Fate/Silver Order -選ばれし48人目のマスターは銀髪侍-   作:天パ男

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 かなりお待たせしてしまいました! 申し訳ありません!
 そして今回、銀さんたちの出番があまりないです。


勝ち取った物と失った物

 

 「私の負けか…… だが、美しき女たちに負けるのも悪くない」

 

 カエサルの霊核は完全に破壊された。

 光と共に、体が徐々に消え行こうとしている。

 

「勝った…… のか?」

『はい、皇帝陛下。敵サーヴァント、カエサルの反応が弱くなっているのが観測できます。このガリアでの戦いにおいては、ローマ軍の勝利です』

「そう、か……」

 

 ネロは勝利したことに喜びを感じるよりも、何処か決まりが悪そうに目を伏せた。

 それはローマの誇りし英雄を手にかけたことによる罪悪感が故か。

 

「そのような顔をするな。いや、どんな表情でも貴様の美しさは素晴らしきものではあるが。それを差し引いても皇帝である以上は、勝利に誇りを持て。何しろこの私を倒したのだからな」

「…… ! そうか、そうであるな。やはり、貴公はカエサルなのだな」

 

 敗北し、自身を討ち取った敵であるはずのネロにカエサルは誇れと賛辞の言葉を送った。

 己の敗けを認め相手の強さを認める潔さを見て、ネロはやはりこの男がローマの英雄なのだと確信できた。

 

「そうだ。繰り返すが、私は私だ。貴様の伯父も、そしてあの御方もな」

「あの御方?」

 

 『あの御方』

 正確には皇帝ではないが、皇帝に等しい地位を築いたカエサルをもってあの御方と敬称で呼ぶ者がいるのか。

 ネロは疑問符を浮かべる。

 

「そうだ。当代の正しき皇帝よ。連合首都で、あの御方は貴様の訪れを待っているだろう。あの御方が何者なのかは、その目で確かめることだ。それと異世界の客将よ」

「なんだ?」

「貴様と、貴様のサーヴァントとの戦い、実に素晴らしかったぞ。戦いを面倒だと思う私ですら、そう思えたのだ。誇るがいい」

「はっ。野郎に褒められてもね。楽しんだのなら褒美の一つでも欲しいところだ」

 

 カエサルは銀時へと、ローマ人ならば気絶してしまうような言葉を投げ掛けた。

 しかしローマの歴史に関わりがない銀時にとっては、一銭にもならない。

 

「褒美か。良いだろう。もし、何処かで私が再び召喚されるようなことがあれば、また出会うことがあれば、我が剣、お前たちの為にふるおう──」

 

 そう言ってカエサルは笑い、光の粒子となって消えてしまった。

 その光景にネロは戸惑いを隠せず、目を丸くする。

 

「……… 消えた? これは…… なんだ、魔術に依るものなのか? それとも……」

「これは簡単に言ってしまえばサーヴァントによる『死』です。陛下」

 

 ネロの疑問に答えたのはオルガマリーだった。

 それに続き、マシュが詳しく話す。

 

「所長の言葉通りです。サーヴァント── ガイウス・ユリウス・カエサルは、その命を失いました。サーヴァントには仮初めの肉体が与えられていますが、霊核が破壊されることにより消滅し、座へと戻ることになります」

「……… そうか。正直、よくはわからぬが、つまり、先ほど奴が、いや、あの方が言ったことは全て事実であるのだな。死した者が蘇った。伯父上も………」

 

 真実を知り、カリギュラのことも単なる残穢のようなものではなく、本人であることをネロは確信した。

 思うころはある。だが、

 

「いや── とにかく、この戦いは余らの勝利である! 今こそ、勝鬨を上げるのだ!!」

 

 止まってはいられない。

 皇帝としてネロは勝利を宣言する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はははははは!! 愛! 愛! 愛!」

 

 ネロが勝利を宣言する少し前、スパルタクスの猛攻が迫り来るゴーレムたちを次々に破壊していた。

 ローマ軍の兵士たちもスパルタクスの戦いの邪魔をさせないよう、連合側の兵士たちを抑え込んでいる。

 

