この季節は嫌いだ。   作:グラスワンダー担当

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一話で終了です。
2万字くらいあります。


この季節は嫌いだ。

この季節は嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春の陽気が見え隠れし過ごしやすくなったと、目覚まし時計を止め、若干の寝たりなさを抱えたまま顔を洗いながら感じる。それと同時にまたあの時期が来るのだと思うと憂鬱になっていまう。

 

 

3月某日

 

 

中央トレセンのトレーナーは皆この時期は憂鬱ではないのか?と考えるが一部の、いわゆるトップトレーナー達には華やかな時期なのだろう。苦楽を共にし栄光を勝ち取った愛バの卒業という晴れ舞台なのだから。

 

身支度を済ませてトレセンに向かう。

 

校門には忙しなく卒業式の準備をするウマ娘達が多くおり、皆お世話になった先輩ウマ娘を快く送り出そうという思いが伝わる。少しの寂しさを含む笑顔で。

 

 

 

トレーナー室に着き担当ウマ娘のトレーニングメニューに目を通し、日々のタイム表から次のトレーニングメニューを考査する。どの能力を伸ばそうか。彼女に合った能力はなんだろうか。苦手なことは何だ。得意なことはなんだ。

 

 

私は最適な判断が出来ているだろうか。

 

 

 

「トレーナーさん?」

 

 

いけない、考えすぎていたようだ。彼女がトレーナー室に入ってきたことすら気付かずにいた。

 

「あぁ、すまないね。少し考え事をしていて気付かなかったよ」

 

私はそう言い、苦笑いを浮かべる。

 

「もう!いつもいつも言ってるじゃないですか!あんまりにも仕事し過ぎるから考え事が多くなるんですよ!少しは気を楽に仕事してください!」

 

そう彼女は言い定位置のソファに座る。いつもの右側だ。

 

「今日の自主トレは問題無かったかな?」

 

「うん、大丈夫でした!むしろ調子良くてもうちょっとだけ多く走っちゃった」

 

「それなら良かった、しかしあまり無茶な追加はやめてくれよ。」

 

優しく諌めるような口調で彼女に忠告をする。

 

「はーいはい」

 

もう、いつもいつも分かってますって

 

そう言い彼女はソファから立上がり、トレーナー室にある冷蔵庫からデカウマを取出しソファへと戻る。

 

プシュッ

 

キャップを開けジュースを飲む彼女を見ながらそういえばあの子もあのジュース好きだったなと気付く。

 

「なんですか?トレーナーさんもデカウマ飲みたいんですか?それだったらまだ冷蔵庫に入ってましたよ」

 

「いや、飲みたいわけじゃないんだ。ただ、そういえばあの子もそれ好きだったなって思ってね」

 

そう私が言うと彼女の耳が、しっぽがピクリと動く。

 

「まあ、私が好きになったのも先輩から教えてもらったってのもありますしね、毎回休憩中に飲んでて私に勧めるもんだから私もすっかりはまっちゃいましたしね」

 

はははと笑いながら彼女はソファの左側を見つめる。

少しの沈黙の後、彼女は言う。

 

「明日の卒業式、先輩の家族も見に来るって言ってましたよ」

 

その言葉を聞いた瞬間心臓の鼓動が早くなる。

動揺を見せないように静かに深呼吸をして落ち着かせる。

 

「そうか」

 

それだけ言い再びトレーニングメニューを見つめる。

それ以後は彼女も何か喋るわけでもなく時間なったので教室に向かっていく。

 

一人になったトレーナー室を見渡す。

 

「この部屋こんなに広かったか」

 

 

 

 

 

 

 

 

この季節は嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

運命だと思った。

 

あの子が走る姿を見たときに一緒にトゥインクルシリーズを駆け抜けたい。そう思えた。

選抜レースは一着ではなかったが、光るものがあったし、自分ならその光るものを宝石に出来ると信じていた。

そう思ったら行動は早かった。すぐに彼女をスカウトした。

 

「私と組んでほしい。必ず君を幸せにするから」

 

今思えばもうちょっとマシなセリフは無かったのかと思うが、当時の私にはあれが精一杯だったのだ。

 

「な、なんだかプロポーズのような情熱的なセリフですね。あ、あの逆に私なんかでいいんですか?こう言ってはあれですがさっきのレースは2着ではありましたけど7バ身も離されてましたし」

 

暗に私はそんな程度のウマ娘なんですよーと耳としっぽも使って表している。

 

「でも諦めていなかった」

 

少しばかり声を強く出した、彼女に伝わるように。

彼女のへなへなになっていた耳としっぽがピンと跳ね上がる。

 

「他のウマ娘が諦めて足を緩めている中で君だけは走っていた。まだ負けていない、絶対に負けたくないって気持ちが痛いほど伝わってきたんだ。だから私は君しかいないって思ったんだ。」

 

「あ〜。えっと…その…うん。わか、分かりました。あなたと組みます!なのでこれか宜しくお願いしますねトレーナーさん!」

 

 

その日の夜は一人で少し豪華なご飯を食べた。初めての担当ウマ娘が決まったのだ。少し位は女神も許してくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この季節は嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後のトレーニングに向けての準備を行いながら彼女が来るのを待つ。

 

「トレーナーさん、お待たせしましたー」

 

「ああ。よし、そしたらウォーミングアップをしたのち今日は坂路に行くぞ!」

 

「うぇぇー坂路かー、あれキツいんだよね」

 

耳としっぽは口程にものを言うと先人達は言っていたがトレーナーになってなおの事実感する。

 

「ほら、文句言わずに行く!」

 

「ふぇーい」

 

少し前なら私が言う前に彼女をたしなめて、言うことを聞かせるあの子がいない為ブツブツ言いながらウォーミングをする彼女を見ながら、どうしてもあの子の事が頭をよぎる。

 

「疲れたー、トレーナーさん疲れたー」

 

自分頑張りましたアピールのつもりなのか疲労を口にしながら最後のストレッチを行っている彼女に近付きながら計測タイムを確認する。

 

「タイムは伸びているぞ、その疲労も無駄では無いということさ」

 

そう伝えると彼女の意思伝達機能を携えた耳としっぽがパタパタと動く。

 

喜んでいるな。

 

「次のレースまでにこのまましっかり仕上げないと、ですねトレーナーさん!」

 

こちらを向き笑顔でそう言う彼女と共にトレーナー室に向かった。着替えを終えた彼女と次のレースのコースマップを見ながら対策を話し合う。

やれここの坂はキツいだの、コーナーがキツいだのを話し出走登録されたウマ娘の名前を見ながら傾向を分析する。

 

大丈夫。大丈夫だ。

今度は大丈夫だ。

 

そう胸の中で叫ばれる声を抑え込み対策を終えた彼女を寮へと送り出す。

 

私もそろそろ帰ろう。

少しだけやるつもりがガッツリと残業してしまった私は帰宅することにした。トレーナー寮へと向かう道を歩いていると不意に声をかけられる。

 

「忍野トレーナー」

 

声がした方を振り向くとそこにはたずなさんが居た。

 

「たづなさん、どうしたんですか?こんな時間に女性一人で歩くのはあまりおすすめ出来ませんよ。」

 

