Fate/Silver Order -選ばれし48人目のマスターは銀髪侍-   作:天パ男

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さよならは言わない

 

 後日。

 

「くじ引きだぁ?」

 

 銀時はまるで小学生のような提案をしたきたマリーの言葉を思わず復唱した。

 

「ええ、そうよ! こういう時はくじで決めるのがいいわ! こんなこともあろうかと作っておいたのよ。ほら」

 

 そう言ってマリーは両手に人数分の割り箸を握って皆の前に出して見せた。

 くじ引きのような適当な決め方でいいのかと誰もが思ったが、マリーの笑顔を見ていると言い出づらく黙ってくじを引くことにした。

 

「それで結果がこれか」

 

 まず銀時、マシュ、清姫、アマデウスのチーム。

 次にジャンヌ、エリザベート、マリーアントワネット、ジークフリートのチームである。 

 この結果にアマデウスは不安そうにしている。

 

「正直言って、いま君と離れるのは不安だ。いや君が不安に感じさせない時なんてなかったわけだけどさ。だがくじは運命によるもの。これに逆らうのは余計に悪運を呼びそうだし、ここは君を信じるとするよ。ああ、それとマリア…… いや、何でもない。道中気を付けるように」

「なあんだ! わたし、てっきりまたプロポーズされるのかと思ってドキドキしたわ!」

「──まて! なぜ、その話をいまするんだ、君は!」

 

 マリーの不意打ちにアマデウスはギョッと顔をひきつらせた。

 

「プロポーズ? あ、マリーさん。それはもしかして女子会の時に聞いたシェーンブルンでの出来事のことです?」

「マシュ、何故それを!? いや、君が話したのかマリア! 全く君がそんな風にいいふらすから後世にまで僕のプロポーズが伝わってしまうんだぞ……」

 

 アマデウスの反応から見て、昨夜のマリーの話の中に出てきた男の子の正体はアマデウスだったのだろう。

 それを知ったエリザベートと清姫はキャ~と黄色い声を上げる。

 

「茶化すなよ、ドラサーヴァント。全く、あんな告白を何故広めるのかねぇ……。大体、君は僕の告白を断ったろ?」」

「だって嬉しいんだもの。あんなにときめいたのは生まれて初めてのことだったわ。それに仕方がないわ。婚約相手は自分で決められなかったし。それにその後の私の人生を考えれば、あれでよかったとわかるはず。そう。断ってよかったのよ」

 

 そう言うマリーの顔はとても寂しげに見えた。

 

「だから貴女は音楽家として多くの人に愛されることになった。だから私は愚かな王妃として命を終えた」

「それで良かったと?」

「私は人々を愛さずに国そのものを愛した。フランスに恋をしていた。そんな思い上がりがあの結末を生んだのよ」

「何だそれは。馬鹿じゃないのか、君」

 

 アマデウスは心底呆れたような言った。

 この発言には黄色い声を上げていたエリザベートも、眉間に皺を寄せ怒鳴る。

 

「何よ、その言い方! ヒドくない!?」

「いいわ、エリザベート。…… アマデウス、馬鹿なの? わたし」

「ああ。とんでもない勘違いだ。フランスという国に恋をしていた、だぁ? そんなわけないだろう。フランスにじゃない。フランスが君に恋をしていたんだ。」

「…… ありがとう、アマデウス。元気が出たわ、あれ、でもおかしくない? じゃあ私に恋した人が私を殺したってこと?」

 

 マリーはあれ? と首をかしげる。

 その様子にアマデウスは笑った。

 

「ああ。人間はそういう生き物だからね。愛情は憎しみに切り替わる。君は愛されたからこそ、人々に憎まれたんだよ」

「愛されたからこそ、憎まれた……」

 

 愛があるからこそ、感情は憎しみに変わる。

 本当にそんなことがあるのだろうか。何故愛した者を憎しみ殺そうとするのか。

 マシュにとっては考えたこともないことであり信じられないことだった。

 

「ふふ。人間ってむつかしいものね。でもありがとう、モーツァルト。──それじゃあね、アマデウス。帰ったらあなたのピアノを聞かせてね」

「ああ、勿論だとも」

 