「くぅ…… ゴーレムではあまり効果が見られん! やはり皇帝陛下のような力を持った者でなければ太刀打ちできんか」

 

 連合側の百人隊長である男は思わず弱音を吐いた。

 とはいえ無理もない。

 足止め位は出来てはいるが、まともにダメージを与えられず、ゴーレムもその数をどんどん減らしてしまっているのだから。

 どうするかと遠目にスパルタクスを見ながら思案する、その時だった。

 

「通常のやり方で太刀打ちできないのならば、通常ではないやり方をすればいい」

「うんうん、良いね。流石、先生だ」

「っ! あ、あなた方は…… 来てくださったのですね!」

 

 突如として現れたのは馬に跨がる幼さを感じさせる赤毛の少年とこの時代には異質なスーツに身を包んだ顔つきの悪い男。

 およそ戦場に似つかわしくない二人の登場に、連合側の百人隊長である彼は驚きつつ、安堵の表情を浮かべた。

 その安堵の理由は何故か。

 答えを見せるようにスーツの男が指示をするように手で空をきる。

 すると空から鳥の何倍もある巨大な空飛ぶ蜥蜴。所謂ワイバーンの群れがローマ軍兵士たちへと向かっていくのが見えた。

 

「あれは………!?」

「ワイバーンというやつだ。見るのは初めてか…… いや、まあ当然だな」

 

 ワイバーンの群れはスパルタクスの頭上を通り越し、ローマ軍の兵士たちへと尻尾や鋭い爪で襲いかかっていく。

 

「うわぁ!? なんだこの化け物は!」

「落ち着け! 互いに背中合わせになって迎えうて!」

「うわあぁぁ!!」

 

 ローマ軍の兵士の持つ武器ではワイバーンを相手ではまともに戦えない。

 最早戦いにすらなっていない惨状を見て、連合側の百人隊長は自分達もあんな風だったのかとローマ軍側に同情してしまう。

 とはいえこれが戦争というものだ。

 連合側の百人隊長は直ぐに切り替え、二人の援軍へと向き直る。

 

「あのワイバーン? という怪物に加え、アレキサンダー将軍殿の御力があれば百人力! このまま敵軍の将の一人を──」

「ふははは!!」

 

 ドゴンッ!!

 

「ひっ!」

「おお!?」

 

 突如、ゴーレムを全て叩き潰したスパルタクスが連合側の百人隊長とスーツの間に割って入るように、重い拳を叩きつけてきた。

 二人は思わず悲鳴を漏らしてしまうも、咄嗟にかわす。 

 その結果、行き場をなくした拳は地面へと向かい、小さなクレーターを作った。

 

「新しき圧制者共よ! 我が解放の輝き、しかとその目に焼き付けるといい!!」

「ま、まて! 恐らくはバーサーカーだろうが………… 我々の相手をしていて良いのか? よく見てみるがいい、自軍の兵士たちを」

 

 スーツの男の言葉に、スパルタクスは振り上げた拳をピタリと止めた。

 そして後ろから聞こえてくる悲鳴に気づき、振りかえる。

 

「ぐわぁ!?」

「くそっ! 槍も矢も、まともにきかねぇ!」

 

 ワイバーンはローマ軍の兵士たちを弄ぶように、尻尾や鋭い爪で翻弄していく。

 兵士たちは必死に反撃をするが、空を滑空するワイバーンに攻撃を当てることは難しい。

 

「むう……… !」

「お前がどのような英雄かは知らないが、兵士の死を見す見す見逃すのは気が引けるだろう。いかに狂いしサーヴァントだとしても、英雄ならばな」

「……… あれなるは空駆ける圧制者の群れ。ならば我が剣は奴等へ向けよう!!」

 

 スパルタクスは迷うことなく、ワイバーンを撃退しようと向かっていく。

 

「ふぅ………」

 

 その様子を見て、スーツの男は安堵したように小さく息を漏らした。

 

「はは。上手くかわしたね。しかし流石は先生だ。容赦ないなぁ」

「そんなことはない。ワイバーンには敵軍の兵士を殺さす、それでいて、つかず離れずでいるように指示をしている」

「え。な、なぜ、そのようなことを……」

  