まあ、彼女が暴漢に襲われる事などは無いだろうが女性にそう言うのは所謂エチケットなのだと思う。

ここで貴方の怪力でしたら相手はイチコロですね、なんて言おうものなら暴漢と同じ末路を歩むことになるだろう。

 

「………貴方はやれる事を全てやりました。決して貴方の責任ではありませんよ。」

 

「……………」

 

言葉が出ないと言うのはこの事だろう。

何か言葉を発しようとしても口が動いてくれない。

胸が締め付けられる。

 

「明日の卒業式、あの子の最後の晴れ舞台です。ちゃんと見送ってあげてくださいね。あの子と、貴方の為に。」

 

それだけ言うとたづなさんはトレセンの方向に歩いて行った。

 

「……全部。全部私の責任なんですよ、たづなさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

この季節は嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

あの子のメイクデビューは遅くなった。

トレーナーとして最初の仕事は諸々のデータ計測だった訳だが、彼女はまだ体が完全に本格化していなかったのだ。

その為、メイクデビューを12月に設定しトレーニングを積んだ。

 

「トレーナーさん!私早くなっていますか?」

 

トレーニングで計測する度にしっぽをブンブンさせながらトコトコ私に近付きそう聞いてくる。耳は犬が撫でられるのを待つように後ろに倒している。

 

「ああ、ちゃんと早くなっているよ。これならメイクデビューでの勝利は間違いなしさ」

 

そう言いながら私はあの子の撫でやすく待機している頭を撫でる。

 

撫でられながら私を上目遣いで見てくるあの子は本当に犬では?と思ってしまうが口には出さない。私は紳士なのだから。

 

「トレーナーさんのお陰です。ちゃんと私を早くしてくれていますからね!」

 

「よし!やる気があるようだし今日は坂路も追加だ!」

 

嬉しそうなあの子の顔がどう変わるのかを見たくてそう告げるとあの子はその笑顔のまま

 

「はい!分かりました!坂路行ってきます!何本行きますか?今の私ならば10本でもいけちゃいそうですよ、坂路のバーゲンセールしちゃいましょうか!」

 

思っていた反応と違くて面食らった私はたしなめるように言う。

 

「3本だ。それ以上はだめ」

 

分かりましたと言いながら坂路に向かうしっぽは未だにブンブンと忙しなく動いている。

 

「パワーは既にデビュー組と遜色ない。やる気もあるし何よりも走ることが本当に楽しいって伝わってくるな」

 

やはり自分の目は正しかった。そうこぼした後に自分も坂路に向かう。

 

 

 

 

12月某日 某所

 

 

あの子のメイクデビューだ。

朝会ったときからやる気満々といった感じでいつも以上に耳としっほが異次元な動きをしている。それを抑えるために耳ごと撫でつけて抑え込む。

 

「そんなに入れ込まないこと、レースが始まったらすぐ掛かっちゃうぞ」

 

「たとえ掛かったとしてもそのまま突っ切ってやりますよ!トレーナーさん!」

 

ふんすと入れ込む担当ウマ娘に苦笑いをし、まあ移動中に治るだろうと放置することにする。

足への負担を最大限考慮し車で現地へと向かう、車内では永遠とウイニングライブで歌う曲を歌いながら進む。

これから何回も歌うことになるんだからもう止めなさいと言うとこちらを向き、ニヤけるあの子と目が合う。

 

「そうですね。これから先何回も何回もセンターで歌うんです!私が一番だって皆に、お母さんとお父さんと妹に見せてあげないといけないですからね!」

 

そう言ってあの子はまた歌を歌い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬の静寂が訪れる。

直後ガシャンとゲートが開き各バ、一斉に飛び出していく。

あの子は大丈夫だ、ちゃんとスタートをすることが出来たようだ。

事前に対策を練った通り追込位置に構え最後尾からバ群を視野に入れられている。

12月のメイクデビューとなると私達のようにじっくり育成したウマ娘か、早くにデビューしたもののオープンへ進めなかった、勝てなかったウマ娘が集う。

その為、彼女達の表情は鬼気迫るものとなっている。

 

弱肉強食

 

現代日本においてこの言葉がこれ程合う競技というのは競バ以外無いのではないかと思ってしまう。

死にものぐるいで、己の本能の限りたとえ怪我することになろうとも勝ちたいと願う彼女達の姿に私達は夢を見る。

 

無事で帰ってきてください。

 

そう女神に祈りながらあの子のレースは進んでいく。

 

三コーナーに入ったあたりであの子が動き出す、持ち前のパワー全開で最後尾からの進出だ。

ぐんぐんと位置を上げていくあの子を他のウマ娘達は抜かれまいと必須に抵抗するが、なすすべも無く抜かれていく。

 

負けたくない。

 

勝ちたい。

 

それはウマ娘の本能だ。示し合わせた訳では無いだろうが後ろから来る驚異を共通認識とし行動する。

あるウマ娘は外から来るあの子を塞ぐためにさらに外へと位置をずらす。またあるウマ娘はあの子の隣に走りさらに外へと出れないように。

 

内側にいろ。

 

追込のあの子にとって内側は籠の中のようだ。あの子に一瞬のスピードは無い。ゆえの追込でのロングスパートが必要だった。あの子の表情が歪む。逃げ場が無くなってしまいどうするかを考えているのだろう、しかし考える時間は残されていない。四コーナーに入っても現状は変わらない、最終直線になってようやくスパートに入り、包囲網が解けたが残り距離が足りない、残り1ハロンを残してあの子は4番手。

 

その後順位が変わることはなかった。

 

帰りの車内は朝と変わって静かだった。

あの子の歌声は聞こえず、聞こえてくるのはすすり泣く音だけだ。

 

君は悪くない、私がこれを想定できなかったのが悪いんだすまない。

そう慰めたと思う、私自身信じられなかった。

必ず勝つと思っていた、その証拠に人気は一番人気だったのだから。

 

明日はオフにしよう。

 

そうあの子に伝えて寮に向かう。

勝ったら外食で少し良い物を食べさせてあげようと思ってお金を多く入れた財布を机に投げ、ベットに突っ伏す。

 

失敗した。

 

しかしここで私が折れたらあの子に申し訳ない。なぜなら私があの子の走りに惚れたのだから。

 

 

 

 

 

 

1月某日 某所

 

メイクデビューを目指して二戦目を迎える私達は今回も車で移動していた。

車内のあの子は今回も歌を歌っている、前回の負けを引きずることなく今日を迎えることが出来て一安心というところだ。

 

今回のレース場はあの子の地元に近いということもあって家族が見に来るのだと、昨日嬉しそうに話していた。

今度こそ見せつけてあげるんです!とやはり掛かり気味のあの子の頭を撫でながら対策会議を行い前回の反省として囲まれずにレースを展開する事に何よりも力を注いだ。

 

今回こそは。

 

あの子に言い聞かせるつもりが、恐らく自分に言い聞かせていたのでは無いかと今になって思う。そうこうしているうちにレース場に到着した。

 

控室に向かい最終確認を行い私は観戦席へと向かう。

 

「あの、忍野トレーナーですか?」

 

そう声を掛けられて振り向くとそこにはあの子にそっくりな栗毛のウマ娘と優しそうな男性とこれまたあの子を小さくしたようなウマ娘がいた。

 

「あ、もしかして御家族の方でしたか」

 

