Fate/Silver Order -選ばれし48人目のマスターは銀髪侍- 作:天パ男
オルガマリーの怒りが頂点に達してから数日。
ここ最近までの喧しさが嘘だったかのように、部屋は静かになり、銀時は暇そうにベッドの上を寝そべっていた。
既に読み終えたモノでもいい。せめてジャンプでもあれば‥‥ と銀時が思っていた時だった。
「やあやあ、侵入者さん。暇そうにしてるねぇ! これ、俺からの挨拶代わりの差し入れだ。受け取ってくれよ!」
突然部屋に軽薄そうな男が嘘臭い笑顔を浮かべて入ってきたのだ。カタギとは思えないギャングのような服装にリーゼントヘアー。それに微妙に尖った耳とメガネが特徴的な男だった。
明らかに胡散臭い男は、漫画雑誌を銀時へと向ける。勿論、牢屋越しだが。
「受け取れって言いますけどね。ここ、透明な変な牢屋なんで。あんたが絡操操作して、こっちに漫画入れてくれねーと読めないんですけど」
この透明な牢屋は、部屋の壁に嵌められた電子板を操作すれば物のみを出し入れすることはできる。
そうやって銀時に食事が出し入れされてきたのだ。
「お! そーいやそうだったな。いや悪い悪い」
男は平謝りをしつつ電子板を操作し、雑誌を銀時へと渡した。
ちなみにその雑誌はジャンプ── ではなく少年チャンピオンだった。
「いや、チャンピオンじゃねーか。これ! 俺、ジャンプ派なんすけど!」
「え。んだよ、オタク、ジャンプ派かぁ。そりゃあ趣味が合わねーな。だって俺、チャンピオン派だし。ま、これを機にチャンピオン派閥に変わったらどうだい?」
「だれが変わるか! 俺の魂はジャンプと共にあるんだよ! ハンターハンターの最終回を見るまでは絶対移らねーぞ!」
銀時は割りとまじで怒るが、男はアハハと小馬鹿にしたかのように笑っている。
しかし、しばらく笑っていたかと思うと、男は急に笑みを止め、静かなトーンでボソリと呟いた。
「ハハ‥‥ ま、はじめから趣味が合うなんざ思ってはいなかったけどな」
「あ?」
さっきまでの嘘臭くも陽気な感じは何処にいったか。男は突き刺すような目を銀時へと向けていた。
が、しばらく睨み合っていたかと思うと、またニヤリと笑ってみせる。
「いやぁー、だってそうだろ! あの他人どころか自分にも興味を持たないようなマシュが熱を入れる程の男なんだぜ?」
「んだそりゃあ。俺と趣味が合わない話で、なんでマシュが出てくる」
「まあ、よく聞いてくれよ相棒」
「何が相棒だ。お前、自分で趣味が合うとは思わないとか言ったばかりだろーが」
こいつとは気が合わない。嫌な空気や匂いを纏わせる男に銀時は警戒する。
だがそんな銀時に構わず、男は続ける。
「はっきり言えば、このカルデアにいる職員なんてのは基本、俺を含めて人の道から外れたような奴ばかりさ。まあ、多少はマシな奴もいるとは思うが、魔術のことも知らない一般人から見れば、何処かしらは異常なもんだ。マシュだって、例外じゃない。だが、そんな異常集団の集まりの中ですらマシュはずっと一人だった。一般は勿論、異常な連中とすら関わることができない」
「随分な物言いすんじゃねーか。異常集団とか、このカルデアってのは鬼殺隊だったってことかぁ?」
銀時は警戒しつつも、軽口であしらうように返す。
「悪いな! 俺は鬼滅見てないから、その例え、よくわかんねーんだわ。まあ、そこは置いておいて、こんな異常者の中に、また別の異常が現れた。それがあんただよ。相棒」
「誰が異常だ。東京卍リベンジャーズみてーな頭しやがって」
「自称異世界人。それが異常でないなら何て言うんだ? あえて言うなら奇人‥‥ いや、面白可笑しい道化師ってところか! マシュは、どうしてだろうな? あんたにだけは心を開いて見せた。あんたの楽しそうな処にでも引かれたんだろうかねぇ?」
男は楽しげに、ニヤニヤと笑いながら話をしている。
しかし瞳の奥底からは、何か、どす黒いモノを銀時は感じ取った。
「相棒。俺の好きなモノはおもしろいやつだ。だが‥‥ たのしそうなやつは嫌いでねぇ。つまりはそういうこと! 俺とあんたじゃ気も合わないし、趣味だって合うはずもない!」
男は変わらず軽い口調で、断言する。
「成る程ね‥‥‥ ま、その点に関しちゃ同意だな。初対面の癖に馴れ馴れしいし、すげー失礼だし。絶対、お前とは合わねーわ。つーか、わかってるなら、何しに来たわけ、お前?」
「はは。いやなに、顔位は見たかっただけさ。安心しろよ。俺はもうここに来るつもりはない」
それだけ言うと男は背を向け、扉へと──
「と、そうだ。もう一つ」
男は足を止め、顔だけ銀時へと向ける。
