崩壊した、という表現がまさにぴったりだった。
まるで巨大な斧か鉈で叩き割られたかのように裂けた道路。
建ち並ぶビル群は大穴を穿たれ、あるいは道路と同様に断ち割られている。
瓦礫の山々の中に、時空管理局地上本部の魔導師や騎士たちが死屍累々、力無く横たわっている。
そんな市街地の中に、一人の男がいた。
破壊された自動販売機の中から清涼飲料水のペットボトルを一本取り、中身を三口飲んだ。
男の傍らには、槍がアスファルトの歩道に突き立てられていた。
小さな物が、男の元へ飛んできて、距離を置いて宙にホバリングしてとどまった。
それは身長二十センチほどの人だった。燃えるように赤い髪と、背中から生えるコウモリの翼を持つ少女だ。
「旦那……なんで、こんな……」
「おかげで、身体が程好く暖まった」
男はそう答えた。
ゼスト・グランガイツ。
時空管理局地上本部最強の騎士と謳われ、『不屈の神槍』の二つ名で崇められ、本局の精鋭たちでさえ、「勝つのは容易ではない」と口を揃えて讃えた男。
かつての英雄は、不意に空を見上げると、中身がまだ大量に残っているペットボトルをクズカゴにノールックで放り込み、槍を地面から引き抜いた。
瞬間、空から地上へと、風が吹く。
そして現れたのは、もう一人のゼスト──こちらはだいぶ年若い。
服装も、ゼストが身に纏う騎士服と似てはいるが、ノースリーブのインナーからは荒岩を削ったような筋肉に覆われた太い腕が覗き、首元に巻いた真っ赤なマフラーが、風にたなびいていた。
そして携える得物は、ゼストと同じ形の槍である。
ラファーガ・グランガイツ。
ミッドチルダの首都たるここクラナガンで鬼神のごとく恐れられ、『暴嵐の魔槍』の二つ名を本局にまで鳴り響かせる男。
ラファーガは周囲に軽く目線を走らせた。
「ずいぶん派手にやりやがったな」
「地上本部も質が上がったようだ。今の俺のウォーミングアップになれたのだからな」
「元同僚ぶっ飛ばしといて、言う事はそれだけか」
「ゼスト・グランガイツが死んでから、何年経ったと思っている……顔も名前も知らぬ者たちだ。牙を剥くというのなら、倒すのに何の躊躇いもない」
「そうかい」
ラファーガはフゥ……と、小さく溜め息をついた。
「騎士の中の騎士と謳われた男は、もうどこにもいねえって事か」
「その通りだ。我が身はもはや騎士にあらず……ただ欲するがままに槍を振るうのみ。そして俺が欲するものはただ一つ、貴様との戦いだ」
「けっ、らしくねえ事言うじゃねえか」
「俺はずっと、それを願っていた……ただ、管理局の騎士として、抑えていたに過ぎん。その
ゼストは槍の切っ先をラファーガに向けて、叫んだ。
「違うな」
ラファーガはしかし、ハッキリと否定の言葉を口にし、そして槍を構えた。
「俺にとって最強ってのは、幻想なんかじゃねえ。俺だけが座る事の出来る、俺だけの椅子だ! 先に座ってる奴がいればぶっ飛ばす! 俺を押し退けて座ろうとする奴もぶっ飛ばす! ただそれだけだ!」
「……変わらんな、やんちゃ坊主め」
ゼストも槍を構える。
口角が知らず上がっていた。
親子と呼ぶには余りにも似すぎている、二人の騎士。
これは、同じ遺伝子を持つ二人の男の、運命の物語。