鋼鉄のストライカー   作:阿修羅丸

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1:「ラファーガと名付けよう」

【1】

 

 調度品の類いは一切ない、だだっ広く、殺風景な部屋。

 そこにたたずむのは、一人の少年。

 青系の色のボディスーツをまとう肉体は、非常に鍛えられている。年齢は十四歳だが、発達した筋肉と高い身長のせいで、もう二~三歳は上に見える。

 手にしているのは、槍だ。

 緩やかに湾曲した漆黒の穂先。その峰側に小振りな斧刃が生えている。揺らめく炎をそのまま凝固させたような形のその刃の中心に、琥珀色の宝玉が埋め込まれている。

 長柄の反対側は先端の30センチほどが一回り太くなっており、石突きは円錐状に尖っている。

 少年はその槍を両手で構え、腰を落とした。

 彼の周囲を、楕円形の機械が取り囲むようにして浮遊していた。一つ一つが少年の背丈よりも大きく、巨体の中心に人の顔ほどもある大きなレンズが埋め込まれていた。

 そのレンズが光ったかと思うと、少年に向けて一斉に熱線が放射される。

 少年は四方八方から迫る攻撃を、手にした槍で弾き、切り裂いていく。素早く槍を振り回す様は、まるで竜巻だった。

 機械の群れは熱線が効果なしと見るや、楕円形のボディを開いて、中から蛇腹状のベルトを伸ばしてきた。直撃すれば人体など簡単に引き裂き、押し潰せる。

 少年は飛んできたベルトを槍で打ち払って別のベルトにぶち当て、攻撃を逸らした。

 死角に回り込んで熱線攻撃に移ろうとした一機が、少年の投げつけた槍に機体を貫かれた。

 少年は一跳びでその一機に近付き、槍の長柄を掴んで軽々と振り回す。

 振り回された勢いで機械は槍からすっぽ抜けて、仲間にぶち当たり、爆発した。

 

「カートリッジ、ロード」

 

 少年がぼそりと呟くと、それに答えるように槍の太くなっている石突き部分が、炸裂音と共にスライドした。そして薬莢が一つ排出されると、槍の穂先に山吹色の光が宿り、燃えるような輝きを放ち始めた。

 

「うぉらあっ!」

 

 少年が輝く槍を横一文字に振り抜くと、穂先に宿る光が伸びて長大な刃を形成し、残る機械を一網打尽に切り裂いた。

 真っ二つに両断された機械の群れが爆発して、爆風が少年の髪をなびかせた。

 

『ブラボー! おおブラボー!』

 

 不意に、場違いさすら感じさせる陽気な声が響く。いつの間に、そしてどこから入ってきたのか、白衣を着た長髪の男が、少年の背後に立っていた。

 少年が振り向き様に男に向かって槍を投げつけた。

 槍は男の身体を貫き──否、すり抜けて、向こう側の壁に深々と刺さった。

 よく目を凝らせば、男の身体は微かに透けているのがわかるだろう。実体ではなく、立体映像であった。

 

『乱暴だなぁ君は。僕をあと何回殺すつもりだい?』

「どーせ生き返るんだからいいじゃねぇか」

『生き返ってるのではなく、バックアップが記憶と知識を引き継いでいるだけなのだがねぇ……まぁいい。それより一つ仕事を頼まれてくれないかね? 侵入者を排除してほしいんだ』

「ガラクタどもにやらせろ」

『おやおや、いいのかい? 君がずっと思い焦がれていた相手なんだけどねぇ』

「……んだとぉ?」

 

 少年は歯を剥いて、獰猛な笑みを浮かべる。

 

「つまりその侵入者ってのは……」

『そう、君のオリジナルだよ。タイプ・ゼロ・ファースト』

 

【2】

 

 壁や床に埋め込まれた非常照明でぼんやりと赤く照らされた廊下を、ゼスト・グランガイツは一人歩く。

 非人道的な研究が行われている施設へ部隊を率いて乗り込んだ彼は、部下たちに施設内に囚われている保護対象を確保させるべく、敵の目を引き付ける囮役となって、一人奥へ奥へと突き進んでいったのだ。

 我が家の廊下を歩くようなゆったりした足取りだが、いつ、どこから、何が襲ってきても対応出来る身構えも出来ている。全身に無駄な力みがなく、かといって過剰な弛みもない。

