Fate/Silver Order -選ばれし48人目のマスターは銀髪侍- 作:天パ男
──ガリア
連合ローマ帝国によって占領されていた地。
当然取り戻そうと、既にネロの正式なローマ軍が幾度も攻め行ったが何れも返り討ちにあっていた。
しかし、今回は違う。
「ははははは。今こそ勝利への凱歌の時だ。さあ覚悟せよ、忌むべき圧政者たちよ。勝利は我が手に。すなわち、強者の潰える時が来たのだ!」
「スパルタクス! そっちじゃないから、こっち!」
大男、スパルタクスが笑いながら連合軍を蹂躙していく。
「清姫、キミは左を──」
「承知しました! 旦那様ぁーー!! あ い し て ま 『おらあぁぁぁ!!』ぐほぉ!?」
「銀時、一応それ味方ぁ! 清姫も銀時のほうに向かっていかない!」
銀時に容赦なく蹴りを入れられた清姫は、連合軍を巻き込んで吹き飛んでいった。
「「ぎゃあぁぁぁぁ!!」」
ツッコミと同時に連合ローマ帝国軍兵士の悲鳴が響き渡っていった。
はっきり言って阿鼻叫喚の地獄絵図。
通常の戦争ならば剣と剣、槍と槍がぶつかり合う泥臭いモノだ。
しかし連合ローマ帝国軍が相対する敵の兵士はいつもとはうって変わり、炎やらバカデカイ盾やら、純粋な筋肉やらで戦ってくる。
その上、ボケやツッコミを仲間内でしている程までの余裕すら見せてくる。
まるで虫をはらうかのように突きすすむネロ率いるローマ軍。
これには連合ローマ帝国軍の兵士たちはたまらず、肉体的ダメージよりも精神的ダメージの方が大きくなっていくのだった。
「申し上げます、皇帝陛下。敵軍の攻勢が増しています! 何やら珍妙な格好で意味不明な言動をしながら攻めてきているとのこと。おそらくは『特別』な力を持った、敵軍の将軍たちではないかと思われます」
ネロ率いるローマ軍の怒涛の進撃。
伝令兵である連合兵士は、ガリアに駐屯している連合ローマ帝国軍の将であり、皇帝の一人である、ふくよかな体型をした男へと知らせる。
「そうか」
「はい」
本来ならば多少は焦るモノだが、男は適当に頷いて見せた。
これには報せを伝えた兵士も思わず、一言だけ返してしまうが、慌てて、聞き直す。
「し、失礼ながら、皇帝陛下。我々は如何いたしましょう」
「撤退しろ」
「はっ! は………… ?」
皇帝に対し、あまりにも不敬ではあるが、兵士は呆けた顔で固まってしまった。
しかし男は特に気にした様子もなく続ける。
「言葉が足りなかったな。私を除き、全ての兵士は撤退せよ。サーヴァントの相手はサーヴァントにしか務まらん。如何にお前たちが屈強な兵士だとしても、神秘を持たなければ意味がない」
「し、しかし! 我らは真に正当たる連合ローマ帝国の兵士です! ガリア支配は神々の意図なれば。撤退などありえません!」
「阿呆が。死に急ぐか。サーヴァントに人間は勝てん。何度も言わせるな」
「で、てすが……」
男の命令に、それでも兵士は頷くことができない。
彼らはこのガリア支配においては特に、命をとして戦うことこそがローマ人の誇りであり使命だと思っている。
それ故、彼らからしてみれば、敵前逃亡等、恥ずべき行為であり、死んだ方がマシだとすら思っている。
それを男は理解していた。
だからこそ、これ以上の問答は無意味だろうと、ため息をつく。
「わかった。ならば命令だ。適度に戦え。良いか? 適度に、だぞ。貴様らの死を私は望まん」
「はっ! 全力を以て!」
根負けし、改められた命令を受けると、兵士はさっきとは打って変わり意気揚々と戦場へと向かっていった。
「と、言っても………… 死ぬのだろうな。貴様たちは。まったく……… 私が言うのもなんだが、あの御方の酔狂も大概だ。完璧な統治。完璧な統率。しかし、それは意志のない群大でもあろうに」
男は本心から兵士たちの末路を憂い、そして連合ローマ帝国へ秘かに感じていた歪みを口にした。
兵士たちの忠誠心、練度の高さ、自己犠牲を惜しまない精神。
どれを取っても文句のつけようがない。
だがそこに未来はあるのか? と男は思ってしまう。
一人一人に意志がなければ、個の思いがなければ、文化の進化はそこで止まってしまうのではないか?
