Fate/Silver Order -選ばれし48人目のマスターは銀髪侍- 作:天パ男
無事、マスター適正者たちに凍結保存を施すことに成功。
オルガマリーたちは、今後どうすべきかを話し合っていた。
『現在カルデアはその機能の八割を失っています。残されたスタッフではできる事にかぎりがあります。なので外務との通信が回復次第、補給を要請してカルデア全体の立て直しを優先すべきかと……』
「結構よ。その方針でいくわ…… はあ。ロマニ・アーキマン。納得はいかないけど、わたしが戻るまでカルデアを任せます」
『了解。それにしても…… サーヴァントと人間の融合、デミ・サーヴァントがここにきて成功するとは』
「そうね。まあ色々と思うところはあるけれど、後回しよ。まずはこの現状を打破する事が先決。これまた不本意ではあるけれど、侵入者── いいえ、坂田銀時。そしてマシュ・キリエライトを探索員として特異点Fの調査を開始することにします」
オルガマリーはビシッと銀時とマシュの二人へと指を向けて、宣言する。
しかし銀時は、いやいやと待ったをかける。
「所長さんよ。俺は部外者なんだぜ。なにも知らねーで、巻き込まれてよ。しかも自分で言うのもなんだが、俺はカルデアに勝手に入った侵入者だ。そいつを信用できるってのか?」
「なに言ってるのよ。信用できるわけないじゃない!」
「ああそうやっぱり、ってはあ!? それで調査しろってか!?」
銀時は冗談じゃないと、オルガマリーの命令を拒否する。
当然だ。命を懸ける場で互いの信頼は重要なものだ。だからこそ、信用していないと断言する者に背中を預ける気にはなれない。
「仕方がないでしょ! 貴方以外にはマスター適正者が残っていないのだから!」
「ふざけんな! 人のことを疑ってくるような奴の命令なんざ、聞けるか!」
オルガマリーの意見は一応、正論ではある。だがその言い方はあまりにも横暴なものだ。
その上、偉そうな口調が、特に銀時の反発を買ってしまう。
しかしオルガマリーの性格上、彼女も下手に出るわけにはいかない。上に立つ者、名門の娘、そして所長としての威厳を保つ為、彼女は常に厳しく傲慢な態度を取ってきた。
だかこその、この物言いなのである。
銀時からしてみれば最も相性の悪いタイプであり、オルガマリーもそれは同様だった。
結果二人は相容れず互いに睨み合うこととなってしまった。
ロマニが文字通りあわわと慌てふためていると意を決してマシュが口を開いた。
「所長、先輩。お二人の気持ちは私にもよくわかります。所長の意見も、先輩の意見も、双方共に正しいです。ですが、だからといってお互いに対立し合っていてるようでは事態は悪くなる一方です。ですから、所長、ここは先輩を、マスターを信じてはくれないでしょうか? そしてマスターもどうか所長の頼みを聞いてはくれないでしょうか? 勿論、そのお礼はなんでもします。この私が、先輩のサーヴァントとして」
それはマシュの精一杯の勇気により語られた本音だった。
オルガマリーはその事に驚き目を丸くする。オルガマリーの知る限りでは少なくとも所長である自分に対してこのように意見する事などなかったからだ。
『坂田銀時』この男がマシュになんらかの悪影響を及ぼすのではないかと危惧してはいた。だが、まさか本当にこれ程までの影響をマシュに与えたというのだろうか。
「ハア‥‥‥‥ たくっ。しゃあーねー。わかったよ。確かにこのままじゃ、どうにもならねえしな。だがよぉ、マシュ」
「‥‥‥! は、はい! なんでしょう、マスター!」
「俺はやっぱこいつに命令されて動くのは気に食わねえ。なんかこいつからはマヨネーズニコチン野郎と同じうざさを感じる」
「ちょっと、どういう意味よ! というかニコチン野郎って誰!?」
銀時の返答にマシュは、そうですかと悲しげに俯いた。
しかしその直後、マシュが予想していなかった言葉が告げられる。
「だからお前の考えを聞かせろ」
「え?」
「俺はこの所長さんの『命令』をきくのは嫌だが、マシュ。お前の『頼み』だったらきいてやる。俺は万事屋だ。頼まれたら何でもやる何でも屋。客の頼みは断れねえ」
マシュは数秒瞬きを繰り返し、返答することなく固まってしまった。
所長の事は気にくわない。上から命令されるのは嫌だ。だからマシュから頼めば協力する。要はそういう事だった。
あまりにも子供っぽくて意地っ張り。究極の負けず嫌い。
銀時という人間を改めて知ったマシュはついぞ我慢できず吹き出してしまった。
「ふ、ふふ…… そうですが、さすがは先輩ですね。わかりました。では先輩に頼みます。私と一緒に世界を救ってください」
