Fate/Silver Order -選ばれし48人目のマスターは銀髪侍-   作:天パ男

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ある男の願い

 ついに邪竜ファヴニールは倒れた。

 敵サーヴァントもキャスターを除き全滅し、竜の魔女も重症負った。彼女の消滅は時間の問題だろう。

 残されたワイバーンも統制を失い弱体化。

 フランス軍の兵士たちは今が好機とワイバーンを各個撃破していった。

 最早、人類側の勝利は確実と言える──── 

 

 

 

「マシュー!!」

「エリザベートさん! アマデウスさんに清姫さん、ゲオルギウスさんも!」

 

 限界まで魔力と体力を使った、マシュとジークフリートは一時、体を休めていた。

 そこにバーサーカーを倒した四人も駆けつけてきた。

 

「ジークフリート、よくぞあのファヴニールを倒してくれました」

「そうそう! もうビックリよ。まあ、私は勝つって最初からわかってたけど!」

「いや、俺の力ではない。マスターの力と信念のおかげで邪竜を討つことができた」

 

 ゲオルギウスとエリザベートからの称賛にジークフリートは首を振った。

 銀時は肉体が滅ぶ覚悟を持って令呪を発動した。あれ程の気概を持ったマスター等、恐らくそうはいないだろう。

 

「あれ? そういえば、その子イヌはどこに行ったのよ?」

「あ、それは………」

 

 エリザベートの問いにマシュは気まずそうに目をそらした。

 

「? いったいどうしたのよ?」

「あ、いや、その……… 先輩は、あそこに……」

 

 マシュは右方向へと指を向けた。

 するとそこには

 

「ムオオオオオオオオ!!」

 

 簡易式トイレがあった。

 中からは何故か、銀時の唸り声が聞こえる。

 

「ごめん。マシュ……… なんか変な箱しかないんだけど。子イヌはどこ?」

「いえ、ですから……… あの箱、というかトイレの中にいます」

「あー………… そっか。だからさっきから子イヌの声が聞こえてくるんだ。ふーん」

 

 少しの間、

 エリザベートは深く息を吸い、  

 

「いや、なんでよおォォォォ!! なんでこの時代に簡易トイレ!? なんでよりにもよってトイレ中!? これが前回まで死線を潜り抜けてきた主人公の姿!?」

「それなんですが………… どうやら令呪により肉体を酷使しすぎたのが原因のようでして。簡単に言いますとお腹を下したそうです」

「そんな腐ったモノ食べた時みたいな後遺症なの、令呪って!?」

『これでもマシな方なんだけどね…… 本来だったら死んでてもおかしくないし。これまで散々無茶してきたおかげで身体の慣れが追いついたのだろう』

 

 エリザベートの咆哮に対し、マシュに代わってロマニが説明をした。

 

 

「いやだからって……… 格好つかなすぎるでしょ」

「まあまあ。マスターも疲れてるんだ。ゆっくり休ませる── もといトイレをさせてあげようじゃないか。それよりも、あと一人、ジャンヌが来ていないが、彼女は無事なのかい?」

「私なら無事です。竜の魔女も城へと撤退しました。最早消滅寸前ではあるでしょうが…………」

 

 アマデウスの心配に答えたのは本人、ジャンヌ・ダルクだった。

 多少の傷は見られたが特に重症を負った様子もない彼女に、マシュは安堵して名前を呼ぶ。

 

「ジャンヌさん! 無事で良かったです」

「ありがとうマシュ。でも、まずは説明をさせてください。至急話さなければならないことがあります」

「…………? 説明?」

  

 戦いはほぼ決着がついたとも言える。

 それなに、まだ何か懸念が残っているのか。

 

「竜の魔女の正体についてです。彼女はやはり(ジャンヌ・ダルク)ではなかった……」

「「っ!」」

 

 その場にいる全員が驚愕する。

 ジャンヌは話を続けた。

 

「彼女は私の家族を覚えていなかった。彼女が私の闇の側面ならば覚えていなくてはならなかったのに。幸せな記憶があるからこそ人は憎しみを抱く。なのに…… 彼女には憎しみ以外、何もなかった。英霊とはいえ、それが不自然なのです」

「では彼女は一体………」

 

 何者なのか。

 この場の誰もが抱く疑問。

 ジャンヌは悲しそうな目で答える。

 

「それは────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは聖杯を巡る戦い。

 聖杯はどんな望みも叶える願望器。

 そして聖杯を欲する者には願いがあった。

 その願いは復讐か。救済か。

 

