鋼鉄のストライカー   作:阿修羅丸

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2:「デビュー戦だ」

【1】

 

 次元犯罪者ジェイル・スカリエッティが開発した戦闘機人の試作品である『タイプ・ゼロ』。

 クイント・ナカジマの遺伝子を元に造られたタイプ・ゼロ・セカンドとサードの姉妹はそれぞれ『ギンガ』『スバル』と名付けられ、クイントとその夫ゲンヤの養子となった。

 そしてゼスト・グランガイツの遺伝子から造られ、そのゼストから『ラファーガ』という名前を与えられたタイプ・ゼロ・ファーストは、ゼストが養子として引き取る事となった。独身のゼストだが、地上本部のレジアス・ゲイズ少将が保証人となる事で、法的手続きはクリア出来た。

 そうして半年の月日が過ぎたある日、ゼスト隊の隊員たちはゼストに紹介された新入隊員の姿を見て、大同小異戸惑いを隠せなかった。

 管理局の制服を着たラファーガが、目の前に立っていたからである。

 

「ラファーガ・グランガイツ三等空士っス。よろしくお願いします(ヨッシャス)

 

 ラファーガは手を後ろに組んで、ピシッと背筋を伸ばし、それでいて面倒くさそうに挨拶した。

 

「戸籍上は俺の息子だが、だからと言って遠慮はいらん。みっちりとしごいてやってくれ。メガーヌ、ダグラス、隊舎の中を案内してやってくれ」

 

 ゼストの指示に従い、メガーヌ・アルピーノともう一人、身長も肩幅も体の厚みも全てゼストを二回りは上回る色黒の巨漢ダグラス・ダグソンが前に出て、ラファーガを連れて部屋を出ていった。

 

「いいんですか、隊長」

 

 隊員たちがそれぞれの持ち場や職務に戻る中、クイント・ナカジマがデスクに戻ったゼストの傍らで尋ねる。

 

「スカリエッティの元でずっと戦わされていたアイツを、今度は管理局員として戦わせる事になるんですよ?」

「お前ももうわかっているだろう。学校に行かせたところで、アイツの性格では必ずトラブルを起こす。そしてアイツの力でトラブルが起きれば、死人が出るかも知れん。我々の手元に置いておいた方が、よほど安全だ」

「まぁ、そうですけど……」

 

 クイントは渋々といった風に納得した。

 三人のタイプ・ゼロを確保した後、スカリエッティの研究施設も調査した結果、幾つかの記録映像が発見された。

 内容は、全てラファーガの戦闘記録だ。相手はガジェットドローンと呼ばれる戦闘機械、あるいは行方をくらませていた違法魔導師、あるいは別の次元世界で捕獲して来たと思わしきモンスターと様々だ。それらを相手に、ラファーガが槍を振るっている。身体は平均よりも大きいとはいえ、まだ十代前半の少年が、だ。

 事情聴取の場で、その映像を見て胸が詰まる思いに駆られたクイントは、思わずラファーガを抱き締めてしまったのだが、そんな彼女を煩わしげに突き放しながら少年が発した言葉が、これだった。

 

「触んなブス」

 

 その一言で、クイントの中にあった少年への憐憫の情が、ガラス細工めいて砕け散った。

 こういう少年である。ゼストの言う通り、普通の生活にはまず馴染めまい。それどころか、

 

(そもそもアイツ、集団生活出来るの?)

