Fate/Silver Order -選ばれし48人目のマスターは銀髪侍-   作:天パ男

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ヴィヴ・ラ・フランス

 モンリュソンの街を背後に一人の少女、マリー・アントワネットが立つ。

 周りに味方はいない。だが街には邪竜を筆頭にした多数のワイバーンが向かってきている。

 

「わかってはいたけど、凄い数ね。それに…… まさか貴方まで召喚されているなんて」

 

 マリーは目の前に立つ男を見て冷や汗を流す。

 

「会いたかったよ。白雪の如き白いうなじの君──」

「私は出来れば別な形で再会したかったわ。サンソン」

 

 黒の外套を纏った白髪の青年、サンソンと呼ばれた男はマリーのよく知る人物だった。 

 処刑人として多くの罪人の首を斬ってきた男。それが彼だった。

 

「たとえ君が望まぬ形と言えども僕にとっては素晴らしい再会だよ。民を守るために命をとして残る君を、あの死を経験しても尚、信念の変わらぬ君を再び処刑することが出来るのだから」

「ごめんなさい、サンソン。貴方が素晴らしい処刑人なのは私もよく知っているわ。だけれど、私は死ぬつもりはない。だってジャンヌとお友だちとそう約束したのだから」

「そうか。やはり強いな、君は。だけど残念だ、君が僕に処刑される未来は変わらない。それが運命だからだ。君の首を斬り落とす資格を持つのは僕だけなのだから──」

 

 ザンッッ!!

 

「うっ…… !」

 

 瞬時の一降り。サンソンの手に握られた大剣が横にふるわれ、マリーは咄嗟に後ろへと下がる。しかし完全にはかわしきれず、サンソンの剣が彼女の腹の肉を僅かではあるが奪い取って行った。

 苦痛に顔を歪ませるもマリーは更に後ろにさがりサンソンとの距離を離す。

 ライダークラスは馬や乗り物を呼び出し、その機動力をもって相手を圧倒する。

 一度距離をとれば勝つ目処はあるとマリーは思ったが、サンソンの動きはマリーの予想速度を越えていた。

 

「出来れば抵抗しないでほしいな! 痛さや苦しみを与えるのは本意じゃないんだ!」

 

「はやい!」

 

 サンソンはマリーが宝具を展開するよりも早く動き剣をふるう。

 何とか紙一重でよけ、追撃もガラスの盾を具現し防御するが、防戦一方で反撃する余地も逃げる暇もなかった。

 

「サーヴァントになれば身体能力は生前よりも上がる…… それにしたって考えられないスピードね、サンソンっ!」

 

「当然だよ。ここに喚ばれ、何人も殺した! 君の首を斬るために殺して殺して殺して! 生きていた頃よりも何倍も強くなったんだ!」

 

 更に考えてみればマリーは契約を交わしていない野良サーヴァント。それに対してサンソンは竜の魔女からのバックアップを全面的に受けた契約をしたサーヴァント。

 当然、一対一で勝てるわけがない。

 正に絶望的な状況。しかしそんな中でマリーの表情は絶望に歪むことなく、

 

「哀しいわね…… シャルル=アンリ=サンソン──」

 

 一人の処刑人を同情するように悲しく見つめていた。

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩…… ! マリーさんが!」

 

 乗っていた馬を止めて、銀時達もジャンヌからの通信を受けていた。

 マリーが一人残って戦っていることを知らされた。

 急いでモンリュソンの街に行き、加勢しなければとマシュが言おうとするが、マシュの考えを察したアマデウスがそれを否定した。

 

「マリアらしい決断だね。まあ、距離を考えれば到底間に合うとは思えないし、戻ることはない」

 

 マシュから知らせの内容を聞くとアマデウスが特に顔色を変えず軽く言う。

 そのあっけらかんとした言い草に清姫は目をギラリと光らせると、持っていた扇子をアマデウスの首へと向けた。

 

「危ないことするなぁ、ドラ娘。僕、味方だぜ?」

 

 扇子には小さく炎が灯っている。アマデウスの言葉次第で炎が強く燃え上がりそうだ。

 

「…… マリーのこと、好きではないのですか?」

 

「不躾な質問だ…… 彼女に対する情熱はもうないよ。僕もマリアも所詮は過去の存在。彼女を愛した日もあったが、他の女性を愛した時も僕には確かにあったんだ」

「……」

「清姫さん!」

 

