Fate/Silver Order -選ばれし48人目のマスターは銀髪侍-   作:天パ男

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私は来た!私は見た!ならば──

 

 

 ──カルデア

 

 通信越しに状況を把握していたロマニやダヴィンチたちも当然、男の真名、カエサルの名を聞いていた。

 ロマニは嫌な汗を額から流し、ハンカチで拭き取る。

 

「カエサル…… よりにもよって、彼が敵となるか。ネロ皇帝陛下とは直接的な関わり事態はないが」

「カエサルといえば、皇帝の語源にもなったローマの英雄だったかな。確かに彼ほどの男が連合の一人となればローマの民の一部も連合につきたくなるのも必然ってことか」

 

 ダヴィンチは真名を知ると直ぐにカルデアに登録されている歴史に名を馳せた英雄の情報が記録されたデータベースへとアクセスする。

 

 

 『ガイウス・ユリウス・カエサル』

 

「皇帝」の語源になったとされる、古代ローマ最大の英雄。

 ガリア戦争やブリタニア遠征などで名を馳せた将軍であるが、同時に統治者としての側面も持つ。

 彼は陰謀溢れるローマを生き抜き、敵を斬り伏せ、最強の将軍として民衆からも多大な支持を勝ち取ったという。

 

 

「それ程の英雄。しかもローマの地に召喚されたとなれば、ふるう力は絶大だろうね」

 

 ダヴィンチは冷静にカエサルの強さの秘密を分析した。

 カリギュラの時もそうだったが、サーヴァントには知名度補正というものがある。

 英霊の伝説の舞台となった土地または近ければ近いほどに召喚されたサーヴァントの本来持っている力が強まる。

 逆を言えば、全く知られていない土地に召喚されれば、使える宝具も制限される可能性があるのだ。

 

「正直、クロケアモースの名前を聞いた時点でもしかしたらとは思っていたけど……」

 

 確証していた訳ではない。

 とはいえ、何故直ぐに銀時たちへカエサルの名を出さなかったのか。

 それはネロの精状態が不安定になることを危惧していたからだ。 

 

「バーサーカー、カリギュラとの戦い。あの時のネロ陛下は普通ではなかった」

 

 ロマニはカリギュラ戦でのネロの謎の力を思い出す。

 サーヴァントを抑え込む程の力や神秘を持たずに傷を負わせる等、不可解な点が多い。

 あれはカリギュラの宝具によって精神を犯されたことをきっかけに起きていた。

 今回の敵であるカエサルの真名を知ったことをきっかけに、精神が揺らいで、また暴走するかもしれない。

 あの力が良い方に発揮されれば、まだ良いのだが、原因がわからない以上は危険だ。

 

「ロマニ。君の心配はわかるが、戦っている以上は遅かれ早かれだ。それにネロ陛下ならきっと大丈夫さ。良くも悪くも劇薬な彼が側にいるのだからね」

「それは── ははっ。それもそうだね。うん、ありがとう。ダヴィンチ」

 

 ダヴィンチの言葉にロマニは笑ってしまう。

 おかげで入れすぎた力が少し抜けたような気がした。

 

「僕たちは銀時くんたちをサポートするカルデアスタッフだ。だったら彼らが信じているネロ陛下を信じないでどうするって話じゃないか…… よし!」

 

 ロマニはモニターへと向き直る。

 現場に直接関わることはできないが、敵の動きを把握し、銀時たちが適切に動きを戦えるようにするために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カエサル、だと。その名は初代皇帝以前の支配者の名…… ! いやしかし、あり得ぬ! 死んだ者が蘇るなど」

「何を言う。既にカリギュラには遭遇したのだろう? それとも…… 未だに目を逸らしているのか、貴様は?」

「ッ!?」

 

 陰謀渦巻くローマを生き抜いた彼の持ちうる眼力があっさりとネロの心を見透かした。

 そしてネロに、とどめをさすかのように言葉を続ける。

 

