだけでは私の心は満たされないのよ。ジル」

「と、申されますと……」

 

 竜の魔女も納得してくれたとギョロ目の男は一瞬微笑みそうになったが、その考えが間違いであったことに気づく。

 己の敬愛するジャンヌ・ダルクに不満などあってはならない。直ぐにでも解決案を講じなければジャンヌに問いかけた。

 

「どれだけ力があろうとも、勝利が確定していようとも私にとっては許しがたいことなのよ。あのような男が存在していることが」

「あのような…… それは最後のマスターのことですか?。ジャンヌよ」

「ええそうよ。というか、それしかいないじゃない。いいかしら、ジル? 私が欲しいのは圧倒的な勝利。徹底的な殺戮を持って絶望を生み出し、フランス中を血と涙で濡らすの。全ての人間が絶望に顔を歪めて死に行く末を見てようやく満たされる。なのに…… 彼女(わたし)の後ろにいたあの銀髪!」

 

 段々と竜の魔女の声が強くなっていく。

 ギョロ目の男やサーヴァントたちの肌がピリピリと強く刺激されていく。

 

「本来人間のマスターなど子鼠のようにぶるぶると震えてしかるべきでしょう。なのにアレは、アレの瞳が揺らぐことはなかった。アレの顔が変わることはなかった。ねえ、何故なのかしら。ジル?

「イレギュラー故、でしょう。人類最後のマスターは、英雄達と同様に歴戦を潜り抜けた異界の戦士だったということですし」

「確か侍でしたっけ? 所詮は人間だと、対面の時点では歯牙にもかけませんでしたが、それは間違いだったということね」

「いえ、まさか! ジャンヌに間違いなど!」

 

 ギョロ目の男が狂信的に叫ぶ。 

 竜の魔女はそれに対し、すこし鬱陶しそうにしながらも話を続ける。

 

「別に構いません。人類最後のマスターに関してはどうでもいいと思い、油断していたのは事実ですから。それよりもライダーに変わる戦力を補充することが先決です。私は召喚の儀を行うので貴方達は引き続き各地に戻って虐殺を行いなさい。あぁ、あとそれと、例の男にもサーヴァントを一体差し向けなさい」

「例の男に、ですが? しかし奴はあくまでも傍観者に徹し、寧ろ異界のマスターについて、助言をしてくれた身ではありますが……」

「今のところは無害ではありますが、不穏な存在には変わりありません。始末できるのならば始末しなさい」

「承知しました。全てはジャンヌの御心のままにの」

 

 主である彼女の命令ならば拒否する理由など何処にもない。

 これ以上、ジルは何も言うことはなく、頭をさげた。

 それに竜の魔女の気分が良かろうと悪かろうと、虐殺は続いていく。

 今さら虐殺対象者が一人増えた所で何も変わらないのだ。

 こうして命令を受けたサーヴァント達は己の意思に関わらず殺戮を再開する。

 

 バーサーク・セイバー シュバリエ・デオン

 

 バーサーク・ランサー ヴラド三世

 

 バーサーク・キャスター ジル・ド・レェ  

 

 バーサークアサシン カーミラ 又の名をエリザベード・バートリー。

 

 彼らの歩いた先には骸しか残らないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カルデア、臨時キャンプ地。

 ライダーを倒し、食事も途中だった彼らはキャンプ地へと戻って体を休めていた。

 焚き火を囲いながら、体に異常がないかをロマニが管制室から調べている。

 

「マスター、お体の方は……」

「ああ、問題ねーよ。体の節々は痛むし、目眩はするし、鼻水は出てくるけど」

『問題大有りじゃないのよ!?』

 

 心配するジャンヌに銀時は冗談交じりに答えた。

 本気にしたオルガマリーは通信越しに騒いでいるが、無視した。

 

「申し訳ありません、マスター。ライダーを倒すためだったとはいえ、多大な負荷ををかけてしまい……」

「だから別にいいって。ああしてなきゃ、俺達は皆死んでた。むしろお前のおかげで勝てたんだよ。あと、もう半分は俺のおかげだけど」

「さりげなく自分のことアピールしてきたわよ、コイツ……」

 

 全く格好がつかない銀時にエリザベートは呆れる。

 

「まあ、そういうことだよ、ジャンヌ。さて、反省会はここまでにして、今後どうするかを話し合おうじゃないか」

「それもそうですね。では皆さん、まずは私が得た情報をお話します」

「情報…… ? ジャンヌさん、いつの間に」

 

 アマデウスの提案にジャンヌが同意し、情報を共有する。

 それはあの戦いの中、彼女が残した竜の魔女への最後の抵抗。

 

「はい。ライダー、マルタが教えてくれました。リヨンという街にサーヴァントがいるという情報を。それも私たちの側についてくれるであろう伝説的な英雄です」

『それは吉報だ! してそのサーヴァントの真名は』

 

 戦力が開いている状況下、特異点で得られるかもしれない新たな仲間の情報にロマニは血相を変えて問いかけた。

 ジャンヌの口から告げられる、サーヴァントの名前。それは、

 

「勇者ジークフリート。伝説において邪竜ファヴニールを倒した最優の竜殺し(ドラゴンスレイヤー)です」

 

 

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