Fate/Silver Order -選ばれし48人目のマスターは銀髪侍- 作:天パ男
ジャンヌにバーサーカーの剣が振り下ろされようとする。正にその時。
ドコッッ!!
「Aaaaaaaaa!!」
剣が振り下ろされることはなく、バーサーカーの体は宙へと舞い、やがて地面に激突した。
この結果を作り出したのは、
「ゲオルギウス!!」
「お待たせしました。ゲオルギウス、遅ればせながら再び参上いたしました」
彼はライダークラスとして愛馬ベイヤードに股がり、登場ついでにバーサーカーをはねたのだった。
バーサーカーは不意打ちに流石のダメージを喰らったか。小さく呻いて仰向けになっている。
「ゲオルギウス、よくぞお戻りに…… !」
「ええ。ですが、ここに来たのは私だけではありませんよ。あれをご覧ください」
「っ!」
ジャンヌは遠くに見える光景に目を見開く。
それは多量のワイバーンに向かって進軍していくフランス軍の姿だったのだ。
「この国に残った総ての兵力がここに…… ! 総力戦です。そして…… これだけの戦力を集めることができたのも彼の協力があってこそ」
「あれは…… そう。やはり貴方が……」
ジャンヌは遠目から気づく。
共に戦い、己を最も信じて、信じ続けてくれた騎士を。
「ジル……」
目頭が熱くなるのを感じた。しかしそれと同時に胸が強く引き締められる。
「敵はイングランドの時とは訳が違う…… ただでは済まないでしょう。でも貴方は、きっとそれを知っていて尚……」
彼の覚悟は、例え話を聞かなくてもジャンヌにはわかる。
だからこそこのような感傷は彼の覚悟に対する侮辱だ。
「ありがとうございます、ゲオルギウス。敵も再起しようとしています。卑怯ではありますが、ここは二人がかりで」
「ええ!」
「Aaaaaaa……… !」
再び戦いが始まる── かと思いきや、バーサーカーは飛び上がり、上空のワイバーンの足に掴まった。
そのままその場から逃げるように飛び去っていく。
バーサーカーだけではない。他のワイバーンたちも次々に周囲を離れていく。
「これは何が…… っ!? この魔力は!」
「あ、あれはファヴニール!!」
ゲオルギウスが顔を青ざめ悪竜の名を叫ぶ。
ファヴニールは自らジャンヌたちへと向かい飛んできたのだ。
「まさか直接、私を…… !」
ファヴニールは丁度、ジャンヌの真上で止まると、勢いよく下降していき、黒い腕を振り下ろす。
「まずい! 宝具展開──── !!」
ドッッ!!!!
ファヴニールの平手が大地に激突し、その衝撃は周囲全体へと響き渡っていく。
そして、
「か、は……」
「ジャンヌ!」
ギリギリの瀬戸際。防御には成功したものの、限界まで宝具を展開したジャンヌは地に倒れた。
ゲオルギウスが慌ててジャンヌに駆け寄る。
そしてそれを見ていたフランス軍の兵士たちも。
「い、今のは…… 聖女が我々を守ってくれたのか…… それも身を呈して」
「聖女ジャンヌ!」
兵士たちはジャンヌへと駆け寄ろうと次々に前に出る。
一人が飛び出し、それに釣られるように次々と。
彼らにとって今のジャンヌ・ダルクはフランスを滅ぼそうとする畏怖の対象。
一応、ジル元帥から竜の魔女と聖女は別人であると言われてはいるが、今だ半信半疑な所があった。
しかしそのような疑いなど間違いだった。ジャンヌは自分達を守るためにその命を削ったのだ。
我々はなんとおろかなのだろうかと中には涙を浮かべる兵士もいる。
彼らは、少しでも彼女の力にならねばと前へでる。
それが間違いとも知らずに。
「Arrrrrrrrrr…… !」
再び地に降り立ったバーサーカーは、兵士たちを見て、何処か笑うような声を漏らしてみせた。