そう言い簡単な挨拶を交わす。

前回のメイクデビューは現地に行くことが出来なかった為、地元に近い今回こそと予定を調整し見に来たと。

前回はとても惜しかった、そうこぼすお父さんの声を聞きウマ娘の妹が悔しそうに言う。

 

「この前は、みんなヒキョーだったんだよ。ふつーに走ってたらおねぇちゃんが負けるわけないもん!」

 

「皆一生懸命に走っているからそういうこともあるんだよ、だけどね今回こそは大丈夫だからお姉ちゃんのこといっぱい応援しようね!」

 

うん!とあの子とそっくりな笑顔で返事をする妹と共に出走を待つ。

 

 

 

 

ゲートの音と共に一斉に走り出す。

荒れたスタートではなく一安心をする、隣ではあの子の妹がおねぇちゃんおねぇちゃんと叫びながら応援をしている。お父さんは柵を力強く握りしめて微動だにしない、お母さんさんは優しい目のままあの子を見つめている。

 

特に波乱はなく三コーナーに入りあの子が加速する、ぐんぐんと位置を上げていくが今回はフタをされないくらい外を回っている、前回の反省から多少距離が伸びたとしても大外を回った方が勝率があると決めたのだ。

最終直線に入りあの子の前は四人、4バ身内にいる。

 

行ける。

 

ジリジリと順位を上げ残り1ハロンで先頭と並ぶ。

 

差せ!

 

おねぇちゃん!!

 

行けぇぇ!

 

頑張って!

 

私達の叫びを受けてあの子が伸びる、前に出た。

 

ウマ娘は本能で走る、ゴール板が見える距離で勝利を決めるのは走力でも戦略でもない。

勝ちたいという執念だ、それは怨念と言ってもいいのかもしれない。その日私達はそれをまざまざと見せつけられたのである。

 

 

 

 

 

ウイニングライブを終えたあの子にタオルを渡し、着替えるように伝えて控室を出る。

 

そのまま喫煙所に向かい、普段は絶対にあの子と合う日は吸わないと決めているタバコに火を付ける。

 

 

 

負けた。

 

 

 

ハナ差の2着

タイムは一緒、写真判定での決着だった。

しかしレコードを叩き出した走りは評価され、他のトレーナー仲間からはこれからが楽しみだと肩を叩かれた。クラシックには間に合わないが重賞を取れるだろうと。

 

深く煙を吐き出す。

 

また勝てなかった、あの子を勝たせることが出来なかった。

吐き出した煙は換気扇に導かれ消えていく、残ったのは俯いたトレーナーと火種を残したタバコのみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はもう負けません!!」

 

そう叫びながら坂路を駆け上がるあの子のタイムを計測する、伸びている。

 

「いいぞ!良いタイムだ!もう一本行くぞ!」

 

「はい!トレーナーさん!」

 

元気よく返事をする彼女を坂路への見送る。

次のメイクデビュー戦は3月のレースを選択した、クラシックには間に合わないが夏合宿前には一度重賞に挑戦できるだろう。

 

「いやぁー、今日も私頑張りました!」

 

ストレッチをしながらデカウマを飲むあの子に質問をする。

 

「そのジュースいつも飲んでるけど美味しいの?」

 

「はい!美味しいですよ、私の一押しです!でも前は飲んでなかったんですよ」

 

「そうなのか?」

 

「えー、覚えてくれてないんですか?トレーナーさん?」

 

プクッと頬を膨らませていかにも私は不満ですと表現する顔を見ながら思い出すが思い出せない。

 

「ほら、あの…私達が初めて会った後にトレーナーさんがなにか飲むかって買ってくれたんですよ」

 

少しだけ頬を赤くしながらそう言うあの子を見て思い出した。確かに自分が買って与えたのだった。しかしあの時は初めての担当を持てた事から舞い上がっており会話もできる気がしなかったから社会人の癖で飲み物を買ったのだった。

 

「あー、なんかそんなことあったような気がするよ」

 

「本当に覚えてくれてます?」

 

ふんすふんすと抗議してくるあの子を見て、前の敗戦のショックは薄れたのかなと思う。

家族の前で負けたのだ、あの子にとってそれはとてもショックでウイニングライブの直前まで泣いていた。でも家族もウイニングライブを見てから帰ると知り、涙を拭いてステージに立ち歌ったのだ。何度も口ずさんだ歌を、センターで歌えると思って練習した歌を。

 

もういーです。

ピシピシとしっぽを振り着替えるために戻るあの子を見ながら

 

「今度こそ勝たせてやる」

 

そう誰にも聞かれることのない決意をこぼす。

 

 

 

 

 

 

 

 

この季節は嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

桜が色付き、春の陽気が顔を覗かせる。

3度目のメイクデビュー挑戦だ、今度こそ、今度こそと朝の車内では奮起するあの子を見ながら大丈夫。大丈夫自分に言い聞かせる。

 

レース場に着き、控室に行く。

 

「ちょっと天気が心配だけど、たぶん雨は持つんじゃないかな」

 

「あんまり雨は好きじゃないんですよね、私。昔雨の日に走って転んだ事あってからは尚の事なんですよ」

 

あれは、痛かった。

 

そう言いながらくるぶし辺りをさするがそこにはキレイなくるぶししかない。

前回のメイクデビュー時にお母さんさんからあの子の昔話を色々と聞いていたが、その中で小学生の頃雨の日にカッパを着て走り回ってドリフトを繰り返していたあの子は勢い余って盛大にコケたらしいその時に米粒ほどの傷がくるぶしに出来たそうだ。

それでもあの子には一大事だったらしく大声で泣き始めてしまい、もう私のウマ娘人生は終わりだ、と叫んでいた。念の為病院に連れて行ったら健康そのものです。と太鼓判を押されたので安心したが、あの子は事あるごとにあの時は運が良かったと言うらしい。微笑ましいエピソードである。

 

「子供の頃と速度が違うから警戒はしないといけないよ、今の速度で転倒したら命に関わるんだからね」

 

そうあの子の瞳を見ながら注意をする。

 

「分かりました!」

 

笑顔で敬礼をするあの子の笑顔が忘れられない。忘れたくとも忘れられない。

あぁ、あの時に戻れるならば。

 

 

3度目のメイクデビューが始まる。

 

 

 

 

天気はやはり持たなかったか、ポツポツと振り始めたレース場でそろそろ出走時間となりゲートへと納まっていく。あの子はすんなりとゲートへと入るが一人、ゲートを嫌がっている子がいる職員に促されてようやく全バ揃いゲートが開く。

 

スタートは良好、ゲートに入るのを嫌がったウマ娘だけが遅れている。その子は遅れを取り戻すために序盤から前に行こうとしている。あの子はもう定位置となった最後尾で位置取っている、予定通りだ。

 

向こう正面の直線を縦長の展開で進んでいく。

 

三コーナーに入りかけあの子が加速する、それを見て何人かのウマ娘たちも加速を始める。

逃げ集団と先行集団が近くなり差し追込か迫る。四コーナーに入りかけたときそれは起こった。

起こってしまった。

 

スタートから出遅れた分を無くそうといつも以上のペースで入っていたウマ娘が四コーナーに入った際にスタミナの限界だったのだろう横に寄れた。

それを受けて隣のウマ娘も避けるが雨が強くなったバ場状態で滑りやすい芝は彼女達に牙を剥く。

 

