Fate/Silver Order -選ばれし48人目のマスターは銀髪侍- 作:天パ男
体が重い。頭が痛い。吐き気がする。
二日酔いのような症状が体を襲う。
いったい何が起きた。ここはどこだ。俺は誰だーー
「キュウ…… キュウ…… フォウ…… フー、フォーウ……」
「ん…… なん……」
何処か聞き覚えのある鳴き声が優しく囁いた。
そして彼は思い出す。
そうだ俺は、
「フォーウ!」
「ごふぅ!?」
突然腹部に走る痛み。
半覚醒状態にあった意識は完全に目を覚まし上体を反射的に起こさせた。
起きて最初に目にしたのは白くふわふわとした生物、フォウだった。
「いちち…… くそ、なんかこんな事、前にもあったような…… デジャブってやつか?」
強制的に目覚めさせられた男、銀時はフォウをギロリと睨む。フォウはビクッと体を震わすも今回は逃げなかった。
「たく…… 同じネタばっかやってっと飽きられんだろー…… が…… は?」
ぼやきながら立ち上がると銀時はあることに気づく。
周囲の異常な変容に。
「ここ、何処だ……」
そこは交差点だった。多くの車と人が行き来する都市には必ず存在する道路。
がここには肝心の人間が銀時を除き一人もいなかった。猫や鳥といった動物も見かけられない。あまりにも異常な状況。だが異常なのはこれだけではなかった。
「どうなってやがる…… 大地震でも起きやがったか……」
見渡す限りの廃墟。建てられたビルは全て半壊し中には傾き今にも崩れようとする物もある。道は瓦礫で埋め尽くされアスファルトには巨大な亀裂が入っている。
遥か遠方は赤く光り、漂う黒煙は空を覆い尽くしている。
先程まで自分は確かにあのカルデアに、崩壊した管制室の中にいた筈だ。
だというのに、いつの間にか別の場所に来てしまっている。まるで銀時が最初に廊下で目を覚ました時と同じ様な感覚だ。
「ここは江戸‥‥ じゃねーか」
ビル群といった都市の象徴。ここからこの廃墟と化したこの街が地球最大都市の江戸であることを考察し、一瞬帰ってきたのかと思うも、違うと否定する。
確かに街並みは江戸の中心部に似てはいるが、瓦礫やビルの残骸に微かに残った文字を見る限り江戸の建造物でないことがわかる。
恐らくここはマシュたちのいる世界の都市の一つなのだろう。
「マジでどうなってやがんだ…… つーかその前に、そうだ! あいつは…… マシュは何処だ!」
彼女は既に瀕死の重症を負っていた。いったいどうしているのか。運が良ければ彼女もまた、銀時やフォウと同じくここに移動しあの炎と瓦礫から逃れることができたかもしれない。しかしそうだとしてもあの重症だ。放っておいたら今度こそ死んでしまうだろう。
「兎に角、探すしか……」
「フォウ! フーフォウ!」
銀時がマシュを探そうと動いた時だった。
フォウが白い毛を逆立て警戒するかのように鳴きだしたのだ。
フォウの睨む先。目を向けるとそこにはいた。剣、槍、弓矢を其々武器を構えた者たちが。
「あん? なんだありゃ」
それは人ではなかった。だが動物というわけでもない。
本来ついている筈の肉がなく骨が剥き出しになっている。いや、というよりも骨その物が立ち動いていたのだ。
数十体の骸骨は銀時を見るとカタカタと笑うように顔を揺らし武器を振りかざし向かってくる。
「うぉ!? んだコイツら、敵か!」
寸での所で骸骨の剣をかわし、銀時は木刀を抜き取った。
正体など解りはしないが、間違いない。コイツらは敵だ。それを認識した銀時は木刀を構え骸骨に向き直る。
「おいこら、ブルック擬き共。来るってなら銀さん容赦しねーかんな。おい、フォウ! お前は隠れてろ」
フォウは銀時に言われた通り、俊敏な動きで瓦礫の陰に身を隠した。
剣の次は槍を持った骸骨が銀時に突進してくる。
それを木刀で軽くいなし骸骨がバランスを崩した所にすかさず蹴りを入れ吹きとばした。
勢いよく瓦礫に衝突し骸骨の体がバラバラになる。
すると怒ったのか剣を持った骸骨がさらに激しくカタカタと顔を揺らし銀時へと飛びかかってきた。
銀時は焦ることなく頭上から降りかかる剣を木刀で受け止める。
「おらぁ!」
足を骸骨の腹部目掛け蹴り上げる。衝撃により仰け反る骸骨にすかさず銀時は木刀で横に斬り裂いた。
体を真っ二つに斬られた骸骨は地面に倒れると光を放ち消滅してしまった。
「やられて消えるとかドラクエっかっつーの。こりゃあ、いよいよ只の生き物じゃなくなってきたな」
次々に襲いかかる骸骨の群れ。だが、銀時は難なく木刀でいなし、返り討ちにしていく。こいつらが何なのか。正体は不明だが、木刀で物理的に倒せるのならば問題はない。
骸骨の残りも僅か二体。このまま一気に一──
「フォーーウ!!!」
「ッ!」
ドガンッッ!!
