Fate/Silver Order -選ばれし48人目のマスターは銀髪侍- 作:天パ男
オレルアン郊外。
マリーがいなくなってから数日が過ぎた。
その間、ジークフリートの呪いは完全に解除された。その後、ゲオルギウスは避難民を安全な場所まで護衛するため一旦別れることとなる。
銀時たちは敵の本拠地となったオルレアンまで近づき、万全の態勢を整える為に体を休ませていた。
それぞれが。それぞれの想いを胸に抱いて──
「おいおい…… ハンガーハンガーが週刊連載を終了させる、だと………… いったいジャンプはどうなるってんだ」
「子イヌ。話いいかしら」
「…… え? 子イヌって俺…… なにその呼び方? そういうプレイか? 俺Sなんだけど」
焚き火を前にし、ジャンプを読んでいた銀時。
突然子イヌ呼ばわりされたことに驚き、思わずジャンプを閉じる。
「マシュにアマデウスは? 水汲みにでもいったのかしら? ま、いいわ。元々子イヌだけに話そうと思ってたし」
「おい、人の話を聞けよ」
ジャンヌは明日の決戦に備え、心を落ち着かせる為に一人でいる。
ジークフリートは周囲に敵がいないか自主敵に見回り。
清姫は少し離れた向こうで、夕食に使った食器類の片付けをしている。(マシュも手伝おうとしたら一人でやると断られた)
アマデウスとマシュは知らない間に何処かへと行っていた。
「明日の決戦。多分── いや間違いなくいるでしょうけど、私の相手は私にさせてほしいの。私一人で」
「お前……… 何言ってんの? ドラゴンボールの読みすぎか?」
「カーミラのことよ! 前に言ったでしょ! あいつと私は同一人物。ていうか私の未来の姿なのよ」
「わーってるよ。冗談だってーの…… 本気か?」
「ええ……」
少しボケたが、直ぐに真面目な顔で銀時は聞く。
エリザベートはそれに対し、静かに頷いた。
「そうかよ。だったら止めはしねー」
「意外ね。もっと反対するもんだと思ってた」
「じゃあお前、俺が止めろって言ったら止めるか」
「無理」
「だろーな」
銀時は、はっと小さく笑った。
エリザベートもつられてクスッと笑う。
「………… でも本当にいいわけ?」
「あ?」
「何度も言うけど、アイツと私は同じ存在。しかもジャンヌと竜の魔女とはパターンが違う。私は過去の私からして、悪性のサーヴァントであり反英雄。つまり英雄に倒される存在。悪って奴よ。あんたもアイツ、カーミラの残虐性は目にしてるからわかるでしょ? 二人きりなんかにしたら、裏切るかも、とか思わないわけ?」
エリザベート・バートリー。または、カーミラ。
ハンガリーの名門貴族の子女であった彼女は生涯で600人以上の少女を拷問の末殺害したという。
その事実は吸血鬼伝説の一つとして昇華され、殺人者である彼女を英霊の座へと至らせた。
「………… んなこと言われても、よく知らねーし」
「え?」
「俺はお前のことなんてよく知らねぇし、わからねぇ。とんでもないことをやらかした英雄だとか話は聞いちゃいるが、それだけだ。少なくとも俺ははこのフランスでのお前の姿しか知らないんだよ、
「そ。やっぱアンタは……
「だーから、よく知らねーって言ってんだろ。お前のこと」
エリザベートは、アイドルを目指している。
英雄となり、恐らく何処かの世界で召喚された影響か、その時の記憶はないが、生前よりも残忍な一面は抑えられていた。
それこそがカーミラとの大きな違いだった。
だが、それでも歴史は消えない。
今を生きる人類にとって、エリザベートもカーミラも同じく、残忍な反英雄。
忌むべき悪でしかない。
だからこそ、対面時はロマニもオルガマリーも警戒をした。
それについ最近まで、カーミラの残忍性を見て、改めて危険なのではないかと思われていたことにもエリザベートは気づいていた。
エリザベートも少女だ。その反応に多少はムッとする。でも、仕方がないと理解する。
だが、銀時は違う。エリザベートと、狂化されているとはいえ、虐殺を繰り返すカーミラを同義にはしない。
エリザベートの犯した罪を。カーミラの結末を。
恐らく聞かされているだろうが、それでも変わらず、いつもの仏頂面で銀時はエリザベートに接してきた。
だからこそ彼女は、
「アンタを子イヌって呼ぶのよ……」
「んだよ。ちゃんと聞いてんじゃねーか。人の話」
「あったり前よ。ファンの声には耳を傾けるのがアイドルよ」
「いつ俺がファンになった。新八じゃねーんだぞ。ま、いいや。カーミラと戦うのは止めねぇ。たがよぉ、その代わり── 負けんじゃねーぞ」
「とーぜんよ!!」
銀時の言葉にエリザベートはニカっと笑う。
その笑顔は江戸一番のアイドルに、ひけを取らない程に輝いていて。
エリザベートと銀時の会話を陰で聞く者が一人。
「全く…… 嘘ばかりついて」
知らないし、わからない。
そんなのは嘘だ。銀時はエリザベートのことをよく理解している。
人として残酷で、わがままで、やかましくて。
だが、間違いなく、誰かを想いやることができる
それを銀時はわかっている。わかっている上で彼女を止めず、背中を押した。
「ああ、燃やしてしまいたい。でも、いいでしょう。だって男とは格好つける者なんでよね? ケツをひっぱたくのは、流石に下品なので、まわりくどくサポートはしますが」