しかし、それは確かに平和なのかもしれない。一人一人が同じ考えを持って同じモノを崇めれば争う必要はないのだから。
「しかし、まあ………… 私が言えたものではないし。止められるモノでもあるまい」
例え皇帝としての特権を持っていようとも彼らの歩みを止めることはできない。
強制することは出来るだろう。だが、信念までは曲げられない。己には権力があっても彼らの心を和らげることは出来ない。
ならば自身は残って敵を討つだけだ。
面倒には思うが、全ては自身の持つ願いを叶えるために。
ネロ率いるローマ軍は連合の兵士たちを次々に蹴散らしていく。
無論、連合ローマ軍の兵士たちも何の策もなく倒されるつもりはない。
神秘の持たない彼らはローマ軍のサーヴァントに攻撃が通らないとわかると、予め用意しておいた本来ならば存在しない兵器を導入する。
「ゴーレムよ、前へ!!」
それは人間の簡単な指示に従い動くロボットのような兵器だった。
生物ではなく、かといって機械でもない。
その正体は、平均的な一般男性よりも一回り大きく、全身が岩で出来た怪物、ゴーレム。
連合ローマ軍の兵士たちを背に、十体程のゴーレムが銀時たちへと向かっていく。
『あのゴーレム…… 恐らく敵の魔術師、下手をすればサーヴァントによって作られた代物の可能性がある。ゴーレム事態は珍しくはないけど、充分に注意してくれ』
「了解しました、ドクターロマン。マスターとネロさんは下がってください! ゴーレムの相手は私が」
「私も行きます!」
マシュと清姫が前に出る。
迫りくるゴーレムに向け、清姫は火球による遠距離攻撃をし、足を止めた。
動きが鈍った所にマシュの大盾による凪払いでゴーレムを一掃していく。
「ゴーレムですら歯がたたんとは……」
「怯むな!
連合の兵士たちは投入したゴーレムたちがローマ軍に対してあまり効果が得られなかったことに一瞬たじろぐが、自軍が信仰する、ある者を思い浮かべ士気を保つ。
「サーヴァントは鎧を加工した重装ゴーレムに任せ、通常の兵士は皇帝ネロと異国の銀髪の男を重点的に狙うのだ」
連合の指揮官の命令を受け、今度は岩に加えて鎧を加工して作られた特別製のゴーレムが前に出てきた。
ただ鎧を加工するのは難しかったのか、形は岩のゴーレムよりも歪で人形をまともに保っていなかった。
四足歩行だったり、片腕がなかったり、そもそも頭がなく手探りで向かってくるモノもいた。
「むう、芸術性の欠片も感じられぬ! あれを作った者の程度が知れるな!」
『それについては同感だね! 一応、鎧を加工している分、通常よりは固く頑丈なのだろうけど。物作りに当たって、性能さえ良ければ良いというものではないだろうに! あれの作成者はかの英雄、アヴィケブロンを見習ってほしいものだ!』
不格好なゴーレムを見て芸術的思考の持ち主であるネロとダヴィンチは軽く怒りを覚えてしまった。
しかしそんなことは、他の者にとってはどうでもいい。
特にこのサーヴァントには、
「はははは!! 素晴らしい! 此処には全てが在る。圧政者の魔手と化した敵兵共よ! 勝利の凱旋へと導く、この刃を持って彼方へと潰えるがいい!!」
サーヴァント、バーサーカー。真名をスパルタクス。
トラキアの剣闘士にして、第三次奴隷戦争を戦い抜いた英雄。
戦闘経験などない、奴隷はおろか、子供や老人までもが集まった反乱軍。
