Fate/Silver Order -選ばれし48人目のマスターは銀髪侍- 作:天パ男
かぽーん。
そんな音が聞こえてきそうな気がしたが、気のせいである。
豪華絢爛に作られた巨大なローマ式大衆浴場。
ここにはローマの多くの民たちが賑やかに笑みを溢し風呂に浸かっていた。
そして同じく体を流し、湯船に浸かるのはここでは見慣れぬ余所者、坂田銀時だった。
「ふい~。体が暖まるってもんだぜ~。いやー、流石、皇帝陛下、気前がいいぜ」
銀時は一人呟きながら、ネロの言葉を思い出す。
── うむ! 銀時と言ったな。約束通り、貴殿には報奨を与えよう!! この…… 『テルマエ入浴券 一生分』をな!!
「いやー、本当に気前がいいよ、皇帝は………」
またかぽーんという音がしたような気がした。
「じゃ、ねーーーーだろおォォォォ!!!」
ついに我慢が出来なくなったか。
銀時は水しぶきならぬ、お湯しぶきを上げながら湯船から飛び出した。
瞬間、周囲の客がギョッし、近づくのも危険そうなので銀時から少しづつ離れていった。
「なんだ一生分の入浴券って!? 俺をふやかすきか、あんの糞皇帝!! 小学生へのご褒美じゃねーんだぞ!!」
そう怒鳴りながら銀時は体を流す。
それは入念に綺麗に流す。
体を洗い終えると一旦、浴場を出て、売られていた飲み物を購入。
それを一気に飲み干した。
「ぷはーー! あ、うま。ふざやけがってあの糞皇帝が!! ドラクエの王様じゃねーんだよ! こんなもん五十ゴールド位の価値しかないからね!」
再び怒鳴りつつ、また場所を移し、テルマエに併設されたマッサージ店に行った。
「あんの糞皇帝!! 冬木にいたゴリラ女の2Pカラーみたいな存在の癖に、妙に原作での出番も多いしよ!! あ、そこお願いしまーす。ああ、そこそこ…… まじっ、許さねぇ!! 平民をなめやがって!!」
更に愚痴りつつ、次はテルマエに併設された理髪店に行った。
そこの美容師に髪を切ってもらう。
「あんのチビ皇帝!! 次あったらあのアホ毛引っこ抜いて、ただのオルタにしてやる!! あ、ストレートパーマーでお願いしまーす」
「お客さん…… あんたの毛は毛根から捻れきってるから無理だわ」
そしてテルマエを出る。
太陽の陽射しは眩しく風も気持ちが良い。
ローマを行き交う人々の活気の声も心地よかった。
色々とスッキリとしたなと背伸びをし、そのまま再び、浴場に入ろうと──
「いや、もういいわァァァァ!!」
した所で後頭部をオルガマリーに思いっきり蹴られた。
そのまま顔面から壁に激突するのだった。
周りにはマシュに清姫もいた。彼女たちも入浴券を貰っていたので、テルマエに入っていたのだ。
テルマエ効果で肌がツルツルになったマシュと清姫は満足気の様子である。
ちなみにフォウにも動物用の風呂があったようで、毛並みもツヤツヤになっていた。
「フォー!」
「ふふ。よかったですね、フォウさん」
「混浴がないのは残念でしたけどね」
二人と一匹は銀時とオルガマリーの掛け合いは何時ものこととあまり気にもとめていない様子の中、オルガマリーはツッコミを続ける。
「愚痴愚痴言ってるわりに満喫してるし! マッサージ受けて髪まで整えてるし! 最終的に自分から体、ふやかしに言ってるしィィ!!」
「いたた。バッカ、オメー。これはあれだよ。折角貰ったからには使わなきゃ、勿体ねーだろ。この券、入浴以外にも色々タダで使えるんだぜ? おかけで俺の頭もこんなになっちゃって──」
時は少し遡り、テルマエに併設されたローマ神殿。
『ここは神、ではなく髪をつかさどるローマの神殿。髪を変えたい者が来るところじゃ。天パーはストレートパーマーになりたいのじゃな?』
『はい』
『おお髪よ。天パーが新たな髪型になることをお許しください!』
こうして銀時の頭はストレートになった。
「なに、ドラクエみたいなノリで髪型チェンジしようとしてるのよ!!? ていうか何もチェンジしてないわよ!? なんか他の文ではストレートになったとか言ってるけど相変わらず遊び人の精神並みに捻れきった毛根だからね、貴方!!」
怒涛のツッコミを続け、疲労したオルガマリーは肩で息をする。
するとそこにネロが数人の兵士を引き連れてやってきた。
「おお、銀時たちよ。どうやらテルマエを存分に堪能できたようだな! うむ! 次は余専用の大浴場へと特別に招待しようではないか」
「あー、おほん。ネロ陛下。そのお誘いは大変ありがたいのですが、大浴場への入浴はまたの機会にお願いしたいと思います。実は陛下にお聞きしたいことがありますので、出来るけことならば場所を移し、会談の時間を設けてはいたたげないでしょうか?」
「う、うむ。そうであるか。よい、構わんぞ。では貴殿らを余の城へと招こう」
ツッコミをしていたさっきまではうって変わり、落ち着いた様子で丁寧な話し方をするオルガマリー。
元々、人形のような珍妙な姿をしていることもあって、そのギャップにネロは戸惑うが、オルガマリーの頼みを了承したのだった。
城内 王室
ネロに促されるまま、銀時たちは城内へと入った。
王室には皇帝が座るにふさわしい玉座があり、ネロはそこに腰を落ち着ける。
