Fate/Silver Order -選ばれし48人目のマスターは銀髪侍- 作:天パ男
クーフーリンからの手を組まないかという提案。
聖杯戦争を終わらせたいクーフーリンと聖杯を手に入れ、元の時代に戻りたい銀時たちの利害は一致している。それ故に、クーフーリンの提案に乗ることを決めた。
一先ずは、一息つこうと体を休める為、彼らはその場にあった瓦礫の上に腰をついていた。
「はあ‥‥‥‥」
そんな中、マシュは暗い表情でため息をついていた。
その様子を見ていたオルガマリーは銀時に耳打ちをする。
「ちょっと、銀時。なんだかマシュの様子が変だわ。あなた、マスターなんだから、何か言ってあげなさいよ」
「いや、それはいいけどよ。なんでいつの間にか名前呼び?」
「べ、別にいいでしょ! いいから早く行きなさいよ!」
恥ずかしさを誤魔化すように銀時を急かす。
銀時は、へいへいと気だるそうにしながらもマシュの前に立った。
「あー、マシュ」
「せ、先輩?」
「どーした、辛気くせえ顔して。うんこか」
「お前の辞書にはデリカシーという言葉がないのかぁぁ!」
「へぶしッ!?」
オルガマリーの渾身の力を込めた拳が、銀時の顔面へクレーターが出来るほどにめり込んだ。
それを見ていたクーフーリンは、あれは銀髪の兄ちゃんが悪いと呟いた。
「…… その、お手洗いについては特に問題はありません。はい」
「マシュ!? 真面目に答えなくていいわよ!」
「ですが…… どうしても気になる事があります。私は、その…… サーヴァントとしての力、宝具が使えません。このままではこれから起こる戦いのお役にたてないのではないかと……」
「あん? だったらその辺の武器屋にでも行けばいいだろ」
殴られた顔面を擦りながら、銀時が言う。
「それは防具よ、このドラクエ脳! 防具じゃなくて宝具。宝具というのはサーヴァントの扱う武器のことよ。サーヴァントにとっての切り札であると同時にその者の真名を明かしてしまう諸刃の剣ね」
オルガマリーはツッコミつつも丁寧に説明をする。
宝具とはサーヴァントが生前に有していた武器や技、そして逸話として伝えられた伝説などが具現化されたモノのことだ。
宝具は発動する場合、必ず宝具の真名を声に出さなければいけないため、結果的にサーヴァントの真名を敵に知られてしまう場合がある。
故に宝具はここぞという時にのみ発動されるのが基本とされている。
しかしマシュの場合は、その、ここぞという時にも宝具を発動させることができないのだ。
「宝具が使えない。これでは私はただの欠陥サーヴァントです」
マシュは項垂れ落ち込み自虐的になってしまう。
「なーにバカ言ってんだよ、お前は。宝具だか何だか知らねーが、んなもん使えねーくれーで人間の値札が決められてたまるかよ。んなこと言ったらそこの所長も欠陥だらけの不良品だよ」
「そうよ、貴女だけのせいじゃないわ…… てっ、ナチュラルに私を不良品にしないでよ!」
「先輩…… ありがとうございます。ですが、やはり宝具が使えないというのは心許ないです」
セイバーはたった一人で五人のサーヴァントを倒すほどの猛者だ。確かに、これから起こるであろう戦いに宝具無しで挑むのはあまりにも無謀と言える。
「使えないってのちょっと違うな、嬢ちゃん」
口を開いたのはクーフーリンだった。
思わぬ言葉にマシュは目を丸くして聞く。
「それはどういう……?」
「使えないんじゃねぇ。使わないだけだ。サーヴァントになった時点で嬢ちゃんは宝具を使える筈だ。なのに宝具が発動しないのは、魔力が詰まっちまっているからだろう。ま、つまりは宝具を放つ弾け具合がたんねえってことよ」
「そうなんですか!? ということはもっと私がやる気を出せば宝具を発動できるのですね」