そん彼等を指揮し、どんな逆境であろうとも、諦めずに立ち向かい、必ず勝利へと導いた希望の戦士。
そんな彼だが、現在は精神を狂わせるバーサーカーとしての現界ということもあり、制御が効きづらい面がある。
意志疎通事態は可能ではあるが、叛逆精神があまりにも強く、少しでも圧政を感じれば、何者の制止も振り切って叛逆を決行しようとしてしまう。
そんな彼が暴力を持って強行に出る連合ローマ帝国を前にして黙っていられるはずもなく。
ネロの指示を仰ぐことなく、勝手に前へ前へと進んでしまう。
「ぬん! 圧政を感じさせる堅き装甲! しかし、しかし! はははは!! この程度の圧政で我が進撃を阻むことはできない!」
スパルタクスの剣や拳でも一撃では倒れない鎧のゴーレム。
しかし一撃で倒れないのならば倒れるまで何度でも攻撃すればいいと、単純思考でスパルタクスは追撃する。
猪突猛進に一体のゴーレムを相手にしている間、当然他のゴーレムからの攻撃を受けるが、スパルタクスはそれでも止まらず、いや構わず続け、確実に一体ずつ破壊していった。
「もう! スパルタクス、また勝手に……」
「いや、あの感じならあいつに任せた方がいいんじゃねえか? 見てみろ」
ブーディカは独断行動を続けるスパルタクスを呼び止めようとするが銀時は、まったをかけた。
「スパルタクス将軍に続け!! ネロ皇帝陛下のお手を煩わせるな! 連合に与する愚者共を許すな!!」
ローマ軍の兵士たちは、狂化されていても失われないスパルタクスのカリスマ性と熱気により、士気を大きく向上させていく。
スパルタクスの背に続くように前進し、連合ローマ軍の兵士とぶつかり合った。
「銀時の言う通りであろう。そなたらの力はこの先に待つ、僭称皇帝へと向けるべきだ。
「はっ! 栄光足るネロ陛下の直々のご命令、見に余る幸せ。必ずやご期待に添えます」
ネロの命を受けたのは、サーヴァントではない、この時代の人間であり、正式なローマ軍の兵士。
ただし、ただの一兵卒ではない。
戦場に立ちつつ、直接敵と戦闘を行う部隊の陣頭指揮を担当する指揮官クラスの兵士だ。
連合ローマ帝国に寝返った者や戦死してしまった者も多い中で、生き残った数少ない優秀な兵でもある。
彼はガリアを取り戻すという栄誉在る戦場で指揮を任されたこと、そして皇帝直々に命を受けたことに感極まり、声を震わせてこたえた。
「うむ。頼んだぞ!」
スパルタクスを筆頭に士気を存分に上げたローマ軍の兵士たちが剣をふるう。
ネロは戦いの様子を見届けつつ、連合ローマ帝国の皇帝を語る不届き者へと向かって前進を続けた。
座して待っていた男はついに剣を握る。
ただし、本当に面倒臭そうにしながら。
「さて、一つ聞いておきたい。ガリアでの結末はどうなるか。全てが統率された完璧な軍隊、連合が生き残るか。それとも………… バラバラでいい加減、空飛した個性を持ったローマ軍が生き残るか── 貴様はどう思う? 異世界から来た男よ」
皮肉にも、完璧なる連合を打ち破ろうとしているのは、まるで理解できない個性の塊の珍妙集団だ。
いったいどちらに軍配が上がるのか。どちらに神は微笑むのか。
男は心底面倒そうに、しかしニヤリと笑って、伝令兵からの報せが来てから、僅か数分で、己の前へとたどり着いたネロ率いる精鋭たちの将軍へと問いかけた。
「あ? 決まってんだろ。勝つのは連合でもローマ軍でもねぇ。俺たちカルデア組が一人勝ちして、手柄総取りすんだよ」