 その足取りが止まった。

 前方の薄暗がりの中から、人影が五つ。

 形は人だが、人間ではない。警備用アンドロイドだ。流れ弾や跳弾で設備が破壊されるのを恐れてか、いずれも銃器の類いは持たず、先端が二股に別れた長い棒を手にしている。捕具の一つである刺叉だ。Uの字型の先端から時折青白いスパーク光が走るところから、動きを封じて電気ショックで気絶させるタイプらしい。

 アンドロイドがゼストを取り囲もうと陣形を左右に広げた時、ゼストは既に動いていた。敵陣形の最左翼に位置する一体の頭部を、槍で貫く。

 

「カートリッジ、ロード」

 

 ゼストの声に応じて、槍の太い石突き部分がスライドした。空の薬莢が炸裂音と共に排出されると、槍の穂先に燃えるような光が宿る。

 

「烈風一迅!」

『グロウスバイル』

 

 槍の穂先に埋め込まれた宝玉が、音声と共に煌めいて、魔法を発動させる。穂先に充填された魔力を圧縮し、長大な光の刃が成形された。ゼストはそうして更にリーチを伸ばした槍を振り抜いて、残るアンドロイドたちを撫で斬りにした。

 ──が、廊下に散らばった残骸の数は、四機。

 一体はゼストがグロウスバイルの魔法を発動させた瞬間、既に跳躍して、その斬擊をかわしていたのだ。そして逆手に構えた電磁刺叉で、頭上から襲い掛かる。

 

「紫電──」

 

 ゼストは槍を大きく引き、

 

「──一閃!」

 

 上空に向けて鋭く突き出す。魔力の刃でリーチを延長していた槍が、電光石火となってアンドロイドの胴体を貫いていた。

 電磁刺叉の一撃もしっかりかわしての、見事な対空カウンターであった。

 

【3】

 

 敵を壊滅させたゼストは更に廊下の奥へと、歩を進める。

 やがて、一つの大きな扉の前にたどり着いた。

 その扉が、ゆっくりと音もなく左右に開く。

 奥は広い部屋となっていた。調度品の類いは一切ない、だだっ広く、殺風景な部屋。

 その真ん中に、青系の色のボディスーツをまとう少年が立っていた。

 ゼストはその少年を知っていた。

 その顔は、若い頃の自分と全く同じだった。

 右肩に担ぐようにして持っている槍は、宝玉の色こそ違えど、自分が振るう得物と同じだった。

 何より、彼こそはこの研究施設に囚われている保護対象の一人であった。

 ゼストが室内に足を踏み入れると、扉は開いた時と同様に、音もなく閉まった。

 

「待ってたぜ、オリジナル」

 

 少年が肩に担いでいた槍の切っ先を、ゼストに向けた。

 

「アンタとずっと戦いたかったんだ」

「何故だ」

「アンタが強えからだよ。他に理由があるか?」

「俺は戦いに来たのではない。君たちを救いに来たのだ」

「そーかい。チビどもなら好きに持ってけよ。ここにいるよりはマシだろうからな。アイツ等マジ向いてねえしよ」

「向いてない、とは?」

「戦うのに、だよ。兵器として造られたっつぅー自覚が絶望的に足りてねえ。スカ公でもありゃ矯正は無理だろうよ──だが、俺は違う。俺は戦うために造られた兵器だ。強くなくっちゃあ意味がねえ。強え奴と戦って、軒並みぶっ倒して、俺の価値を知らしめる。そして、俺の知る限りで一番強えのがアンタだ。だから戦う。それだけさ」

「……戦うつもりは、ない」

「そーかい、じゃあ勝手にしな──俺も勝手にやるからよ!」

 

 言うなり少年は身を屈め、地を蹴って突撃してきた。獲物を見付けた餓狼さながらの素早さと獰猛さだ。

 その姿が、ゼストの槍の間合いの一歩外で、消えた。

 ゼストが頭上を仰ぐ。そこに少年は、いた。槍を両手で大きく振りかぶり、

 

「うらぁああっ!」

 

 野獣めいた咆哮と共に思いきり振り下ろす。

 ゼスト、咄嗟に槍を頭上に掲げて、この一撃を防いだ。

 手中に走る衝撃。スピード、パワー、どちらも申し分なし──攻撃に込められた殺意も。

 この少年は、誰かを人質に取られているとか洗脳されてるとかではなく、完全に自分の自由意思で、ゼストとの戦いを望んでいるのだ。

 ゼストは両手で掲げた槍を回転させて少年の槍を押さえた。

 そこから、石突きでの横殴り。

 だがなんということか、少年はその一撃を、歯で噛み止めた!