銀時なりに不安だってあるだろう。できれば一緒に戦いたいのだろう。
でもあの男は格好つけたがりで、嘘つきのロクデナシだ。
全く、理想の
「何せ。私、良妻ですし」
良妻(自称)清姫はニッコリと微笑んだ。
川のほとり。
そこでマシュはアマデウスと二人で話をしていた。
「すみません。決戦前に、こんな話を……」
「いいさ。小さな話にしろ、大きな話にしろ、話せばスッキリするものだ。決戦前だからこそやり残したことはやりきった方がいい」
マシュは一人悩んでいた。
それにアマデウスは目ざとく気づき、ならばと相談に乗ることにした。
「私には皆さんの気持ちがわからない…… マリーさんが亡くなって、確かに私も悲しく思いました。でもあの時はどうしようもなかった。その中で皆さんは正しい選択をした。だからこそわからない」
アマデウスは黙って話を聞き続ける。
「皆さんが大きく後悔していることが。正しいのに悔やむなんて変です…… だけど皆さんは後悔を否定せずに受け入れていました」
ジャンヌもエリザベートも、清姫もマリーを失ったことに対し、悔やんでいるのはわかる。
助けたいと。共に生きたかったと、後悔していることも。
だが、ならば何故、それでもその後悔を受け入れ、胸に抱いたまま、前に進み続けることができるのだろうか。
マシュには理解できなかった。
それがマシュには理解できなかった。
「きっと先輩も…… 私はそんな風には教わりませんでした。なのにわたしは……」
「悔やんでいる、と?」
マシュの言いたいことをアマデウスは察し先に言う。
「っ!! どうして?」
「……… なんとなく君のことがわかってきたよ、マシュ。君はたぶん、自由を得たばかりの人間なんだね」
「…… っ! そうかもしれません。外のことを私は知らずに生きてきたので……」
マシュは自身の育ってきた、あの場所のことを思い浮かべる。
マシュにとっては当たり前の小さき世界のことを。
「だから戸惑っているんだろう。教わってきた価値から外れた感情を抱き、形成されていく自分の在り方に迷っている」
「…… そうかもしれません。でも私にはソレは要らないはずなんです。だって私にはそんな資格は…… 私は戦うために──」
「マシュ。例え君がそうだったとしても」
アマデウスはあえてマシュの言葉を遮り、
「何かを好きなる義務はある。自由はないかもしれない。でも義務はあるんだ。」
「権利や資格ではなく? 義務…… ?」
「責任とも言えるかな? 何を好きになり、何を嫌いになり、何を尊いと思い、何を邪悪と思うか。それは君が決めることだ。他人の言いなりでも周りに合わせることでもない」
人間とは多種多様。
それぞれの価値観。それぞれの想いを、それぞれの魂を信じ、世界を越えていく。
それはマシュも同じ。
「だからね、マシュ。君は選んでいかなきゃならないのさ。恐れても不安になってもいい。自分の意思で。そうして君は自分の証を残すんだ」
「わたしの証………」
「……… さて、もう相談もいいかな? そろそろみんなの所に戻ろう。でないとあることないこと噂されるかもしれないからね」
「ええ!? う、噂とは!」
「はっはっは。マシュ、君、結構人間らしいと思うよ、僕は」
それぞれの想いを胸に抱き、彼らは今───
「よーし、行くぞテメーら。死にたくなきゃあ、ぶさらげた金玉引き締めていけ」
「
「じゃ、棒の方で。なんかお前ら長い得物、使って戦ってんじゃん。似たようもんだろ、棒もチ○コも」
「一緒にすんじゃないわよ! 大体清姫とマシュは棒使ってないし!!」
『あんたたち! こんだけの大戦力を前にして、呑気か!? 状況をよく見なさいよ! 状況を!』
銀時を筆頭にマシュ、ジャンヌ、エリザベート、清姫、アマデウス、ジークフリート。
この特異点を修復する為、別の時代、別の世界から集まった英雄たち。
いつもの調子の銀時にツッコミエリザベート。そしてそれを見て更にツッコミ入れるオルガマリーと、一見楽しげな空気だと勘違いしそうにはなるが、現実は非情だ。
彼らが立つのは、敵の本拠地であるフランス・オルレアン。
オルレアンはかつてのような都市の面影はなく、今は焼けた大地が広がっている。
その大地の上を飛び交っているのは、オルレアン中で虐殺を繰り返してきたワイバーンの群れ。
まるで黒い波のように蠢く様子から、途方もない数のワイバーンが存在することが嫌でもわかった。
「流石に多すぎるんじゃないかい? それでいてファヴニールだとか敵のサーヴァントだとかもいるんだろ?」
これにはアマデウスもつい弱音が漏れた。
「弱音を言ってはいられません。私たちの手で必ず終わらせます。行きましょう、マスター…… 銀時!」
ジャンヌはもう一人の己と戦う覚悟を決め、声を上げる。
「ああ。ワイバーンだかシェンロンだか、ブルーアイズホワイトドラゴンだが、ブルーアイズアルティメットドラゴンだが、なんだか知らねーけどよ」
「あんた、ブルーアイズ言いたかっただけでしょ。無駄に長いし」
エリザベートの軽いツッコミは無視し、
「こっちもいい加減、トカゲ共の臭ぇ息にはうんざりしてた所でね。ケリの付け所って奴さ、竜の魔女」
銀時は、遥か先に聳え立つ城を睨み不敵に笑ってみせた。
そして、この戦いを終わらせるために、彼らは足を踏み出す。