「本物だ。私も、奴も」

「…………」

 

 心の奥底でまだ、完全には信じきってはいなかった、いや信じようとしなかったのだとネロは今になって気づく。

 皇帝を名乗る者たちは偽物。

 伯父上に関しても、あれはあくまでも無念の怨みにより生じた残滓のようなもだと思うようにしていた。

 だが、目の前の男ははっきりと言いきった。

 

「ネロ! さっきマシュにも言ったわよ、あたしは。ソイツの言葉に耳を傾けないで! それこそ思う壺。それに本物とか言ってるけど、サーヴァントだって実際は正真正銘本人そのものってわけじゃない!」

 

 ブーディカが叫んだ。

 しかし応えたとのはネロではなくカエサル。

 

「何を言うか。確かに我々サーヴァントは影法師に過ぎないかもしれん。英霊の座からコピーが降りてきだけの、な。だが、明確に意思を、記憶を、願いを持って現界した者を偽物だと何故言いきれる? 少なくとも私はあれと交わした約定を果たすという願いがある。この熱を貴様は偽物と言うのか?」

「それは……」

 

 ブーディカは口をつぐんでしまう。

 確かに、カエサルの言うことも正しい。

 ブーディカ自身、生前から変わらずにブリタニアの平穏を願い、そしてローマに対する怨みを決して忘れずにいる。 

 この思いは確かに本物のはずだ。 

 

「それに、私はネロの認識を正しいモノへと改めてやっただけのこと。それとも、貴様は真実も知らせずに皇帝ネロを戦わせる気だったのか? それはいくらなんでも残酷が過ぎるだろうに」

「………」

 

 やはりこの男、口が上手い。

 詐欺師の如く、警戒していたはずのブーディカまでも黙らせてしまう話術に銀時は厄介だと静かに舌打ちをする。

  

「おい、ネロ──」

「すまぬ、ブーディカ。それに銀時たちよ」

「ネロ…… ?」

 

 銀時がフォローに入ろうとするが、その必要はないとネロは自ら口を開いた。

 

「証拠はない。確証も得られぬ。だが、余に流れるローマの血がそうだと言っている。名君カエサル殿よ。確かに、本物なのだな」

「そうだ」

「そうか。だが── それがどうしたと言うのだ! 如何にそなたがローマの誇る英雄だとしても、余は、余こそが、ローマの皇帝である! なればそなたはやはり敵だ!!」

 

 ネロは皇帝としての誇りをカエサルへとぶつける。

 例え相手が敬愛すべき存在だったたしても、例えローマの民が称賛する英雄だったとしても、奴らがこのローマを混乱へと陥れた敵であることに変わりはない。

 それに、

 

「今の余にはローマの誇る客将たちがいる。既に命も下した。カエサル! 伯父上! お前たち、連合を討てとな!! 銀時、清姫! カエサルへの攻撃はそなたらの自由に任せる。思うがままに戦うがよい!」

「りょーかい、皇帝殿」

「ええ、わかりました」

 

 銀時はニヤリと笑い、軽い敬礼の真似をした。

 清姫も小さく頷き返した。

 ネロと小さく笑って返し、次はマシュ、ブーディカへと

 

「マシュ、ブーディカ。守りはそなたらに任せた。そなたらの鉄壁の防御力、見せつけてくれよう!」

「はい、お任せください! ネロさん!」

「はいはい、あんたにそんな命令を受けるなんて、昔は絶対にあり得ないし、想像もできなかったけど…… やらせてもらおうじゃない!」

 

 マシュとブーディカは盾を構え、カエサルの攻撃に備えた。

 それを見届けたネロはオルガマリーへと、

 

「オルガマリーよ! 魔術やらサーヴァントやらに関してはそなたらの方が理解が深い。何かあれば指示をせよ。余のことは気にするな!」

「……… ! 了解よ、皇帝陛下!」

 