「あっ」

 

誰かの声が漏れた。

 

避けたウマ娘が足を滑らせ転倒する。

 

バ群の中で。

 

転倒した彼女を避けようとさらに避けるがそこには他のウマ娘がいる。まるでボウリングの、ピンのごとく先頭集団から差し追込集団が崩壊する。

 

逃げと先行集団の先団を走っていたウマ娘達が後ろから聞こえる聞いたこともない音を拾う。

 

思わず後ろを振り返るが、そこには誰も居なかった。

 

「大変な事が起こりました!先頭集団で転倒が発生しました!巻込まれる形で差し追込集団も転倒!あぁ早く!早く救助を!」

 

実況の悲痛な叫びがレース場を支配していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー 桜散る ー

 

 

 

 

 

 

 

 

スポーツ紙、及びテレビ番組ではトップニュースで報じられた。

 

 

 

 

 

 

 

「治療費と入院費用並びに、休学中の学費については全てURAの保険でお支払いしますのでご安心下さい。また、彼女のメンタルケアに関しても専属のカウンセラーを用意しますのでこちらでも最大限配慮致します。」

 

いつものジャージ姿ではなく黒のスーツを着込み、向かったのはあの子の両親のもとだった。

 

あの子の実家は大きくもなく小さくもなく一般的な家だった、家の中には小学生の頃だろうか笑顔で折り紙で作った金メダルを首にかけるあの子の写真が多くある。とても幸せが詰まった写真が。

 

この幸せを奪ってしまった。

 

12人中完走5人

 

それが先日のレース結果だった。

 

始めに転倒した子は後続に踏まれ蹴られ、見るも無惨な姿をしていた。時速60㌔を超えるウマ娘のバ群で転倒すれば誰でもなる姿である。しかし、幸運なのか悲運なのか命に別状は無く、打撲と骨折はあるが、足では無い。肋骨を数本折る程度で助かった。

その子に巻き込まれた後続も負傷はあるものの打撲、裂傷。一番酷い怪我をしたのがあの子だった。

 

検証のパトロールカメラには、転倒した子を避けようと踏ん張り足が折れる瞬間を捉えていた。そして踏ん張りが効かなくなりそのまま頭から地面に激突、数度跳ねた後に動かなくなったあの子も。

 

レースから一週間。

あの子はまだ目を覚まさない。

 

峠は超えたと、医師の説明を受けた後、憔悴しきった両親を家まで送り、後日今後のお話しをしますのでと別れた。

 

 

「娘はまた走れるようになりますか?」

 

沈黙を破るには小さく、しかしハッキリと聞こえた。

お母さんの優しい目が今は憔悴しきり、毎日泣いているのだろう目の晴れも引いていない目が私を見る。

 

絶対に走れるようになります!

そう言えればなんと良かっただろう、医師からは骨折した足が特に悪いと聞かされていた。踏ん張った為、脚の腱が損傷していること、くるぶしが粉砕骨折していること。日常生活を戻すだけで奇跡なんだということ。

 

そんな事実という針が私の口を縫い付ける。

 

「だってあの子は言ってたんですよ、私達にセンターでウイニングライブしてるとこ見せてあげるんだって!大丈夫ですよね?トレーナーさん?あの子の怪我は時間が掛かっても治りますよね?」

 

喉が渇く、唇が乾き、言葉が出てこない。

沈黙を破ったのはお父さんだった。

 

「お母さん止めなさい、忍野トレーナーを困らせてはいけないよ」

 

彼女の方を抱き寄せて背中をさする、お母さんは限界だったのか胸に顔を埋めて泣き出した。

 

「忍野トレーナー、覚悟は出来ています。教えて下さい」

 

視界が黒くなる、私は俯いたまま言葉を絞り出す。

 

「に…日時生活が出来るようになるだけで奇跡だと」

 

お父さんは目を閉じて黙って聞いている、お母さんからは嗚咽混じりの泣き声が聞こえる。

 

「リハビリも辛いものになると、リハビリ開始まで7ヶ月かかるそうです」

 

なんとか言葉を絞り出し、恐る恐る顔をあげるとお父さんの目からは静かに涙が流れていた。

 

「そ…そうですか…、あの子から走ることを取り上げなくてはならないのが…本当に悔しくてなりません、忍野トレーナー、この事は私の口からあの子に伝えさせて下さい」

 

お父さんの言葉に私は黙って頷くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

あの子はそれから2週間後に目が覚めた。

 

 

 

 

 

 

頭を打った影響がないか入念に検査が行われ、幸運にも異常は見当たらなかった。

 

「いやー、皆大げさだよ、私は大丈夫って言ってるのにさ」

 

病室のベットにいるあの子はやつれた顔でそう言う。

 

「ほらほら、トレーナーさんもそんな暗い顔しないでさ!私早く治しますから安心してください!」

 

毎晩一人になると泣いているそうですと看護師から報告を受けていた。

 

「あ、でも同室の子には私が居なくて寂しい思いをさせてしまいますねー、私って罪な女ですね」

 

わざとなんでもないように振る舞い私に気を使っているのだろう。

 

「そうそう、レースで一緒に走った子がお見舞いに来てくれたんですよ、あの子も骨折してるのに車椅子で来てくれて」

 

その子とは踏まないようにと避けた子。

 

「自分が転んじゃったせいでって泣いて謝ってくるもんだから私びっくりしちゃって、でも私よく避けれたでしょって、あのまま足を踏み込んでたらあの子の頭の位置だったし、そしたら私殺人ウマ娘になっちゃってたよーって」

 

とても強い子だ。

 

「他にも巻き込まれた子たちも来てくれたんですよ!痛かったねーって言い合っていつかまた一緒に走ろうねって!」

 

先程からベットに染みを作りながらもまだ笑顔を浮かべて。

 

「あ、でもあの子だけはまだ来てくれてないですよ、ほら出遅れちゃった子」

 

凄まじいバッシングだった。

連日テレビでは検証動画を写し原因を調べていたのだがほぼ全ての検証で最初に寄れて転倒を引き起こした子だと報道されていた。

 

「あんなの酷いですよね、あの子は一緒懸命走ってただけなんですから!たまたまだったんですよ!」

 

恐らく彼女はもう立ち直れないだろう、そう思うが決して口にはしない。

ずっと軽快に喋っていたあの子の言葉が止まる。

 

「た…たま…たまですよ、たまたまその日は雨が降って、たまたまそんな日のレースを選んじゃっただけで、たまたま転んじゃった子がいて、たまたま私の前にその子の頭が来た…全部…たまたまなんですよ、他の子が怪我が軽いのもたまたまで…わ…たしだけ怪我が重いのも」

 

もう隠すことも無く泣きながら私を見ながら言う。

 

 

 

「な…なんでわたしだったのかな?」

 

 

 

その問いに対する答えを私は持ち合わせていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜が散り選抜レースを経てチームに入る者、担当を見つけるもの、今だ選抜レースを走るもの。

それぞれの歩みを進める中で私の足はあの日から前に進んでいない。

あの子は今だ入院中、一週間に一度は顔を出し他愛もない話をして帰る、そんな日々を過ごしていた。

 

