第五回 ウマ娘短編合作 ウマ娘のバレンタイン   作:雅媛

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メインキャラクター:あなた(オリジナル)


your valentine(作者:サイリウム)

 

「起きろよ、ねぼすけ。」

 

 

カーテンから柔らかな光が乗れ出る、どうやら朝のようだ。言葉選びに厳しさが残るがその声色は真逆。未だになれないが何度も聞いた声だ。

 

 

おはよう、今日はいい天気みたいだね。

 

 

「だな~、最近雪ばっかりだから助かる助かる。」

 

 

思えば、彼女と同じ屋根の下で暮らし始めたのはいつからだろうか。学生時代の狂気は鳴りを潜め、今の彼女は少しおかしなところもあるけど理性的だ。まぁゲートを見たら破壊しに行こうとするところは昔から変わらないけど。

 

 

 

彼女が学園から卒業し、大学に進学したと聞いた時はとても驚いた。凱旋門ウマ娘であり、それ以上に癖ウマ娘として有名だった彼女のことだ、周りはみんなそのまま自由人として世界で遊び始めると思っていたし、当時ファンの一人だった自分もそうだった。

 

まぁそれよりも驚いた、というか心臓が比喩とかそういうのじゃなくて本当に止まったのは最初に割り振られたクラスの隣の席に彼女が座っていた時だろうが。

 

 

「ん~? どしたん、そんなぼ~ってして。」

 

 

いや、昔のことを思い出していてね。さ、いい時間だし今からあさごはん作るよ。何がいい?

 

 

「はちみつトースト!」

 

 

あの時は私だけじゃなくて同じクラスのみんな、教授含めて全員が心臓急停止。『救急車が大名行列みたいになってて非常に面白かった』、とは彼女の談だ。まぁ教室に入るときにわざわざ帽子で耳を隠して尻尾をスカートの下に入れてしまえばただのかわいい金髪の女の子。服装も良家のお嬢様が着るようなものだったから留学生かな、と思うのも仕方ない。

 

まぁ自己紹介の時に『わたしはあなたちゃんです!!!』と大声で宣言し、周囲に心停止をプレゼントとはなんと言いうか本当に彼女らしい。まぁ全く笑えないが。

 

 

「おいおい! 私と番になるなら笑えよ、笑え~!」

 

 

キッチンに移動する自身の後ろで笑いながらついてくる彼女は見た目だけなら数多くの男性が羨ましいと感じる情景だろう。ナチュラルで思考を読まない上で、黙ってじっとしていれば本当に美人さんなんだけどね。あと気が早いです。

 

 

「む~! 最近は私おとなしめだよ! 昨日も凱旋門壊さなかったし!」

 

 

フランスと日本を転移で行き来しながら凱旋門だけをピンポイントで爆撃して帰ってくるウマ娘をおとなしいとはどう頑張っても呼べないと思う。それに一昨日更地にしてたよね?

 

 

「あれ? バレてる?」

 

 

うん。ニュースで言ってたよ? 『あなたちゃんがまた凱旋門を爆破しました』って。しかもインタビューされていた現地の方も慣れてきたのか『今日は塵が残ってるから減点で92点だね。次はもっとうまく破壊してくれるんじゃないかな?』って答えてたよ。

 

 

「ぬぅ! 生意気め! じゃあお望み通りブチ壊してやる!!!」

 

 

その言葉と共に掻き消える彼女の姿。おそらく言葉通りにパリに転移したのだろう。今のうちに彼女と自身の朝食を作っておくことにする。……にしても無に帰されても即日に再建築される凱旋門自体も相当ヤバイ気がするなぁ。

 

 

え? 止めないのかだって? いや人類に彼女を止めるのとか不可能でしょ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あまあまうまうま。」

 

 

 