「うむ。では貴殿らの話を聞こう。そう強張るでないぞ。余は寛大ゆえ、不遜な発言だっとしても、大抵のことならば許そう」
「まじすか? じゃあ入浴券なんてケチらずに現金を──」
「本当に首斬られるわよ、貴方!! オホン! 失礼しました、皇帝陛下。まずは私たちが何者なのかを、改めて話させていただきます」
オルガマリーはツッコミを入れつもも、冷静に続ける。
「私たちはカルデアという魔術を主体とした組織の人間であり、人類を救うために各時代を旅するもの、つまり未来から来た人間なのです」
「なんと!? 未来からとな」
「はい。詳しく話すと長くなるので詳細は省きますが、魔術の力で時間を移動していると思っていただければと思います。そして、私、オルガマリーや姿の見えない男、ロマニのことは魔術師と。銀時たちはその弟子とでも思ってください」
「人類を救うために未来からか…… 随分と大きく出たものだ。ローマこそが世界。ならば余を含むローマに住まう民たちを救うために貴殿らはやってきた。そう解釈してよいのだな?」
「はい、その認識で間違いありません」
この時代のローマは、世界の中心にして世界そのものと言われている。
正しく世界に君臨した最大の帝国。
そんな国が脅かされる等、あるはずがないのだ。
これは間違いなく聖杯の影響で事象に狂いが生じているのだろう。
ならば、後世の歴史に多大な影響を与えた帝国の崩壊を防ぐことが、特異点の修正となるはずだ。
だからネロの言葉は間違いない。
オルガマリーはネロの問いに肯定の返事をし、特異点修正に必要なもう一つの要素について話す。
「そこでなのですが、ローマを守る上で絶対に手に入れなければならない物があります。それは聖杯と呼ばれる特別な力を持った魔術の品です。恐らくではありますが、現在のローマを蝕む原因はこの聖杯にあると思われます」
「なるほど、聖なる杯が、余のローマをか。原因たる聖杯さえ手中に納めれば、この事態は収集するということだな」
「その通りです。だからこそ私たちはその聖杯を求めています。世界を、ローマを守るために。未来から来たことや聖杯のことと、どれも信じがたい話だとは思いますが……」
自分で話しおいて何だが、なんとも突拍子もなく眉唾な内容だろうか。
下手をすれば戯言を話す無礼者とネロの機嫌を損ねかねないとオルガマリーは冷や汗を流した。
しかしネロの反応はオルガマリーの予想とは違った。
「いや、信じよう。余は既に信じがたい光景を何度も目にしているからな。火を吹く少女に巨大な盾を振り回す少女。喋る人形に姿の見えぬ魔術師、珍妙な獣。そして棒斬れで戦うモジャモジャ頭」
「え? 今、モジャモジャ頭って言った? 今、俺のこと、モジャモジャ頭って言ったよね?」
さりげなくディスられた銀時は怒りを露にするがネロは構わず、話を続ける。
「それに余はそなたらと会う前に、既に異常な事態に直面しておる。そう。栄光の大帝国たるローマの版図は、今や口惜しくもバラバラに引き裂かれたのだ」
栄えあるローマがまさかこのような危急の時になるとは、ネロは夢にも思っていなかった。
しかしその最悪の夢は現実となってしまった。
「かたや余が統治する正統なるローマ帝国。そして…… かたや何の先触れもなく突如として姿を見せた余ならぬ複数の『皇帝』どもが統べる連合、『連合ローマ帝国』!」
『複数の皇帝だって!?』
ネロの話を聞いたロマニが驚きの声を上げた。
「うむ。奴らは…… いや、流石にこればかりは信じがたいが、過去に死したローマ皇帝であると名乗っているようなのだ。それに斥候から得られた数少ない報せによると── いや、何でもない。忘れよ。これだけは決してあり得ぬ」
『過去に死した…… 間違いない。サーヴァントだ。フランスの時と同じ』
ネロは何か言いかけたが直ぐに止めた。
ロマ二はフランスの時のように強力なサーヴァントが敵にまわった可能性に息をのむ。
「既に連合ローマ帝国によって帝国の半分は奪われた。余の軍は反撃をしようにも敵の首都さえわからず、数では劣り、防戦で手一杯なのだ。挙げ句の果てに先刻のように連合の遠征軍が首都に迫る始末。口惜しいが…… 思い知らされた。最早、余ひとりの力では事態を打破することはできまい。故に、故にだ!!」
ネロは息を一度吸い込むと、意を決したように玉座から立ち上がり、声高らかに叫ぶ。
「貴公たちに命じる、いや、頼もう! 余の客将となるがよい! ならば聖杯とやらを入手する目的を、余とローマは後押ししよう!」
「…… たくっ。小難しいことをベラベラと」
「む………」
「ちょっ、銀と、き……」
またなにか余計なことを言うのかとオルガマリーは身構える。
しかし銀時の真っ直ぐな瞳を見てオルガマリーは黙った。
「ただの偉そうな小娘かとも思ったが…… 他人に頭を下げられる位の気構えはあるじゃねーか。いいぜ、その話、乗ってやるよ」
「よいのか…… !」
「ああ。俺は万事屋だ。頼まれれば何でもやってる。その代わり、聖杯のことは勿論、報奨はたんまり貰うぜ、ネロ」
「…… 勿論である! その暁には、銀時、そなた専用浴場の建設をしよう!」
もう風呂はいい! という銀時のツッコミはありつつも、こうしてネロと銀時たちの一行の共闘は成立するのだった。
「宴だ~!!!」
ドンッ!!