 マシュが慌てて身を乗り出すが銀時がそれを静かに制する。

  

「先輩?」

 

 何故止めるのか。マシュの疑問に銀時は黙って見てなと目で伝える。

 

「彼女は少しだけこの戦いに感謝していんだ。自分が願いを叶える為ではなく人々の命を守るために喚ばれたことを。だからこそ、今度こそ間違えず大切な人々と大切な国を守るために正しいことを正しく行うのだと…… マリアは誓ったんだ」

「だから仕方がないと?」

「ああ。仕方がないさ。マリアはああ見えて頑固な者でね。僕が止めたって聞きやしない。だったら、認めるしかないだろ? 彼女の意思を、覚悟を。その背中を押してやらなきゃさ。第一…… 今更戻ったって間に合わない」

「ええ。そうですわね…… それは私もわかってはいます。それでも……」

 

 それ以上は口にしなかった。清姫は首を横にふり扇子を閉じる。

 例え恋の感情がなかったとしてもアマデウスにとってマリーは特別な存在だ。恋でなくとも愛はあるはずだ。ならば例え無駄だったとしても諦めずにひた走ろうとする。それが有るべき形ではないだろうか。

 清姫はそう思わずにはいられなかった。

 

「おい、音楽家に蛇女。難しい話は終わったのか?」

「ああ。すまないね。なんだか重たい空気になってしまった」

「別に構いやしねえよ。それよりかだ。アマデウス。一応俺ってマスターなんだな?」

「ん? まあ契約はしてないけど、そうだね」

「ってことは俺の指示は絶対だよな」

「…… まあ、大体は、そうだね」

 

 何故か念押しするように銀時は続けた。

 

「だったら指示させてもらうぜ。さっさとジャンヌたちの所に行くぞ」

「は? 君、聞いてたかい? どう考えても間に合わない」

「だろうな。けどなぁ、俺ってやつは負けず嫌いな人間なんでね。生憎はいそうですかっとさっさと諦める気にはなれねぇ。それに竜の魔女の野郎の思い通りに事が進むのも気に食わねぇし」

「…… はっ、ははは! 君もマリアと同じく負けず嫌いか。そうかそうか。まあマスターの命令なら仕方ない。うん。わかったよ、急いで街に行こう」

 

 しばらくポカーンと口を開けていたアマデウスは大きく笑った。

 

「つーわけだ。マシュ、お前先にアマデウスと先頭を走ってくれ。俺は後ろからついて行くから。街の方向わかんねーし」

「は、はい! 行きましょう、アマデウスさん」

 

 マシュとアマデウスが先頭をきって走って行く。

 その様子を見て清姫はポツリと呟く。

 

「なぜ、嘘をつくのでしょうね」

「あん?」

「アマデウスは嘘をつきました。本当はマリーの元へと行きたい気持ちを誤魔化して戻る必要はないと。間に合わないのは確かにそうですが、それでも己の思いに従い、真っ先に向かうべきと私は思います」 

「ま、お前の言いたいこともわかるけどよぉ…… 男ってのは面倒くせぇ生き物なんだわ。無駄に格好つけて、テメェに嘘ついて、テメェ一人で抱え込もうとするのが男ってもんなのさ」

 

 それは銀時自身にも言えること。

 彼はそれを自覚しているし、だからこそアマデウスの不器用さも理解する。

 

「随分と生きづらいものですね……」

「そうかもしれねえな。でも、お前なら嘘を直ぐに見破れるんだろ? だったらよぉ、燃やすまではいかなくても、野郎のケツひっぱたくことくらいはしてやってくんねーか? テメェが、理想のマスターとやらに会ったとき。そいつが同じように格好つけた時はよ」

「……ええ、善処させていただきます。ただ嘘は嫌いなので、少しは燃やすと思いますが……」

 

 二人は馬を走らせ、アマデウスへと続く。

 その時、清姫が銀時に向ける目は、ほんの僅かではあるが熱いのモノへと変わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぜ、何故殺せないんだ! あんなに、あんなに多くの人間を殺したというのに!」

 

 実力は間違いなくサンソンの方が上の筈。なのに未だに殺すことのできないマリーに彼は苛立ちよりも疑問を持った。

 