「マ、マスター!? そのような話は、マスターのサーヴァントである私も聞いていないのですが……」
ネロ率いる精鋭。
そこにはいたのは事前に情報を得ていた異世界のマスターと、それが率いるサーヴァントが三騎。あと珍妙な生き物とそれに股がる人形。
聞いていた情報よりも大男のサーヴァントが一騎足りないが、一兵卒の相手でもさせているのだろう。
その姿と言動を見て男は成る程、確かに珍妙な連中だと納得する。
「がはっ…… も、申し訳ありません。皇帝陛下…………」
彼らの前には先程、報せを送った兵士が転がっていた。
鎧はボロボロになっており、直ぐに立てるような状態に見えなかったが、絶命するまでには追い込まれていないようだった。
「これは予想が外れた。さては貴様、甘いな?」
「え? うそ、俺が糖分好きだってバレてる? まじ? もしかして匂う?」
「多分だけど、そうじゃないと思う」
銀時の素っ頓狂な反応にブーディカは冷静に返した。
男はそれを見てフッと笑う。
「良い、良いぞ、異世界から来た客将よ。例え、戦場であろうとも雄弁でなければならん。将の精神が落ちれば兵士の士気にも影響が出る。将たる者、常に傲慢、それでいて図太くあれだ。さて、貴様はどうだ? 我らのローマを継ぐ、美しき者よ」
「─────っ」
男は今度はネロへと問いかけた。
しかしネロは何も応えず、それどころか男を見て言葉を詰まらせてしまった。
所詮、敵は皇帝を僭称する不届き者でしかない。
今でもネロはそう信じている。
だが、目の前の男から感じられる気迫。だらけっきている様に見えて決して隙はなく。
そんな男を見て、ネロは正しく王の風格を感じてしまった。
それに、何故か、己に流れるローマの血が、目の前の男をただの偽物ではないと訴えているような気がしたのだ。
「なんだ? 何も語らぬのか? ならば、せめて名乗りを上げよ。それとも貴様は名乗りもせずに私と刃を交えるか? それが当代のローマ皇帝の在りようか」
男の煽るような物言いに、ネロは意を決する。
そうだ。己は真に正しきローマの皇帝。
ならば何も臆することはない!
「── ネロ。余は、ローマ帝国第五代皇帝。ネロ・クラウディスこそが余の名である!」
「良い名乗りだ。そうでなくてはな。さて、名乗りを上げたのならば此方へと進むがいい。既に賽は投げられたのだからな。我が黄金剣、
ガリアでの戦い。
この場における大将との戦いが始まった。
──激戦が続いていた。
男の剣と銀時の木刀がぶつかり合う。
刀身越しに睨み合う二人。しかし互いに口元はニヤリと笑っている。
「ふっ…… 中々にやるではないか、異世界からの客将よ」
「はっ、お前もな。御大層な腹をしてるわりには随分と身軽じゃねーか」
その後も続いていく攻防。
男が剣をふるえば、銀時は紙一重でかわす。
逆に銀時が剣をふるえば、男もまた、体型に似合わず、華麗にかわす。
銀時の型に嵌まらない戦い方に男は、多少翻弄されることはあれど、直ぐに対応し面白いと笑ってみせる。
銀時もまた、戦い慣れないふくよかな体型の敵に戸惑うことはあれど、そういえばラッキー・ルウの食ってる肉って、あれ全然減らないけど、どうなってんの? と全然関係ないことを考える余裕があった。
「ははは!! 素晴らしいぞ、異世界の客将! はあーーー!!!!」
ボッ!!