「りょーかい。その依頼、しかとこの万事屋が引き受けた」
異世界における万事屋の初仕事。
それは世界を救うこと。
万事屋史上最大の依頼内容であることは間違いない。
「じゃあ、デミサーヴァントってのは英雄と人間が合体したようなもんなのか?」
「はい。大雑把に言えばそうなります。ただ、私自身がどんな英霊と融合したのかはわかりません‥‥‥‥」
「まあ、わからなくても何とかなんだろ。さっきも髑髏仮面の野郎、ぶっ飛ばしてたし。充分つえーじゃねーか」
「そ、そんな。あれは不意をつけたからこその勝利ですから」
燃え盛るビル郡を抜け火の少ない道のり、河川敷前を歩きながらマシュと銀時は楽しげに会話を続けている。
時折出てくる難しい単語に関しては、正直今一わからないので、取り合えずほーんと適当に相づちをうつ。時折、銀時の相づちを真似てか足元を歩くフォウはふぉーうと気の抜けた鳴き声を上げた。
散々な扱いを受けているわりには銀時には、なついているようだ。
そんな二人と一匹の後ろをオルガマリーは見るからに不機嫌な様子で歩いていた。
それも仕方がない。所長という立場に置かれた自分に、この男はことごとく反発してくる。それをプライドの高いオルガマリーが許せる筈がなかった。
とはいえこの男を相手に口喧嘩では到底勝てそうにない。オルガマリーは前を歩く銀時を睨むだけで不満を漏らすことはなかった。
ピピピピ!!
雑談を続けていたマシュの腕輪から電子音が鳴った。恐らくロマニの通信だろう。
マシュが通信に出ると慌てた様子のロマニの声が。
『全員、今すぐその場を離れて!』
「敵影反応……! これはサーヴァントです! 先輩、所長、ドクターロマンの言う通りここは逃げましょう」
「ああ、もう!」
「ちょっ! いきなりか!」
マシュに先導され銀時たちはその場から一目散に駆け出す。やがて橋下の近くまでたどり着いた。今のところ、周囲を見ても敵らしき者などいないようだが。
「骸骨やら髑髏仮面やら。いったい何がどうなってんだよ、この街! 七つの星を持つ男とか出ねーよな!?」
「その何がどうなってんのかわからないから調べてるんじゃない! 走ってばかりで疲れるから大声上げないでくれないかしら!」
「いーや、お前の方が声大きいからね!」
「貴方の方が大きいわよ! 下手したら敵に聞こえかねないわよ!」
「その声も大きいっつーの!」
『ーーエエ。二人トモ声ガ大キスギテ位置ガバレバレ』
走りながら喚き散らすオルガマリーと銀時。
この二人の喧嘩は思わぬ者の登場によって止められることとなった。
「先輩、所長! 下がって!」
足を止め、マシュが盾を構える。その先には突如として降り立った一人の女がいた。
「これはサーヴァ、ント……?」
この街に来て初めてサーヴァントと対峙したオルガマリーは、敵の異常な状態を見て戸惑う。
何故なら目の前の女は到底英霊と呼ぶには不出来な姿をしていたからだ。
全身を覆い隠すように纏わりつくどす黒い影の様な固まり。それは女が動く度にうねうねと動き決して体から離れることはない。
影に纏われ姿の全容を知るとはできないが、背の高い細身の女であることがわかる。細身の腕には女の背丈よりも巨大で長い槍が握られていた。
「間違いなくサーヴァントです。私が倒したサーヴァントと同じく正気ではなさそうですが」
戦闘体勢に入るマシュに女は動くことなく立ちふさがっている。
「異物、異物‥‥‥‥ フフフ。ナンテ瑞々シイ」
男を惑わすような美しい声は新しい獲物を見つけ嬉しそうに語る。
「べっぴん面なんだがなぁ。明らかにヤバい雰囲気醸し出してやがる。おしいもんだぜ」
「軽口たたいてる場合じゃないわよ…… 見る限りマスターがいないわ。この世界は完全に狂ってしまったということね」
本来、サーヴァントはマスターから魔力を供給してもらわねば現界し続けることができない。
しかし目の前のサーヴァントはマスターなしで自由に動いていた。
「異物二不出来ナサーヴァント。タップリトカワイガッテアゲマショウ」
「……」
マシュの手は微かに震えている。無理もない。髑髏のサーヴァントを倒した時はあくまでも不意をついた故の勝利。
だが今回は相手に、姿を認識された上での戦い。ある意味、初の本格的なサーヴァント戦と言える。
「コノ私ガクラッテアゲル!!」
来る! そう思った時には既に女はマシュの眼前へと迫っていた。
纏う影の隙間から見える口角がニヤリと歪む。
殺意と込められた巨大な槍が突き刺さる直前、反射的に盾で受け止めた。
ガキン!