「マシュのことは心配すんなよな! 俺がちゃーんと面倒見といてやる」
「‥‥‥‥ テメェ、そりゃあ」
「じゃあな! もう会うこともないだろうさ」
銀時の言葉を無視し、男は今度こそ部屋を出ていった。
一人取り残され、銀時は妙な苛立ちを覚える。チッと舌打ちをすると、気を紛らわす為に少年チャンピオンを開き、ページをペラペラとめくる。
「チャンピオンって何連載してたっけな‥‥ あれ、鼻くそついてるんだけど、これ。あれ、なんか一ページずつ、必ず鼻くそついてるんだすけど、これ。え、ちょ、これ、あいつの鼻くそだろ、これ。手に鼻くそついちゃったんですけど、これえェェェェ!!」
思わぬトラップにシャウトする銀時だった。
後日。
銀時は今日も一人で──
「モグモグ‥‥‥‥ いやー、やっぱりプリンはプッチンプリンにかぎるよね」
一人ではなかった。牢屋越しに銀時の目の前で、ロマニがプリンを食している。
何故、彼がここにいるのか。
それは、いつもの健康チェックも終わり、部屋を出ていくのかと思ったら「今、所長、機嫌悪いんだよ。緊急避難も兼ねて、しばらくここに居させてくれない?」と言ってプリンを取り出し、食べ始めたからだった。
「おー、そうだよなー。わかるわかる。皿の上にポンッと落とした時が最高で‥‥ じゃねーんだよォォォォ!! なに、見せつけるようにプリン食ってんだテメェ!! こちとら糖分制限でプリンどころかマーブルチョコの欠片も食べられてねーんだぞ!」
「うぉ!? ま、まあまあ落ち着いて。そんなプッチンせずに。プッチンプリンだけに」
「よーし。テメェ、こっちにこい。その脳みそ、プッチンしてやっから」
ロマンはプッチンされてはたまらんと、プリンを慌てて飲み込んだ時だった。
ピピィと電子音がロマンが付けている腕輪から聞こえてきたのだ。指を当てると腕輪からレフの声が聞こえてくる。
『ロマニ、あと少しでレイシフト開始だ。万が一に備えてこちらに来てくれないか?』
腕輪の形をした通信機といった所か。天人が来てからはこれくらい当たり前の技術になっていたので銀時は特に驚きはしなかった。
『Aチームの状態は万全だが、Bチーム以下、慣れていない者に若干の変調が見られる』
「わかったよ、レフ。ちょっと麻酔をかけに行こうか」
『ああ、急いでくれ。いま医務室だろ? そこからなら二分で到着できる筈だ』
「ここ医務室じゃねーぞ。俺のいる部屋だぞ」
「しいぃぃ!! あ、レフ? 何でもないよ、直ぐに行くさ。それじゃあまた」
ロマンは慌てて通信をきってしまった。すると気味の悪い苦笑いを銀時に向ける。
「あはは。この事については内緒にしておいてほしいなーっと。…… 部屋でサボっていたなんて知れたらクビにされる可能性もあるんで」
「別にいいけどよお、高くつくぞ」
「金とるの!? まあ…… いいや。にしてもここからじゃどうあっても五分はかかるぞ…… ま、少しくらいの遅刻は許されるよね」
「お前、とことん甘いな自分に。つーか、さっきレイシフトがどうとか言ってたが‥‥‥‥」
レイシフトという単語は以前、職員の口から聞いたことがあった。確かここに集められたマスター候補たちはその適正者であったはずだ。
結局、レイシフトが何なのかを銀時はまだ理解していなかったが。
「ん? ああ。実は今日はファーストミッションの日なんだ。所長から一応口止めされてるから詳しくは話せないんだけど‥‥」
「‥‥ まあ、別にそこまで興味はねーけどよ。そのミッションには、やっぱあのマシュも参加すんのか?」
「え、あ、うん。彼女も適正者だからね。当然、ミッションには参加するよ。もしかして、彼女のことが心配なのかい?」
昨日の男のこともある。実を言うとマシュのことが気がかりだった銀時はロマンに彼女のことを聞いた。
しかし心配なのかと、言われると、つい否定したくなるのが銀時である。
「はっ、誰が心配するかよ。こっちの身の方がどうなるかわかんねー状況なのに、他人のことなんか考えられっか。ただ何となくどーなのかなーって思っただけ。あ、あとマシュってちゃんとご飯食べてる? あと眠れてる?」
「いや、滅茶苦茶心配してるじゃん!? 大丈夫だよ! ちゃんと食べて寝てるよ! ‥‥‥‥ ありがとう。マシュのことを心配してくれて」
「だから別に‥‥ いや、まあいいや。めんどくせ」
ボリボリと頭をかく銀時を見て、ロマンはアハハと笑う。
「ハハ‥‥ ってやば! いい加減行かないと、本当に遅刻しちゃう!」
ロマンが慌てて行こうとした、その時。突然、室内の電気がフッと消えてしまった。
「なんだ? 明かりが消えるなんて、何かーー」
ドゴオオオオオンンンンン!!