城内にて催された宴。そこには豪華な食事に上質な酒が用意され、余興として麦わら帽子を被った芸者が手足を伸ばす手品で場を盛り上げていた。
集められたのはネロを筆頭にローマが誇る将軍や兵士たち。
そして共に戦うことになった銀時たち一行である。
「いや、なにこれ」
そんな光景を見て、オルガマリーは白眼を剥いて固まっている。
そこにネロがやってくる。
「楽しんでおるか、オルガマリーよ! 戦時故に普段通りの規模は出来なかったが、贅を尽くした宴を催したつもりだ。今宵は存分に楽しむがよい」
この宴は客将となった銀時たちを歓迎し、尚且つ、軍の士気を上げるための催しでもあった。
オルガマリーは特異点修復のための戦いの最中にこんなことをしていいものかと悩んだが、銀時たちはそんなことは関係なしと酒を飲み飯を食らっていた。
「ぷはー!! いや~、流石は皇帝陛下ですわ。こんな旨い酒、中々呑めないよ~。レアだよ、レア」
「ふふ、そうですわね。ささ、旦那様。私がお酌を……」
「清姫さん、先ほどお酒に入れた粉はいったい何の薬ですか?」
銀時は既に出来上がっているのか、顔を真っ赤にし、酒をガブガブと飲み続けている。
オルガマリーはそれを見て、もういいやと半場諦め、食事をしようとテーブルに並べられたメニューを見た。
「えーと…… これはなんの料理かしら?」
「それはキノコ炒めなのです」
「へー。じゃあ、これは?」
「キノコのあんかけです」
「これは?」
「キノコのステーキです」
「これは……」
「キノコ○やまです」
近くにいた料理人らしき女にオルガマリーはメニューを名を聞いた。
しかしその内容はキノコばかりで──
「いや、もういいわァァァ!! え? なにこれ、ここはローマじゃなくてキノコ王国!? 端から端までキノコに侵食されてんじゃないのよォォ!!」
「当然です。キノコは素晴らしきローマの名物料理。さあ、ゴタゴタ言わずにお前さんもアタシの作ったキノコを食べるのです!」
「ちょっ、止めなさいよ! なんか貴方の作ったキノコとか毒ありそうだし、絶対嫌── って押し込もうとするな! ちょっ、まっ!」
オルガマリーか命に危機に瀕している傍ら、銀時たちは自由気ままに楽しんでいる。
「旦那様、マシュさん。さっきローマ土産でキノコが売っていたので買ってきました。今度これでキノコの炊き込みご飯でも作りましょう」
「いいですね。私もお手伝いします」
「すいませーん、ドンペリ追加で! ドンペリーヌ!! おい、ネロ! お前もこっちに──」
ここぞとばかりに酒を呑みまくる銀時は、この宴の主催者であるネロを呼ぼうとする。
だが、当のネロは心ここにあらずといった様相で窓から溢れる月の光を眺めていた。
「…… ?」
「伯父上…… 余は」
「おい、ボーッとしてどうした、ネロ」
「む、ぎ、銀時。いや、何でもない。すまぬな、楽しい宴の時に、つい呆けてしまった」
ネロは何か一人呟いてた様子だったが、首を横にふり、酒を手に取った。
「早速でそなたらにはすまぬが、明日はガリアへと遠征に行くことになる。故に今宵は共に酒を呑み、英気を養おうではないか」
「そうかい。なにも問題がねーのならいいんだが………… 俺たちはもうローマの将軍なんだろ? だったらテメー一人で抱えこんでねーで、何かあればぶちまけとけ」
「うむ………… すまぬな、銀時。だが、余は大丈夫だ」
そしてネロは酒を呑み、適当な料理をとって口に運んだ。
銀時もこれ以上は余計なお世話かと特に深く聞きはしなかった。
そして後日、銀時たちはローマ軍として初のガリア遠征に参加することとなる。