 

 そのようにさえ思えてしまうのである。

 

 

 一方、メガーヌとダグラスに連れられて隊舎内を案内されていたラファーガは、食堂の手前でピタリと立ち止まった。

 身を屈めて、料理のサンプルが並んだショーケースをジッと見ている。

 

「あら、どうかしたの?」

「ここ、昼飯にプリンついてくんのか」

「──?」

 

 メガーヌがラファーガの視線を追うようにショーケースを見る。

 中にはランチメニューが並んでいた。左からA・B・C・Dの四つのコースがあり、Dコースにはデザートに小さなカップのプリンが付いている。ラファーガが言っているのはこれの事だろう。

 

「そうね、食べたいならこのDコースを朝のうちに注文しておけばいいわ」

「そっかー……へっ、毎日プリン食えるとか、時空管理局チョー良いとこじゃねえか! マジ気に入ったぜ!」

「あら、プリンが好きだなんて、意外と可愛いのね」

「舐めんなブス」

 

 コロコロと笑うメガーヌに、ラファーガはそう吐き捨てる。『可愛い』はこの少年にとっては誉め言葉ではないどころか、侮辱に近かった。

 それにしても、感情の移り変わりの早さに、ちょっぴり面食らうメガーヌであった。

 ダグラスは二人のやり取りを、山のように泰然と、寡黙に見守っていた。

 

【2】

 

 ゼスト隊に入隊してから二週間が過ぎる頃、ラファーガは早くも飽き始めた。

 訓練は元々高い身体能力のせいで苦にならず、かえって退屈に感じる。

 有事の際に備えての待機シフトに至っては、新手の拷問にさえ感じていた。

 その日がまさにそうで、与えられたデスクに堂々と突っ伏して、昼寝をする始末である。

 

 ゴスッ!

 

 クイントの拳骨が、その後頭部に突き刺さった。

 

「ラフ! 堂々と居眠りぶっこくんじゃない!」

「しょーがねえだろ、暇なんだよ。暇すぎて死にそうだ、いっそ殺して埋めてくれ」

「アタシ等が暇なのは良い事でしょうが!」

「俺は良くねえ」

「どうして」

「俺は兵器だ。戦うために造られたんだよ。戦わねーと生きてる意味がねえ」

「アンタねえ……」

 

 クイントがお説教をしようとした時、アラームが鳴り響いた。

 市街地で違法魔導師の集団が破壊活動を行っているらしい。

 ゼストに率いられ、隊員たちは輸送ヘリに乗り込み、現場へと向かう。

 いち早く戦場に躍り出たいラファーガは、ヘリの中でイライラしていた。

 ヘリでの移動は飛行魔法を使える空士にとっても、現場移動に費やされる魔力の節約になる──が、それはラファーガにとってはどうでも良い事であった。

 ゼストが、そんな息子に声を掛ける。

 

「ラファーガ」

「あん?」

「一番槍はお前だ。敵の注意を引き付けて、後続が安全に降下するための時間を稼げ」

「ありがてえ! 話がわかるじゃねえか!」

 

 ラファーガは歯を剥いて笑う。

 輸送ヘリが現場上空に到着した。建物や道路が一部破壊され、自動車が数台炎上し、黒煙を上げている。

 ヘリの後部ハッチが開くと、ラファーガはその縁に立って、現場とそこにたむろする違法魔導師たちの姿を見下ろした。

 

「デビュー戦だ、派手にいくぜ!」

 

 まるでこれからパーティーでもやるかのような、明るい声色だ。

 そして何の躊躇いも見せずに、ヘリから飛び降りた。

 

「吼えろ、無敵の槍よ!」

 

 デバイスの起動パスワードを唱えると、右手の中指にはめられた指輪が閃光を発した──否、指輪その物が光に変わった。そして形を変えて、槍を形成する。

 槍の穂先に埋め込まれたデバイスコアが煌めき、ラファーガの着ている制服を分解、騎士服に再構成する。ゼストが着ている騎士服と基本的には同じだが、インナーウェアはノースリーブで、上衣はグレー。そして首元には真っ赤なマフラーが巻かれてある。

 ゼストと同じ山吹色の魔力光に包まれ、ラファーガは流星めいて一直線に降下、今まさに逃げ遅れた親子に向けて杖型デバイスを向けた違法魔導師の上に着地した。

 当然魔導師は踏み潰される。その隙に親子は逃げ出す。

 

「な、何だテメエは!」

 

