Fate/Silver Order -選ばれし48人目のマスターは銀髪侍- 作:天パ男
セイバーの剣技がマシュに向かい容赦なく振るわれる。マシュは懸命に盾を使いガードをするが、それが精一杯。
反撃の余地もなく防戦一方の状態に陥っていた。
「くっ……」
「どうした? 攻めに来ないのか」
一撃一撃があまりにも重い。小柄な体からは想像出来ない程の強力な攻撃が襲いかかる。
盾を越えマシュの体に当たれば確実に体が吹き飛ぶ。
最悪な結末が頭に浮かぶ。しかしそれでもマシュは怯まない。恐怖を感じることはあれど諦めはしない。
何故なら自分にはマスターが、あの男がいるから──
「おらあァァ!!」
「……!」
マシュへと攻撃を集中させていたセイバーが木刀を構えた介入者の手によってついにその場から離脱する。
介入者の正体はマシュの仮のマスター、坂田銀時だった。
古風な着物に洞爺湖と彫られた木刀。謎多き人間の登場にセイバーは動きを止める。
「異物、か。いったいなんのつもりだ?」
「決まってんだろ? こいつは戦いなんだからよ。俺が参加しても構いやしねーだろ」
「ふん。勇猛果敢な戦士というにはあまりにもふざけている。しかし‥‥‥‥ だからといって脆弱な魂を持ち合わせているわけでもない。妙な男だ」
「そんな変人に見える? 俺は、ただの侍だよ。ジャンプ愛好会のな」
銀時はニヤリと笑う。
「ジャンプ…… ? なんだそれは。益々意味がわからん。だが侍…… か。成る程、極東の島国の戦士、侍。それが貴様の正体か。騎士道を誇る我らとはまだ別の思想の元に戦う戦士だったとはな。どうりで貴様という存在を理解できぬはず」
セイバーもまた不敵に笑うと剣先を向ける。
「だが同じく剣を取り自らの誇りにかけて戦う者には変わりあるまい。なれば例え貴様が人間であろうとも、我が聖剣、
「んなっ!? エクスカリバー!!?」
セイバーの言葉に、岩影に隠れてた戦いを見守っていたオルガマリーは目を見開き、震えた声で叫んだ。
エクスカリバーが何なのか。それを知っているのかマシュも同じく動揺した様子を見せる。
何のことやらさっぱりわからない銀時は一人、え、なに? 俺だけ知らない感じ? と別の意味で動揺していた。
そんな銀時の疑問に答えるべく、最早ていのいい解説役になってしまったロマニが通信を開く。
『なんかボクの扱いが悪い気がする! いやそれよりも、エクスカリバー…… これはまずいぞ! その聖剣の持ち主ということは彼は、あいや、彼女はあのアーサー王だということだ!』
『アーサー王』それは世界中の誰もが知る物語「アーサー王伝説」に登場する円卓の騎士の一人であり、ブリテンの伝説的君主。
エクスカリバーは知名度と逸話として伝えられる能力から察するに驚異的な力であることが容易に想像がつく 。
「銀時、マシュ! 一旦退きなさい! あなたたちだけじゃ、そいつには勝てない!」
「所長…… 今更それは無理かと。第一彼女の前では……」
マシュの盾を握る手が震えと緊張によりより一層強くなる。
「逃げることさえ許されない──」
「そういうことだ」
刹那。
会話によって一瞬生まれた隙。セイバーはすかさずマシュへと跳び出し剣を突きつける。
「あぐっ‥‥‥‥!」
盾で防ぐも衝撃までは消しきれない。
体は強制的に後方へと後退させられ銀時の足元へと転がって行った。
「マシュ!!」
「すみません‥‥‥‥ 先輩」
銀時はセイバーを警戒しつつ、マシュの安否を確認した。
幸いそこまでのダメージはない。しかし衝撃と恐怖からかマシュの手は震えていた。
「ふん。マスターはまだしも、サーヴァントの貴様はつまらんな」
「っ!!」
セイバーは冷たい目を向け、剣を構える。
すると剣から黒い光が溢れ始めた。
「これで終わりにしよう」
「魔力反応増大‥‥‥‥ !! マスター! 私の後ろに」
マシュは震える体を無理矢理お越し、銀時を背に盾を構える。
