Fate/Silver Order -選ばれし48人目のマスターは銀髪侍- 作:天パ男
ジル・ド・レェによって召喚された海魔。
それはファヴニールよりも巨大なモノ。ジル・ド・レェの怒りを体現したかのような異形の怪物。
正に最後にふさわしい強敵。
だが彼らが臆することはない。それぞれが全力を出し、立ち向かっていく。
「おおおお!!」
ザンッ!!
銀時の木刀をはじめ、ゲオルギウス、ジークフリートと彼らの剣が海魔の足を斬り裂いていく。
しかし──
「無駄なのですよおォォォォ!!」
斬られた所は何事もなかったかのように、たちまち再生していく。
『くっ! これだけ巨大な怪物を召喚するなんて… これも、聖杯の力なの…… !?』
『間違いなく、そうかと。しかしいくら聖杯を持ってしても、あれだけ巨大な怪物を制御するとなると本来ならば時間が必要なはず。恐らくジル・ド・レの思う通りには動かせていないかもしれません』
『つまり、あの怪物は知性のない正真正銘の怪物ってことね。今ならキャスターからの恩恵も魔力のみ。奴を叩く最大のチャンスでもあるってことね…… 総員、銀時のバックアップを最優先!! これがこの特異点、最後の戦いよ!』
戦っているのは銀時たちだけではない。
カルデアから戦場の状況を分析し、適切な指示とバックアップをオルガマリーたちはこなしていった。
「皆さん構えて! 来ます!」
「わーってる! マシュ!」
「はい!!」
大量な上に巨大な触手が銀時たち全員を押し潰そうと降りかかる。
そこでマシュは銀時の指示に従い、宝具を発動する。
「
触手は宙で止まり、マシュが抑え続ける。
これだけの質量を抑えるにも、相当の負担がかかる。
だが、それでもマシュは倒れない。
「くうううううう!!」
「おのれぇ! これを抑えるというのか。だが、長くは続くまい!」
「いいや、充分よ! あとは任せなさい、マシュ!」
エリザベートが動き、それにアマデウスも続いていく。
「召喚されたばかりの時は、カーミラを倒せればどうでもいいと思ってたけれど、今日は特別よ!!
「ああ、無論だとも!! 余裕で併せるさ。天才だからね、僕は!!」
「
「
具現化されるチェイテ城を背景にエリザベートは自由に歌い、アマデウスは音楽を奏でる。
時代を越えて為された奇跡のライブが海魔を宙へと圧し返した。
「馬鹿な!! この巨大質量を浮かせただと!? だがそれがどうしたと言うのです!!」
海魔は宙を浮き、どうすることも出来ず触手をバタつかせる。
やがて、重力に従い、そのまま後方へと落下した。
だが、それだけだ。
大量の触手で押し潰すことには失敗したが、海魔は、ほぼ無傷だ。
こんなものその場凌ぎに過ぎないとジルは笑った。
「はあ、はあ…………」
「ご苦労様でした、マシュ。次は私の出番ですね」
肩で息をするマシュに清姫が労いの言葉をかけつつ前に出た。
そして扇子を海魔へと向ける。
「この度の現界で、私は多くのものを得ることができました…… その中には理想の── いえ、それはいいでしょう」
清姫は何か言いかけたが、首を横にふる。
そしてチラリと銀時の方を見て、秘かに笑った。
「きっと幻滅なさるでしょうね…… ですが、これも友の為。見せましょう、私の宝具── これより逃げたる大嘘吐きを退治します…… !!」
清姫の体がチリチリと燃え始める。
やがて焔は全身を包み込み、人形から大蛇のような形へとへと変貌していった。
「
炎の蛇は海魔へと食らいつき、巨大な体躯を締め付けていく。
「ギアアアアア!!」
海魔は、焔に焼かれ悲鳴を上げ、動きを止めた。
だがこちらの攻撃はまだ止まらない。今度はゲオルギウスがゆっくりと前に出る。
「信仰ゆえの瀆神。愛ゆえの憎悪。ジル・ド・レェ。キャスターである貴方とは面識はありませんが、私はこの時代の貴方と短くも同じ時を過ごしました。それゆえに貴方がこのように堕ちたことを私は悲しく思います。ですが、民を害することを赦すわけにはいかない。守護騎士の役目、今こそ果たしましょう」