「忍野トレーナー、少しだけいいですか?」

 

そこにはたづなさんがいた。

 

「はい、いいですよ。何か御用でしたか?」

 

たずなさんは少しだけ言うのを躊躇うような仕草を見せたが語りだす。

 

「中央トレセンのウマ娘が何人居るかご存知ですか?」

 

毎年1000人を超えるウマ娘が入学してくる中央トレセンだそれが中等部、高等部とあるのだ。言わずもがな。

 

「新しい担当を見つけろ。ですか?」

 

「………」

 

沈黙は肯定である。

怪我をして走れないウマ娘を見るためにトレーナーを一人失いたくない暗にそう言っているのだ。

 

「我儘を言わせてください、今年一年はあの子だけを担当させてください。来年は一人取りますから」

 

酷いことを言ってすみません。

 

たづなさんはそう言うと校舎に戻って行った。

練習場には多数のウマ娘が練習をし夢の実現の為努力している。皆希望に溢れた輝く目をしながら。

あの子の希望はもう訪れないというのに。

 

 

 

 

 

 

 

それからの日々は早く過ぎて行った、あの子の見舞いをしつつ先輩トレーナーのもとでサブトレーナーとして遠征時に見れない子の面倒を見てあげたり、トレーナー論文を読み漁ったりと何かしていないとあの日のこと思い出してしまう為働き続けた。

 

 

最近になってようやくリハビリに取り掛かるようになりあの子は毎日苦しみながら取組んでいる。

もともと坂路が好きなあの子の事だからリハビリも進んで行っていることだろ。

 

私が顔を出すとちょっとそこでストップ!と言われリハビリ部屋の入り口で止まるとあの子は松葉杖を外し私まで歩いて来ようとする。今までのように練習場に顔を出すのと同じようにトコトコとしっぽを振りながら来るように。

 

違うのは真剣な表情で一歩一歩、歩んでいることか。

 

なんとか私までたどり着き私にしがみつく。

 

「トレーナーさん!歩けるようになりましたよ!」

 

その笑顔はとても懐かしいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

この季節は嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

桜が満開になり、入学式を迎える。

夢と希望に満ち満ちたウマ娘達が家族と一緒にあるいは一人決意の表情で門を超えていく。

 

あの事故から一年が経ち、あの子は車椅子ではあるが登校を再開した。リハビリはトレセン内の施設で行いつつ定期的に病院へと通っている。

 

「ねぇねぇトレーナーさん?」

 

トレーナー室で資料をまとめているとあの子から声が掛かる。

 

「そろそろ、もう一人くらい担当しないんですか?」

 

心臓が跳ねる、あの子が戻ってきてからは特に考えないようにしていたがそうは問屋が許さないらしい。

 

「あ…あぁ、まあその…」

 

「私に遠慮してませんか?」

 

「!?…」

 

「もう!私に遠慮せずにトレーナーさんの仕事はウマ娘をトレーニングすることなんですからちゃんと仕事してください!そういうとこがモテないんですよ!」

 

モテないことは関係ないだろと思いつつあの子の言うことは最もなわけで、去年たづなさんにも言われている手前今年は一人スカウトしなければいけないだろう。

 

「分かったよ、今年は一人担当するよ」

 

そうあの子に告げるとあの子は少しだけ寂しそうな笑顔を浮かべながらも、宜しいです。と言うのだった。

 

 

 

 

選抜レースを眺めて居ると先輩トレーナーが声をかけてくる。

 

「よう!忍野元気そうだな」

 

「沖野さんこそ元気そうですね」

 

そう答えると沖野さんは、毎日大変さ、特にゴルシのせいでとブツブツ言っている。

 

「今年はスカウトするんだな?」

 

「ええ、たづなさんにも言われてますし、何よりあの子も望んでいますから」

 

「そっか…まあ何だ。俺らのトレーナー人生は長いが、あの子達の競走人生は俺らに比べたら一瞬だ。その人生においての一瞬のために俺達がいる。それこそ一瞬の煌めきの為にな。だから、後悔もする事もあるけどさ、前に進むしか無いんだ。じゃないとあの子達に申し訳ないしな!」

 

そう言いニカッと笑いこちらにサムズアップをする沖野さん。この人がチームの子達に慕われている理由が分かる気がする。

 

「沖野さんって普段もそういう態度してればモテるんでしょうけど普段が変態さんだからモテないんですよ」

 

「いい話したのにまさかのカウンター!?」

 

「でも、うん。前に進んでみます。」

 

「いつか、G1の舞台でやろうぜ後輩くん!」

 

そう言うと沖野さんは練習に戻るわ、と言い戻っていく。

私に言う為だけに来てくれたのだろう、お人好しめ。

 

少しだけ胸につかえたものが流れるのを感じながら選抜レースを観戦する。

 

レースは進み本日最終レースとなった。

 

今日の子たちは皆光るものはあったが、心が動かされる子は居なかった。また明日も来るかと思いつつ最終レースのスタートとなった。

 

スタートダッシュを決めたのは芦毛の小柄なウマ娘だった。

そのままハナを取り逃げる。

他の子達は冷静に後で差せばいいと逃げを許容する。

そのまま三コーナーを迎え四コーナーを迎えたあたりで観客席がざわめく

 

「あの芦毛の子まだ落ちないぞ」

 

「むしろ、少しずつ広げているわよ」

 

「後ろの子は…厳しいか…」

 

歴戦のトレーナー達が驚くのはここからだった。

 

最終直線に入り先行、差しのウマ娘がスパートをかけたが差が縮まらない逆に自分たちより早い。

そのまま逃げ切ってしまった。

 

レース後、彼女はトレーナーに囲まれていた。

 

君ならトリプルティアラを取れる!

 

マイルなら敵無しになるわ!

 

その様子を見ているも、私ではスカウト出来ないなと尻込みしてしまう。なんせ担当は今まで一人でしかも今だ未勝利。

勝ち目が無いというのはこのことだろう。

 

スカウトはしたかった。

 

彼女の走りにはあの子にあったような絶対に勝つという思いがあった。

それに逃げウマと言うのも良かった。逃げウマならば事故に合うことも無いだろうと。

 

まあ仕方が無いことだ。

 

そう自分を納得させてトレーナー室に戻る。

 

「あの!」

 

トレーナー室までもう少しというところで声をかけられる。

声をかけた相手は芦毛の髪としっぽを揺らし少し息が上がったまま言う。

 

「忍野トレーナーですよね?」

 

「うん、そうだけど。どうしたの?」

 

なにか彼女に接点は合っただろうかと脳内を検索するが見当たらない。

 

「私のトレーナーになってください!」

 

鳩が豆鉄砲を食ったようというのはこのことかと実感する顔を私は浮かべているのだろう。スカウトしても断られるだろうと思っていた相手からの逆スカウトだ意味がわからない。

 

「えっと…とても光栄なんだが。君とは初対面だと思うんだけど、なぜ私なんだい?他にも優れたトレーナーからスカウトされていただろう?」

 

「あの…いつも一緒にいるウマ娘の方いますよね?車椅子押してるトレーナーさんをよく見かけてまして。その…二人の関係がとても羨ましくてですね。トレーナーさんがあの方に向けてる視線とかを見てると本当に大切にしてるんだなって思って、それで、その…少し調べまして」

 

