Fate/Silver Order -選ばれし48人目のマスターは銀髪侍-   作:天パ男

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レクイエムを君に

 体が崩れていく。心が消えていく。

 そんな中で歪んだ声が聞こえてくる。

 

「ずいぶんとひどくやられましたな…… 左半身の多くが消失。狂化も解けてしまっている。あの小娘との戦闘が原因でしょうが…… まあ良いです。使い捨ての兵器に格下げとしましょう」

 

 歪んだ声は小さく笑う。

 

「安心なされよ、シャルル=アンリ・サンソン。不肖、このジル・ド・レ。貴方を最後まで我が聖女の為に使い潰してみせましょう」

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオ…… マ ア リィ…… マ リィ…… !!」

「おいおい未練がましいな…… 今は戦闘中だってのに。ま、人のことを言えた立場じゃないけど、さ!」

 

 ズバンッッ!!

 

 アマデウスの奏でた音がサンソンの肉体に衝撃を与えた。

 サンソンはたまらずたたらを踏む。

 

「痛いだろ? 音楽魔術も極めればそれなりだ。だからここは諦めて──」

「ア マ デェ ウ スゥウウウウ!!」

 

 

 ズン!!

 

「うぉっ!? どうなってるんだい、その腕は!?」

 

 サンソンの片腕が、大剣にかわり、アマデウスを襲った。

 すんでの所でかわし、剣は地面に直撃した。

 

「完全に精神が壊れたか…… !」

 

 アマデウスは指揮をふるい、音楽を奏でつづける。

 しかりサンソンはそれをものともしない。

 全てかわし、はじき、アマデウスへと迫っていく。

 

「くっ!」

 

 ガキンッ!!

 

「っ!!」

 

 攻めているように見えて実際は防戦一方。

 ならばとアマデウスは楽譜の付箋を具現し、サンソンへの拘束具として使った。

 

「僕はキャスターだぞ。なんてこんな白兵戦をしなきゃいけないんだ!! いや、まあ調子にのって煽ったのは僕なんだけど!! とにかく分が悪すぎるし、ここは退散──」

 

 ズバッ!!

 アマデウスの体から血が吹き出した。

 一瞬飛びかけた意識を保ち、アマデウスは見る。

 魔術の拘束ごと自身を斬ったサンソンの姿を。

 

「がっ……… !!! まずい…… 動け…… な……」

 

 サンソンの剣が、今度こそアマデウスの命を刈り取ろうと振るわれる。

 

 ──ああ、サーヴァントになってまで…… ろくでもない人生だ

 

 アマデウスは死に際に心中でボヤき、そして自業自得かと諦める。

 だって己は多くの人間を狂わせた。音楽の為に全てを犠牲にした。

 たった一人の初恋の死に際にも立ち会えなかった。

 再開しても、尚、彼女を守れなず、最期を見届けることもできなかった。

 これも罪の清算か。

 

「まあ、でも……… 悔いは残るかな…… マシュに先輩サーヴァントらしいところを見せたかったんだけど」

 

 脳裏にマシュの姿がよぎった。

 偉そうに相談事を引き受け、自身の言葉を生真面目に聞く彼女の姿が。

 

「教師役…… サリエリのようにはいかないなぁ……」

 

 目を閉じ、死を覚悟する。

 しかし

 

「………… ?」

 

 痛みも衝撃もない。

 何故と再び、目を開く。するとそこには

 

「ご無事ですか……… ? マシュ・キリエライト、応援に参りました………… !!」

「マシュ…… !? 君、どうして…… !!」

「貴方が……… 教えてくれたからです!」

「………… !」

「私は選びました。私が正しいと思ったことを── !!」

 

 

 時は少し遡り──

 清姫が別行動を取り始めた頃。

 オルガマリーは銀時たちに現在の戦況について話をしていた。

 

『エリザベートを含め、3騎はそれぞれ交戦中。ジャンヌとエリザベートに関しては心配いらないでしょうね。ただアマデウスは……』

 