 こうして彼らは別れ、聖人を探すこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 フランス オルレアン。

 竜の魔女の支配領域である城内を一人の男が歩いていた。

 床に血をたらし、フラついた足取りで必死に前へ進む。

 彼もまた、竜の魔女の配下であり、二人目のアサシン。

 名をオペラ座の怪人、ファントム・オブ・ジ・オペラ。

 

「おお…… 我が、我が唄を……」

 

 彼も命令に従い虐殺を繰り返し、人々に恐れられてきた。

 しかしそんな彼の身体は今にも朽ち果てようとし、恐怖など微塵も感じられなくなっていた。

 足がよろめき、ついに膝をつく。

 このまま、苦しみながら消えるのかと思いかけた時だった。

 

「可哀想に。例の片目の男(・・・・)にやられたんだね」

  

 優しげな声がした。

 ボヤけた視界に青年の姿が映った。

 青年はファントムの頬を撫でる。

 

「これでは唄うのも苦痛だろう。楽になるといい。ファントム・オブ・ジ・オペラ」

 

 その言葉と共にほんの一瞬。

 たった数秒の間にファントムの肉体は地に倒れた。首のみを青年の手の中に残して。

 

「うん。僕の手は衰えていない。それどころか…… ふふ。これならきっと彼女も喜んでくれるはずだ」

 

 青年はかつての想い人の顔を思い浮かべ、微笑む。

 

「待っていてくれ…… 必ず君の首を、もう一度切り落とそう──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 14歳の時に国王ルイ16世との政略結婚の末、王妃となりベルサイユでの華やかな生活をおくるも陰謀渦巻く中を孤独に戦い続けることとなる。

 だがそれでも彼女は悲観せず絶望せず、政略結婚ではあったが夫と仲睦まじく過ごし、民にもよく尽くしてきた。

 しかし彼女の功績など熱狂に浮かされた民衆には届かず。

 拡大する憎悪。王政への不満。革命を掲げる民衆の手によりマリーを処刑台へと導いた。

 家族も死に、全てを奪われた彼女の首に向けた民が向けたものは、希望と快哉であったという──

 

 

 

 

 

「──というのがマリアの生涯だ」

 

 アマデウスの口からマリーアントワネットの生涯が語られた。

 ジャンヌたちと別れてから数日。

 目的地であるティエールの街に近づきつつあった。

 

「悲劇ですわね。その場に私がいたら民衆を焼いて助けてさしあげたのに」

「友情には感謝するが色々台無しだ」

 

 物騒なことを呟く清姫を見て、これは本気だとアマデウスは苦笑いを浮かべた。

 

『史実通りの生涯ね。どれだけ民衆に尽くしても最後はその民衆に全てを終わりにされる。…… そんなことがあって、どうしてこのフランスの為に戦えるってのよ』

 

 管制室から話を聞いていたオルガマリーがボソリと言った。その言葉に少しだけ刺が感じられた。

 その刺はマリーではなく民衆に向けられたもの。

 オルガマリーもまた人類の為、カルデア存続の為にと尽くしてきたのに周囲から認められることはなかった。

 だからこそ苛立ち、つい声に出してしまった。

 

「負けず嫌いってやつかねぇ。俺の世界でもそんな奴ばっかだったよ」

「はは。負けず嫌いか。成る程、そういった解釈もあるのだろう。でも彼女は…… どうなのだろうね。僕には、わからないな」

 

 銀時の言葉にアマデウスは軽く笑う。

 でもどこかその表情は儚く寂しそうで。少なくともマシュにはそう見えた。

 

 

 

 

 

 

 

「もーう、つーかーれーたー!」

 

 一方、ジャンヌのチーム。

 しばらく歩き通しだったエリザベートは不満を爆発させ騒いでいた。

 マリーは宥めようとするが、小さい子供のようにエリザベートは地団駄を踏む。

 