去年の事故を調べたのだろう。

彼女は少しだけ顔を俯かせながら続ける。

 

「あんな事があったのにリハビリを続けてる先輩も凄いし、それを、支えてるトレーナーさんも凄くて、あの、貴方なら私を幸せにしてくれるんじゃないかと思いました。」

 

それは私があの子をスカウトした時と同じ言葉だった。

 

「私はまだ誰も勝たせたことがないトレーナーだよ。それでも本当にいいのかい?」

 

自分の弱みを見せつけるように。

 

「私がこれからいっぱい勝たせてあげますから安心して下さい!」

 

彼女はそんな私を肯定する。

 

「担当も一人しか持った事が無いから、二人の扱いなんて分からないよ」

 

「私はトレーナーを持つことが初めてなんですから同じです!」

 

どうやら逃してはくれないようだ。

 

「分かったよ。君のトレーナーになろう」

 

「やったぁ!宜しくねトレーナーさん!」

 

彼女と握手をした。

彼女こそは絶対に…。

 

 

 

 

 

 

 

次の日トレーナー室に二人を呼んで顔合わせをした。

ソファに座らせて左にあの子を右に彼女を。

あの子がどういう反応をするのか気になったがとりあえずは仲良くやっていはようだ。車椅子を押すのは後輩の努めです!とあの子の車椅子を押しながらリハビリ施設まで付き添ったりしている。

若干あの子は不満げだがまあ、仲良くやってくれているので助かっている。

 

それからの日々で、まず彼女の測定を行ったところ驚く事に彼女の能力はとても高かった。それこそ去年のあの子と比べても遜色ないほどに。彼女は恐らくG1を取ることができる。そう確信する程に。

 

その為メイクデビューは6月に設定した。 芝 1400mだ。

順調にトレーニングを積んでいく中で、小さな奇跡が起きた。あの子が車椅子を止めたのである。

 

リハビリを頑張り、まだ長時間の移動は厳しいが学校生活を送るのには最低限の移動が出来るようになっていた。

 

どうですか?どうですか!といいトレーナー室をぐるぐると回るあの子見たときは不覚にも目頭が熱くなってしまった。

 

えへへ、ドッキリ成功ですね!

 

と笑顔で言うあの子を見てさらに目頭が熱くなってしまった。そっと彼女がティッシュをくれた。

 

 

 

 

 

 

彼女とあの子を車に乗せレース場へと向かう、彼女がウイニングライブで歌う歌を熱唱しているとあの子が合いの手を入れて盛り上げている。

 

そんなに歌って体力無くすなよ、と彼女に言うがそれを聞いてさらに熱唱するのが彼女らしいというか。

 

間もなくレース場に付き控室に向かう。

 

「いい?レースでは色んなことが起こるけどあんまり気にしちゃだめだからね?」

 

「分かったよ!何かあっても全部逃げ切るから!」

 

「本当にわかってるの?」

 

あの子が彼女に助言をしているが、少しばかり伝わり方に差異があるようだ。

 

「よし!そろそろ時間だ。私達は行くよ、私からの助言は一つだけだ。レースを楽しみなさい。」

 

そう彼女の目を見て言うと目を輝かせて

 

「見ててね!トレーナーさん!!」

 

 

 

 

 

 

「座れる席に行こうか?」

 

私があの子に言うと。

 

「大丈夫です。それにここがいいんです。一番ターフを感じられるから」

 

そう言うあの子の横顔はこれから行われるレースへの期待か、それともレースへの渇望かキラキラとしていた。

 

 

 

 

ゲートが開くと同時に芦毛のウマ娘が飛び出す。

14人のウマ娘達が我先にとゴールを目指す。

 

その残りの13人をあざ笑うかのように先頭を走る彼女がいた。ここが私の場所だと言わんばかりの逃げ。事前の人気順は2番人気だったのも彼女を奮起させる要因となっているのだろう。

 

トレーナーに勝利を。

 

レース前にはトレーナーに言わなかったが彼女の思いはそれだけだった。

 

四コーナーを回っても以前彼女が先頭である。

 

頑張れ!頑張れ!死ぬ気で!と応援するあの子の声が聞こえるが私は手を握り祈る。ただ無事に。

 

その願いが通じたのか、ゴール板を一着で通過したのは彼女だった。

 

 

「やったぁ!!やったよ!トレーナーさん!」

 

跳ねることは出来ないが小刻みに揺れながらあの子が興奮を隠さずに言う。

 

「あぁ、良かった。良かったよ」

 

興奮が収まらないあの子の頭を撫でながら彼女に向かって手を振る。それに気付いた彼女はこちらに向かって両手を振りながら

 

「トレーナー!勝ったよ!私、勝ったんだよ!」

 

そう叫んだ彼女を見るあの子の顔はどこが安心したようで、少しだけ悔しそうな表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ先輩はさあ、トレーナーさんのことどう思ってるの?」

 

彼女のメイクデビューが終わりトレーニング終わりのストレッチを手伝っているときに唐突に彼女は言った。

 

「どうって言われても、トレーナーと担当ウマ娘以上でも、以下でもないよ」

 

果たしてうまく言えただろか?

事故の後あまり感情表現をしてくれなくなった自分の耳としっぽを信頼しそう言う。

 

「ふぅーん。そうなんだ。……本当に?」

 

ニヤっと笑う私の後輩の顔がムカついたので背中を押す力を強める。

 

「いったぁーい!ごめんなさい!もう変なこと言わないから!」

 

分かればよろしい。

 

「でもさー、トレーナーさんって最近は結構モテるらしいから気を付けないといつ間にか誰かのものって事もあるんだよ」

 

トレーナーさんがもてる?

はて、私の看病してくれてるときやトレセンの中ではそんなことはあまり聞かないが。

 

「ふぅーん、誰がトレーナーに近づいてるの?」

 

私が笑顔でそう問いかける。

 

「う…噂だよ、同僚と仲がいいとかさそんな程度のやつ」

 

「ねぇ。先輩と後輩って何でいるか分かる?」

 

「えっ!?わ…分かんない」

 

「後輩をね絶対服従にするために先輩はいるの」

 

「意味が分かんないよ!?ちょっ、いたぁーい」

 

その後、彼女はあの子に対して迂闊なことは言わないことを決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

季節は秋

 

メイクデビューに成功しサフラン賞を狙った彼女は惜しくも2着となってしまうが実力を発揮し、来年のティアラ路線の本命と言われ始めていた。

 

あの子のリハビリも進み。奇跡と言われた日常生活を取り戻す事ができたのだ。

 

「トレーナーさん!トレーナーさん!これなら少し位は走っても大丈夫ですよね?ね?」

 

ぴょんぴょん跳ねながらそう聞いてくる彼女の頭を撫でながら言う。

 

「走るのはだめ!良くて早歩きくらいにしなさい」

 

もう大丈夫ですよーというあの子をなだめる。それからソファで不貞腐れている彼女に声をかける。

 

「こら、いつまで引き摺ってるんだ。次戦は重賞フェアリーS何だから切り替えないとだめだぞ!」

 

それに対して彼女はペシンとしっぽを打つだけだった。

 

「もう、そんなに不貞腐れてたら可愛い顔が台無しですよ。とりあえずデカウマ飲みましょう」

 