 態々敵兵士を殺さないように指示をしたことが理解できない連合側の百人隊長は、スーツの男に恐る恐るきいた。

 スーツの男はポケットからタバコを取り出し、一吹きしてから答える。

 

「敵軍の兵士は言ってしまえば、あの大男を引き付けるための餌だ。下手に殺しきってしまえば、奴を釣るための餌を失う。ならば殺さずにああして、翻弄するようにワイバーンをけしかけた方がいい」

「な、なるほど。では、今の内に体勢を立て直し、反撃に──」

「撤退する」

「は──」

 

 連合側の百人隊長は、ローマ軍を今度こそ殲滅すると息巻くが、スーツの男の放った予想外の言葉に固まってしまう。

 スーツの男は構わず続ける。

 

「ワイバーン及び、ゴーレムの全てを殿として残し、撤退しろ。殿を掻い潜って敵軍から、ある程度の追撃があるだろうが、反撃はするな。とにかく逃げることのみを頭に入れておけ」

「な、何故です! 恐れいりますが………… その命令に従うことはできませぬ! 我らこそは正当たる連合ローマ帝国の兵士! ガリア支配は神々の意図であり、我らにはそれを遂行する責務があるのです!」

 

 半分怒り、半分困惑が混じった声に動じず、スーツの男はタバコをふかして答える。

 

「ガイウス・ユリウス・カエサルが消滅── いや、名誉の戦死を遂げた」

「なっ…… そ、そんな──」

 

 スーツの男は魔術に疎い人間にも分かりやすく、カエサルの死を教えた。

 信じ難い真実に連合側の百人隊長は困惑してしまう。

 

「それに、この撤退も、また、神の意思と言うやつだ。やつ── 失敬、あの御方はお前たちの死を望んではいない」

「── っ! はっ! 今すぐに!」

 

 神の意思。

 その言葉だけで、連合側の百人隊長は即座に納得し、撤退戦へと動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 ガリアでの戦い。

 その結果はローマ軍側の大勝利で幕を閉じた。

 逃げていく連合軍に士気を上げていくローマ軍。殿として残ったワイバーンやゴーレムに手こずりはしたが、合流したネロたちの助力もあり、あっという間に殲滅することができた。

 連合軍の兵士たちのほとんどは逃亡、または、捕まり捕虜となる位ならばと自害してしまった。

 撤退はともかく、自ら命をたつ連合軍の兵士にローマ軍兵士たちやネロは狂気を感じた。 

 それほどまでに『あの御方』とやらは彼らにとって崇高な存在なのだろうか──

 とはいえ、自害する前に何とか抑えこみ、捕虜として捕らえた兵士も少なからずいる。

 あの御方について、彼らから聞き出すのが良いだろう。

 と、更なる謎は残れど、勝利には変わりない。

 連合ローマ帝国との戦争が始まってからしばらく経ったが、ローマ軍が完全な勝ち星を上げたことはなかった。

 だからこそ、初の完全勝利にローマ軍兵士たちは浮き足立ち、勝鬨を上げていた。

 

「銀時、オルガマリー、マシュ、清姫。それにブーディカとスパルタクスも。此度の勝利はそなたたちあってこそのもの。誠に大義であった」

 

 ネロもまた、勝利の喜びをわかち合うべく銀時たちへ労いの言葉をかけた。

 

「わかってんだろうな。ここは特別ボーナスを──」

「うおっほん!! おほん! いえ、私たちは客将として当然のことをしたまでです、ネロ陛下」

「うむ。そなたも体を張った捨て身の目眩まし。見事であったぞ、オルガマリーよ。して本来ならば勝利の余韻に浸るべきではあるのだが、まずは敵軍の兵と言の葉を交わす必要がある」

 

 ネロはそう言うと真の皇帝として、捕虜たなった連合ローマ帝国軍兵士へと向き直る。

 その数、僅か十二名。

 襲いかかってくる危険性は勿論だが、自害の可能性のが大きいと判断され、両手は後ろに組み、ロープで完全に拘束されている。

 周囲は当然、武器を構えたローマ軍兵士が捕虜を囲うように並んでいる。

 

「して、この中で最も立場のある者は──」 

「陛下?」

 