 一瞬、驚きで目を見開くゼストだが、そのまま槍を反対方向に振り抜き、槍に文字通り食らいついたままの少年を投げ飛ばした。

 少年は壁に激突する寸前にクルリと身体を回転させて、壁に着地するや否や、その壁を蹴って跳躍。ミサイルめいて一直線にゼスト目掛けて飛び掛かり、鋭い突きを繰り出した。

 ゼスト、これを縦にかざした槍で受け流す。

 床に着地した少年は、そこからも更に激しい連続攻撃を繰り出す。防御されようがかわされようが、お構い無しだ。

 突き。

 突き。

 打ち。

 打ち。

 突き。

 打ち。

 打ち。

 突き。

 突き。

 突き。

 先を読ませぬランダムな攻撃パターンで、狙いも上段・中段・下段を上手く織り混ぜている。加えて攻撃は槍のみにとどまらず、時に拳が、時に蹴りが、果ては頭突きや噛みつきまで飛んでくる。

 ゼストはその猛攻を、冷静に捌いていた。

 少年の攻撃は鋭く、速く、強い。しかしまだまだ動きに無駄があり、踏み込みや重心の位置などから、簡単に予測できる。

 槍と槍のぶつかり合う金属音が、室内に不規則に轟き、戦いの唄を鳴り響かせた。

 ゼストは少年の攻撃を時に受け止め、時に受け流し、時に打ち払いながらも、彼のタフネスに舌を巻いていた。

 肉体だけでなく、精神面でもだ。これだけ攻撃を続ければ、そろそろ息が上がってくるはずだが、攻撃の勢いは全く衰えない。しかしこれだけ攻撃を捌かれれば、いい加減気持ちが挫けても良さそうなものだが、少年の表情からはそのような気配が微塵も感じられない。むしろ大きく目を見開き、歯を剥いて、嬉しそうに笑っている。自分の攻撃が通じない悔しさより、自分の攻撃が通じないほどの強者と戦える喜びが上回っているのだろうか……。

 

(懐かしいな)

 

 ゼストは、不意にそう思った。

 この少年よりもまだ幼い頃に騎士を志し、ハンドメイドのアームドデバイスで修練に励んでいた日々を思い出したのだ。

 

(そうだ……あの頃の俺もまた、強くなる事だけしか考えてなかった……)

 

 あの頃の自分が、時を越えて目の前に現れたような、そんな奇妙な錯覚すら覚えた。

 

『隊長。第二小隊クイントです』

 

 そこへゼストの脳内に響く、女の声。魔力による念話、いわゆるテレパシーである。

 

『保護対象の姉妹を確保しました。残る一人の居場所はまだ……』

『今、俺の目の前にいる。お前たちは姉妹の安全確保を最優先し、回収ポイントへ向かえ』

『こちら第一小隊メガーヌ。ジェイル・スカリエッティの確保に失敗しました──スカリエッティが我々の目の前で、自爆したのです』

 

 割り込んできた別の女の声に、ゼストは眉をひそめた。

 違法な研究のために人体実験を繰り返す次元犯罪者ジェイル・スカリエッティ。ゼストの部隊がこの研究施設に乗り込んだ、もう一つの目的だったのだが……。

 

『こちらの負傷者はなし。この施設内にスカリエッティの仲間はいないようです。我々も回収ポイントに向かいます。隊長もお早く』

『わかった』

 

 念話での通信を終わらせると、ゼストは少年が股間目掛けて振り上げた槍のけら首を逆に踏み台として跳躍し、距離を取った。

 

「他の二人は、今俺の仲間が保護してくれた」

「そうかい」

「ジェイル・スカリエッティは、自ら命を断ったそうだ」

「どうせまた生き返るさ」

「どういう意味だ?」

「まんまだよ。今までに何回かぶっ殺してきたけど、次の日にはケロリとした顔でどっからか湧いて出てきて、プリンかっ食らってやがった。バックアップがどーたらとか言って、ホントは生き返るのとはちがうみてーだけど、ま、似たようなもんだろ」

 

 バックアップ。

 その言葉が引っ掛かった。

 

(もしや、自分自身のクローンを造り置きして、何かしらの方法で記憶や知識を引き継がせているのか……?)