ゲオルギウスは動きを止めた海魔へと剣を向ける。
すると剣は大きく光だし、
「
海魔の肉体に一瞬だけ竜を模したような光の刻印が走った。
だが、それ以外に海魔にこれといった変化は見られない。少なくとも表面上は
「私にもジークフリート殿と同じく、竜殺しの逸話があるのです。そして竜殺しには得てして竜に関する宝具がある。私のソレは敵対者を一時的に竜と定めるモノ。そして彼の剣は竜なるモノを滅ぼす力を持つ!!」
ゲオルギウスが下がり、今度はジークフリートが前に立つ。
既に彼には銀時を通してカルデアから魔力が流れ込んで来ていた。
全身に溢れる力を感じると共に剣が大きく光だす。
「善と悪は表裏一体。立ち位置で変わってくるモノだ。だから俺は彼を悪と断じて斬ることはない。ただ………… 今は、友の為に剣をふるおう。善でも悪でもない。俺の信じる正義に従って── !!」
「
青き光が大地を抉り、海魔へと降りかかる。
肉体は光に呑まれ、ボロボロと崩れていく。
「オオオオオオオオォォォォ!!!」
「聖杯を持ってしても再生が追いつかない………… !! この匹夫共めがあ!!」
異形の肉塊はその大半が削られ、中にいたジルを剥き出しにする。
直ぐにでも再生をしようとジルは動くが、このチャンスをジャンヌは見逃さない。
「ジル!!」
「おお、ジャンヌ!!」
そのままジルへと駆け、その旗の穂先を──
「………………… なぜ、なぜ何もしない? その旗で私を穿つのではなかったのですか、ジャンヌ!」
だがジャンヌは止まった。
ジルの前に立ち、旗を下ろす。
「いいえ。私はもう、貴方を一人にはしない。
「何を──── !?」
ジャンヌは旗、ではく剣を構える。
剣の名は聖カトリーヌの剣。ジャンヌは鞘ではなく、刀身を握る。
「主よ、この身を委ねます」
辞世の句を告げたと同時。巨大な焔がジャンヌもろともジルと海魔を呑み込んだ。
「こいつは………… !!」
「っ!! こ、これは!? ドクター! いったいジャンヌさんになにが!」
予想外の事態に銀時は、一瞬、驚くも何かを察する。
だが、全く事態を掴めないマシュは叫び、ロマニに問いかけた。
「これは……… 宝具だ!! 彼女は二つの宝具を有していたんだ。だがこれは………」
ロマニが何かに気づき、黙ってしまう。
「ドクター! いったいどうし──」
「皆さん!!」
「っ! ジャ、ジャンヌさん?」
焔の中からジャンヌの声が聞こえてくる。
「申し訳ありません! 本当はちゃんと話すべきでした。でも、これは私が決めたこと」
「なにを……」
「この宝具は発動を終えた後、私自身の霊器を消滅させます。つまり、これでお別れということです」
「っ!?」
『宝具
ジャンヌが迎えた最期という概念を結晶としたモノ。
己の生命と引き換えに生み出す焔が敵対するあらゆる者を燃やし尽くす。
しかし、その概念故に発動後に彼女は必ず消滅することになるのだ。
「そんな…… ジャンヌさん。ジャンヌさ── 先輩!?」
焔へと向かい駆け寄ろうとするマシュの肩を掴み止めたのは銀時だった。
何故どうしてと狼狽えるマシュに銀時は何も答えない。
ただ黙って燃え続ける焔を。ジャンヌを。決して彼女から目をそらそうとはしなかった。
「お、お、おおおおおおおお!!!! なんと、なんということを!! こんな理不尽があってたまるか……… !! 英雄の誇りたる宝具が、こんな忌むべき焔に仕立てあげられるなど!! それを、それを何故、貴女はあァァァ!!!」
焔に焼かれ、消滅していく恐怖よりも、ジルは怒りに叫んだ。
敬愛せしジャンヌを穢す神を。その宝具を使うジャンヌを。
何故だとジルは叫び続ける。
「私はあの結末を知っていました」
「っ!?」
「あの日、主の嘆きを聞いた時から、私の結末はわかっていた。それでも目を逸らさぬと。人を殺め、異国の民を敵と定め、罪を犯しながらも、正しい道に繋がると信じて、あの結末まで進んでいったのです」