あと十年二十年もすれば糖尿病が怖くて仕方なくなるほど大量のはちみつをトーストに塗りたくり口に頬張る彼女。朝時間があるときや、休日の朝はいつもこれを食べたがるおかげでウチははちみつの消費量が凄く多い。しかもかなり質のいいものを好むもんだからわざわざ専門店まで足を延ばす必要がある。おかげさまで店番のおばさんに『お宅には黄色いクマさんでも住み着いているのかい?』と聞かれるほどだ。

 

まぁ確かに彼女につぼ一杯のはちみつを渡せばあのクマのように喜んで食べるだろうが。

 

 

 

「今日は裏まで塗っちゃお♪」

 

 

 

あはは……、その瓶だけじゃ足りなくなりそうだね。ちょっと取ってくるよ。

 

 

 

「あいあい!」

 

 

 

トーストと簡単なサラダ、それに先日の誕生日に彼女からもらった高めのミキサーで作ったニンジンジュース、これらを用意し終わる頃にいつの間にか食卓の椅子に腰かけていた彼女。その身を包む普段着の端には白い砂のような埃が少し。宣言通り例の門を破壊してきたようだ。

 

 

さて、愛しのはちみつ姫のために黄金の蜜を…………、あれ?

 

 

 

「ん? どほしはの?」

 

 

 

横にはトーストを口に咥えながら其処に立つ彼女。家の中でも転移やら空中浮遊による移動やら現世の生物ではありえない移動を多用することに最初は驚いたものだが今はそうではない。

 

 

 

あぁ、いや。この前買っておいたと思っていたのだけれど忘れてたみたいでね。切らしちゃったよ。

 

 

「…………つまり、あまあまなし?」

 

 

 

頭の中でゆっくりと思考を回しながら不足した糖分を口に咥えたトーストで補給する彼女。手を全く使わずに食べきるのは器用だが、そのせいで上面に塗ったはちみつが唇にリップを施している。そこから紡がれた言葉が先ほどのものだ。

 

 

 

なしですねぇ。

 

 

「にゅぅ~~~! やだやだやだ!! もっとはちみつ塗るのぉ!!!!」

 

 

 

床に崩れ落ちてそのまま駄々をこね始める。ご存じです? 彼女もう二十歳を軽く超えてるんですよ?

 

 

 

あ~、なら今から買って来るよ。休日だけど今日はやっていたはずだし車を出せばそんなに時間はかからないしね。

 

 

 

「…………!」

 

 

 

自身の返答を聞いてそれまで振り回していた足や手を止める。

 

 

 

「ならさ! 一緒に行こうよ!」

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

そんなわけで急に始まったデート、はちみつを求めた遠征が始まった。まぁそんな旅というほどの距離はなく、徒歩で10分もすれば到着するような距離なのだが。

 

 

「ねーねー、そういえばさぁ! 今日バレンタインなんだって! 知ってた?」

 

 

そりゃぁもちろん。日本では女性が男性に対してチョコレートを贈る日、何て言われているが海外では別にそういうことはない。しかも日本でも友人同士チョコレートを贈り合う“友チョコ”なるものが存在しているらしい。あなたが『バレンタインだからチョコ頂戴!』といってもすぐに対応できるように冷蔵庫には特大のチョコレートケーキが用意してありますとも。

 

 

「おぉ! やった! 帰ったらすぐに食べる!」

 

 

ははは、それだけ喜んでもらえば作った側も嬉しくなるね。

 

 

「……私からも何か渡した方がいいの?」

 

 

ん? いや特にしてもらわなくても大丈夫だけど……。そもそも今日がバレンタインって君が忘れてた可能性も考えていたからね。その時は単にチョコケーキ作ったから、といって渡すつもりだったよ。

 

 

「そっか……、あ! あれ! あの黄色いお店!?」

 

 

あぁ、そうそう、あそこだよ。

 

 

「ん? でもどっかで見たことあるような?」

 

 

もしかしてはちみー屋さんの事かな? 確かあの屋台はあそこのお店が出張販売しているものだったはずだよ。『はちみつ屋さんが養蜂家と契約を結んで作り上げたスイーツドリンク! その名ははちみー!』っていう宣伝をよくしていたからね。