「サーヴァントに疲れるとかないでしょう? もう少し頑張りましょう」

「だーってぇ!!! 景色も変わらないし、何にもないし、つまんないのよ!」

「すまない。せめて俺が何か面白い話でも出来れば良かったのだが…… くっ!」

「いや、誰もジークフリートに、そんなこと求めてないから大丈夫よ」

 

 真面目すぎる男、ジークフリートにマリーは珍しくツッコム。

 

「やはり酒場の親父が勧めてくれた、『これで君もモテ男!? レッツナンパ講習会!』に参加すれば良かった! 俺に金があれば」  

「ジークフリート。多分、それ参加しなくて良かったと思うわ」

 

 ボケるジークフリート。

 しかしそれが面白い訳でもなく、エリザベートは益々駄々をこねる。

 

「あーもう、つまんないつまんない、つまんなーい!!」

「もう。エリーったら。どうしましょうジャンヌ── ?」

 

 マリーはジャンヌに声をかけたが反応がない。

 再度名前を呼ぶと、慌てて返事をする。

 

「あ、すみません! 考え事をしていて……」

「考え事って竜の魔女のこと?」

「はい。本当に…… 何一つ身に覚えがないのです。彼女の言葉も…… 彼女の憎悪も…… 私には何一つとして…」

 

 ジャンヌの言葉を聞き、マリーはしばらくするとクスっと笑った。

「──うん、やっぱりジャンヌは綺麗よね。すごく、すごく、すごく──美しいわ」 

「か、からかわないでください」

 

 こっちは真面目な話をしているのに何を言うんだとジャンヌは戸惑い顔を赤らめる。

 

「いいえ、真実よ。だってもし、わたしがジャンヌの立場だったら竜の魔女の話を受け入れているもの」

「………… マリー……?」

 

 当然と。当たり前のようにマリーは話す。

 純粋で花のようにきらびやかなマリーが竜の魔女であることを受け入れる? ジャンヌからしてみれば信じられないことだった。

 

「わたしはわたしを処刑した民を憎んでいません。それは9割の確証を持って言えます。けれど、もしかするとほんの少しかもしれないけど…… わたしの子供、シャルルを殺した人達を少しだけ憎んでいる」

「……!」

「だからもし、わたしの姿で竜の魔女が現れて、フランスを滅ぼすと言われれば、そう納得できる気がします。…… でも貴女は違う。そうでしょ、ジャンヌ? 貴女は人間を、フランスを心から愛している」

「ええ、大好きです」 

 

 即答だった。自身のその思いに疑う余地もなく、それは当たり前のことで。

 だからこそ迷いなどなくジャンヌは答えることができた。

 

「好きだから恨めるはずもなかった…… あれ? でもそうなると……」

 

 改めて口にした自身の思い。それをきっかけにジャンヌは違和感に気づいた。

 これはどういうことかと、考えていると先を歩いていたエリザベートとジークフリートからの催促の声が上がった。

 

「ちょっとー! 二人とも早くしなさいよ。街よ、街! やっと見えたわ!」

「恐らく、あの街はモンリュソンだろう」

「あ、今行きます!」

 

 ジャンヌ達は目的地であるモンリュソンの街へと足を運ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャンヌ達がモンリュソンについてから数時間後。

 別の街へと向かっていた銀時たちへジャンヌからの通信が入った。

 それは探していた聖人を見つけたという吉報だった。

 

「先輩、ジャンヌさんからの連絡です。聖人が見つかったそうです! これでジークフリートさんの傷が直せるそうです」

「とりあえず首の皮一枚繋がったわけか。んでその聖人ってのはどんな奴なんだ?」

 

 これから仲間になるであろう聖人について知っておく必要はある。

 銀時はマシュに頼み通信に映像をつけてもらった。

 

『初めまして異世界のマスター。ライダー、真名をゲオルギウスといいます』

 

 映像に映っていたのは鎧を身に纏った長髪の騎士だった。

 しかしその鎧には至る所に傷があった。

 

「おいおい。そのケガ、どうしちまったんだ?」

『まさか既に敵サーヴァントの襲撃を!?』

 

 既に敵の攻撃を受けていたのかとオルガマリーが血相を変えて叫ぶ。

 