「う……」
時間にしておよそ5分。戦場であることを考えれば決して短いとは言えない時間。意識を消失させていたジャンヌは目を覚まし、痛む体を無視して起き上がった。
「ジル…… みんな、は………… え?」
自分の身よりも、真っ先に他者の身を案ずる。
そんな彼女だからこそ耐え難い光景がそこにはあった。
「ギャアアアアア!!!」
バーサーカーの剣に体を裂かれ血を吹き出し絶命する兵士たち。
近くには兵士を守るために戦ったのか、傷を負い、倒れるゲオルギウスの姿もあった。
地には兵士の首が転がり、血の海で溢れかえる。
「どうして…… どうして私は友達を…… かつての仲間を救えず…… !! 竜の魔女…… どうして貴女はこんな!!」
地獄の様な光景にジャンヌは歯噛みし、自身への怒りと竜の魔女への疑問を募らせた。
一刻も早く、この地獄を終わらせなければと手に力を込めた時だった。
「もう。世話の焼ける豚共ね」
突如、飛んできた槍がバーサーカーに直撃した。
衝撃を抑えきれず、たまらずバーサーカーは後方へと吹き飛ぶ。
「あなた達…… ! エリザベート、アマデウス、清姫!」
「待たせたわね! てか痛! 清姫、あんた、ツメ切りなさいよ! 足に刺さってるのよ!」
「私じゃありません! アマデウスです! というかもうちょっとゆっくり飛んでください。酔ったじゃないですか、ウプ」
「わーっ! ちょっと、僕に向かって吐かないでくれよ!」
絶望の状況で現れたのは味方のサーヴァントたち。それぞれの戦いも終わり空を飛んで駆けつけてきてくれたのだろう。
とはいえ、味方陣営で飛べるのはエリザベートだけだ。
その為、彼女の両足にはアマデウスと清姫がしがみついていた。
「よくご無事で!」
「いや、無事と言えるか怪しいもんだけどね…… 清姫の奴、酔ってグロッキー状態だし。まあ、そんなことよりも、ジャンヌ。少し耳をかしてくれ」
アマデウスはタクトをふるい、音色を奏でる。
すると音色を聴いたジャンヌは自身の痛みが和らいでいくのを感じた。
「これは…… !」
「治癒じゃないから気をつけて。痛みを緩和させてるだけだから。ゲオルギウス、君、意識はあるかい? 君にも音楽を」
「え、ええ。申し訳ありませんが、お願いいたします」
アマデウスは倒れていたゲオルギウスにも声をかけ、タクトをふるった。
「アマデウス、ありがとうございます。皆も。これであのサーヴァントを倒しに行くことが──」
「何言ってんのよ」
ジャンヌは立ち上がり戦線に戻ろうとするが、エリザベートがそれを遮る。
「選手交代よ。あいつの相手は私達がやるわ」
「で、ですが…… ! あの敵は私の仲間を!!」
バーサーカーは自身の仲間達を無惨にも虐殺した。
ならばその仇を責任は負うのは自身にある筈だと思いジャンヌは叫ぶがエリザベートは冷静に返す。
「血、昇りすぎじゃないの、あんた?」
「え……」
「ねぇジャンヌ。私は言ったわよ。もう一人の私に。私の言いたいことを全部」
エリザベートはカーミラとの戦いで己の思いを全てぶちまけた。
そして勝ったのだ。
ジャンヌもエリザベートと同様、もう一人の自分に苦悩している。
ならばやるべきことは決まっているはずだ。
「ジャンヌ。あんたは竜の魔女に言いたいことがあるんじゃないの? 何を言いに来たの?」
「…………」
少しの間。
ジャンヌは意を決したように答える。
「…… 任せました。エリザベート、アマデウス、清姫。それにゲオルギウスも」
「ええ。行ってきなさい」
ジャンヌは直ぐにその場から離脱した。
そしてもう一人の己へと向かっていく。
その様子を見届けたエリザベートたちは倒すべき相手へと向き直る。