「決まっているじゃない。だからよ。だから貴方は私を殺せない」

「何を言って…… ?」

「あなたは素晴らしい処刑人だった。罪人を決して蔑まず、彼らが苦しまぬようギロチンだって開発した。でも…… 今のあなたは違う」

「…… っ!」

「このフランスで多くの人を殺し、殺人者となった。処刑人と殺人者は違うでしょう? サンソン。だから私を殺せないのは当然なの。だって本当に──」

 

 マリーのその声は本当に哀しそうで。その瞳は同情するようにサンソンを見つめている。

 

「ああ、やめてくれ。それ以上は言わないでくれ」

 

 マリーの思いを察したサンソンは首をふり、顔を伏せ懇願する。

 それでもマリーは言った。

 

処刑人(あなた)の刃は錆び付いてしまったのだもの」

「違う!!!」

 

 マリーの容赦のない言葉はサンソンの魂を揺らすには充分なもの

だった。

 頭をかきむしり、大剣を意味もなくふり始めた。 

流れ出る涙と共に大量の魔力が放出され、サンソンの背後に形となって現れる。

 

「宝具展開『死は明日への希望なり(ラ モール エスポワール)』」

 

 それは巨大な処刑器具『ギロチン』

 人を一切苦しませずに考案された最も人道的な処刑器具。

 ギロチンから無数の黒い腕が飛び出し、マリーへと一直線に向かってきた。

 ガラスの馬を具現し、紙一重で避ける。腕は地面に激突するが特にダメージを負った様子もなく執拗にマリーを追いかけていく。

 恐らく、あの腕に掴まれギロチンへと引きずり込まれるのだろう。

 そして引きずり込まれた者は勿論──   

 

「…… っ!!」

 

 引きずり込まれた己の最後を想像したマリーは僅に体を震わせた。

 

「怖いわね。二度目だって言うのに…… でもあの時とは違う。私はまだ必要とされている。私には仲間が、友達がいる」

 

 己がここで戦うことによって救われる者たちがいる。

 フランスの民が。この時代で再開した者が。出会った者たちが。 

 輝きはまだここにあるのだ。

 

「さんざめく花のように。陽のように。『宝具百合の王冠に栄光あれ(ギロチンブレイカー)』!!!」

 

 マリーが股がるガラスの馬は輝く光の粒子を撒き、空中を駆け抜けていく。

 その輝く光は襲いかかる黒い腕を粉々に打ち砕き、

 

「っ!?」

 

 サンソンの右半身を大きく削り取った。

    

「僕は…… もっと巧く首をはねて、もっともっと最高の瞬間を与えられたなら、君に許してもらえると…… 思ったんだ」

「もう。本当に哀れで、でも可愛い人ね。私はあなたを恨んでいない」

 

 その言葉には嘘偽りなどない。かつて己の首をはねた男にマリーは心から思いを告げた。

 

「はじめからあなたは、私に許される必要なんてなかったのに」

「……っ! ああっ…… マリー、僕、は!」

「令呪を持って命ずる。アサシンよ。我が城へ戻れ」

 

 サンソンの言葉は最後まで聞くことはでぎず、彼の体は一瞬でその場から消えた。

 その代わりにと現れたのは全ての元凶。

 

「随分と遅い到着でしたのね。竜の魔女さん。それにしても令呪によるサーヴァントへの絶対命令行使権はそんな風に使えるのね。瞬間移動なんて驚きだわ」

「こんなもの基本です。あなた方の所の子鼠も一応令呪は持っているでしょうに。そんなことも聞かされていないの?」

「多分だけど…… マスターは令呪の使い方どころか、どんなものかもよくわかっていないと思うわ」

「………… はあ? 何ですかそれ、呆れた。それで人類最後のマスターとは笑わせてくれれるわ」 

「ええ。笑わせてくれるわ。誰も笑顔にさせることができない貴女(マスター)とは違う。誰もがついていきたくなるようなマスターよ」

 

 マリーの思いがけない強気な返しに竜の魔女は一瞬、キョトンとした顔で固まる。

 しばらくすると鼻で笑い、邪悪な眼をマリーに向けた。

 

「はっ。王宮でのほほんと暮らしていた小娘が言ってくれるではありませんか。いいでしょう。だったら徹底的に潰してあげます。皮を剥ぎ取り、肉を焼き、笑顔などない絶望の最中で奴を殺してあげる。勿論、無様に逃げた彼女(・・)もね」