セイバーから感じ取られる膨大な魔力量。
彼女は終わりにすると言った。それはつまり、
「宝具が‥‥‥‥ !! 聖剣が来ます!!」
恐らくこの世で、最も有名な聖剣。
アーサー王をアーサー王たらしめる最大の武具にして最強の力。
「光を呑め────
セイバーの振りかざした聖剣から黒い魔力の光が砲弾の如くマシュへと放たれる。
黒い光は巨大な剣の形を模し、地面を抉り空気を裂くように突き抜けた。
「マシュ!」
銀時の叫びに答える余裕は既にマシュにはなかった。
エクスカリバーの攻撃を全てマシュ一人の力で抑え込こんでいたからだ。
聖剣の攻撃を受けて尚、盾は欠けることがない。しかし盾を扱うマシュ自身は今にも地に伏してしまいそうなほどに体力を削られていた。
伝う汗が視界を狭める。盾を握る手から力が抜けていく。
足は震え、呼吸もままらなくなってきた。
だがそれでも攻撃が止むことはない。
光は弱まることもなくマシュの盾に食らいついてくる。恐らくこの光はマシュたちを呑み込むまで消えることはないのだろう。
反撃の余地もなく、最早、攻撃を抑え込む力もない。
だが、それでも
「あああああああ!!」
彼女は諦めない。
消えようとする意識を半場無理矢理にでも震いたたせる。
ここで自分が折れればどうなる。
所長がフォウが。そして先輩と慕う坂田銀時の為にマシュは己の身を捨てでもセイバーに立ち向かう。
しかしその決意もセイバーは無情に切り捨てる。
敵の魔力の光は力を弱める処かさらに出力が上げられた。
「ぐっ…… う……」
諦める気など毛頭ない。だがそれでも体はどうしてもその気持ちに追いつかないのだ。
ついに片膝つき視界が黒に染まりかけた、その時ーー
「よく……やったぜ、マシュ」
彼女の肩を優しく叩き真っ直ぐな目を向ける一人の男がいた。
「先輩…… !」
本来ならば守られる立場であるべき筈の銀時は今、マシュの横に立っていた。
「マシュ、お前、ジャンプの三大原則って知ってるか?」
「え……?」
「友情努力勝利の三大原則。ロボに魚に一つ目猫にワニ、それにゴリラも知ってるような原則だ。どんな強敵が前に出てこよーが、どんだけ心がぶっ壊れちまいそうになろーが、最後にはテメーの仲間が支えてくれる。それがどんなに無謀でバカみてーなことでもな」
「先輩…… それは」
「だから信じろ、マシュ。お前の隣にいる、どうしようもねえ
その時、銀時の右手が一瞬赤く光ったように見えた。
その光景を影から見ていたオルガマリーは息を呑む。
「あれは、まさか令呪を‥‥‥‥ !」
令呪。それはサーヴァントに対する絶体命令権。または単純な魔力の増強としても使える。銀時にはまだ詳しい説明はしていない。
恐らくはこの土壇場で無意識に発動したか。
「…… はい…… ! 先輩── マスター!」
再び握る手が、疲労しきっていた体全てに力が沸き上がった。
銀時の激励と令呪による単純な魔力のブースト。
その二つが合わさりマシュの闘志を奮い立たせる。
この攻撃を抑え込めるのか。勝てるか負けるか。
そんな事はわからない。だが、この男の言葉なら信じられる。
「「おおおおおおおおォォォ!!」」
二人の雄叫びが洞窟内に響き渡る。
その叫びにセイバーは顔を歪め、オルガマリーは僅かな希望に思いを託した。
それに応えるようにマシュと銀時、二人の前に盾を中心に青い光が現れ、形をなしていった。
光は巨大な壁となり聖剣の光をセイバーの元へと弾き返えす。
「宝具展開!」
「これが俺たちの──
カメハメ波だァァァァ!!」
「絶対、違えェェェェェェ!!!」
「バカな! あの盾は──」
マシュが、銀時が叫ぶ。そしてオルガマリーのツッコミが響き渡ったと同時、黒い光はそのまま主人であるセイバーの体を呑み込み爆発した。
「今のがマシュの宝具なの?」
マシュの引きおこした力にオルガマリーは驚愕していた。
衝撃で巻き上がる土煙。その中に小ぶりな人影が映る。