マシュの声は一気に弾んだモノへと変わった。
未だ使えないままだが宝具が発動する手立てが見つかっただけでも儲け物と言えよう。
「いいか、宝具ってのは本能だ。本能が呼び起こされる様な事が起これば自ずと目覚める筈だ。だから今は気にすんなってこと。さ、休憩はこの辺で終わりにして、そろそろ行くぞ! と、そうだ。その前に一つ。銀髪の兄ちゃん」
「ん? なんだよ」
「ま、ちょっと、な」
訝しげな目で見る銀時に、クーフーリンはニヤリと笑った。
そしてしばらく。
歩く銀時たち一行はついに、大聖杯の眠る地下へと続く洞窟前にたどり着いた。
「着いたぜ。この洞窟の最奥にセイバーと、聖杯がある」
「言われなくてもわかるわ‥‥‥‥ ここから漏れる魔力濃度は異常よ。なんか気持ちわる‥‥‥‥ うぷ」
クーフーリンは洞窟の奥を指差す。オルガマリーは内部から感じ取られる魔力量に吐き気を催していた。
「フォッ! グゥウウ‥‥‥‥ !!」
感じ取られる魔力の気配は内部からだけではない。銀時たちの背後から嫌な気配を感じ取ったフォウはふりかえり、毛を逆立て唸った。
「おう、お前かアーチャー。相変わらずセイバーを守ってんのかよ、この信奉者」
「信奉者になったつもりはないんだがね。つまらん来客を追い返す程度の仕事はするさ」
銀時たちの前に現れたのは、顔に赤い刺青のような物を浮かび上がらせる白髪の男、アーチャーだった。今までの自我を失ったサーヴァントたちとは何処か雰囲気が違うようだった。
男はクーフーリンの皮肉を適当にあしらう。
「要は門番じゃねーか。なにからセイバーを守ってんのか知らねーが、ここらで決着をつけようか」
「ふん。悪いがそこまで暇じゃないんでね。それに私の相手は── 君じゃない」
光と共に何もなかっはずの空間から、アーチャーの手の中に弓と剣が出現する。そして剣は形を変え矢となり射てられた。
その矢先はクーフーリンではない。盾の隙から見えるマシュの眼前へと迫っていたのだ。
それに気づいた銀時がヤベェ! と叫び慌ててマシュをどかし
「先輩!?」
マスター銀時の行動にマシュが目を見開く。アーチャーの放つ矢を受ければ人間である銀時は人溜まりもない。
マシュは最悪の結末を想像したが、それは杞憂に終わる。
「エイワズ !」
キャスターが魔術を唱えた。
キャスターの詠唱の効果か。矢は炎に包まれマシュに到達することなく燃え尽きた。
「寂しいことは言いっこなしだぜ、アーチャー。それとも俺の相手は自信がねえか?」
「キャスター…… 何度も言わせないでほしいのだがね。君に用はない。そこを退け」
「退いてどうする? 盾の嬢ちゃんを殺すか? お前さんがそうまでして熱心に狙うってことは、嬢ちゃんはセイバーにとってよっぽど都合の悪い敵。つまり俺たちにとっちゃ、切り札ってことでいいんだよな」
「……!」
キャスターの言葉にアーチャーは眉を寄せる。
マシュもまさか自分の事を切り札と評価するキャスターに驚いた顔を見せた。
「クーフーリンさん。それはどういう……」
「行けばわかるさ。セイバーを守るアーチャーが必死になってあんたを狙ってんだ。てことは嬢ちゃん、もしくは嬢ちゃんの持つ盾に何かあると思うのは当然だろ」
「…… ですが私は宝具がーー」
「嬢ちゃん。確かに嬢ちゃんは未だに宝具は使えねえままだ。だがこの国には火事場のバカ力っつー言葉がある。ようは嬢ちゃんの覚悟にかかってるってことだ」
「覚悟……」
「なあに、嬢ちゃんならやれるだろう。何せあんたのマスターはその銀髪の兄ちゃんなんだぜ」
マシュは隣に立つ銀時へと視線を向ける。
守られるべきであるあずのマスターでありながら身をていしデミとはいえサーヴァントであるマシュを守ったこの男を。