「お疲れでしょう、ジャンヌ………… 少し休みなさい。フランスへの復讐も全て、私が引き受けます。目が覚めた時には全て終わっていることでしょう」

 

 それぞれがそれぞれの願いを持って戦ってきた。

 ならばこの男にも願いがあって当然だろう。

 竜の魔女を優しく抱きかかえ、城の玉座にゆっくりと座らせる。

 悪意にまみれ、他者を軽んじてきた筈の竜の魔女は、男のことだけは信じ、初めて笑顔を見せる。

 

「そう………… そうよね…… ジル。貴方が戦ってくれるなら、私、安心して…………」

 

 安堵した竜の魔女はそのまま言葉を終える前に消滅する。

 その場に彼女の血と、聖杯を残して────

 

「そう。ゆっくりと休まれよ。私の聖女、ジャンヌ・ダルク。必ずこのフランスを滅ぼし、もう一度、聖杯で貴女を…………」

 

 キャスター、ジル・ド・レェは、優しげな顔で聖杯を手に取った。

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

『じゃあつまり………… この戦いの黒幕は竜の魔女ではなく、サーヴァントのジル・ド・レェだったということかしら?』

「ええ。まだ仮説の段階ではありますが…………」

 

 管制室から話を聞いていたオルガマリーの問いにジャンヌは頷いた。

 

「しかしあのジル・ド・レェ殿が…………」

 

 ゲオルギウスは信じない訳ではないが、あまりにも残酷な話だと目を伏せた。

 彼はこの特異点でジルと関わることが多かった。それ故に彼の清廉たる騎士の姿を間近で知ることができたのだ。

 そんな彼が死後、悪しき英霊となり、このような事態を引き起こすとは………

 

「………… もしよろしければ聞いていただけませんか? 私とジルの歴史について────」

 

 

 

 

 『ジル・ド・レェ』

 15世紀のフランスで生まれ、童話『青髭』のモデルにもなったとされる人物。

 貴族でもあり軍人でもあった彼はジャンヌ・ダルクと出会ったことで、その運命を流転させていく。

 深い信仰心を持っていた彼はジャンヌ・ダルクを聖女として崇め、共にオルレアンを奪還。

 「救国の英雄」として讃えられるこてになる。

 彼にとってジャンヌは本物の聖女であり、神の実在を確信させる救いでもあった─── はずだった。

 

 聖女は魔女として炎に妬かれた。

 男は神を見失い絶望した。

 結果、黒魔術に傾倒し、悪逆に手を染めていくことになる。

 領地に住む幼い少年拉致し、凌辱し、虐殺した。年数にして八年。犠牲者の数は数百人にも上るとされた。

 だがこれだけの罪を犯しても、やはり神は男を裁かない。

 そして男は神などいないと怒る。神がいるのならば己は裁かれるはずだと、より罪を重ねていく。

 

 

 

 だが、男は処刑された。

 しかしそれは幼子たちの嘆きに答える為のモノではなかった。

 男の財産と領地を没収するためだけの口実に過ぎなかった。

 神などではない。浅ましき人間の欲望にジル・ド・レは裁かれたのだ。

 

 

 

 

 ── そして今に至る。

 

「私は私の結末に後悔はありません。彼の末路を変えるべきだとも思わない。ただ、それでも彼が私と出会って運命が歪んでしまったこと。犠牲になった子らのことを哀れに思わずにはいられない。だからこそ………… 私が、彼に責を問う資格があるのか…… 疑問に思わずにもいられない。きっと全ての元凶は私自身であり、私に責任があるのだから」

「…………」

 

 ジャンヌの話を聞き、誰もが黙ってしまう。

 マシュやカルデアにいるオルガマリーたちは知識として知っている。

 しかし、実際にその時代を生きた英雄本人から話を聞くと、重く辛いモノであることが伝わってくる。

 

「……… すみません。突然このような話を──」

「責任、か」

「っ!」

 

 声のした先へ視線を向ける。

 そこには簡易トイレがあった。

 

「子イヌ、あんた話聞いてて……」

「んなもん気にする立場か、オメーはよ」

「え……」 

「野郎がどんだけ罪を重ねようが、それはお前の責任にはならねぇ。野郎には野郎の道が。お前にはお前の道がそれぞれあった。違う道を歩いている奴のことまで気にしてたら、それこそ交通事故でテメーもまとめて自滅だろーが」