セイバーだ。
彼女はあの攻撃をまともにくらいながらも未だ生きていた。
しかし体の至るところに傷をおい、顔は苦痛に歪んでいる。
「やり、ました……」
ついにやった。喜びの声を無意識に漏らすがついに体力はつきマシュは地に倒れ伏した。
ここまでよくやったと言うべきだろう。
元々戦闘経験のないマシュがボロボロになってまでセイバーの攻撃を止めたのだ。
だがそんなマシュに対しセイバーは感嘆の声もなく機械的に歩を進め倒れるマシュを見下ろすように立つ。
「ハァ、ハァ‥‥‥‥ まさかこちらの魔力が先に尽きるとは。全く、
「まずい! マシュ…… 立って!」
最早意識がないのか、オルガマリーの声にマシュは答えることはなかった。
「だがこれで終わりだ。今度こそ」
ただ死にかけの虫を駆除するようにセイバーが剣をマシュへと振り下ろそうとした、その時だった。
「待て…… 奴は何処だ?」
セイバーは気づいたのだ。
さっきまでマシュと共にエクスカリバーの攻撃を止めマスターの姿がないことに。
突然の事に動揺し、セイバーの動きが止まった。
「…… 信じています…… 先輩!」
か細くも力強い声が聞こえた。
声の主はマシュだった。倒れ意識などもう既に消え去ったと思っていた少女から確かに聞こえたのだ。
未だ諦めていない決意の込められた声が。
「まさ── か」
「よう」
セイバーの視界の端に木刀を握る男の姿が映った。
時間は少し遡る。大聖杯へと向かう前。銀時たちが休憩を終えて出発しようとしているとクーフーリンが銀時を呼び止めたのだ。
「──その前に一つ。銀髪の兄ちゃん」
「ん? なんだよ」
「ま、ちょっと、な。兄ちゃんの木刀を俺に見せてくれよ」
銀時は何だと思いつつも、特に断る理由もなかったので木刀を渡す。
するとクーフーリンは木刀をまじまじと見て、
「こいつは中々だな。ちとカレー臭いのが気になるが。お前さん、こんなもの何処で手にいれた?」
「通は‥‥‥‥ あ、いや修学旅行で洞爺湖の仙人から貰った。なんかお前は選ばれしナンチャラだとかで」
「一番重要な部分がわかんないんですけど。ていうか修学旅行って」
オルガマリーは呆れてツッコム。
「ま、出自に関してはこの際いいけどよ。問題なのはこの木刀には神秘がないってことだ。神秘がなきゃ名刀だろうとサーヴァント相手には戦えねぇ。だから俺が一つ、手を加えてやるよ」
「は? おいおい、なんか変なことする気じゃねーだろうな」
「むしろ良いことだっつーの。俺のルーンをあんたの木刀に仕込む。これがありゃあサーヴァントにもダメージが通るだろう」
クーフーリンはそこまで言うと、ただしと続ける。
「それは一回限りだ。あんたの木刀がセイバーの肉体に一回でも触れればルーンの魔力が爆発する。相手の状況にもよるが、かなりのダメージにはなるだろうさ。ま、使い時は考えるんだな」
ルーン魔術を仕込んだ木刀を銀時へと投げ渡し、クーフーリンはニヤリと笑った。
そして時は戻り──
「まさかサーヴァントではなく人間の一手で致命傷を負うとは‥‥‥ 私も力が緩んでいたらしい。いや、それもまた言い訳か。敗因は守る者の力の強さを甘く見た私の愚かさ、か」
セイバーの黒い鎧の腹部は砕け、病的なまでに美しい白い肌が露となっていた。ただし眼を瞑りたくなるほどに真っ赤な血を流して。
「いやいや、オメーさんもたった一人でよくやったよ。俺らを相手にな」
セイバーに止めをさした張本人である銀時がマシュに肩を貸しながら言った。
セイバーは銀時の言葉にふっと笑う。
「人間の身でありながらサーヴァントを打ち負かした貴様に言われてもな。といっても、実を言うとそこまでの驚きはない。寧ろ何故か以前にも似たような── いや、それはただの夢、あるいは気のせいか」
面白い物を見せてもらったとセイバーは密かに笑みを浮かべた。
さっきまで敵同士であったにも関わらずまるで友人の様に話す二人。