見ると、バーサーカーは立ち上がり、こちらに向かって武器を構えていた。
「さてとやれるわね、二人とも」
「はいはい」
「ウプ…… すいません、誰か酔い止め持ってません?」
「ない。聖人のおじさまは平気?」
「すいません。誰か湿布持ってません? ファブニールに腰をやられたようで……」
不安しかない返事。この状況下でボケてる場合かとも思うが、エリザベートは少しだけ笑う。
銀時の影響悪すぎるだろと。
「さっさと、あの変な奴を倒して子イヌに文句を言わないとダメね。さ、いくわよ!!」
『ジャンヌは無事だ! ギリギリで宝具を使ったらしい…… !』
「ああわーってる! こっちもおかげさまで、ビンビン感じてるよ。それよりもどうなってんだ、このトカゲ共! 急に元気になりすぎじゃねーか」
銀時、ジークフリート、そして合流したマシュたち三人は竜の魔女へと向かって進んでい。
しかしそれも続かず、足を止められていた。
ワイバーンたちの攻撃が苛烈になり始め、囲まれていたのだ。
「ファヴニールの影響だ! 奴にあてられ攻撃性が上がっている!」
「ああ、くそっ! こっちは木刀一本で戦ってるんだぞ。ちったぁ手加減しろよ!」
さすがの銀時もこれには嫌な汗をかく。
木刀で凌ぐにも限界があるというものだ。
このままではジークフリートやマシュはともかく、銀時の体力がもたない。
そう思った時だった。
「なんだ? トカゲ共が攻撃をやめたぞ」
何故か。ワイバーンたちは少しではあるものの、銀時たちから距離を取った。
まさかファブニールがまた攻撃をしかけてくるのかと身構えるが、その予想は外れた。
「リヨン以来ね。人類最後の、いや、異界のマスター」
「テメェは…… !!」
現れたのはこの戦いの全ての元凶。
燃えるような憎悪と復讐心で地獄を作り出した、もう一人のジャンヌ・ダルク、竜の魔女だった。
「まさか、本丸からやってきてくれるとはな。随分と気前がいいじゃねーか。一体どういうつもりだ?」
「前に言ったではないですか? お前の顔を必ず歪ませてやると。それにここでお前を殺せば、あの忌まわしい田舎娘も心が折れるでしょう。ああいうやからは、自分よりも他者を傷つけられることを嫌がるものですし」
「はっ。流石の陰湿ぶりじゃねーか。トカゲ共使って、チマチマ人間殺してただけのことはあらぁ」
「そのトカゲによってお前の仲間も死ぬのよ」
竜の魔女はニヤリと笑った。
それと同時にファヴニールが飛来し、地に降り立つ。
「ガアアアアアア!!!」
「ファヴニール。お前にはジークフリートと盾の娘を任せます。異界のマスターは私が」
「くっ、マスター!」
ジークフリートとマシュが銀時を守るように前に立つ。
竜の魔女は銀時と直接戦おうとしているようだが、態々乗る必要はない。
しかし銀時は
「お前らさがってろ。あの陰湿女の相手をお前らがする必要はねえよ」
「マスター!? 無茶です! ワイバーンとサーヴァントでは違います。いくら先輩でも……」
「はっ。無謀で愚かで身の程知らずね。でも褒めてあげるわ。勿論皮肉混じりではあるけれど」
「え? 戦うのは俺じゃねーけど」
笑う竜の魔女に銀時は鼻をほじりながら、あっけらかんに言った。
「は────」
「はああああああ!!」
銀時の思わぬ言葉に呆気に取られる竜の魔女に重い衝撃が走った。
「貴様!?」
「竜の魔女! 貴女との決着は、私がつけます!」
衝撃の正体は竜の魔女にとって忌まわしき、聖女、ジャンヌ・ダルクだった。
衝撃は消えず、ワイバーンたちを蹴散らしつつ、ジャンヌは竜の魔女と共にその場から離脱した。
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