「あら、あのマスターはそう簡単には殺せないわ。それに逃げたなんて聞き捨てならない。ジャンヌは、私の友達は希望を持って行ったのよ」

「馬鹿馬鹿しい。仲間を信じ、守り、そして民を守ると? よくそんなことが言える。他ならぬその民に殺された貴女が!! 断頭台に掛けられ嘲笑と共に首をはねられた貴女が!!!」

「ええ……」

 

 マリーは目を閉じ額から流れる汗を拭い取る。

 荒い呼吸と共に心を落ち着かせ、ようやく真実に気づいた。

 ああ、やっぱりそうなんだ、と。

 

「ジャンヌ・ダルクはそんなこと言わないわ」

「は────」

「確かに私は処刑された。でもだからと言って殺し返す理由にはなりません。私は民に乞われて王妃になった。民なくして王妃にはなれない。だからあれは当然の帰結だった」

 

 竜の魔女にとって語られる全ての言葉は到底信じられないことが、マリーには当たり前のことだった。

 

「彼らが望まないなら望まなくても退場する。それが国に仕える人間の運命。私の処刑は次の笑顔に繋がったと信じている。そう…… いつだってフランス万歳(ヴィヴ・ラ・フランス)! 星は輝きを与えてそれでよしとすればいい」

  

 

「なにを、お前はなにを言って」

「そして確信できたわ。竜の魔女。本当の貴女は一体何者なの?」

「黙れぇっ!!」

 

 その言葉が竜の魔女の逆鱗に触れる。

 いち早く魔女の怒りを察し、ファヴニールが竜の魔女の背後へと降り立り流れる魔力と共に咆哮を上げた。

 

「第2宝具展開!! 愛すべき輝きは永遠に(クリスタル・パレス)── !!」

 

 マリーの背後に現れたのは巨大なガラスの宮殿。

 歴代フランス王家の権勢を示す優美を誇る宮殿は全ての攻撃を封じる絶対防御壁。

 その結界の力が街全てを覆っていく。

 

「馬鹿な! 魔力供給もなしで宝具の連続使用。それにここまで巨大な力を使えばどうかるか、わかった上で…… !! そこまでして貴様はぁっ!!」

「さよならジャンヌ。さよなら皆。ええ会えてよかった。みんな大好きよーーー!!!」

 

 ファヴニールから、ワイバーンからブレスの雨が降り注ぐ。

 ブレスがマリーに当たることはない。そうなる前に彼女の霊核は破損し、ガラスのように散っていく。

 最後まで決して崩れぬ笑顔と共に──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガラスの城は完全に砕かれた。街は崩壊し、残された命は魔女とその配下の竜のみ

 だが瓦礫の下に流れた血はなく。零れ落ちた涙すらない。

 

『全ての住民の避難…… 無事に完了できたのね。所長として言わせてもらうわ。──お疲れ様』

  

 そして失われた命もなく。

 遠くの先で自分達の街が滅び、立つ煙を見つめるも街の人々は不思議と絶望に染まってはいない。

 生きている限り、希望はある。この事態を救った英雄たちを住民の一人が見つめる。

 管制室からオルガマリーが所長として、英雄たちを労っていた。

 

「お礼なら、マリーに、(アタシ)たちの友達に言って」 

『ええ、そうね』

 

 エリザベードが疲れたと地面に尻をつく。 

 すると清姫がその隣に黙って座った。何も言わなかった。ただ今は隣にいてあげた。 

 ジャンヌもまたなんとアマデウスに、なんと声をかければいいのかわからず黙ってしまっていた。

 しばらく一人佇んでいたアマデウスは、一輪の花を摘みとる。

 

「覚悟はしていたよ」

「え……」

「いやね。ここに来る前のことなんだけど、どうせ間に合わないとか言ってさ。まあそのせいで清姫に燃やされかけたけど」

 

 口調は軽かった。でも表情は見せようとはせず、顔を背けていた。

 

「マスターに助け船を出されてなんとかなったよ。いやー参った参った。ほら僕はドライだからさ。仕方がないと思えるけど清姫は夢見がちだから諦めがつかなかったみたいで」

「……」

「うん。だからさ、仕方がないんだよ。マリアは己の覚悟に従ったんだ。それを止める権利は僕にはない。…… まあ残念なことが一つだけ。ピアノ、聴かせられなかったな」 

「アマデウス……」

「マリア。君が7才。僕が6歳。あの頃からずっとすれ違ってばかりだ──」

 

 風が吹いた。アマデウスが投げた花がふわりと浮かび、飛んでいった。

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