 地面にうつ伏せに倒れ、背中を踏みつけられた魔導師が怒鳴る。

 ラファーガはその後頭部を思い切り踏みつけ、他の違法魔導師たちに槍の切っ先を向けた。

 

「時空管理局だ! 死にてえ奴から掛かって来い!」

 

 雷鳴にも似た大音声を上げるや否や、自分から敵に向かって突撃していく。

 違法魔導師たちは手にした杖型デバイスを向けて、ラファーガ目掛けて魔法を放った。赤・青・緑・黄・紫……様々な色の魔力光が弾丸や熱線となって、襲い掛かる。

 ラファーガ、これに対して何の防御もせずに突っ込んでいく。

 ゼストと同じ青い瞳が、今は金色に輝いていた。

 違法魔導師たちの放った射撃・砲撃が、ラファーガに直撃した──瞬間、彼等の魔力は少年の肉体を破壊するどころか、逆に砂に水が染み込むかのように消えてしまう。

 直後、ラファーガを包む山吹色の魔力がその輝きを強めた。

 魔力が槍の穂先に集まり、長大な刃を形成する。

 

「うぉらぁあああっ!」

 

 野獣めいた雄叫びと共に横一文字に振り抜かれた槍が、魔力刃で違法魔導師たちをまずは五人、一気に薙ぎ払った。

 残りの違法魔導師たちの意識が、完全にラファーガ一人に向けられた。

 そこへゼストたちもそれぞれデバイスを起動させ、バリアジャケットや騎士服をまとって降下してくる。

 現場は一気に乱戦状態となった。

 その中で、ラファーガは文字通りに暴れ回る。

 瞳を金色に輝かせ、魔力の閃光や弾幕を浴びせられながら平然と動き回って、目についた敵を蹴り飛ばし、殴り倒し、投げ飛ばし、槍で打ち、突き、薙ぎ払う。まるで羊の群れに飛び込んだ餓狼だった。

 そんなラファーガに優るとも劣らぬ勢いで動き回るのが、クイントだった。

 彼女独自の魔法『ウィングロード』は、魔力で形成された道を空中に展開するものだ。そうやって形作った足場の上を、両足に装備したインラインローラー型デバイス『ジェットキャリバー』で移動する事で、飛行魔法を習得してない身でありながら擬似的な空中戦を行えるのだ。

 そのウィングロードを縦横無尽に展開して、両手に装着した籠手型デバイス『リボルバーナックル』を用いた格闘術と魔法で、次々に敵を撃破していく。

 しかし前方に伸ばしたウィングロードが、不意に切断されて雲散霧消し、クイントは空中に投げ出される形となった。

 クルクルと体を回転させてバランスを取り、難なく着地。

 そこへ違法魔導師の一人が襲い掛かってきた。

 長身に丈の短い赤いマントを纏った魔導師の、振り上げられた右手には、長さ70cmほどの斧が握られている。

 クイントはとっさに左手をかざす。掌から放出された魔力が、各頂点に円が付いた三角形の紋様を描いて盾となり、凶悪な一撃を受け止めた。

 斧が赤い魔力光を帯びている事から、恐らくはこの斧が彼のデバイスなのだろう。そして先程ウィングロードを切断したのもこの男だと、クイントは推察した。

 

『カートリッジ、ロード』

 

 敵の(デバイス)がミッドチルダ語でそのような音声を発し、柄の部分がスライド、銃弾の薬莢のような物が排出された。どうやらカートリッジシステムも搭載されているようだ。そうして充填、増強された魔力が斧の刃に流れ込み、爆発を起こして、クイントが張った魔法のシールドを吹き飛ばした。

 クイントはカートリッジシステムが作動した時点で、ジェットキャリバーのローラーを逆回転して後退し、距離を取る事で難を逃れた。

 ──が、ここで思わぬアクシデントが発生する。

 後退した先の道路に走った大きな亀裂に、ジェットキャリバーのローラーがはまりこんでしまったのだ。

 そこへ違法魔導師が斧を振りかざして追撃してくる。

 クイントは右の握り拳を引き絞り、迎撃しようとしたが、両者の間に、赤いマフラーをなびかせて、ラファーガが乱入してきた。

 掲げた槍の長柄で、相手の斧を受け止める。

 