耳障りな音がマシュの鼓膜をつつく。衝撃と不快な音がマシュの顔を苦痛に歪めた。
それでも尚、女の攻撃は止まらない。
一撃、二撃と受け止めはするものの防戦一方の状態が続く。
「反撃ハサラナイノデスカ? イヤ、デキナイト言ッタ方ガ正シイデショウカ。アナタハ本能デ理解シテイル。私ニハ決シテ勝テナイトイウコトヲ!!」
ガキンッッ!!
「しまっ‥‥‥‥ !!」
ついに盾が弾かれ、無防備になったマシュの腹部へと女の蹴りが入った。
マシュはそのまま勢いよく後ろへと飛ばされ、地面へと転がっていく。
「がはっ! くっ‥‥‥‥」
「弱イ。弱スギマス。トテモ同ジサーヴァントトハ思エナイ。マルデカヨワイ人間ノヨウ」
最早、マシュのことなど格下だと女はゆっくりと歩を進め、余裕な素振りを見せた。
しかしそこに思いもよらぬ乱入者が現れる。
「おらあァァァァァァ!!」
「ッ!?」
本来ならば前線に出る筈のない、マスターである銀時が木刀を構え、女へと迫っていったのだ。
しかし木刀からは神秘の欠片もかんじられない。
サーヴァントからしてみれば、棒切れで向かってくるようなもので、馬鹿にしているとしか思えない。
「人間ガ‥‥‥‥ フザケルナァァ!!」
「ぐっ!!」
女の槍が銀時の木刀を受け止める。
それどころか力で押し負け銀時は後ろへとよろめく。
完全に無防備となった銀時へと槍先が振り下ろされそうになった、その時
「やああああああ!!!」
「ガッ!!?」
ズガンッ!!!
銀時へと標的を変え、マシュから視線を反らした一瞬の隙。
それをマシュは見逃さず、全身の力を込めて盾を鈍器のように振り下ろし、女の体を貫いた。
「カ、ハ‥‥‥‥」
女は血反吐を吐くと光と共に消滅してしまった。
敵が消え、戦いが終わったことを確認すると、二人の体から一気に力が抜けて、座り込む。
「はあ、はあ‥‥‥‥ サーヴァント反応消失。か、勝てました」
「ああ。どーやらそうみたいだな。いや、にしても俺の攻撃が全く効かねえってのはマジでやっかいだったな。こんな敵ばっかかと思うと気が滅入るぜ」
「そ、そうですね‥‥‥‥ せ、先輩」
「ん?」
勝利した筈のマシュは申し訳なさそうな顔を銀時に向けた。
「わたしが不甲斐ないばかりに、先輩にあんな危険な真似をさせてしまって‥‥‥‥ わ、私は先輩のサーヴァントなのに、本当に──」
「あー、やめろやめろ」
「え?」
マシュは銀時に謝ろうとするが、それを察した銀時は手を左右にふって止める。
「髑髏マスクの野郎も槍女も、さっきも言ったが俺の攻撃は効かねえんだぜ? お前がいなきゃどうにもならなかったんだよ、マシュ」
「先輩‥‥‥‥ ! ありがとう‥‥ ございます!」
「別に礼言うようなことじゃねーよ。お前本当に真面目な‥‥‥‥ ま、いいか。それより所長とフォウの奴は橋の上で隠れてっから、迎えに『きゃああああああ!!!』!?」
突然の悲鳴。その声は聞き慣れた所長の声だった。
驚き橋の上を見ると、そこには、
「マサカ、ランサーヲ倒ストハナ。異物ト不出来ナサーヴァントガ」
髑髏のマスクをつけた女のサーヴァントと、捕らえられたオルガマリーとフォウがいた。
戦いはまだ終わったわけではない。