 

 トイレ越しではあるものの、銀時の言葉にジャンヌは黙って耳を傾ける。

 

「だから責任だとか、そんなもん、はじめからねーんだよ。だが、責任がなくても、お前にはあるだろ。野郎をぶっ飛ばす権利がよ」

「私が、ジルを?」

「お前と野郎はダチなんだろ? テメーが間違った道を進んだ時はダチがテメーを止める。ダチが間違った時はテメーがぶん殴ってでも止めてやる。テメーが野郎の道が間違ってるって思うなら、存分に拳をぶつけてやればいい。それが野郎のダチである、お前の権利だ」

「………」

「んで、それで口も聞いてくれなくなった時は酒でも用意すりゃいい。ダチって奴はよ、基本殴り合って、酒酌み交わして、いざこざあろうが、最後には一緒にいるもんだ」

「友達、ですか………… そうですね」

 

 今までジルとジャンヌの関係を友達と言う者など誰もいなかった。

 それはきっとジル自身も。

 彼はジャンヌとの関係性を友達とは表現しなかっただろう。

 でもジャンヌは、

 

「私は、彼のことを大切な仲間、友人の一人だと思っています。そうですね、マスター、貴方の言う通りだ。友人であるならば、やはり止めなければならない。責任がなかったとしても私にはその権利がある」

 

 ジャンヌは今一度覚悟を決める。

 ならば、彼らも続く。

 

「ジャンヌさん………… ! 私たちも当然ですが、協力します!」

「マシュ、ありがとうございます」

「あったり前よ! 私たちも友達なんだから! でしょ、清姫」

「ええ、そうですわね」

 

 マシュが、エリザベートが、清姫が。

 

「ふっ。いいものだな。友人というものは」

「ええ、全くです」

「本当本当。おかげで、悪い空気がいい音色になったよ」

 

 

 ジークフリートやゲオルギウス、アマデウスも続いていく。

 

「皆さん、行きましょう。ジルを止めに」

 

 一行は進んでいく。ジル・ド・レを止めるために。

 

 

「………… ん? あれ? ちょっ、皆? あれ?」

 

 銀時はトイレの中からジャンヌたちへと声をかける。

 しかし返答はない。

 まだ尻が丸出しなので扉を開けるわけにもいかず、汗をダラダラと流す。

 

「え? あれ、これ……… おいてかれた、これ? おいおい、そんなわけないじゃん? だって、俺結構、良いこと言ったよ。中々主人公らしい長セリフ言ったよ? なのにおいてくわけねーじゃん。なあマシュ?」

 

 が、返答はなかった。

 

「いや、ちょっ! まじ! ちょっ、まって! 今、今! ケツふくから! あれ? 紙ないし!? 嘘だろ! なんでいつも俺の時、紙ねーんだよ!? 本編もだけど、最近、作者が書いてるJKと仕事してる世界の俺も紙なかったんだけど!? まじっ、ふざっけんなよ! もうこんな世界、神なんていねーよ! 神がいたら紙があるはずだろ!」

 

 銀時は一人トイレの中で暴れ始める。

 そこにフランス軍の兵士たちが通りがかった。

 

「え、なにこれ? なんか中から、めっちゃ背信的な声が聞こえてくるんですけど……」

 

 結局、その後、兵士から紙を貰い、ギリギリでジャンヌたちに追いついたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そびえ立つ居城。

 至るところにヒビが入り今は人気が全く感じられない。

 

「ついたな…… ここに野郎はいんのか」 

『超高密度の魔力反応が確認できる。やはり聖杯はそこにあるね』

 

 銀時は周囲に罠などないか見回し、ロマニも魔力反応を確認する。

 

「では、やはり…… 私の仮説は正しかったと──」

「ええ、その通りです。ジャンヌ・ダルク」

「っ!?」

 

 居城から現れ、ジャンヌの言葉を肯定したのはジル・ド・レェだった。

 

「流石は聖女。どうやら私のことについては既に気づいてたようで。ええ、そうですとも。この戦いを引き起こしたのは竜の魔女であるジャンヌではなく、この私。聖杯に呼ばれたサーヴァントである私こそが、フランスを滅ぼす者なのです」

『サーヴァントから聖杯の反応現出!!』

『各種バラメーターをチェックしなさい! 何が起こるか、わからないわよ…… !』

 