「ようオッサン、俺とも遊んでくれよ」

 

 ラファーガは歯を剥いて笑い、軽口を叩く。

 

「おもしれえ。いいだろう、死ぬほど可愛がってやるぜ、坊や」

 

 敵も歯を剥いて、残忍な笑みを浮かべた。

 槍と斧での打ち合いが始まった。

 けたたましい金属音を響かせ、火花がとめどなく散り、互いに相手の喉笛を狙い合う虎同士の噛みつき合いにも似た、激しい斬り合いだった。

 奇しくも二人の戦闘スタイルは、酷似していた。どちらも相手の攻撃を防いだりいなしたりするのではなく、迎え撃ち、打ち払う。『攻撃こそ最大の防御なり』を地で行く戦い方であった。更にその攻撃も得物による打ち込みのみならず、拳や蹴り、果ては噛みつきまで多用するところも、実によく似ていた。

 二十四合目の打ち合いの後、両者は再び鍔迫り合いの形になる。

 

「なかなかやるな、坊や。楽しかったぜ」

「おいおい、もう息切れか? こっちはまだまだやれるぜ」

「いや、もう充分楽しんだって意味だ。周りを見てみな」

 

 言われてラファーガが視線を素早く巡らせると、自分の左右と背後に、相手の赤い魔力光で出来た球体が浮いていた。

 

「俺の魔法術式はベルカじゃねえ、ミッドチルダ式だ。だからこういう芸当も出来る。あばよ」

『ブラッディ・バレット』

 

 魔導師が飛び退くと同時に、斧型デバイスの詠唱で、複数の魔力弾が同時にラファーガに襲い掛かる。

 爆発が起きて、煙がラファーガの姿を隠してしまう。

 違法魔導師はカートリッジをもう一度ロードして魔力を充填する。

 

「さぁ……こいつでトドメだ!」

『ブラッディ・スマッシュ』

 

 デバイスが、カートリッジから得た魔力を刃に纏わせる。

 真っ赤に輝く斧を振り上げて、違法魔導師は射撃魔法の直撃で動けなくなっているであろうラファーガに斬り掛かった。

 だが、煙の中から現れたラファーガは傷ひとつ負ってはいない。

 それどころか、全身から燃えるような山吹色の魔力光をほとばしらせている。

 ラファーガは右手一本で握った槍を、後方に大きく引き絞った。その漆黒の刃に、全身を包んでいた魔力が集束される。

 

「──紫電一閃!」

 

 魔力光を刃に纏った槍が、稲妻のような速さと鋭さを以て繰り出された。

 電光石火の一突きが、魔導師の胸部を直撃して、大きく吹っ飛ばし、その先のビルの壁に叩きつけた。

 

 

 斧使いの魔導師が敵の頭目だったようだ。彼の敗北を機に、敵はたちまちの内に戦意を喪失し、戦いはそれからすぐに終わった。

 

「ありがとう、ラフ。助かったわ」

 

 クイントがラファーガに近寄り、礼を言う。

 

「ん? ああ、気にすんなよ。弱い奴を守るのは強い奴の特権だからな。男の浪漫ってやつだ」

「男の浪漫、ねえ……」

 

 クイントは思わず苦笑する。それは夫のゲンヤが、自分の趣味に小遣いのほとんどをつぎ込むのを正当化する際に使う言葉でもあった。

 そんなクイントをよそに、ラファーガは溜め息をつく。

 

「どうかしたの?」

「なぁーんか物足りねえんだよ。いまいち暴れ足りねえ……なぁ姐さんよぉ、帰ったら相手してくれよ」

 

 ラファーガは、友達同士で内緒話をするかのようにクイントの肩に腕を回し、そう言った。

 クイントはラファーガの顎に軽いアッパーカットをコツンと当てる。

 