 

 

「どうりで見たことあるなぁ、って思ったわけだ。そういや現役のころはガロン単位でよく飲んでたなぁ……、今も飲めるかな?」

 

 

……相変わらず、規格外だね。というかよく店員さんも作ってくれたというか。

 

 

「一回お店に置いてあるもの全部飲んじゃったら毎回用意してくれるようになった。んじゃま早速入ろう!」

 

 

 

 いらっしゃいませー

 

 

店内に入るとそこははちみつ一色。黄色い輝きを放つビンたちが数多く並ぶまさにはちみつの世界がそこにあった。私からすればいつもお世話になっているお店なのだが彼女からすれば初めての世界、すでによこで口から滝のようによだれを出している。……さすがに買う前に口に運ぶとかはしないよね?

 

 

「さすがに……、あ、でもおいしそう。飲みたい……」

 

 

駄目だからね? ……全くもう。というかはちみつは飲み物じゃないと思うんだけど?

 

 

「飲み物じゃないの……?」

 

 

はいはい、飲み物じゃないですよ。あ、おばさん、いつもお世話になってます。あぁ、そうですそうです、彼女です。いや可愛い彼女さんね、なんて……。あの、彼女の顔に見覚えありません? ……ないですか。 そっか……、あなたちゃん? 帽子とってくれる?

 

 

「? いいけど。」

 

 

えぇ、えぇ見ていただいた通り例の彼女なんです。あぁ、怖がらないでください現役のころよりだいぶ丸くなってるんで安心ですよ。ですから急に爆発したり、スプラッタになったり、辺りを火の海に帰るなんてしませんから。裸足で逃げなくても大丈夫ですから、ね? というかいつもの用意していただいたらすぐ帰るんで。……え? お代はいらないから命だけは助けてって? いやいや御冗談を、ちゃんと払いますよ。

 

 

「……なんか強盗みたいになってね?」

 

 

……変に紹介しない方がよかったですかね? 私としては自慢の彼女を紹介したい欲もあるんですが。

 

 

「そ、そっか//」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふいぃ、何とか買えましたね。これで今週は何とかなりそうだな。にしても良かったの? はちみー買うのかと思ってたんだけど。

 

 

「……うん、今はいいかなって。」

 

 

あれま、珍しい。あなたちゃんならば一に砂糖二に砂糖、と思ってたんだけど。

 

 

「あはは、今はちょっとお腹いっぱいだからかな。」

 

 

そっか。いつの間に霞でも食べてたのかな? じゃあ腹ごなしに少し散歩してから帰りましょうか。 

 

 

「いいね、……手、繋いでもいい?」

 

 

 

 

そう言いながらもすでに私の手は彼女に取られている。ただ、握るだけじゃなくて指先と指先が交わるように、彼女の少しだけ高い体温がとてもよく伝わるように。

 

 

 

 

「じゃ、いこっか。」

 

 

 

 

少しだけ彼女が先を行き、私がその後ろを引っ張られて進む。

 

こんな単純な歩き方が、何だが自分たちの人生を表してる気がして。

 

 

 

 

 

「あ、そうだ。これ……、受け取ってくれる?」

 

 

 

これは?

 

 

 

「チョコレート、朝パリに行ってきた帰りに買ったの。……びっくりさせようと思ってたんだけど先に用意されちゃってたからさ。渡すの迷ってたけどちゃんと上げよって。」

 

 

 

……ありがとう。

 

 

 

「えへへ、どういたしまして!」

 

 

 




この作品の“あなた”と呼ばれる女の子は『あなたはウマ娘である。』の“あなたちゃん”です。書いていて誰か解らなくなりました。もっと狂気的にしようと思ったんですけどなんででしょう?


またこの場を借りましてこの企画に“あなたちゃん”を許可していただいた主催のみやび様への感謝を。

作者
サイリウム
代表作
あなたはウマ娘である。
https://syosetu.org/novel/268371/
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