男の体からオーラーのような光が出てきた。
そしてシュワンシュンと効果音をたてて、男は空を飛ぶ。
「破壊を……… 楽しんでじゃねーーぞおォォォ!! ◯王拳十べぇだあァァ!!」
銀時もパワーを全快にし、銀色の髪を金髪に変化させれ飛び上がった。
ビッ! ブブブッ!! バシババシ! ビビッ! ブオッ!!
バッババッ!! ビッ!! ガッ! バチン! グッ! シュパッ! ブンッ! シャッ! シュッ!ガガッ!! ブアァァァッッ!!
拳と拳がぶつかり合う、熱い戦い!!
「オオオオ!!」
「ぶるあァァァァ!!」
これぞ正しく天下分け目の超決戦!!
「じゃねえェェェェ!!」
バキンッ!!
「ナッパ!!?」
次の瞬間、銀時の顔面が地面に深くめり込んだ。
それは敵による攻撃ではなく、オルガマリーによる後頭部への体当たり(ツッコミ)によるもの。
「え、なにこれ? なんで劣化ドラゴ◯ボール始まってんの!? いや、始まってすらいないけどね、実際は! あなたたち、ずっと座禅組んで唸ってただけだし!」
オルガマリーのツッコミ通り、先程までの戦いは全て銀時と男の妄想、いやイメージでしかなかった。
「いたた。え、お前ナメック星編見たことねーの? 強さを極めればな、人はイメージだけで戦うことができるんだよ。わかる? エヴァンゲリオンイマジナリ~」
「異世界の客将の言う通りだ。これぞアディショナルインパクト」
「今すぐ貴様らにセカンドインパクト起こしたろか?」
銀時はおろか、敵の男までボケはじめ、オルガマリーはキャラを忘れてツッコミを入れた。
しかし銀時は悪びれもせずに続ける。
「あのな、本格的な戦闘描写が許されるのはジャンプみてーな本格バトル漫画だけなんだよ。
「だからって他所様から借りパクしていい理由にはならねーわよ!」
「そう騒ぐな、異なる時代の人形娘よ。しかし、異世界の客将よ。人形娘の話にも一理ある。ここは真面目に剣で語り合おうではないか」
「ちっ。仕方がねーな」
そしてしばらくの時間が経った──
「へへ…… これでオラにはハナクソをほじる力も残っちゃねぇや……」
「…… この私が…… なんとぶざまな…… というやつか……」
二人はボロボロの体になり、天を仰いで地に倒れていた。
「一分たりとも経過しとらんわあァァァァ!! なに雑なナレーションで済ませようとしてんのよ!」
しかしそれもまた妄想であった。
「ま、待ってくれ…… グリリン。すまねえが、俺たちを見逃してやっちゃぁくれねぇか? もう作者も俺たちもシリアス展開についていけねーんだ」
「知るかあァァ!! グリリンじゃねーし! いいから起きさない! あなたたちが戦わないと話が進まないのよ!」
オルガマリーに怒鳴られ、二人はヤレヤレと立ち上がる。
「まったく…… 時代が違えば余興を楽しむ余裕すら持たないものか。まあ良い。異世界の客将よ。そろそろ私も本気とやらを出すとしよう」
男の右手が突如として巨大な腕に変化した。
いや、正確には変化ではなく、男は左腕に大理石で作られた鎧を纏ったのだ。
男の変化に通信越しにロマニは驚く。
『魔力値が上昇した…… ! みんな、気をつけるんだ!』
「わかってるわ。銀時、いい加減ボケは終わりよ! マシュたちも構えて」
「へいへい」
「はい!」
男が動き出す──
「っ!」
と思った時には既に男はまず清姫へと迫っていた。
清姫は咄嗟に後ろへ下がり、ギリギリで剣を避ける。
「こんのッ!」
「おおっと! 火を出すとは、道化も顔負けの奇術だな」
カウンターで火をぶつけるが、右手で受け止める。
大理石でできた左腕は非常に頑丈か。
本人は全くダメージを受けている様子はなく、涼しい顔で、後方へと戻っていく。