 

 やりかねない。

 ゼストはそう確信する。

 そもそも今相手をしているこの少年こそ、ジェイル・スカリエッティがどこからか入手したゼストの遺伝子を元にして造り上げたクローン人間にしてサイボーグ『戦闘機人』なのだ。

 先程部下のクイント・ナカジマ率いる第一小隊が保護した幼い姉妹も、そのクイントの遺伝子を元にしたクローン人間。

 禁忌の領域に散歩気分で足を踏み入れる男ならば、自分のクローンだって造りかねないだろう。

 ──それはそれとして、この少年、今さらりととんでもない事を口にしていた。

 同じ人間を何度も殺しているというのに、あっけらかんとし過ぎている……。

 

「……あとは、お前を保護するだけだ。勝負の続きは必ずやる。今はおとなしくついてきてもらいたい」

「嫌だね。オメーがその気でも、絶対周りの奴等が邪魔するだろうからな。存分にやれるのは、今ここしかねえ!」

 

 少年は腰を落として、槍を構える。

 ゼストも無言で応じた。

 どちらも、相手のど真ん中を真っ直ぐに貫く突きの構えだ。

 数秒の静寂。

 先に動いたのは少年だった。

 爆発するような勢いで間合いを詰めて、全身の筋肉のバネを総動員させた渾身の突きを放つ。

 ゼストも同様に突きを放った。

 ぶつかり合う二つの槍──しかし勝ったのは、ゼストであった。

 ゼストの突きは少年の突きを外側へと弾き、それでもなお軌道をぶれさせる事なく少年の胸にぶち当たったのだ。

 槍の穂先は魔力で厚く覆われているので、刺し貫く事はなかったが、衝撃は少年の肉体に浸透し、背中側へと突き抜けて、ボディスーツの背面部分を風船のように破裂させた。

 

「がはっ……!」

 

 まるで体の中で爆弾が爆発したような衝撃に、少年は肺の中の空気を全て吐き出して、無様に倒れた。

 ゼストが少年に向けて手をかざすと、山吹色の光の輪が複数生まれて、少年を拘束した。

 

「俺の勝ちだ。おとなしくついてきてもらおう」

 

 ゼストは言いながら、少年を引っ越し荷物か何かのように軽々と肩に担ぎ上げた。

 同時に、狙いすましたようなタイミングで部屋に震動が走る。

 ゼストの顔の横にモニターが浮かび上がり、紫色の髪の女性が映し出された。先程スカリエッティの自爆を報告したメガーヌである。

 

『隊長! 大型機動兵器がそちらに向かっています! 急いで脱出を!』

「わかった。残りの一人を今保護したところだ。お前たちも急げ」

 

 ゼストは手短に答えて通信を打ち切る。

 少年が肩の上で尋ねた。

 

「おい、今機動兵器っつったか!」

「聞いての通り、こちらに向かっているそうだ」

「そいつはたぶんグレンデルだ!」

「友達か?」

「んな訳あるか! スカ公が作ったオモチャだ! そのうち管理局にけしかけて性能テストするとかほざいてやがったぜ!」

「予定を前倒しにしたという訳か……」

 

 ゼストは少年を床に下ろすと、槍の石突きのスライドカバーを手で開いて固定した。

 そして騎士服のウエストポーチから弾丸を一つ取り出し、槍の中に装填した。

 この弾丸には火薬の代わりに魔力が詰め込まれてあり、これをデバイス内で擊発させる事で急速に魔力を補填し、魔法の行使に利用するのだ。

 ゼストがカバーを閉じたのと同時に、壁が外側から引き裂かれて、巨大な影が現れた。

 それは全身が金属で出来たトカゲとでも言うべきか……しかし、地面から背中までの高さだけでも七~八メートルはあるだろう。頭から尻尾までの長さはそれ以上。鯨並みの大きさだった。

 その巨体を前にしても、ゼストは泰然としていた。

 

「ぼさっとするなおっさん! さっさとこれほどいて、テメーは逃げろ! 俺が片付ける!」

 

 芋虫みたいにもがきながら叫ぶ少年に、ゼストが視線を向けた。かすかに口角が上がっている。

 

「心配してくれているのか」

「そんなんじゃねーよタコ! テメーは俺の獲物だ! 他の誰にも渡さねえ! いいからさっさとほどけ!」

「──大丈夫だ。俺は負けん」

 