そんな中でマシュは銀時の腕に寄り添いながら何度も瞬きをしながら見ていた。
これがコミュニケーション能力という物かと驚くも会話に入れないマシュ。
何となく居心地が悪いなと思い始めた時、おかしな介入者が現れた。
「待たせたな!」
「きゃああああ!!」
意気揚々とした男の声がしたと思ったらオルガマリーの悲鳴が響いた。
何事かとセイバーを含む三人がオルガマリーの方を見るとそこには、頭にアンテナのような角を二本生やし、地デジカと書かれた黄色いレオタードを着たキャスターがいた。
「いや、お前なにしてんのおォォォ!?」
「色々とあってな…… だが、アーチャーは倒した! 次はおめーさんだ、セイバー!」
「戦いならば、とうに終えたぞ。キャスター」
「まじかよ、おい!」
「きもい! なんだよくわからないけれど、キモいわ! なんなのよこれは!」
鳥肌が浮かび引きまくるオルガマリーを他所にキャスターは叫ぶ。
「いいかテメーら。近未来百年先までの地球においてアナログ放送の痕跡は発見できねえ。俺の直感がそう言っている」
「いや、それどこのバカデアス! つーかとっくにアナログなんてねーから。もう既に消滅したから。さっさとお前も消滅してくんない!」
なんか変な電波をキャッチしたキャスターに銀時はツッコミを入れた。
「生憎だっな銀髪の兄ちゃん。この程度でくたばれるんなら俺は英雄になんぞなっちゃいねぇ…… ってあれぇ!? なんか消滅しかけてる!? なんか体から光出てる!」
キャスターの言う通り。彼の体からは淡い光が出ていた。それと同時に彼の体は薄く消えていく。
そしてそれは彼女、セイバーも同様だった。
「つまりはそういうことだ、キャスター。結局、どう運命が変わろうと、同じ結末を迎える」
「あ? どう意味だそりゃあ。テメェ、何を知っていやがる?」
消え行く中でセイバーはまるで何かを悟ったかのように語る。
「いずれ貴方も知る、アイルランドの光の御子よ。『グランドオーダー』聖杯を巡る戦いは、まだ始まったばかりという事をな」
「冠位指定グランドオーダー…… セイバー! どうして貴女がその呼称を知っているの!」
血相を変えてオルガマリーが問いかける。だが、それにセイバーが答える前に彼女は、完全に消滅してしまった。
セイバーの消えた後には水晶体が残されていた。
「結局なにもかも分からずじまいかよ。まあ仕方がねえ。嬢ちゃん、兄ちゃん! あとの事は任せたぜ」
「キャスターさん!」
「偽デジカ!」
キャスターもまた笑みを浮かべるとその場からついに消えてしまった。
あとに残された三人と一匹はしばらくポツンと立ってたが、通信が入る。
『よくやってくれた。マシュ、銀時くん。君たちの姿がきちんと確認できないのが残念だよ』
「まじか。じゃあ所長があんなことやこんなことをしてる姿も見えねーのか」
「何アホな事言っているのよ!」
オルガマリーのチョップが銀時の後頭部にクリーンヒットした。
それを見てマシュが笑い、通信の向こうでロマニがえええと慌てふためく。
フォウも元気よく鳴いていた。
セイバーに勝利し、誰一人欠けることなく生き残った。
そう。全ては終わったのだ。
誰もが羨むハッピーエンド──
パチパチ
そう確信していた銀時たちの耳に、ゆっくりと両手を叩く音が聞こえてきた。
しかしこの音は勝利を讃える賛美の拍手だとは思えなかった。何処か人を小馬鹿にしているような皮肉の込められた嫌みな拍手。
少なくとも一人、銀時はそう感じていた。
「いや、まさか君たちがここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ」
声の主。
それは絶壁の上に立ち紫の淡い光をバックに立っていた。マシュやオルガマリーには見なれた存在。
オルガマリーにとって最も信頼できる男。
「レ…… フ?」
オルガマリーが嬉しそうに彼の名前を呟いた。