だがそう簡単に逃がすマシュやブーディカではない。
隙が出来たと二人は盾と剣を男へと向ける。
「まさか盾で殴りかかってくるとは。その美しい様相からは想像できんな。実に情熱のある力強さだ」
しかし男はヒラリと踊るように二人の攻撃を難なくかわしていく。
そして再び後方へと下がるついでに、その大理石の右手拳をマシュへと振り下ろした。
当然盾で防御するが、勢いは殺せず、そのまま背中から地面で吹っ飛ばされてしまう。
「がはっ!」
「マシュ!」
「ふむ。貴様ら、随分軽そうな体をしているが、速さでは私の方が上だな。とはいえ、数ではやはり不利がありすぎる。仕方がないか、では面倒だが……」
男は右手を大きく振りかざす。
そして勢いよく地面へと叩きつけた。
「うおっ!」
「きゃあ!」
「むう!?」
「マスター、所長!」
「ああもう、ネロ!」
その拳は非常に強力で、地面に小さなクレーターが空き、地面が揺れた。
土誇りで視界が悪くなる。しかも石といった破片まで飛び散るオマケつきだ。
つぶてごとき、マシュたちにはあまり問題はないが、非サーヴァントである銀時やオルガマリー、ネロに当たれば致命傷になりかねない。
マシュやブーディカは自身よりも二人を優先して守った。
「お二人は旦那様たちをお願いします! この男は私が──」
清姫が今度こそ、男を仕留めようと動くも足を止めた。
砂ぼこりで晴れ、視界が開けた瞬間、目の前に映ったのは男の姿ではなかった。
「重装歩兵── 前へ」
数にして五人程。
巨大な盾を構え、槍を向けて前進する兵士たちの姿がそこにはあった。
決して多くはないが、突然として現れた兵士に清姫は面食らってしまう。
「くぅ! シャアッ!!」
「──ッッ!!」
だが黙ってやられる清姫ではない。
さっきのようにカウンターで兵士たちに炎をぶつけた。
盾で防御はしたが、男の右手程の頑丈さはなかったが、兵士たちはたまらず後ろへ倒れた。
「不意をついたつもりだったんだがな…… 美しい様相をしながら、中々どうして戦い慣れている」
兵士たちが倒されたことに対し、男は気にした様子もなく、それどころか余裕の表情で清姫を評価している。
それもそのはず、彼らは人間ではない。
「今のは……」
『恐らく、敵サーヴァントの能力の一つだ。一時的に兵士の形をした使い魔を作り出し、使役しているんだろう。恐らく簡単な動きしかできない、人形のようなモノだとは思うけど』
清姫の疑問にロマニが答えた。
「姿なき者の推測通りだ。あれらは私の代わりに働く兵士。これが本来あるべき形というやつだな。そもそも…… 名将たる私に一兵卒の真似事をさせること自体、最適な人材の運用とは言えんしな」
「こんなに強烈な剣をふるっておいてどの口で……」
「相手にしない、マシュ! 多分だけど、こいつ、口が達者なタイプだから。下手すると口車に乗せられるよ」
顔をしかめ珍しく悪態をついたマシュをブーディカがいさめた。
「酷い物言いだな。それでは私がまるで詐欺師のようだ。そもそも、皇帝たるもの、口がまわるのは当然であろうに」
「何が皇帝か…… ! 偽の皇帝の癖に」
あくまでも未だに皇帝を自称する男にネロは歯を噛みしめて睨んだ。
だが、怒りに身を任せ、無闇に飛びかかるような真似はしない。
カリギュラの時のような醜態を真の皇帝として二度も見せる訳にはいかない。
だが──
「偽、か。それは見当違いだな、ネロ・クラウディス。私もまた皇帝だ。私の頃にはその称号はなかったがな。良いだろう。貴様の美しさと勇気に応えて我が名を言おう。私はカエサル──」
「なっ────」
「ガイウス・ユリウス・カエサル。それが私だ」
その名を聞いたネロの心は再び揺れ動く。