 まさか、自身も頼られたことにオルガマリーは少し驚き、気を張り直し、力強く頷き返した。

 それを見たカエサルは敵の士気が上がったというのに、寧ろ嬉しそうに笑って見せる。

 

「素晴らしき気構え、そして美しさだ。ネロ・クラウディス。そして仕えし客将たちよ。なればこそ我が剣をふるう価値があるのだ。進め、我がレギオー!!」

 

 カエサルの掛け声と共に再び五人程の重装歩兵たちが出現し、槍先を向けてくる。

 即座に反応したのはブーディカ。それに続いてマシュが動いた。

 

「使い魔に効くかどうか微妙だけど!!」

 

 ブーディカは盾で受け止め── るのではなく、足を勢い良くはらい砂ぼこりを起こした。

 これはカエサルが大理石の左腕による起こした目眩ましと同じである。

 サーヴァントならではの力任せな足ばらいは、砂や石つぶてを大きく巻き上げ、歩兵たちの目を眩ませ、動きを鈍らせた。

 

「ほほう。私に対する意趣返しか!」

 

 無論、それだけでは止まらない。

 動きが鈍った歩兵たちをマシュは巨大な盾でなぎはらった。

 

「マシュ、ブーディカ、二人とも流石の守りです。おかげで道も開けました。はっ!!」

 

 清姫は火球を生み出し、カエサルへと飛ばした。  

 だがカエサルも負けてはいない。飛んでくる火の球を次々に文字通り真っ二つにしてしまう。

 

「おいおい、火って斬れるもんだっけ?」

「私の役割はあくまでも指揮であるがゆえ、剣聖というには程遠い。だがこの黄金剣はそれを可能にする。支配者にふさわしき剣だろう?」

「そうかい。んじゃあ、おれの木刀の味の良さも知っておきな。月々980円の12回払い。庶民にも優しい剣だってな!」

 

 ガキンッ!!

    

 お世辞にも名刀とは言い難い出自の洞爺湖の木刀は、カエサル黄金剣と見事にかち合ってみせた。

 

「そのような棒斬れで我が黄金剣に挑むとは、実に面白い! これは道化も形無しだぞ、異世界の客将よ。しかし、人間ではサーヴァントには勝てんぞ」

「ああ、だろうな。そこは学習済みだ」

「恨むわよ、銀時!」

「っ!」

 

 突然カエサルの視界が真っ暗になり、顔に重たい物がのしかかった。

 その正体は人形程の大きさになってしまったオルガマリー。

 銀時の着物の中に隠れ、カエサルの顔に飛びつく機会を伺っていたのだ。

 今まで戦闘に参加してこず、特に注視していなかったが故に油断した。

 

「むむ! 前が見えん!」

「人間が相手にならねーってのなら、形振り構わず、チャッキーでもコンでも使うだけだ。そして蛇もな。衝撃来るぜ、所長」

「行きますよ── シャアアアアア!!」

「あぶなっ!」

「っ!?」

 

 銀時を横切り、清姫が前に躍り出た。

 そして焔を大きく纏った扇子をカエサルへと向けて、下から振り上げた。

 紙一重でオルガマリーは顔面から離れた結果、カエサルの視界が戻るが時既に遅し。

 

「ぐおおお!」

 

 焔の攻撃は今度こそカエサルに直撃したのだ。

 涼しい顔を保っていたカエサルの表情はついに苦悶に歪み、たまらず後ろへと倒れ転がっていく。

 

「ぐふっ…… はあはあ。今のは中々の攻撃だった」

「今度はイメージじゃねえ。ガチだ。流石のテメーも余裕じゃいられねーだろ?」

 

 銀時と清姫は追撃をしようと警戒しながら少しずつ前へ。ブーディカとマシュもいつでも二人を守れるように盾を向ける。

 カエサルは強い。

 それは間違いない。

 だが数で勝り、更にネロを掛け声と決意により士気が大場に上昇し、コンビネーションも抜群となった銀時たちにとっては決して倒せない敵ではなかった。

 それはカエサル自身も自覚していた。

 だからこそ、

 