フォウの何かを訴えるかのような鳴き声。そして感じた悪寒に銀時は一気に後方へと下がる。
すると銀時が元々いた場所に、銀時よりも一回り大きな影が飛び込み、地面に拳をつき立てたのだ。
アスファルトに亀裂が大きく走る。近くにいた骸骨も衝撃で吹き飛んだ。もしその場にいたままならば、銀時の体は粉々にされていたかもしれない。
「見ツケタゾ。漂流者、イヤ異物ヨ!!」
それは巨躯の怪物。髑髏の仮面をつけ、筋肉質な体からは黒い影のような煙を吹き出している。
銀時は歴戦の経験からあの怪物が、これまでの骸骨共とは別格であることを感じ取った。
「おい、フォウ!」
「フォ!」
「お前絶対出てくんなよ。少なくともコイツを何とかするまではな」
本気を出さなければ殺られる。銀時は木刀を構え直し、怪物へと向き直る。
「異物、ダガタダノ人間デハ相手二ナラヌゾ」
「あっそ。だったら見逃してもらえませんかね、っとっ!!」
「ッ!?」
先に動き出しのは銀時だった。それも怪物から見れば、小細工なしの特攻。
それが逆に怪物にとっては思いのよらない行動だったのか。
面食らい、明らかに動きが鈍った。
「ラァ!!」
ズバッッ!!
木刀とはいえ強烈な一太刀が怪物へと入った。この一撃は確実に致命傷を取ったはず。しかし
「‥‥‥‥ ?」
妙な違和感。銀時は即座に怪物から離れ様子を見る。
不意をつけたとはいえ、あまりにもあっさりとしすぎだ。 これで終わるとは到底思えない。
「オオ‥‥ 今ノ攻撃ハ中々ダッタ。死ヌカ、ソウデナクトモ重症ヲ負ッテイタダロウ。マア、コノ私ガサーヴァントデナカッタラノ話ダガナ」
怪物にダメージが入った様子は全くなかった。それどころか余裕そうにしている。
「おいおい。もしかして物理攻撃効かないタイプ?」
「神秘ノナイ攻撃ハ全テ無意味。マサカソノ程度ノ知識モナカッタトハ。ドウリデ無意味ナ特攻ヲ仕掛ケテキタ筈ダ。オカゲデ不意ヲツカレタ」
何を言っているのか今一わからないが。それでもわかることは一つ。
「最早オ前ハ反撃モ出来ナイ。死ネ」
銀時の攻撃は通らず、一方的な殺戮が始まるということ。
頭の傷口から血が流れ、頬を伝っていき、ピチャッと音を立てて床に零れ落ちていく。
適当にその辺から拝借した布切れで、傷口を抑えた。そして出来るだけ体を楽にし、荒くなる呼吸を落ち着かせる。
「ハアハア‥‥ くそっ‥‥」
「フォーン‥‥」
暗がりの中、座り込んでいたのは銀時だった。銀時を心配するように、共についてきたフォウが顔を覗き込む。
銀時は心配すんなと、フォウの頭をポンと撫でた。
「とりあえず、ここで隠れてるしかねぇ。あの野郎、まじで斬っても斬ってもきかねーし。スーパーマリオのチーターかっつーの」
戦うことは勿論、潔く敵から背を向け、戦線を離脱することにも慣れている。幕府軍や天人の軍隊から何度も逃げた経験がここで生きたというべきか。
怪物の攻撃をかわしつつ、銀時は命からがら逃げ出すことに成功した。
街中をかけていき路地や建物を利用した結果、いつの間にか銀時は大きな武家屋敷の庭に入っていた。
このまま武家屋敷の中に行くかと思ったが、途中で土蔵が目に入った銀時は、あえてそちらの方に隠れることにした。
この逃げ道のない狭い土蔵に態々隠れるとは、あの怪物も思わないかもしれない。完全な博打だが、かけるしかない。ギャンブルに関しては、ほぼ負け続きの糞雑魚だが。
ザッ ザッ
「‥‥‥ッ!?」
「フォ‥‥」
土蔵の外から足音が聞こえる。それも途轍もなく嫌な気配。
間違いない。あの怪物だ。
銀時は頼むから、行くなら武家屋敷の方に行けとギャンブルの女神様に願う。
しかしその願いは女神に届くことなく。
「ソコダ──」
ドカンッッ!!
土蔵の扉が破壊される。銀時は即座に対応し、フォウを庇いつつ体を伏せた。
運良く、壊された扉の破片等は当たらなかったが、絶望的状況には変わりない。
死を纏う怪物はゆっくりと歩を進める。
「ハアハア‥‥ 本当にしつこい奴だな、おい。ストーカーか、テメェ‥‥ !!」
「異物ヨ、
怪物の拳が銀時へと振りかかった、その時
「ハアアアアアアア!!」
「ッ!!」
怪物の背後から聞きなれた、しかしらしくない雄叫びが聞こえた。
銀時が目を丸くし、怪物が思わずギョッとして振り返ったと同時。
ドゴッッ!!
人間大サイズの十字の形をした円盤が、怪物の横顔を勢いよく抉った。
怪物は衝撃に耐えられず、横へと吹っ飛んだ。すると今度こそ攻撃が効いたのか、怪物はあの骸骨たちのように光と共に消滅してしまった。
「お前──」
月の光が怪物を倒した者の姿を明確にする。それは見慣れた少女。あの時、銀時の手を握った少女、マシュだった。
右目を隠すように伸びた前髪。透き通るような白い肌と対照的に輝く金色の瞳と、その特徴は変わらない。
しかし違う点があった。
何故か、メガネをかけてはおらず。その全身は白衣ではなく、黒を貴重とした強固な鎧に包まれていた。
知ってる筈の少女の見慣れぬ出で立ちに銀時は声が出なくなる。
マシュは、銀時を見下ろす形で、しかし優しい眼差しを向けて、こう問いかけた。
「先輩── あなたが、私のマスターですか」
決して交わることのなかった筈の運命が。
二人の再会により、始まろうとしていた。
感想や質問などお待ちしております!