部屋を、いやこのカルデアが揺れる程の巨大な轟音が鳴り響いた。
この異常な状況に歴戦を潜り抜けてきた銀時はこれが単なる停電はないことに気づく。
「おい、なにが起きたんだ! 今の音は‥‥」
「わ、わからない! このカルデアで停電なんて起きるはずがないんだが……」
『緊急事態発生。緊急事態発生。中央発電所、及び中央管制室で火災が発生しました』
銀時の疑問に答えるかのように機械的なアナウンスがカルデア内に流れ始めた。
『中央区画の隔壁は90秒後に閉鎖されます。職員は速やかに第二ゲートから退避してください』
明らかに不穏な内容。
ロマンは愕然とするも、ここにいる場合ではないと今度こそ、扉へと向かう。
「ごめん、銀時くん。君はここにいてくれ! 僕は管制室に向かう!」
「あ、バカまて‥‥ たくっ」
銀時が止めるもロマンはそのまま行ってしまった。
「ここにいろって、出たくても出られねーっつーの‥‥ ん? いや待てよ」
そういえばと銀時は気づく。部屋の電気が消えたのだ。
ならば、この不可思議な見えない牢屋も──
「やっぱりな‥‥ 電気ショックは起きねえ」
銀時は制限されていた範囲から楽々と抜け出すことができた。
どうやらあの見えない牢屋は電力で動いていたらしい。
これで自由の身にはなったが‥‥
「‥‥ ちっ」
銀時の脳裏にマシュの顔がよぎった。
このまま放っておいても寝覚めが悪い。銀時はロマニを追うかと部屋を出る。
しかし部屋を出ると左右に道はわかれている。一体どっちに行くべきか。
銀時が悩んでいると、獣の鳴き声が聞こえてきた。
「フォーウ!!」
「あ、お前!」
鳴き声の正体は、あの白い獣だった。名前は以前マシュから聞いている。
確か名前は、
「モンジャラ!!」
「フォウダッチューノ フォーウ!!!」
「ゲフオォラボ!?」
フォウの飛び蹴りをもろにくらい、銀時はよろめく。
「ぐ、くほ‥‥ フォウ、お前、無事だったか。ん? そいつは」
「フォウ!」
フォウが口に咥えて持ってきてくれたのか。フォウの足元には銀時の木刀があった。
銀時は洞爺湖と彫られた愛刀を拾い上げる。するとフォウが尻尾をふる。
「ん? なんだ、こっちに来いってか」
「フォウフォウ!」
マシュ、もしくはこの事態の原因の元にでも案内してくれるのだろうか。
フォウは銀時の言葉を肯定するかのように頷き、駆け出した。
「あ、ちょ、待て!」
駆けるフォウについていく。
しばらくすると大きな扉の前についた。
扉の電力は予備電力のおかげか、自動で開いた。
フォウはそのまま中に入っていき、銀時も続く。
そこには、
「……!」
業火の世界が銀時の前に広がっていた。途絶えた筈の光は紅き炎の灯火が代わりに明るく照らす。そこから見える景色には生命の動く気配さえ感じられない。かつて人工物だった物は全て瓦礫と化し炎と共に全てを埋め尽くしていた。
「おいおい、こいつは」
巨大な地球儀のような物など気になる物体はあったが、最早気にしている暇もない。
火の中をも駆け出すフォウを銀時は追っていく。
「くそっ! まさかとは思うが、マシュ‥‥」
『動力部の停止を確認。発電量が不足しています。予備電源への切り替えに異常 が あります。職員は 手動で 切り替えてください』
アナウンスの声も途切れ途切れになっていた。この警告の通り電力が不足しているのだろう。このままではこの警告音すら聞こえなくなる。
「どこだマシュ!! いるのか! いるなら返事しろ!!」
銀時は火や落ちてくる物体を避けて、走りながら叫ぶが答えは返ってこない。
その代わり、アナウンスは流れ続ける。
『システム レイシフト最終段階に移行します。座標 西暦2004年 1月30日 日本 冬木。ラプラスによる転移保護 成立。特異点への因子追加枠 確保』
何やら気になる単語が次々と耳に入ってきたが今の銀時にはそんな事を考えている暇などなかった。