 はっきり言って強いとは言えない。寧ろこの特異点においては最弱のサーヴァントだ。

 それは銀時たちもわかっている。だからこそ助けに行こうとしていたのだが。

 

『申し訳ないけど…… 助けに向かう余裕はないわ。竜の魔女が戦力補充としてサーヴァントを召喚しないとは限らないからよ』

「ああ。わーってるよ。モタモタしている余裕はねぇ」

 

 優先すべきは竜の魔女の討伐。

 それもまた、銀時は理解している。だからこそ、この非常とも言える判断を下すオルガマリーを銀時は責めない。

 しかし同意する彼の表情は何処か辛そうに見えて──

 

「マスター…… 少し…… いいでしょうか?」

「……… なんだ?」

 

 話に入ってきたのはマシュだった。

 緊張しているのか、マシュは体を小刻みに震わせ、たとだとしく言葉を続ける。

 

「あの…… その…… お願いが…… あります…… わた…… し…… 私が!」

 

 銀時は真っ直ぐか目でマシュを見つめる。

 マシュは自身の思いを吐き出す。

 

「救援に行っても! よろしい…… でしょうか…… ?」

「……」

「私はアマデウスさんが心配です……… それに…… 先輩に…… そんな顔をしてほしくないです……」

 

 銀時は目を逸らし、ボリボリと頭をかく。

 そして何処か気まずそうに、

 

「まいったもんだな、こりゃ…… 蛇女…… 清姫といい、俺ァ、どうやら、この世界でも、女に恵まれてるらしい。礼を言うぜ、マシュ。アマデウスのこと、よろしく頼むわ」

「………っ! は、はい! 行ってきます!!」

 

 マシュは走った。

 自分の選択を。自分の正しいと思った道を信じて。

 そして今──

 

 

 

 ドゴッッ!!

 

「グ、オオオォォ!!」

 

 マシュの盾に殴られ、サンソンはたまらずたたらを踏んだ。

 

「休んでいて下さい!! ここからは私が…… !!」

 

 マシュは盾をふるう。

 サンソンは最早反撃も逃亡の余地もなく、次々と攻撃を受けていった。

 

「…………っ!!」

「うわ、強っ! ………… いや、僕が弱すぎるだけか。あいつ、もう霊器、ボロボロだもんな……」

 

 最早サンソンの肉体は崩壊寸前。

 そんなの状態の彼にすら敗北しかけるとは、どれだけ自分は弱いんだと自嘲する。

 

「はぁ。そうか、そうだよな。そもそも戦闘事態が僕に不向きなんだ。僕のやるべきことは。やれることは最初から決まってたんだ…… ストップだ、マシュ。やっぱり、僕に任せてくれ」

「ですが、その状態では……」

 

 アマデウスはマシュの攻撃に待ったをかけた。

 マシュは手を止めるも、それは無謀ではないかと戸惑う。

 

「大丈夫。戦うつもりなんてないよ。ただ、終わりたい奴を終わらせてやるだけさ」

 

 アマデウスは武器はなくピアノを具現する。

 そしてサンソンに背を向け、ゆっくりと座った。

 

「アマデウスさん、何を…… ?」

「マシュ。僕はね、ろくでもない人生を送ってきた。だけど後悔はない。自分で選び続けてきた結果だからね」

 

 全て自分で選んできた道。

 自分がそうしたいと思ったから、ろくでもないと自覚するも後悔だけはしない。

 

「だから僕は、誇りを持って聴衆(きみたち)に送るのさ。僕が選んできた、この音楽を──」

 

 音が流れる。

 天才と呼ばれた音楽家の英雄の演奏。

 この曲にマシュは聞き覚えがあった。これは、

 

鎮魂歌(レクエイム)……」

 

 アマデウスが手掛けた代表作。

 それは魔力が込められていない、本当にただの音楽。

 だが、何故か魂に、彼らの霊器へと直接響いていく。

 

「……………」

 