『はい、実はそうでして…… くっ、私としたことが……』

 

 苦痛に顔を歪めるゲオルギウスの脳裏に強敵の姿が思い浮かぶ。

 

『ゲオルギウス~。家賃返セヨコノヤロ~』

 

 黒いシルクハットに下半身ブリーフのおっさんがバズーカーをゲオルギウスへとつきつけていた。

 おっさんの後ろにはやはり戦闘員っぽい男たちが構えていた。

 

『だから誰なのよ、コレェェ!! 店長よね! これジークフリートの時のTSU◯AYAの店長よね!』

『モンリュソンでの居候先の大家です。家賃滞納していたらしばかれました。くっ! 私の鎧がもうちょい軽ければ…… もっと早く走れたのに!』

『鎧関係ねーわよ! つーかお前、逃げようとしてただろ! こいつのどこが聖人!? ジークフリートといい、なんでどいつもこいつも別件で傷負ってんのよ!』

「落ち着きなよ、所長。ツッコミたい気持ちもわかるが…… 静かに。嫌な音がする」

 

 アマデウスが人差し指を口に当て身を屈めるように促す。

 できるだけ魔力反応も抑え、慌てて銀時たちは近くの茂みに身を隠した。

 一体何がと、アマデウスと共に空を見上げると、ワイバーンを引き連れたファヴニールが滑空する姿が視界に入った。

 ファヴニールはこちらには気づかず、そのまま何処かへと消えていった。

 

「行ったか…… また、どこぞの街でも焼いた帰りだろう」

 

 やり過ごし、ほっとしたのも束の間。ロマンからの通信が入った。

 

『ちょっと待った! こちらで進行ルートを割り出したんだが…… 邪竜が向かっている先はモンリュソン……! ジャンヌ達のいる街だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モンリュソンにファヴニール向かっている。

 その知らせを受けたジャンヌ達は住民達に避難の知らせを行おうと動きだしていた。

 

「皆さん! この街にドラゴンの群れが向かってきています! 避難の準備をしてください!」

 

 竜の魔女と同じ顔であるジャンヌはフードで顔を深く隠し、住民達に呼び掛けている。

 しかし余所者であり素性の知れないジャンヌの言葉に住民の多くが怪訝な顔で戸惑うばかりで中々逃げようとする者はいなかった。

 

「やはり私の呼びかけでは…… エリザベート! そちらの方はどうですか」

 

 ジャンヌは同じく避難を呼び掛けていたエリザベートへと顔を向けた。

 そこにはモンリュソンの子供たちを集めマイクを持って話をするエリザベートの姿があった。

 

「夜にねぇ、街を歩いていたのよ〜。そしたら、不気味な気配を感じて後ろを見てみたわ。そこには長い黒い髪の女がヒタヒタと足音をたててついてくる女がいたのよ~。よく見るとその女の体は水でぐっしょり濡れてて〜」

「あのエリザベート、何してるんです?」

「おかしいなー、おかしいなーっ、なんだろうなー」

「聞いてますか?」

「すると、女はしばらく黙ったかと思うと…… それはお前だあァァァ!! と! これがモンリュソンに伝わる幽霊伝説よ。この街にいたら呪われるわよおォォォ!!」

 

 

「「「ギャアアアアアアアア!!! 避難しろおォォォ!!」」」

 

 エリザベートの話のオチを聞いて子供たちはホラー漫画ばりの形相で街中へと散っていった。

 

「いや、どんな避難のさせかたしているですか、貴女はあァァァ!!」

「ふちぃ!?」

 

 ジャンヌの旗を使ったツッコミにエリザベートが顔面から吹っ飛ぶ。

 

「いたい!  今の顔取れた! 絶対とれたわよ!」

「私はドラゴンの襲撃から住民達が避難できるように呼び掛けてほしいと言ったんです! なのに何怪談トークショーしてるんですか!」

「今時の子供は恐怖とかに対して疎いのよ。だったらドラゴンよりもまだ身近に感じる幽霊とかの話の方が通じやすいし、怖さも身に染みるわ」

「今時って、ここ1431年のフランスですよ!? というか恐怖植え付けてどーするんですか!」

「恐怖植え付けた方が逃げるわよ! 実際に子供も慌てて行っちゃったじゃない!」

 