「はっ、とんだ過大評価だよ。俺はあんたの思ってる程大層な人間じゃねーさ。だが……まあ、マシュ。お前の背中を守る位のことはくらいならできる。だからお前も、肩の力抜いとけ」
「はい…… 先輩!」
緊張により強ばっていたマシュの顔は笑顔に変わる。
クーフーリンはそんな二人を見てふっと笑った。
「覚悟は決まったな! 銀髪の兄ちゃん、嬢ちゃん、ここは俺に任せて行け。洞窟の中に奴が、セイバーがいる!」
クーフーリンがアーチャーへと飛び出し一気に間合いを詰めた。
一瞬、攻撃が封じられたアーチャーの隙をつき銀時たちは洞窟の中へと走って行く。
「おのれ!」
「そう怒るなよアーチャー。それとも俺が相手じゃ不安か?」
一触即発。魔術師の英霊と弓兵の英霊。今、二人の英雄ぶつかり合う。
道中襲いかかるスケルトンの群れを蹴散らしながら洞窟内を駆け回った銀時たち一行はついに大聖杯の地に辿り着いた。
彼らの目に入った物。銀時はただただ驚愕し、魔術をよく知るオルガマリーはその強大さを理解し普段の威厳も忘れ口をポッカリと空ける。
「これが大聖杯…… 超抜級の魔術炉心じゃない……」
彼らの目前に広がるのは洞窟内とは思えぬ広い空間内に聳え、塔のようには巨大な岩の絶壁。暗闇の洞窟を淡く漂う紫の光が照らしている。
その様はまるでこの空間だけこの世から隔離された異空間。そう感じざる得ないほどに大聖杯は異質だった。
「なんで極東の島国にこんなものがあるのよ……」
『資料によると、制作はアインツベルンという錬金術の大家だそうです。彼等はある目的を果たす為に他の一族と共にこの大聖杯を作りあげたそうですがーー』
「ほう。面白いサーヴァントがいるな」
オルガマリーの疑問に通信越しにロマニが答えようとしたが、それは一人の少女の声によって遮られた。
声のした方向へと一斉に顔を向ける。声の主は聳え立つ絶壁の上に立ち、金色でありながらも奥底に闇を思わせる怪しげな瞳で銀時たちを値踏みするかのように見据えていた。
人形めいた真っ白な肌が漆黒に染め上げられた鎧を一層目立たせる。その風貌は美しくも恐ろしい。この世の邪気全てを纏ったかの様な少女にオルガマリーは息をのみ、マシュは肩を震わせる。
「なんて魔力放出…… ! あれがセイバー……」
マシュは震えた声で少女のクラス名を言う。これから自分達はあれ程の敵を相手に戦わねばならないのか。
覚悟を決めようとも恐れは変えられない。盾を握る手から嫌な汗が流れた。
「一人で五人も倒した奴だって聞いてたからよ。どんなゴリラみてーな奴がいるかと思ったんだが‥‥‥‥ まさかこんなベッピンとはね」
「こんな時によく軽口叩けるわね……」
敵を目前に相も変わらずな銀時にオルガマリーは呆れる。
しかしマシュはそんな銀時を見て何故だか、すっと肩の荷が一気に降りたような気がした。
もしかしたらこの軽口も彼なりのマシュへの気遣いなのかもしれない。
「まあ、槍使いのねーちゃんと違ってまだまだガキみてーだけどな。体の一部分もそこの岩みたいに絶壁だし──」
「まじでこんな時に何処の話してんのよォォ!!」
オルガマリーのツッコミの一撃により銀時はヘブシ! と小さな悲鳴と共に吹っ飛んだ。
自分を気遣うからこその発言…… なのだとマシュは思うことにした。
「盾…… か。名も知れぬ娘に異物のマスター。些か力不足でははあるが、その能力は未知数…… 成る程。ここまで辿り着くことができたのにも納得がいく。いいだろう構えるがよい。私に今の貴殿の力量を見せてみろ」
セイバーが漆黒の剣を構える。
銀時が木刀を構えマシュが握る手に力を込める。
この時代特異点Fでの最終決戦始まろうとしていた。
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