 ジルから聖杯の反応がし、カルデア内に大きく緊張が走った。

 それは現場の銀時たちと同じ。武器を構え、臨戦態勢に入る。

 

「聖杯に呼ばれたと言ったな? つまり俺たちと同じだということか?」

「左様。私は我が聖女に喚ばれた狂いし英霊ではなく、この国に、聖杯に最初に喚ばれたサーヴァントなのです。そしてそれ故に聖杯を見つけ所有した」

 

 ジークフリートに疑問にジルは、そうだと答えた。

 

「その聖杯を使い、貴方はもう一人の私を作った。貴方好みのジャンヌ・ダルク(竜の魔女)を」

「おお、ジャンヌ。その言い草はあんまりではありませんか。貴女の復活はもちろん願いました。当然でしょう? ですが……」

 

 ジルは体を小刻みに揺らす。   

 そして頭をかきむしり、叫ぶ。

 

「それは叶わなかった!! 万能の願望器でありながら、それだけは叶えられないと!! だから造り上げたのです! 私が信じる、私が焦がれた聖女を!!」

「竜の魔女は最後までそのことを知らなかったのですね…… それがせめてもの救いでしょう。でもジル、私は蘇ったとしても貴方の思う、竜の魔女になど決してならなかった。だって私は祖国を憎めない。この国には貴方たちが── 大切な友達がいたのですから!

「お優しい…… あまりにもお優しいお言葉だ。この私ですら貴女は友と言う。心に深く染み入ります」

 

 ジルはジャンヌの言葉に微笑む。

 ジャンヌもわかってくれたのか、と顔を綻ばせるが、

 

「だが…… その優しさ故に一つ忘れている。たとえ貴女が祖国を憎まずとも…… 私はこの国を憎んだのだ…… !! 全てを裏切ったこの国を滅ぼそうと誓ったのだ!」

「ジル……… !」

「貴女は赦すだろう。しかし私は赦さない! 神とて、王とて、国家とて…… !!」

 

 ザバッッ!!

 

「っ!? これは…… !」

 

 突如、ジルの立っていた地が大きく割れ、海水と共に蛸のような足が何本も出現した。

 ジルはそれに呑まれ姿を消す。しかし声だけは聞こえてくる。

 

「滅ぼしてみせる…… 殺してみせる…… !! それが聖杯に託した我が願望…… !!」

 

 足だけではない。やがて地を割りながら巨大な体躯を現していく。

 それは異形の怪物。蛸のような姿をし、体の至るところから目玉が飛び出ている。嫌悪感を抱かせるような不気味な姿に銀時たちは後ずさる。

 

「我が道を阻むな…… ジャンヌ・ダルクゥゥゥゥッ!!」

 

 巨大な怪物からジルの怒声が響く。

 ジルはあの怪物の体内にいるのだろう。恐らくは怪物を制御し、操るためか。

 

「………… ジル。貴方の怒りは最もだ。貴方が恨むのも、国を滅ぼそうとするのも悲しいくらいに道理だ。けれど── 私は貴方を止めます。私は貴方の友人だから。だから…… 貴方の道は私が阻む。 ジル・ド・レェ!!」

「ならば貴女は敵だ!! 決着をつけよう。救国の聖女、ジャンヌ・ダルク!!」

「望むところ…… !! 皆さん、共に戦ってくれますか?」

 

 ジャンヌの側に銀時は立つ。

 そして木刀の剣先を怪物へと向けた。

 

「ここまで付き合ったんだ。今更だろーがよ。それに蛸の相手はすんのは二度目でね。ああ言うのはグロテスクな割には食べると上手い。全部、終わったら、アレをつまみに一杯やろうや」

「嘘でしょ、あれ食べるの?」

「大丈夫ですよ。その時は、私が調理しますので。どんな素材も美味しくしてあげます」

「わ、私も手伝います!」

 

 エリザベートはドン引きしているが、清姫やマシュは意外と乗り気なようだ。

 三人も横に並ぶ。

 

「やれやれ最後の最後にとんでもない化け物が出たもんだ。まあ、最後の公演だ。思う存分やらせてもらうよ」

「私も。まだ宝具すら見せていませんからね。いい加減活躍させてもらいますよ」

「蛸の相手をするのは初めてたが、俺も全力を出そう」

 

 アマデウス、ゲオルギウス、ジークフリートの三人も横に並ぶ。

 

「ありがとう……… 皆さん!!」

 

 第一特異点。正真正銘、最後の戦いが今、始まる!!

 

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