「帰ったらレポート書かなきゃいけないんだから、そんな暇はないでしょ。それと、私はこれでも人妻なんだから、肩に腕を回すのはやめなさい」

「ちぇっ、ケチくせえ事言ってんじゃねーよブス」

「ハイハイ」

 

 ラファーガの罵倒を、クイントは受け流す。

 この少年、口は悪いが、恐ろしく語彙貧弱で、男には『豚野郎』女には『ブス』としか言わず、他はせいぜい『バカ』しか言わない。クイントのみならず他の隊員たちも、すぐにそれに気付いてしまい、最早罵られても痛くも痒くもないのである。

 更にクイントに限れば、二人の可愛い娘たちが『お母さんは世界で一番綺麗』と言ってくれるので、余計に気にならないのである。

 

(今夜は何作ってあげようかしら……)

 

 小さな体に反して大人の倍以上は食べる愛娘たちのために、クイントは早くも今夜の夕食の献立を考え始めた。

 

【3】

 

 救急隊や警察が駆けつけて、怪我人の搬送や現場の後片付けが始まる。

 暴れ足りないラファーガは、その様をボンヤリと眺めていた。

 

「エリオ、エリオぉおおおっ!」

 

 不意に女の声がして、何とはなしにそちらを振り向く。

 少し車道を挟んで反対側の歩道で、女性がしゃがみ込み、赤い髪の男の子を抱き抱えて呼び掛けていた。さっきラファーガが助けた親子であった。

 

「エリオぉおおおっ! 後でオモチャ買ってあげるから! アイスクリームもケーキも好きなだけ食べていいから! だから目を開けて! 返事をしてぇえええっ!」

 

 母親は涙声で何度も呼び掛け、揺さぶるが、エリオと呼ばれた男の子は何の返事もない。その首は有り得ない角度に曲がって、母親に揺さぶられる度に力なく揺れている。ラファーガが目を凝らすと、こめかみが陥没している。逃げた先でも戦闘に巻き込まれ、流れ弾か瓦礫が当たったのだろう。

 

(──馬鹿か)

 

 ラファーガは胸のうちで毒づいた。

 

(そのガキはもう死んでんだよ。見りゃわかんだろーが)

 

 ラファーガの見ている前で、救急隊が駆け寄り、母親から息子を引き剥がそうとする。別の隊員が死体袋の口を開けた。

 

「いやぁあああっ! やめて、エリオに触らないで! 死んでなんかない! エリオは死んでなんかない! 頭を打って気を失ってるだけなの! もうすぐ目を覚ますはずなのよ! だから連れて行かないで! エリオを連れて行かないでぇぇえええ! エリオ、エリオぉおおおっ!」

 

 狂ったように叫ぶ母親だったが、隊員が右手のグローブ型デバイスをかざし、強制睡眠の魔法を行使したようで、すぐにおとなしくなった。

 

「子供を亡くしたか……」

 

 つまらなそうに眺めていたラファーガの傍らに歩み寄ったゼストが、ポツリと呟いた。

 

「母親にとって子供は、文字通り己の一部だ。ましてやああも幼いうちに亡くすのは、己の手足を引きちぎられるような思いだろうな……」

「……くだらねえ」

 

 ラファーガはそう吐き捨てた。眉間に小さくシワを寄せている。

 そしてゼストの前でこれ見よがしに唾を吐き、迎えのヘリが待つ合流地点──現場近くのビルの屋上にあるヘリポート──へと歩き始めた。

 スカリエッティのラボにいた頃を、彼は思い出していた。

 性能テストと称して、様々なタイプのガジェットドローン、違法魔導師、別の次元世界の生物、戦士などと戦った。

 しかし二人の『妹』たちは怖いと言って泣き喚くばかりだ。それがうっとうしくて、ラファーガは率先して二人に代わって戦って戦って戦い抜いた。

 息子の死が受け入れられず、何度も死体に呼び掛ける母親を見た時、泣いている妹たちを見た時と同じ訳のわからない苛立ちが、胸中にふつふつと沸き起こったのである。

 