 捕虜に向き直ったネロは目を剥き、言いかけた言葉を紡ぐ。

 オルガマリーは何かあったのかと心配するが、先に声を出したのはネロではなく、捕虜の一人だった。

 

「これはお久しぶりです。ネロ・クラウディス陛下、いえ、元陛下」

「そなた、ゴダセンか………」

 

 連合軍兵士ゴダセン。

 彼には見覚えがあった。

 それなりの古株であり、ネロも信用に足る人物として重宝していた。 

 実際は裏切られ、連合側についてしまったが……

 彼は憔悴しきっているのか、顔を青く染めながらも、ネロを嘲るように口元を歪める。

 

「ローマを離れ、連合に身を置きはしましたが、あなたの奇行は耳に届いていましたぞ。獣相手に裸で挑んだ時は正気かと思ってはいましたが、今回の件はそれを遥かに越える奇行だ。ローマの民でないどころか、かつての敵を客将として迎え入れ、あまつさえ自身の隣におくとは」

「………」

 

 ゴダセンの視線が一瞬、ブーディカへと向けられた。

 ブーディカはまあ当然の反応だろうと、特に言い返すこともなく黙って聞いている。

 

「皇帝にあるまじき振る舞いは相変わらずのようだ。貴女が今尚もローマの皇帝を名乗り軍団を率いている様を見ると、虫酸が走って仕方がない」

「貴様っ!!」

「やめよ! 今は余が話している」

 

 皇帝に対し、無礼にも程がある物言い。

 周囲の兵士が怒り、今にも槍をゴダセンへと突き刺そうとするが、ネロの一喝により止められた。

 

「ゴダセン………… そなたが連合についていたことは当然知っていた。だが、優秀なレガトゥス(軍団長)であったそなたが、まさか一兵卒の真似事をしていたとは…………」

「真似事ではない。そも、真のローマの民ならば真のローマの為に命を捧げるのは当然のこと。私は元老議員でもなければレガトゥスでもない。一人の真のローマ兵としての勤めを果たしたまでだ。それにわからないのか?」

「なに?」

 

 どういう意味だと眉を寄せるネロを見て、ゴダセンは呆れたように笑う。

 

「カエサル様のお姿を目にし、お声を聞き、英雄の剣をその身に受けてもまだわからないと言うのか! ゴホッ! はあはあ…… 栄えあるローマの礎となった彼の皇帝の方々が甦ったのだ! あの方々があのお方と共に前線に立ち、剣をふるうのだ! はぁ…… !」

 

 ゴダセンの表情は益々青ざめ、苦しそうに咳き込む。しかしそんなことは構わず彼は声を上げ続けた。

 

「腐りきった元老議員も甘い汁を啜るだけの英雄紛いの指揮官も必要がない。真の英雄であるあの方々が戦場の指揮をふるい、国家の礎を築くのだ。ならば我々兵も民も付き従い命を差し出せば、それでいい!」

「バカなっ…… ! それほどまでに、奴らに心を売ったというのか」

「当然だ。あのカエサル様をはじめとした、数多のローマ皇帝の方々が甦ったのだぞ。貴様に付き従い続ける必要が何処にある!」

「………っ!」

 

 捕虜を尋問する側にありながら、ネロの顔色は段々と悪くなっていった。

 

 

 

「先輩、このまま話を続けさせても良いのでしょうか…… これではネロさんの精神状態に影響が」

「…………」

「いいえ。ここはネロに任せて貴女は見守っていなさい。銀時、あなたもよ」

 

 ネロの様子に気づいたマシュが尋問を止めるべきではと銀時に提案するが、オルガマリーが待ったをかけた。

 

「私たちはあくまで客将であって、この軍の、国の皇帝はネロ陛下よ。しかも敵の兵士の一部は元ローマ軍兵士。彼女が国の長として責任を持って語り合わなきゃ意味がないのよ」

 