 まあ確かにエリザベートの言う通り、少なくとも子供は避難しなければと駆けていった。

 意外と悪くない方法なのかもしれない。

 

「急げえェェ!! 家の中に入れェェ! 外に出たら呪われるぞ!」

「余計街に引きこもってるじゃないですかあァァァ!!」

 

 避難させるどころか街の子供達は次々に家の中へと入り、厳重に鍵を閉めてとじ込もってしまった。

 これは流石に失敗したとエリザベートは気まずそうに目を背ける。

 

「エリザベート。今はふざけている場合ではない。急いで街の人々を避難させなければ」

「ジ、ジークフリート…… ん?」

 

 エリザベートを窘めるジークフリート。

 そのジークフリートの懐からマイクが転げ落ちるのをジャンヌは見逃さなかった。

 

「あの、貴方もやろうとしてましたよね! 完全にトークショーする気でしたよね!」 

「すまない。エリザベートの時のことを汚名返上をしたくて……」

「貴方、また引きずっていたのですか!? 大丈夫ですって! 誰も貴方にトーク力を期待していませんって!」

 

 ジャンヌがツッコミ続けていると、ゲオルギウスとマリーが慌てた様子で駆けてきた。

 

「まずいわ、ジャンヌ!」

「騒ぎを聞き付けたフランス軍の兵士がこっちに来ます。どうやらモンリュソンの街に来ていたようで……」

「フランス軍が…… !?」

 

 フランス軍となると流石にまずい。フードで顔を隠したジャンヌは間違いなく怪しまれるだろうし、下手をすれば顔を見られかねない。

 そうなれば不要な戦闘が起こる可能性もある。

 

「おい、そこのお前たち!」

 

 急いでこの場を離れなければとジャンヌは動こうとするが、遅かった。

 フランス軍の兵士が二人、こちらに向かって来た。

 

「こ、これはフランス軍の皆様。一体我らにどのようなご用事でしょうか?」

 

 さりげなくジャンヌを背後にやり、ゲオルギウスが受け答えた。

 

「ドラゴンの群れが街に向かっていると住民に呼び掛ける怪しい連中がいると聞いて来てな。お前たちのことじゃないのか?」

「別に怪しくなんてないわよ! 私たちはこの街のブタ共を助けるために避難しろって言ってるだけだし」

 

 兵士の物言いにエリザベートはムッとし反論する。

 

「どっからどう見ても怪しいわァァ! 住民相手に怪談話してるような角の生えた奴にごつい鎧を着た奴! 怪しくなかったら逆に怖いわ!」

 

 兵士の意見は最もだった。流石にエリザベートも確かにと絶句する。

 するともう一人の兵士が続けて言った。

 

「竜の魔女の配下にはドラゴンの他に人の姿をした化け物がいるという。奇抜な格好をしている者もいたという話も聞くし…… それがお前らなんじゃないのか」

「それは違います。我々は竜の魔女の仲間ではありません」

「…… さて、どうかな? 我々をはめようとしているのではないか? それに貴様の後ろにいる女。フードで顔を隠しているようだが、怪しいな。ちょっと顔を見せてみろ」

「そ、それは……」

 

 まずい。ここはこの場から逃げるしかないかとジャンヌが思った時だった。

 

「待て、お前たち」

「ジル・ド・レェ元帥!」

 

 現れたのは白銀の鎧を纏った騎士だった。ジル・ド・レェと呼ばれた男は軍の元帥らしく、兵士たちは緊張した様子を見せる。

 

「話は聞いていた。今はその者達の言葉を信じることにしよう。直ちに市長に避難の要請をし、住民達に呼び掛けを」  

「し、しかし!」

「お前達が疑うのも無理はない。だがドン・レミ村にいた兵士からの情報にあったフランス軍とは別の民を守る戦士の姿とフードの方の特徴が一致している。その、手に持っている旗でドラゴンと戦っていたらしい」