火を掻い潜った先には筒上の形を成した謎の機械があった。見ると中に気を失っているだけなのか死んでいるのかはわからないが人間が入っていた。
中から出して助けようとも思ったが、これだけの人数を助けだすには時間が足りない。第一にこの機械が何なのか。どうやって開くのかなど銀時は知らない。それに寧ろこの中にいた方が安全ということもある。結局手を出すことはなく他に人間がいないか、マシュはいるのか。銀時は再び探し始めた。
「マシュ! どこだ! どこに……!」
「フォーン…… フォーン……」
「フォウ? まさか‥‥ !」
声のした方向に行くとそこにはフォウが瓦礫の前で悲しそうに鳴いているのが見えた。
そしてフォウが見つめる先には、
「マシュ!」
「………… あ、せん…… ぱい」
倒れ血を流すマシュがいた。彼女の体の上には巨大な瓦礫が乗っている。
これでは意識が残っていようともこの炎から逃れる事はできない。
「まだ命はあんな! 今その石どかしてやる! だから眠るんじゃねーぞ!」
「………… いい、です…… 助かりません、から。それより…… 逃げ、て」
か細い声でマシュは逃げろと言う。
彼女の体からは既に死んでいてもおかしくない程の血が流れ出ていた。
「…… バカヤロー。まだ生きてんだろうが。だったらよお……」
「……… せん、ぱい…… !」
「諦めてんじゃ、ねええぞぉォォォォ!!」
銀時は叫び瓦礫に手をかけ持ち上げようとする。しかし人間一人の力では到底どかすことはできず、それどころか触れる手からは肉が焼ける音と臭いがしてくる。いっそのこと木刀で叩き斬ろうとも考えたがそれでは衝撃により重症を負っているマシュに更なる負担がかかってしまうかもしれない。
「やめて、ください……」
「むごおォォォォ!!」
銀時は諦めない。例え肉が焼けようと炎に囲まれようとも彼は逃げなかった。
『観測スタッフに警告。カルデアスの状態が変化しました。シバによる近未来観測データを書き換えます』
「これ、は……!」
アナウンスを聞きマシュが視線を向ける先には、ここに入る際に最初に見た巨大な地球儀があった。
しかし最初とは違い、地球儀全体を燃えたぎる赤い光が包み込んでいた。
『近未来百年までの地球において人類の痕跡は 発見 できません』
「そん、な……」
更に絶望へと無慈悲に叩きつけられる。マシュはカルデアスの無慈悲な声に完全に打ちのめされた。
『人類の生存は 確認 できません。人類の未来は 保証 できません』
銀時は何も言わなかった。ただ瓦礫をどかそうと力を振り絞っていた。
しかし炎による膨れ上がる温度が徐々に銀時の体力を奪っていく。焼けていく手からも力が抜けてきた。
「せんぱい…… やめて、ください。私は…… いえ、世界はもう……」
全てを諦めマシュは目を閉じた。
しかしこの男は、
「うるせええェェェェェ!!! 何が人類は発見できませんだ! んなこと知るかぁ! 観測だが占いだか何だかわかんねえがどうでもいいんだよ、そんなこと。んなもん使わなくたってよお人間はテメーの力でいくらでも未来を作れるだろ。未来を変えるなんざ明日の飯を決めるくらい簡単な事じゃねえか! だからオメーもよぉ…… テメーの未来、決め付けてんじゃねえよ!」
はっきり言って銀時には、今何が起きているのかさっぱりだ。だがアナウンスの内容もなんとなく不吉なことはわかる。
少なくとも、この世界の人類に未来は残されていないということが。
それでも、そんなことはこの男にとっては関係ない。
「せんぱい………!」
いつの間にかマシュの目には涙が浮かんでいた。何をどうしようとも例えこの瓦礫をどかそうともマシュは助からない。
それを彼女は自覚しているし銀時も理解しているはずだ。
なのに何故諦めない。なのに何故自分は生きたいと思ってしまっているのだろうか。
マシュは今までにない感情が溢れでてくることにより死への恐怖ではなく疑問の方が頭の中に浮かんでいた。
『中央隔壁 封鎖します。館内洗浄開始まで あと 180秒です』