 厳しいことを言うけどね、とオルガマリーは小声で付け加える。

 ネロと同様、国ではないといえ、人類の未来を守る機関、カルデアの所長、つまりリーダーを担ってきた彼女だからこその考えだった。

 ネロに対して同情の気持ちはある。

 とはいえ、ネロも国を纏めるリーダーである以上は、その責務を果たさなければいけない。

 オルガマリーはチラリと周りを見る。

 ゴダセンの不敬な物言いに対し、最初こそ敵対心を抱くように睨んでいた周囲のローマ兵たち。

 だが、ゴダセンとネロのやり取りを聞いている内に、段々と気まずそうに表情を見せ始める者の姿が数人見られた。

 ネロへの忠誠を誓い付き従う彼らの中にも、まだ多少の疑念があるのだ。

 本当にネロが皇帝で良いのか。

 カエサルが本当にいたことが確定したのならば、他の歴代ローマ皇帝たちも甦ったという話も事実なのだろう。

 ならば、彼らにローマを任せた方がローマの未来を守れるのではないか? と。

 

「勝ったのはこちら。そのはずなのに、カエサルの存在が証明されたことで残ったローマ軍の中でまた、分断が起きようとしている……… この状況を覆すには彼女、ネロ陛下自ら、自身の皇帝としての有り様を見せつけなければダメなのよ。結果がどうであれ、私たちは見守るしかない」

「わーってるよ……」

 

 オルガマリーの考えには、かつて攘夷戦争を生き抜いた銀時も賛成する。

 マシュもこれ以上は何も言わず、黙って様子を見守ることにした。

 

 

 

「ゴホッ! はあはあ……… ネロよ。貴女は私とここにいる連合兵士を捕虜とする気だろうが…… そのようなことには決してならないし、貴女の思い通りにはならない。何故ならば我らは真のローマに仕えし者なのだから」

「なにを──」

「はあ……… ゴホッ…… だが、腐っても貴女に仕えてきたのは事実だ。貴女に世話になったのも…… だから、せめて最期に礼として私の本音を教えてやる」

 

 ゴダセンはより青くなっていく顔に止まらない咳に苦しみながらも、声を張り上げる。

 ネロも黙って彼の話を聞いていた。

 

「正に醜悪だったよ、貴女は! カエサル様のような、歴代ローマ皇帝の方々のような、なるべくしてなったローマ皇帝とは違う。計略によって皇帝となり、利用されるための皇帝となり、流されるままに………… 挙げ句の果てに母を失い、いや、その手で葬った貴女は苦しみ、今も尚、頭を抱えている」

「…………」

「ゴホッ! はあ……… 本当に醜悪で見るに堪えなかったよ……… もう、うんざりだ。うんざりだったんだ………… だから、あんたは皇帝から降りるがいい。あの御方がいればローマの未来は守られる。皇帝としての貴女は、もう必要ないんだよ……」

 

 熱が入り、叫ぶように語っていたゴダセンは段々と声が小さくなり、俯いてしまう。

 その姿からは彼の表情は見えなかった。

 

「ゴダセン……… それがそなたの本音か」

「ああ…………」

「そうか。ならば余も言わせてもらおう。ローマ第5代皇帝(・・・・・・・・)として!」

「っ!」

 

 ネロは右手を胸に当て、声を張り上げる。

 

「そなたの思いはよくわかった。そなたにとっては余は至らぬ皇帝であったのだろう。だが、それがどうした! 余は余こそがローマに君臨する真の皇帝である! そなたがどう思おうとこの事実は揺るがぬ! そも、そなたごときが余という存在を推し量れるものか! むしろそなたも、歴代ローマ皇帝も余にとっては、ローマを揺るがす反逆者他ならぬ! 反逆者の言葉に余は耳を決して借しはしない!」

 

 ネロは自身を奮い起たせるように、薔薇のように赤い熱を帯びて、声高らかに言い放つ。

 威厳あるその姿は、正に皇帝。

 元々、彼女は片に嵌まらず放埓に振る舞い、あらゆる宗教を恐れず弾圧する剛胆な皇帝としてあり続けた。

 今もまた、一部の裏切り者の意見がなんだと、言の葉をあっさりと切り捨て、自らこそ皇帝だと宣言してみせた。

 その姿に周囲のローマ兵たちは、さっきまでとはうって変わり、活気づいていく。

 