 心地いい。壊れきったサンソンの精神が曲によって戻っていく。

 そして脳裏をよぎっていく。かつての記憶。

 革命の嵐の中で多くの人々を処刑した。無実の者もいた。王も、王妃もいた。

 だからこそ処刑人は祈り願ったのだ。

 鎮魂を。安寧を。その魂に安らぎを。

 でも足りるはずがない。そんなことで彼らの嘆きが報われるはずがない。

 だから僕は贖罪に、このフランスで彼女を──

 

 ああ。でもそれは大きな過ちだった。

 

「気づいていたんだ…… あの方に破れた時点で自分が歪み、また罪を重ねていたことなんて…… そこで終われればよかったものを、今の今までこんな様で…… それを君のレクエイムが解放してくれるなんてね……」

 

 曲はいつの間にか終わっていた。

 サンソンは己の思いを全て吐き出す。

 

「なんて皮肉だろう。君のレクエイムなんて大嫌いだったのに。だってそうだろう? 処刑人にとって死は尊いもの。君はそれを音楽という娯楽に落とした。だから本当に癪なのだけれど──」

 

 それは許されざること。

 アマデウスにたいし、怒りはある。

 けれども、

 

「終わらせてくれてありがとう……」

 

 アマデウスの音楽に、感謝を込めて。

 サンソンは笑みと共にこの世界から消滅した。

 

「…… バカな奴だよ、本当に。ありがとうなんて冗談じゃない…… でも、まあ…… いい聴きっぷりだったよ。嫌いとか言ってたけれど、実は好きだったんだろうぜ。僕のレクエイム」

「……… はい」

 

 アマデウスは呆れたように、でも何処か嬉しそうに言った。

 

「それにしても助かったよ。マシュは命の恩人だ」

「い、いえ。そんな…… それよりもアマデウスさん。動けますか? 良ければ私が抱えますが……」

「いや、いいよ。僕は少し休んでから合流しようと思うから。君は先に彼らの元へ戻ってやってくれ」

 

 マシュは少し心配に思ったが、ここは戦いの中心地から少し離れている。

 追撃の様子もなさそうだ。

 

「…… わかりました。では先に戻ります。アマデウスさん、貴方が無事でよかった」

 

 そう言い、マシュは何かを振り切ったような輝く笑顔をアマデウスへと向けた。

 そして銀時の元へと戻るべく走っていくマシュの背中を見て、アマデウスはクスリと笑う。

 

「こちらこそ。君は本当に魅力的な子だったよ」

 

 このフランスにマリアが召喚されていなければ、マシュにプロポーズしていたかもしれない。

 などとアマデウスは、ふと思ってしまう。

 

「多くのものを知り、多くのものを見て、多くのことを選ぶ。そうやって君の人生は充実していく…… その中で君は世界に自分がいた証を残し、証は巡り世界を成長させていくんだ」

 

 だからこそ自分の未来を恐れることなく、選び続けるべきだ。

 それこそがきっと──

 

「人間になるってことなんだからさ」

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

  

 

 

 一方、ジャンヌは──

 

「はっ……… !!」

「Aaaaaaaaa!!」

 

 謎の騎士のサーヴァント、恐らくはバーサーカークラスとの激戦を繰り広げていた。

 バーサーカーの一撃は重く早い。ジャンヌも負けじと旗でいなすが、バーサーカーの猛攻に防戦一方の状況が続いていた。

 とはいえジャンヌも押されているばかりではない。

 相手の剣の癖を見抜き、一瞬の隙をつく

 

「そこです!」

 

 バーサーカーの攻撃の中に僅かに見えた隙間。

 そこを狙い、旗をふるうが──

 

 ギィン!!

 

「Arthurrrrrr…… !!」

「っ!」

 

 待っていたと言わんばかりにバーサーカーは、その剣でジャンヌの旗を弾き飛ばした。

 ジャンヌには隙に見えた動きも全て、バーサーカーがあえて見せた餌だったのだ。

 狂化されていながら、罠を仕掛ける程の知性。それだけこの英霊が騎士として凄腕の者であることがわかる。

 ジャンヌは己の失態に歯噛みするも時既に遅し。

 武器を失い無防備となった所に、バーサーカーの剣が振り下ろされた。

 

 

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