 優しく、諭すように言うと、ゼストは機動兵器『グレンデル』と対峙する。

 グレンデルが大きく口を開けると、その奥に砲口が見えた。そこから青白い熱線が放たれる。

 

「カートリッジ、ロード」

 

 ゼストの命令に応じて、槍は石突きのスライドカバーを作動させ、魔力入りカートリッジを一発擊発させる。

 充填された魔力が山吹色の光となって穂先に宿り、長大な刃を形成すると、ゼストは槍の一振りで迫り来る熱線を切り裂き、雲散霧消させた。

 グレンデルの背中と左右の脇腹の一部がせり出して、そこから各六発ずつのミサイルが発射される。

 

「烈風一迅!」

『グロウスバイル』

 

 槍の穂先に埋め込まれた宝玉が煌めき、魔力光刃を更に伸長させる。

 ゼストは、三方向から発射されたミサイル群がほぼ同じ高さに並んだ瞬間に合わせて、槍を横一文字に振り抜き、たったの一薙ぎでミサイルを全て切り払った。

 ミサイルが爆発して、炎と煙がグレンデルの巨体をゼストの視界から隠してしまう。

 その煙幕を貫いて、グレンデルは前足で殴り掛かってきた。

 

「ムンッ!」

 

 唸るような声と友に、ゼストは自身の背丈よりもまだ大きい拳に、槍を繰り出す。

 速さと鋭さを兼ね備えた電光石火の突きは、怪物の巨拳を止めただけに留まらない。浸透した衝撃はグレンデルの腕を突き抜けて肩で爆発し、前足が轟音を上げて地面に崩れ落ちた。

 グレンデルの次なる攻撃は、尻尾だ。

 胴体と同じか、それよりも長い尻尾。

 その先端がドリルとなって猛烈な勢いで回転し、部屋の天井を突き破ってゼストの頭上から襲い掛かる。

 しかしゼストは、それをすでに見抜いていた。

 足下に転がる少年を、足で半ば蹴飛ばすようにして遠くへ投げ飛ばし、地を蹴ってグレンデルの懐へ飛び込み、上空からの奇襲をかわす。

 

「カートリッジ、フルロード!」

 

 槍に装填されていたカートリッジ、残り四発が立て続けに擊発される。

 莫大な魔力が穂先に宿り、獰猛なまでの激しい光輝を放った。

 

「豪破一閃!」

『ジーゲン・シュラーク』

 

 ゼストは熱線を放たんと口を開けたグレンデルの、その口の中に飛び込んだ。

 手にした槍が山吹色の閃光となって、熱線砲の砲口を貫く。

 ゼストの全筋力と全魔力を総動員させた必殺の一突きが、グレンデルの体内でチャージされたエネルギーを暴発させた。

 百雷も斯くやの轟音と共に、グレンデルの巨体は首だけを残して爆発した。

 

 ブシュウウウッ!

 

 槍のスライドカバーが開き、そこから大量の蒸気が熱と共に排出された。

 

「さぁ、行こう」

 

 ゼストはそれだけ言って、あんぐりと口を開けたままの少年を再び肩に担いだ。

 

「……アンタ、ホントに人間か?」

「そのつもりだ」

 

 素っ気なさすら覚える、短い返答であった。

 静かになった施設内を歩きながら、ゼストはふと、ある事に気付いて、担いだ少年に尋ねた。

 

「そう言えば、まだ名前を聞いてなかったな」

「タイプ・ゼロ・ファーストだ」

「それは、名前とは言わん」

「しょーがねえだろ、そうとしか呼ばれてなかったんだからよ。文句があるならテメーが付けろ。俺にピッタリな強そうでカッコいいやつじゃねーとダメだからな!」

「ふむ、そうだな……」

 

 ゼストはしばし考え込んだ。

 先程のこの少年との戦いを思い出す。

 まだまだ未熟で粗も多いが、まるで嵐のような激しい槍捌きだった。

 

「ベルカ語で、全てを薙ぎ払うような激しい風……烈風を意味する言葉……」

 

 きっと気に入ってくれるだろう。

 何故かそんな、奇妙な確信と共に、ゼストは告げた。

 

「ラファーガと名付けよう」

「らふぁーが……ラファーガ……」

 

 少年は口の中で何度か繰り返した後、歯を剥いて笑った。

 

「……カッコいいじゃねーか」

 

 どうやら気に入ったようだった。

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