デカウマの押し売りをするあの子を放置しながらトレーニングメニューを確認する。時折私のデカウマが飲めないなんて言うんですか?と聞こえるが気のせいだろう。

 

思えばあの子も良く笑うようになった。

彼女と居ることも要因の一つだろう、自分の夢を託せる後輩を見つけたからか。しかし、どう頑張ってもあの子の足は元には戻らない。そんな奇跡は起こらない。奇跡といえばなんでも起こると思うがそんなものは奇跡という言葉を盾に逃げているだけの現実逃避である。

 

奇跡など一つで十分だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新年を迎えて挑んだレースで彼女はまたも惜敗をしてしまった。

 

「なんでぇー!なんでぇー!」

 

坂路を駆け上がる彼女の叫びが聞こえる。

道中良く走れていたが最後に交わされてしまったのだ。

 

「もう坂路やーー!」

 

坂路を嫌がる彼女の声を聞きあの子が近付く。

耳元で何か伝えると坂路を走り出す。

 

「やだぁー!負けたくなぁーい!」

 

その日は坂路に叫び声が響いた。

 

 

 

 

コンコン

 

 

トレーナー室にノックが響く。

 

「どうぞ」

 

入ってきたのは栗毛のウマ娘だった。

 

「どうしたんだこんな時間に?リハビリは終わっただろう?」

 

「トレーナーさんに話があって来ました」

 

そう言うあの子は真剣な眼差しでこちらを見る。

 

「そうか、とりあえず座りなさい。飲み物を入れるから」

 

そう言うと、持っていた手提げからデカウマを取り出して、あるので大丈夫ですよとあの子は言う。

 

「…そうか、それで話しっていうのは?」

 

少しばかりの静寂の後、あの子が喋りだす。

 

「トレセン学園を卒業しようと思います」

 

思わず目を見開く。

 

「正直、今の私の存在はトレーナーさんにも彼女にも邪魔なんじゃないかって」

 

「そんなことは」

 

「だって、私のリハビリでトレーニング時間が取られたりそのメニューを考えるのだって大変じゃないですか?その分を彼女に使えたらって思うのは変な事ではないですよね?」

 

確かにそうではある。

同じで競走バのメニューならば一人も二人もそんなに変わらないと思うが、片やG1を狙うウマ娘、片やG1どころか競走ことも出来ないウマ娘のリハビリメニューそのふたつを行うことは確かに、確かに仕事は増える。

 

「そんなのは私が仕事を多くすればいいだけの事だ、君が気にすることではない!」

 

あの子は微笑みながら

 

「トレーナーさんならそう言うと、そう言ってくれると思ってました。だからこそその能力を全て彼女に使ってあげてください。そうすれば彼女は必ずG1ウマ娘になれますから」

 

あの子の顔を見る事ができない。

 

「トレーナーさん?覚えていますか?私をスカウトしてくれた時のこと。」

 

声は出ない、頷くことで肯定する。

 

「私。私今とても幸せなんです。確かに全力で走ることはもうできないかも知れませんけど大好きなトレーナーさんが居て大好きな後輩が出来てその彼女の夢を応援出来る」

 

「だからトレーナーさんは約束を守ってくれたんです。だから、もう私との約束は達成出来たんです」

 

「君は、これからどうするんだ?」

 

「トレーナーになりたいんです」

 

思わず顔を上げる。あの子はとても優しい目をしながら私を見ていた。

 

「だからトレセンじゃあ駄目なんです。トレーナーになる為に私は前に進みます」

 

応援してくれますよね?

微笑みながらあの子はトレーナー室を出ていく。

 

見回りをしていた守衛に声を掛けられるまで私は今までの選択を後悔していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ!?先輩卒業しちゃうの?」

 

耳としっぽをピンと伸ばし驚愕という表情をする彼女の声がトレーナー室に響く。

 

「うん、私トレーナーになる為に卒業するの」

 

悩みのない笑顔でそう伝えるあの子の顔を見て、これはもう覆ることは無いのだろうと悟る。

 

「だから練習に参加するのも今日で終わり、トレーナーになる為の勉強をしなきゃいけないんだ」

 

「えぇ…やだぁ…」

 

ピンと立った耳としっぽをしなしなと倒しそう言う彼女を抱きしめながらあの子は続ける。

 

「トレーナーさんを頼んだよ、絶対にG1のタイトル取ってね!」

 

涙目になりながらも頷く彼女を見て満足したのかあの子がこちらに向く。

 

「ふふ、トレーナーさんもこの子を頼みましたよ」

 

「任せろ」

 

そう言うと荷物を纏めてトレーナー室を出ていくあの子。

残った二人はどちらとなく練習の準備を行い練習場へと向かう。

 

「トレーナーさん」

 

彼女が私を呼ぶ

 

「絶対勝つよ」

 

その目は決意に溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2月某日 G3 デイリー杯クイーンC

 

レース場に向かう車内はとても静かだった。

本能を抑え込むがごとく彼女は静かに闘志を燃やしていた。

 

今までが騒がしかったことを考えると少し可笑しくなってしまうが、これは調子がいいということだろうと思い、口は出さなかった。

 

控室に着き彼女が尋ねる。

 

「ねえトレーナーさん」

 

「どうした?」

 

「先輩見ててくれるかな?」

 

「ああ、見ててくれるさ、だから勝とう。勝ってあの子を安心させてあげよう」

 

「うん、行ってくるね」

 

あの子が居なくなってから少しだけ末っ子気質が抜けてきた彼女を送り出す。

なんだかんだ後輩という立場が心地良かったのだろう、頼る事ができる先輩が居なくなったことで不安はあったが練習は一生懸命やってくれてる。

 

「勝ってこい」

 

そうレース場へと向かう彼女へ声を掛けるとしっぽを振り手を挙げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウイニングライブライブを終えたあと車で寮まで向かう、疲れた彼女は助手席で寝てしまっている。

ヨダレが垂れそうなのをティッシュで拭き取り運転を再開する。

 

惜しかった。

 

アタマ差。

 

重賞での2着だ、素晴らしい結果である。しかし今日は結果が欲しかった。それは彼女も同じだったのだろう。着順が確定したものの5分ほど電光掲示板を見つめていたのだから。

 

ままならん。

 

そう呟き、ながらも頭の中ではレース展開を考査する。

どうすれば良かったのか、何度もシュミレーションしたつもりだったが足りなかった。

 

その日寝たのは2時を回っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この季節は嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めて目覚ましを見るがまだ4時に達していない時刻だった。まあ、このまま寝てしまうと寝過ごす可能性がある為体を起こす。本当は寝過ごしてしまいたいという思いもあるがそれは出来ないのだ、あの子の為にも。

 

テレビをつけるとまだ天気予報が延々と流れるだけの時間だった。仕方が無いと思い散歩がてら早めにトレーナー室へ行こうと準備を進める。

 

いつもの服に手を掛けて止まる。少しばかり考えた後にスーツを着ることにした。

今日はそういう日だ。

 

朝のトレセン学園は昼間の熱気が嘘のように静まり返っている。ふとあの子と初めてあったコースへと行ってみるかと思い足を向ける。当然朝早くの時間に誰も居るはずもなく閑散としたコースへと降りる。普段はあまり入ることがないターフの上に立ち朝日を浴びる。

 

そろそろあの子と会って3年になる。

 

色々なことがあった、嬉しいことも悔しいことも、どうしょうもない怒りも。

 

あの子は幸せだと言った。

 

では私は?

