Fate/Silver Order -選ばれし48人目のマスターは銀髪侍- 作:天パ男
ジークフリートを探す道中。街に立ち寄り得た情報から、ジークフリートがいるかもしれないリヨンの街は既に滅んでしまったということが判明した。
しかしその街には守り神がいたらしい。
大剣を持ち、怪物達から民を守っていたが複数の人間に襲われ敗北し、行方不明になったとの事だ。
この守り神とは、恐らくはジークフリートの事なのだろう。
これではリヨンに行っても意味がないのでは? という意見もあったが、“ジークフリートが何処に消えてしまったかどうか”の痕跡がリヨンに残されているかもしれない。
それにまだリヨンの街に隠れ潜んでいる可能性もある。
前向きに考えるようにし、進む一行はついにリヨンの街にたどり着いた。
話に聞いていた通りリヨンは既にボロボロ。建物は崩れ、民は生ける屍と化していた。
屍は無意味に徘徊するのみだったが銀時たち生者を見つけると血や内蔵を垂れ流しながら襲いかかってきた。
「マスター、下がっていてください!」
マシュが盾を構える。
他のサーヴァントも同様に生きた屍、グールをあっさりと倒していく。
最後の一体が倒され地面に伏せた。
「どうか…… この者達に安らぎを」
ジャンヌはせめてもと祈る。
はっきり言って何時敵勢力に襲われるのか分からない以上、祈りを捧げる時間すら惜しい。
しかし、この場にいる誰もがその事に文句を言う者はいなかった。
何時もは騒がしい一行だが、今は誰もが静かに黙っている。
しかしその静寂も直ぐに終わることとなる。
『みんな、直ぐにその場から離れるんだ!! 極大の生命反応が猛烈な速度でやってくるぞ!! サーヴァントの反応もある!』
「そんなものありえるんですか!?」
『信じ難いけどロマニの言う通りよ! ここは戦略的撤退が正しい…… けど!』
「ああ。わーってるよ」
オルガマリーは苦渋の命令を降さなければならないことに歯噛みし、言葉を飲み込んだ。
だが銀時は、オルガマリーが何を言いたいかを察する。
「なんだかよくわからねーが、ヤバいのが来るのはわかる。だったら竜殺しだかを諦めるわけにはいかねえ。このまま行くぞ」
『…… そうね! ロマニ! サーヴァントの反応は!』
『今調べています! 出ました、向こうの城の中からサーヴァントの反応があります!』
それは古びた城だった。
銀時たちはロマニの通信を聞くと、脇目もふらず城へと向かい、蹴り飛ばす勢いで城のドアを破った。
ロマニの誘導に従い、隠し扉を見つけ銀時たちは、力任せに破壊し、急いで部屋へと入っていく。
「いました! 竜殺し、ジークフリートです!」
灰色長髪の端整な顔立ちに青色の傷。凛々しい雰囲気漂わせる男の顔が、そこにはあった。
ただし仏壇に置かれた写真の中にだが。
『いや、死んでるじゃねえかあァァァァ!!』
「あの…… ここに棺があるのですが…… これはまさか」
マシュが青ざめた顔で棺を見る。
この仏壇と白黒の写真から想像するにジークフリートは既に死んでしまったということだろう、と。
『いやいや! だとしてもツッコミ所ありすぎるわよ! なんで仏壇!? なんでこの時代に写真!?』
「見てくれ。こんな所に書き置きが。遺言状かもしれない」
アマデウスが床に落ちていた紙を見つけ、拾い上げる。
銀時はそれを受けとると読み上げた。
「なになに? 『すまない。五年前に返すの忘れてた龍が如くを、アストルフォ君に返しておいてほしい。すまない』」
『借りパクしてたソフトのことしか書いてねェェェ!!? ていうかアストルフォ君って誰よ!』
「これがジャパニーズ仏壇なのですね、先輩。あ、写真の横になにか置かれています。」
「そりゃあ供え物ってやつだな。つーかこれイチゴ牛乳じゃねーか」
『なんでイチゴ牛乳。なんでよりにもよって供え物のチョイスがそれなのよ! 誰が供えたのよ!』
「喉乾いてたから丁度良かったわ。ぶー! なんじゃこりゃあ! 腐ってるじゃねーか!」
勢いよく銀時の口からイチゴ牛乳が噴射される。
ピンク色の飛沫は全て棺へとかけられた。
『いや死者にたいして冒涜が過ぎるわあァァァァ!!』
ドゴオオオオオンン!!