「我が黄金剣の真髄を見せる時だろう!」

『敵の魔力が上昇している。これは…… 宝具だ!』

「っ! マシュ!」 

 

 大地が震えた気がした。

 空気は凍りつき、その様相からは想像のつかないカエサルからの強烈なプレッシャーが銀時たちの肩へと重くのしかかってきた。

 しかし、それで止まる銀時たちではない。

 彼らとてここに来るまでに数々の死線をくぐってきたのだ。

 銀時の声にマシュは答えるまでもなく即座に反応し、誰よりも前に出て構える。

 そしてカエサルとマシュ、互いの声が重なる。

 

「黄金剣、起動準備──」

「真名、偽装登録──」」

 

 カエサルは宝具詠唱を続けながらマシュを見て笑う。

 守るのか、良い。ならば守って見せよ、と。

 

「私は来た!」

「宝具展開します!」

 

 光輝く黄金の剣。瞬時、カエサルはマシュの前に立った。

 対し、マシュの体に銀時からの魔力が熱く流れていった。

 そしてカエサルは静かに目を閉じ、

 

「私は見た!」

 

 力強く開眼し、声高らかに、

 

「ならば次は勝つだけのこと!」

 

 今、ローマの英雄の剣が真の力を持ってふるわれる!

 

黄の死(クロケアモース)!」

 

 その剣、一度発動すれば必ず命中する必殺の宝具。

 さらにその後、カエサルの幸運の判定が失敗するまで行われ、連続成功した回数だけ追加攻撃を与えることが可能となる驚異の能力!

 カエサルの剣がマシュの盾へと連続してふるわれる。

 

「はあああ!!──」

 

 銀時の判断は正しかった。

 カエサルの宝具の性質など銀時は知らなかったが勘がそうさせたのだ。

 回避不能であるため、どんなに避けようとしても必ず当たる攻撃である以上は、こちらはカエサルの剣を受け入れなければならない。

 だからこそ発動されたマシュの宝具、『疑似展開/銀色の礎(ロード・カルデアス)

 盾に張られた巨大な結界のような物が連撃を受け止めてみせた。

 しかし、

 

 ── 一つ一つの攻撃が重い! これがローマ最大と言われた英雄の力!

 

 マシュの顔が苦悶に歪む。

 宝具のおかげで抑えこめてはいるが、それもいつまでもつか。

 盾を握る両手、踏ん張りをきかせていた両足が酷く痛んでくる。

 だが、

 

「お願いします──」

 

 悲観はなかった。

 何故なら、守る力を持ったサーヴァントは今やマシュ一人ではない。

 

「ブーディカさん!」

「よし、来た──」

 

 マシュの後ろから声を上げるのは、ブリタニアの英雄、ブーディカ。

 

約束されざる守護の車輪(チャリオット・オブ・ブディカ)!!」

 

 呼び出されるのは無数の車輪。

 それが宝具を発動したマシュを囲み、防御力を一気に底上げしてみせた。

 マシュは盾を握る手、踏み込む足に力が灯っていくのを感じた。

 

「はああああ!!」

「ブリタニアの女王か! ああ、これもまた、サーヴァント故の因果か」

 

 カエサルはかつてブリタニア遠征での自身の姿を思い出した。 

 だが思い出に浸ることはあっても手を休めることはない。

 続く剣撃。

 しかしその力は無限ではない。

 元々カエサルの幸運値は並程度しかなく。

 

「……… ここまでか」

 

 彼の幸運判定はついに失敗し、宝具による連撃は止まった。

 

「ああ、これで終わり(シメー)だ、清姫」

「はい、旦那様」

 

 ザンッ!!

 

 宝具による攻撃が終わり、出来た一瞬の隙。

 清姫の炎を纏わせた扇子が、剣のようにカエサルの胸を斬り裂いた。 

 

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