「おお……… ! ネロ皇帝陛下!」

「そうだ! 我らが仕えし、ネロ皇帝陛下こそ、真にローマを統べるもの!!」

「事実、敵側の僭称皇帝を討ち取ったのも、ネロ皇帝陛下であらせられる! 連合ローマ帝国など恐れるにたらず!」

 

 ネロの熱に煽られ、ローマ兵士たちの勢いは益々上がっていった。

 

「ゴダセンよ。そなたは連合についての情報を吐くつもりはない。そうであるな?」

「………… ええ。敵に魂を売るつもりはない」

「そうか。敵か」

 

 ゴダセンの答えを聞き、完全に決別したと、ネロは判断する。

 そして剣を抜き、その剣先を彼へと向けた。

 

「ならばもうよい。今この場で、余自ら、そなたを極刑に処してやろう」

「おお! ネロ陛下、自ら剣を!」

「裏切り者に裁きを!!」

 

 ネロの処刑宣告を聞き、ローマ兵たちは更に浮き足立ち、にわかに騒ぎ出す。

 一方銀時たちカルデア組やはぐれサーヴァントたちは、こういった光景に、慣れた者はうんざりするような表情を見せ、慣れない者は目を背けるような反応をする。

 ちなみにスパルタクスは圧政の気配を感じ、鼻息を荒くして剣を握り始めたので、ブーディカと清姫の二人がかりで宥めながら後ろへ下げた。

 

「言い残すことはあるか、ゴダセンよ」

 

 ネロは冷たく言い放つ。

 そして自らを納得させる。

 

 このまま捕虜として連れ帰っても、彼は裏切り者として尊厳を破壊され凌辱の限りを尽くされるだろう。

 だが今もここで、彼の首を切り落とせば。

 皇帝によって討ち取られながらも、最期まで敵にとはいえ忠義を尽くした誇り高き兵士として終われる筈だ。

 だから、ネロは斬らなければならない。

 裏切りられたとはいえ、彼が仕えてきた皇帝としての責務を果たすために。

 

「貴女自ら、我が首を………… ? そうか…… は、はは! 良かった、ああ良かったよ! やはり私の考えは間違いではなかった。貴女は皇帝になるべきではなかったのだ! 貴女は他者を愛しすぎた。身内よりも他者を愛し、焦がれた。だがその愛はきっと── いや、良い。これ以上は言うまい」

 

 ゴダセンは何か言いかけた、首を横にふる。

 しかし、あと一言だけと続ける。

 

「私がかつて仕えたネロよ。貴女に忠告しよう。民も兵も変わらない。人の心は実に移ろいやすい。今、周りにいる連中の姿を見ればよくわかるだろう?」

「ゴダセン………」

「さあ、今度こそさらばだ。ネロ・クラウディスよ」

「うむ。苦しむことのなきよう、終わらせよう」

 

 剣を握る手が強くなる。 

 だが、ゴダセンはニヤリと笑った。

 

「いや、それには及ばない。言ったではないですか。貴女の思い通りにはならないと」

「なにを──」

「か、あ──」

 

 ネロはゴダセンの言葉の意味を考えようとした瞬間だった。

 ゴダセンはみるみる内に痩せこけ、目からは生気が失われ、喉からは声にならない悲鳴が溢れていく。

 それはゴダセンだけではなかった。

 他の捕虜となった連合兵士たちも皆一様に苦しみだし、やがね小さく漏れていた声も聞こえなくなり、完全に息耐えてしまったのだ。

 

「こ、れは………… !」

「まさか! 自害の魔術!?」

 

 ネロがぎょっとし固まっていると、オルガマリーが答えを出した。

 恐らくは両者の合意によって成立する魔術的契約か。

 魔術にも種類が多くあり、そもそも敵側の魔術師がどこかの時代のサーヴァントである可能性がある以上、明確に判断はできないが、この異常性は魔術によるものだと言っていいだろう。

 それよりも問題なのは、

 

「こんなものを受け入れる程に心酔しているというのか。あの御方とやらに………」

 

 

 

 

 この日、ガリアはローマの手によって奪還された。  

 敵側の兵士は一部逃亡を許したが、主力の一人を討ち取り、大勝利に終わり、ローマ軍は首都ローマへと凱旋するのだった。

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