オルガマリーのツッコミとほぼ同時。
突然屋根が吹き飛び、銀時たちの頭上に青空が広がった。
「い!?」
覗きこむ巨大な顔があった。黒い鱗にギラギラとした眼。鋭い歯は光を反射し輝いている。
それは黒色の竜だった。
竜の頭には誰かが乗っていた。その姿には見覚えがあった。
「貴女は── 竜の魔女!」
「反吐が出るくらい感動的な再開ね。田舎娘」
ジャンヌと竜の魔女である黒いジャンヌの目が合う。
互いに睨みあい少しばかりの静寂が生まれた。
「竜殺しジークフリートを探してこの街に来たのでしょうけど、残念だったわね。けれども、その男は戦いに敗れ既に死んでしまったわ。ねえどんな気持ちなのです? 僅かな希望にすがるため必死の思いで来たというのに全てが無駄だった現実を知って」
「私の気持ちは、決心は変わりません。貴女を倒す」
「そう…… 本当に愚かで哀れな女。お前を殺すのなどわけないけど、その前に絶望に歪む顔を見るのも悪くないからあることを教えてあげる。特にお前。銀髪のマスター、お前の顔も私は必ず歪ませてあげるわ」
「え、なに逆ナンすか? わりーな、ねーちゃん。俺は積極的な女はタイプじゃないんでねぇ。今回ばかりは出直してくんねーか?」
竜の魔女の視線が銀時へと移る。
銀時は彼女の殺意を感じながらも、いつもの調子を崩さずに答えた。
「お生憎様。私は拒まれば拒まれるほどに無理にでも近づき串刺しにしてあげたくなるの。だから貴方を前に出直すなんてできるはずもないわ」
「はっ。俺も嫌な時にモテ期が来ちまったもんだぜ」
「先輩は積極的な女が嫌い、と……」
銀時が冷や汗を流しながらも口では軽く返している横でマシュは密かにメモをとっていた。
「さあ悪い情報よ。貴方たちが口を開けて見上げるこの竜の真名はファヴニール! ジークフリートでなければ決して殺すことのできない竜!」
「ファヴニール…… ! これは確かに真名を聞いても絶望しか生まれないってやつだな」
アマデウスが困ったようにやれやれと首をふった。
ここにいる全戦力をぶつけても決して勝てる相手ではない。
「要は怖いジークフリートが死んでようやく顔を出したってことか? ファヴニールなんて大層な名前してる割には随分なビビり屋じゃねーか」
「グルルル…… !」
「なんとでも言いなさい。どう足掻こうが喚こうが貴方たちが死ぬことに変わりはありません」
いよいよおしまいか。
守りに特化したジャンヌやマシュが宝具を展開しよう構える。清姫、マリーにアマデウスたちもどうやってこの場から逃げるか。せめて自分一人を犠牲にしてもと頭を巡らせる。
その時だった。
「話の途中だがすまない」
「なに…… まさか、何故貴様が!」
棺の蓋が開く。最初に手が見えた。その次に上半身が起こされ、そして立ち上がり全身が露となる。
灰色長髪の端整な顔立ちに青い傷。傷は顔から下へ体へと続いていく。
その者は胸元と背中が大きく開いた鎧に身を包み、大剣を背に立っていた。
その雰囲気は正に英雄のモノ。
優しげでありながらも鋭い眼光は真っ直ぐにファヴニールを見据えていた。
「ジークフリートだ。すまない」
「竜殺しジークフリート…… 本物、本物です、先輩! ジークフリートさんは生きていました!」
「まあ私は嘘と気づいていましたけどね。そういう性質なので」
『ええ!? じゃあ早く言いなさいよ!』
清姫があまりにもあっさりと言ってきたのでオルガマリーはこんな状況でもツッコミを入れた。
「すまない。俺が死んだと敵に思わせて油断させようという計画だったのだ。紛らわしくてすまない」
「ガアアアア!!」
「くっ…… ファヴニール! 空に上がりなさい! 撤退よ」
ファヴニールが吼える。
鋭い眼光はジークフリートを突き刺すように見据えてはいるが、巨大な体には僅かな震えが。
そのことにいち早く気づいた竜の魔女はその場から離脱するようにファヴニールに命令を下す。
「久しいな、ファヴニール…… 二度、甦るというならば二度喰らわせるまでだ」
大剣に魔力が渦巻く。竜を殺す必殺の剣技が放たれようとする。
空気が、大地が震えている。
これぞ竜殺しジークフリートの宝具
「
「ガアアアア!!」
渦巻く魔力は光を纏い一点へと、空へと向かっていく。
飛び立ち竜の魔女を乗せて逃げる邪竜はなんとか急所への直撃を避けたが、魔力の渦は僅かに竜の肉を削りとった。
邪竜の鳴き声が響き渡る。それでも空を飛ぶことを止めず邪竜は彼方へと消えていった。
「……はあ、はあ、はあ。すまないが、これで限界だ。戻ってこない内に逃げてくれ」
「ジークフリート! 貴方、その傷は…… !」
ジャンヌが気づき膝をつくジークフリートに駆け寄る。
よく見るとジークフリートは既にボロボロだった。身体中に傷を負い、鎧には血がべったりと付着している。
「その傷…… 敵のサーヴァントにやられたものですね」
マシュもジークフリートの状態を確認する。
かなり酷いもので、これはもう戦える状態ではない。
「ああ。すまない…… 連中、あまりにも強力な敵でだいぶダメージを負ってしまった」
そう言うジークフリートの脳裏には強力な敵の姿が映った。
『ジークフリート〜。オ前ハ死ヌノダ〜』
黒いシルクハットに下半身ブリーフのタキシード姿のおっさんが拳銃をジークフリートにつきつけていた。おっさんの後ろには部下とおぼしき足を露出した全身タイツにちょんまげの男たちが複数人構えていた。
『奴等って誰よこれえェェェェェェ!! こんな気色の悪いサーヴァント見たことないけどぉ!?』
「TS◯TA◯Aの店長だ。キングギドラのDVD返すの忘れてたから、しばかれた」
『お前、他の奴からも借りパクしてたんかいィィィィ!! てか何よ、この店長の無駄な存在感は! 竜の魔女とは別件で傷負ってるじゃないのよ!』
「マスター! 向こうから大量のグールがこちらに向かって来ています!」
ただで逃げるつもりなどないということか。
竜の魔女は置き土産をしっかりと残していた。
「まじいな。さっさと逃げるぞ」
目的は果たした。無駄に戦い、体力を消耗する必要はない。
銀時たちは急いでその場から離脱した。