これ以上、炎を外に出さない為、そして鎮火するためにシステムが自動的に隔壁を閉める。
銀時たちは完全に閉じ込められ外の世界から断絶された。
「閉まっちゃい、ましたね…… すいません、先輩。わたしのせいで……」
「…… 謝る必要はねえよ。それに、あんな扉、コイツでぶった斬って無理矢理開けりゃあいい」
銀時はちらりと腰に提げている木刀に目を向けた。
普段なら何時もの冗談だと思っていただろう。だが今は、この男なら本当にやってしまう。光を取り戻してくれる。マシュにはそう思えた。
「先輩……」
「なんだ……」
「以前、先輩は‥‥ 私にどうして先輩と呼ぶのか、聞きましたよね」
「なんで今‥‥ いや、そういや、そうだったな。あん時は結局、お前も答えられなかったが」
何故、侵入者であり部外者である銀時を先輩と呼ぶのか。
当然ながら疑問に思い聞いたことはある。しかし彼女自身、それがどうしてなのか、上手く答えられずにいた。
だが、今の彼女なら、答えることができる。
「先輩は、先輩だから。私の知らないことを知っていて‥‥ 私の知らない‥‥ 景色を見ていて」
「‥‥‥‥」
「不思議で、変わっていて、個性的で──」
「それ、要は俺が変人ってことじゃねーか」
銀時は苦笑いを浮かべる。そしてあの男の言葉を思い出す。
『自称異世界人。それが異常でないなら何て言うんだ? あえて言うなら変人奇人‥‥ いや、面白可笑しい道化師ってところか!』
あの男の銀時に対する評価は正しかったようだ。己もまた、変人であり異常な存在。
きっとマシュはこのカルデアの者とは別種の異常である己に興味を持ったのだ。銀時はそう思った。だが、
「そして、誰よりも、普通の人間です‥‥ 先輩は」
「‥‥ お前」
「先輩からの話でしか‥ 聞いてはいないけど、それでも‥‥ わかります。江戸で生きる先輩は、普通に笑って怒って‥‥‥‥ 先輩はこれまで出会ってきた人の中で一番‥‥ 人間らしいのです」
マシュから返ってきた答えは違った。
彼女にとって、銀時は異常な存在でも、変人奇人でも、ましてや道化師でもない。ただの普通の人間。
銀時は思ってもなかった理由に、なんじゃそりゃと小さく笑う。
「先、ぱい。わた、し、このカルデアから、外に出たことがないんです‥‥」
「‥‥‥‥」
マシュの声が段々と小さくなっていく。
「ここは…… ちっとも…… 空が、見えない……」
それはマシュの本音だった。
彼女は見たかった。青空を、太陽が照らす外の世界を。
白に覆われた世界でも炎に包まれた世界でもない。ただ青く広がる世界を彼女は望んでいたのだ。
「先輩は…… 全てを、運命を斬ってでも…… 私に見せてくれますか……」
「ああ。約束だ…… だからお前も…… 生きろ、マシュ」
「…… やっぱり先輩は ‥… 人間、らしいですね…… 先輩、手を…… 握ってくれますか」
「ああ……」
銀時は今まで瓦礫から離さなかった手を遂に離しマシュへと差しのべた。
マシュは震えながら銀時の手を握る。
とても暖かった。とても優しかった。マシュはずっと銀時の手を握っていたかった。
瓦礫がさらに降り注ぐ。
大きく揺れる中、それでも二人は手を握り続けた。
『レイシフト 定員に 達していません。該当マスターを検索中…… 発見しました』
アナウンスが流れる。だが二人は気にも止めなかった。
「先輩……」
『適応番号48
「先輩は…… ずっと側に…… いてくれますか?」
『レイシフト開始まで あと3』
「決まってんだろ」
『2』
「お前を一人になんかさせねえよ」
銀時の言葉にマシュは微笑む。
「先輩…… ありがとう、ございます……」
『1。全行程 完了。ファーストオーダー 実証を 開始 します』
この瞬間、銀時とマシュの意識はこの世界から途絶えた。
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