 

 エリザベートにツッコミを入れた際に思わず出していた旗を、しまい忘れたことに気づき慌てて背中の方に隠した。既に遅いが。

 

「な、なんと…… これは失礼しました。直ぐに避難の要請を行います!」 

 

 兵士二人は急いでその場を離れる。

 これで無事に避難できるとジャンヌ達がほっとしていると残っていたジル・ド・レェがゲオルギウスの後ろに隠れるジャンヌへと声をかける。

 

「失礼とは重々承知しております。もしよろしければ…… お顔を見せてはいただけないだろうか。貴方は私の知っている方ではないのですか?」

「申し訳ありません。それはできないのです……」

「そう、ですか。わかりました。謝ることはありません。貴女にも考えがあってのことなのでしょう。…… ただ一つだけ聞いてほしいことがあります」 

「なんでしょう?」

「竜の魔女を兵も民もジャンヌダルクによる復讐だと言っています。確かに竜の魔女の姿はジャンヌダルクそのもの。だがそれでも私は信じている。いや知っている」

 

 ジャンヌは何も言わない。

 それでも彼は続ける。

 

「……」

「聖女ジャンヌは我らの味方であることを。それでは、私も行きます」

 

 ジル・ド・レェもそのままその場から離れて行った。

 

「よろしかったのですか。きっと彼は……」

「いいんです。ここで私が顔を明かせば彼に迷惑がかかってしまいますから…… それよりも私たちも動きましょう。避難をするにしても時間を稼ぐ必要がある。そして時間を稼ぐには私たちは戦わなければいけない」

「ああ。ジャンヌの言う通りだ。だがすまない事に今の俺では邪竜には勝てない。ゲオルギウスを見つけることはできたが呪いを解くには時間がかかるし、今やっていては間に合わない。時間を稼げても我々は全滅するだろう。」

 

 ジークフリートが申し訳ないと顔をうつむかせる。

 ここで彼らは選択する必要がある。残って戦い全滅するか、避難民が逃げきれることを信じて撤退するか。

 

「だったら──」    

 

 誰もが黙ってしまう中で、一人だけ手を上げて言う者が。

 

「誰かが一人だけ、残って時間を稼げばいい。そしてその役目は私が適役よ」

「な──!? なにを、貴女はなにを言っているのですが、マリー!」

 

 発言したのはマリーだった。

 信じられないとジャンヌは詰め寄るが、マリーは当然とばかりに答える。

 

「全滅してしまうよりかは絶対にいいはずよ。ジャンヌもゲオルギウスも呪いを解くには必要。ジークフリートも敵を倒すには必要だし。エリザベートだっていなくなったら清姫が悲しむし、だったら私が残ればいいのよ」  

「はあ!? 何言ってんのよ! その理屈で言ったら、マリーだって死んだら皆悲しむわよ! 残るんだったら私が残るわよ!」

 

 エリザベートが怒鳴るがそれでもマリーは首を横にふる。

 

「安心して、エリザベート。私、死ぬつもりなんてないわ。勿論、生き残って戻ってみせるから。それに私の宝具ってこういう時間稼ぎとか守るのには適してるし」 

「だとしても!」

 

 認められるわけがない。ジャンヌが叫ほうとするとマリーは人差し指をジャンヌの唇に当てた。

 

「ジャンヌ。私ね、嬉しかったのよ。貴女と友達になれて。貴女と出会えて。だから、そんな顔しないで。こらえて私を見送って。それが女友達の心意気でしょう?」

 

 マリーはジャンヌを優しく抱き締める。

 

「…………っ。待っています。必ず、待っていますから」

「ええ。すぐ追いつくわ」

「アタシも待ってるから。友達でしょう。アタシだって」

 

 エリザベートも、もう残るなとは言わなかった。

 友達だから。友達だからこそ彼女の意思を汲んだ。 

 マリーはニッコリと笑って、

 

「もちろんよ、エリザベート。あなた達と旅が出来て本当によかった」

 

 

 マリーは背を一人、向かっていく。

 大切なものを守るために。

 

 

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