「……お前にも、いずれわかる時が来るだろう」

 

 その背中を見送りながら、ゼストは小さく呟いた。

 

【4】

 

 その日の夜、ゼストはまだ隊舎に残っていた。

 デスクの上に両肘をついて手を組み、パソコンの画面をジッと眺めている。

 昼間の、ラファーガと違法魔導師との戦いを収めた映像である。ゼストのデバイスが撮影した物と、クイントのデバイスが撮影した物の二つだ。

 どちらの映像でも、ラファーガが敵の射撃・砲撃魔法を何の防御もせずにその身に浴びている。

 そして浴びた直後、ラファーガの魔力量が上昇した事を、画面の端に表示された分析データが示していた。

 

(敵の魔力を吸収しているのか……?)

 

 そうと見て間違いはないだろう。

 しかしゼストですら、今まで一度も見たことのない能力だ。もっともラファーガの事だ、今まで使わなかったのも、今日使ったのも、どちらも単に『そういう気分だった』だけなのかも知れないが……。

 

「色々と、確かめておく必要はあるな……」

 

 記録映像の再生を終わらせると、デスクの端の電話の受話器を取り、番号を入力する。

 もう遅い時間だが、あの男ならまだ職場に残っているはずだ。そして、残っているのなら必ず4コール目で電話に出る。1コール目で電話に気付き、2コール目で相手を確認し、3コール目でメモの準備をしてから、4コール目で電話を取るのだ。今夜もそうだった。

 

『まだ帰ってなかったのか』

「お互い様だ」

 

 受話器の向こうから聞こえる、ぶっきらぼうな野太い声に、ゼストは知らず微笑んだ。

 

「頼みがあるのだ、レジアス。本局の魔導師との模擬戦をセッティングしてほしい」

『珍しいな。息子が出来て、かえって気持ちが若返ったか』

「いや、戦うのは俺ではない。ラファーガだ。奴の能力をしっかりと把握しておきたい。三提督と親しく、本局にも顔の利くお前なら容易いと思ってな」

『良かろう。何か条件はあるか?』

「うむ、出来れば射撃や砲撃魔法を得意とする魔導師がいい」

『わかった。日程はあの子たちの定期検査の日に合わせるぞ。必要以上に本局を訪れて、不審に思われてはいかんからな』

「すまんな」

『ところで、貴様の息子はどうなのだ。使い物になりそうか?』

「どうだろうな。アイツは戦う事しか知らなかった。これから何を学び、何を思うかはアイツ次第だ。俺に出来るのは、道を示す事だけさ」

『おい、そんな事では困るぞ。せっかく確保出来た貴重な戦力だ。貴様がしっかりと調教しろ』

「善処はする。では──」

『待て、ゼスト』

 

 電話を切ろうとしたゼストを、相手は呼び止めた。

 

『先日、娘の学校で定期試験の結果発表が行われたのだがな』

 

 ──嫌な予感がした。

 

「すまんがレジアス。俺はまだまとめなくてはならない書類が」

『オーリスは何と、全科目で学年一位になったのだ。たまたま調子が良かっただけなどと謙遜しおって、実に奥ゆかしい。女房の良いところばかりしっかりと受け継ぎおって、まったく可愛らしいと思わんか? しかもだ。せっかく褒美に何か買ってやろうと言ったのに、お父さんと一緒に食事がしたいなどとまでほざきおる。そろそろ親離れせねばならん年頃だろうに、実に素晴らしい!』

「……おいレジアス……それは、今回も馬鹿みたいに長くなるのか……」

 

 レジアス・ゲイズ少将は、厳つい顔に似合わず子煩悩である。彼の毎度毎度馬鹿みたいに長くなる(時には内容がループする)娘自慢に付き合わされる事だけが、ゼスト・グランガイツの悩みであった……。

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