 

幸せだといえるのか?

 

あの子が幸せだと言った世界は幸せではないと否定するのか?

 

答えは見つかりそうにないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「在校生からの祝辞」

 

エアグルーヴの凛とした声が響き壇上にシンボリルドルフが上がる。

 

「まずはおめでとうと言わせて貰います。今日という日を迎えることができ……」

 

 

 

 

 

 

卒業式はつつがなく進行されている様である。

私はまだターフから離れることが出来ないでいる。

 

「何してんだ?忍野」

 

沖野トレーナーが声を掛けてくる。

 

「臆病風に吹かれて足が動かないだけですよ沖野さん」

 

私の横に並び沖野トレーナーは言う。

 

「そんな風吹き飛ばしてしまえ」

 

「簡単にいいますね?あの子の両親が来てるそうなんです。事故の時会って以来なんですよ、何を言われるか分かったもんじゃない」

 

「それも受け止めるのがトレーナーの仕事だ」

 

「過酷ですね」

 

「それだけの責任を背負わないといけないさ、大事な娘さんを預かるんだからな」

 

「その大事な娘さんの太ももを触る命知らずだからそんなこと言えるんですよ」

 

はは、違いねぇと笑い口に飴を運ぶ沖野トレーナー

 

「俺の同期にも居たんだ、担当ウマ娘を怪我させちまってさ、その子は怪我が酷くて卒業を待たずに引退。あいつはそれを悔やんでいた。色々と俺も気を使ったんだけどさ潰れちまったんだよ。んで、トレーナー引退して地元に戻っちまった」

 

「その気持ちは…良く分かります」

 

「だけどよ、何年かしたあとにその怪我しちまったウマ娘がトレセンに顔出してさ、その辞めちまったトレーナーは居ますか?って来てさもう地元に帰っちまったよって伝えたらすげぇショック受けててさ、せめてこれだけは伝えて貰えませんかって言われたんだ」

 

「なんて言われたんですか?」

 

「最後まで走れなかったけど、貴方と走った事は私の誇りでしたって。もう少し早く来れれば良かったですねって言って帰ってったんだ」

 

「………」

 

「だからさ、お前は辞めるなよ。今辞めたら絶対に後悔するから。あの子を想うなら尚更辞めちゃいけない」

 

「………」

 

「とまあ、年食ってる先輩からのありがたーいお話しだよ」

 

 

そう言って沖野トレーナーはターフを去っていく。

その後どれくらいそうしてたのか分からないが卒業式も終わったのだろう騒がしくなってきた。

今行かなければもうあの子と会うのは最後だろう、だから行けと自分に叫ぶ。

行かないとあの子は寂しそうな顔をするぞ、煩い後輩は膨れて練習に身が入らないかもしれない。

最後にお前はあの子に会いたくはないのか?

 

そう問いかければ自然と臆病風は無くなっていた。

 

 

 

 

 

「ぜんばぁぁい!」

 

女の子がしてはいけない顔をしながらも突撃してくるかわいい後輩を抱き締めて頭を撫でる。

 

「絶対!絶対G1取るから!!」

 

「分かった分かったよ、ちゃんと見てるから頑張るんだよ」

 

ぐすんぐすんと泣く後輩をなだめる娘を見つめながら涙腺を緩ませるお父さん、そっとお母さんにハンカチを渡されて涙を拭いている。

 

「あの、トレーナーさんはどこにいるの?」

 

後輩に聞くが、朝からトレーナー室には居なかったと言う。もうこれが最後になってしまうかもしれないので会いたかったが仕方がない。

 

「あ、トレーナーいるよ」

 

妹が指差す方に向くとそこにはトレーナーがいた。

いつも無造作にしている髪はワックスを付けているのかしっかりと制御し、ジャージしか着ていなかったのにスーツを着ている。その姿はとても良く似合っていた。

 

「あ……。」

 

言いたい事が沢山あった。話したい事が沢山あった。前日の夜にずっと寝ないで考えていた言葉があった。そのどれもがトレーナーさんの顔を見たら霧散した。

 

「卒業おめでとう」

 

一言トレーナーさんがそう伝えればもう無理だった。

 

「…ご、ごべんなさい」

 

大粒の涙が止まることなく溢れてくる。

 

「い、いっがいもがでなくてごめんなさい」

 

本当は感謝を伝えたかった、貴方だったから。

貴方と一緒に走れたから。

だから私はトレーナーを目指すんだよって。

 

でも駄目だった、ずっと蓋をして来た思いが溢れ出す、トレーナーさんを傷付けない為にって思って自分の弱い部分を出さないようにしたのに。

 

貴方の時間を奪ってしまった。

私のせいで。

 

気付けば私はトレーナーさんに抱き着いていた、離れたくない、もっと一緒に走りたいと体が意思表示をしてしまう。

 

「いつか…いつの日か、誇らせてみせる。忍野トレーナーの初めての担当ウマ娘は自分だって」

 

涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げる。

 

「ほ、本当?」

 

「ああ!胸はって言えるようにしてやる!」

 

「待ってるから…」

 

そう言う彼女の顔はいつか見た笑顔と同じ輝きをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ!やってきました今年のNHKマイルCが始まります!芝1600mを走り切り見事勝利するのはどのウマ娘でしょうか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「調子は?」

 

「絶好調です!」

 

「強い相手だよ?」

 

「私が一番強いから問題ないです!」

 

「でも人気は2番だけどね」

 

「ぐ…そ、それは見る目の無い人達が悪いんです!」

 

「そうか、ならば見せ付けてやろう」

 

「任せて!」

 

「でも桜花賞のようには勘弁だからね」

 

「私は過去に学ぶウマ娘なの!」

 

「分かった、さあ私を有名にする為に働いてくれ」

 

「違うよ!先輩を有名にする為の闘いなの!」

 

「ああ、違いない」

 

「トレーナーさん!」

 

「なんだい?」

 

「勝ってくるから!」

 

そういう彼女の背中を軽く叩く、少しでも私の力が背中を押すように。

薄暗い通路から光輝くターフへ彼女は進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

「各バ出てきました!みな一様に気合が入った顔をしています、一番人気のカラクレナイ気合充分か?」

 

「2番人気アエロリット、見るからに調子が良さそうです!彼女の走りに期待しましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、忍野トレーナー率いるチームポルックスにはウマ娘のサブトレーナーが付き、トゥインクルシリーズのトップを走り続けた。トップトレーナーとなり講演会に呼ばれるようになった彼がいつも講演会で話すのは、唯一未勝利で終わってしまった初めての担当ウマ娘のことだと言う。天才と呼ばれる彼も人の子だったのかと知られるエピソードではあるが何故かその話しをしたあとの控室では、顔を赤くしたサブトレーナーに謝っている彼の姿が目撃されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                       

 

 

 

 

 

 

 

 




ふと思い立って書き始めてしまった。

朝の7時位から17時までずっとスマホポチポチして書きました。こんなに大変だと思わなくて連載でやられてる方は本当に尊敬します。

チャンミは惨敗でした。
Sランクってだけじゃ勝てんね。
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