「そ、そんな…… ! そんなことが! あって、たまるか! あんな末路! 間違いだ! 貴女が報われない結末など!」
いつの間にか、ジルのめからは涙が溢れていた。
怒りと共に悲しみの感情が溢れてくる。
ジャンヌは紛れもない聖女だ。誰かの為に身を捧げ、誰かの為に血を流す。
何時だって彼女は自分以外の為に生きてきた。
そんな彼女が何故、こんな酷い結末を受けなればいけないのか。理解できなかった。
「ジル。報われていないなど…… そんなことはありません。私の末路がなんであれ、私には救えた命がありました。そのおかげか、この道は続いた。この国は終わらなかった」
「ジャンヌ……」
「私の死後も、悲劇と犠牲を払いながらも、それでも遠く! 遠く! あの子達の時代まで…… !!」
ジャンヌは笑う。
ジルは涙を流しながらもジャンヌの言葉に静かに耳を傾ける。
最早、焔によって消えていく体のことなど二人は気にも止めなくなっていた。
「でも、心残りが一つ。ジル………… 私は、貴方を一人にさせてしまった」
「っ! それは、違う! 貴女がではない! 私が貴方を一人にしてしてしまったのだ! だって私は貴女の死に際にすら立ち会えなかったのですから!!」
「ふふ。考えることは同じですね。友が故、でしょうか? ジル、貴方は覚えていますか? あの戴冠式での光を」
「そんな、忘れるはずがない! あの光景を忘れぬものか!」
何があろうと消えぬ二人の記憶。
共に列席したランスの戴冠式。ジルにとってそれは決して穢されぬ誇り。
そしてそれはジャンヌも同じで。
「それでいいのです、ジル。惨めな末路と言われようとも。罪が消えなくとも。私たちは共にあの光を覚えている。ありがとう、私の友達。ありがとう、我が友、ジル・ド・レェ。さあ、還りましょう。在るべき
「ジャンヌ…………」
焔がより強さを増していく。
そしてより大きく膨れ上がり、二人を呑み込んだまま消滅した。
戦いは終わった。
ジル・ド・レェ。そしてジャンヌの消滅をもって。
「先輩………… ジャンヌさんは、どうして……」
「野郎を倒した所で聖杯を化け蛸に残されたら、いよいよ手に終えなくなる…………」
ジル・ド・レェを一人、仮に消滅させたとしても、最悪の場合、聖杯を怪魔に託される可能性があった。
そうなれば無尽蔵に流れる魔力によって不死身の怪物が完成し、この特異点は完全に終わる。
ジャンヌはそれを予測していたのだろう。
しかし、理由はきっとそれだけではなく。
「あいつは野郎のダチだった。ダチだからこそ、あいつはテメーのすべきことを、できることをやったんだ。ただ、そんだけだ」
「先輩………… え? 先輩っ! あれは」
それは目を疑う程に綺麗な輝き。
空から落ちるのではなく、ゆっくりと横になって降りてくる。
金色の髪。藍色の瞳。間違えない。間違える筈がない。
彼女は本物の、
「ジャンヌさん!」
マシュは駆け出す。それに他の仲間も続いていく。
「どうして私…… 宝具を使ったのに──」
何故生きているのか。ジャンヌ本人すらも状況を呑み込めていない。
そんな彼女に答える声が一つ。
「やっと…… 届きましたな」
とても暖かい手がジャンヌの手を優しく握った。
「聖杯を使い貴女の霊器を宝具の使用前に戻しました…… ええ…… 私の負けのようです」
そう言葉の通り、彼の姿は既に消えかけていた。
これではフランスを滅ぼすなどもう出来ないだろう。
いや、もうその必要はないだろう。
「ではジャンヌ。私は再び地獄へと。ああ、それでもやっと貴女を。あの、炎から───」
「ジル…… !! ありがとう……」
この特異点で、いや、闇に堕ちてから決して見せることのなかった笑顔を向けてジル・ド・レェはその霊器を消滅させた。
その全てを彼等は見届けた。
ジル・ド・レェの願い。竜の魔女の憎悪。
坂田銀時とマシュ。二人を支えたサーヴァントたちの活躍によって、その全てにようやく終止符が打たれたのだった。