話の構想を練らねば…。
《七耀暦1188年》4月 トリスタ
あの後、憲兵隊に保護された私は帝都在住の貴族*1の夫婦に引き取られる事となった。
当然の事だが、この時代に私を引き取るべき両親なんている筈も無い。多分とっくの昔に亡くなっている。子孫も作らなかったし。
転移前の周囲の友人――特に頻繁に妻と子供を自慢してきた愛妻家で子煩悩なロラン・ヴァンダール――からは結婚を勧められたのだが、未だに残っていた男としての意識から婚約すらしなかった。
前世で流行っていた精神的BLは、現実問題と化した自分には無理だった。
そのツケが今の状況なのだが、仕方が無いと思う。というか、この時代迄家の名が遺っているかどうかも定かでは無いし…。
本題に戻るが、引き取ってくれた貴族はどうやら訳ありの様で、使用人の噂話を盗み聞きした結果によると奥方との間に子供を成す事が出来なかったらしい。
義理の両親は私の事を可愛がってくれた――どうやら憲兵隊から誘拐事件に遭ったと説明されたらしい――が、多分これは実子が出来たら邪魔者扱いされると思ったので、早めに家から独立する事にした。
「トールズ士官学院へ入学おめでとう。新入生の諸君。」
「『若者よ――世の礎たれ。』」
「ドライケルス大帝が遺したこの言葉を胸に、諸君には学生生活を励んで貰いたい。」
そして今、私はあの『トールズ士官学院』に入学する日を迎えた。
入学試験の範囲である帝国史や古典、現代文等、この世界特有の内容には苦戦したが、少女化した影響なのか思ったよりも順調に習得する事が出来たので突破する事に成功した。転移前に弓以外の新たな武術を研いておいたのもプラスになっている。
但し美術、テメーはダメだ。美術史は兎も角、実技は本気で赦さん。
然し、この学校に入学を果たす時が原作時ではないのが残念だが、一生に一度(憑依前含めれば二回目だが)の学院生活を悔いの無い様にするとしよう。
憑依前とは違い卒業後は就活にも困らなそうだし、充実した学生生活になりそうだ。
なお、受験勉強の最中は年頃の女子…いや、大人でもしてはいけない眼と言動をしていたらしい。
その状態の私を見た義理の両親や使用人曰く、『死んだ魚の眼をしながら社会の怨みを呟いて机に向かっていて、まるでフォースの暗黒面に目覚めそうな勢いだった…。(意訳)』とか。
危うく義理の両親や使用人達によって帝都病院に連行されそうになった所で正気を取り戻したが、明らかに憑依前の嫌な記憶がフラッシュバックしていた。
彼等は私が合格した事を我が事の様に喜んでくれた。いずれは家を出る予定だが、今後は心配を掛けないようにしよう。
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《七耀暦1188年》トールズ士官学院
吾輩は
帝国屈指の名門校であるこのトールズ士官学院のⅠ組に在籍している1年生で、イネコ伯爵家の3男である。
突然だが、高貴にして栄光ある貴族生徒が在籍している我が組には、一人不思議な雰囲気を放っている生徒がいる。
名前を『アウィナ・
別に名前が不思議な訳ではなく、アウィナというのは比較的に珍しくもない名前だ。
帝国史に残るテロ事件であったドライケルス帝の戴冠式襲撃事件で彼を庇った忠臣の名前であり、一部では彼の『槍の聖女』並みの偉人として知られている人物だからか、それに肖って子供に名付けるのはよくある事だ。
彼女を不思議に感じさせるのは、日常時と戦闘時のあまりにも大きい雰囲気の差だ。
日常ではやや抜けていながらも品格があり、その出自から平民、貴族問わず男女ともに多くの交流がある淑女らしい女性なのだが、戦闘時にはそれらが激変して誰よりも冷静であり、普段抜けているのが嘘のように適格な援護と攻撃、指揮をする。
確かに彼女は戦闘や軍事学に秀でているが、戦闘時のその経験は何処で得たものなのだろうか。
様々な憶測があるが、私としては養子前は帝国軍人の家系だった説を推している。
猟兵説や改造人間説、突拍子も無いのでは獅子戦役で亡くなった
第一、彼女の得物は
獅子戦役のアウィナ・ウェレンドルフは長弓を得意としていたと聞く。万が一にも本人説はないだろう。
もし彼女や槍の聖女が存命ならば、今頃は200歳を…。
…ん?何か途轍もない寒気を感じる。この話はやめておこう。
彼女が養子である事に眉をひそめる生徒もいるが、個人的には会話していて楽しいし、何より新たな発想を得られるのは実に感謝している。
特に『世界大戦論』とかいう考えだったか、連鎖的に起きた小さな衝突が世界を巻き込む争いになるというのは考えもしなかった。彼女は『バタフライ・エフェクト』とかも言っていた気がする。あと『飛行機』なる物もあったか。
聞けば教官達からもいい意味で目を掛けられているらしく、特に実技教官とは毎週末特訓しているのだとか。その特訓を一度見学したがアレには参加したくない。残像を残したり『闘気』とやらで武具を実体化するのは可笑しいと思うのだが…。
結論としてだが、彼女は少し変わっているがいい友人だと思っている。
我が友の中には彼女に心惹かれる者もいるらしい。確かに悩み事や勉強には付き合ってくれるし、細かな気遣いも出来る人で何より美人だ。同級生の女子の中には彼女を姉として慕う人もいるのだとか。
だが、正直我が友の恋は実らないと思う。彼女には既に心を決めている殿方がいると本人から聞いた。友には哀れではあるが、多分当たって砕けて終わりだろう。
彼女にただ一つだけ文句を言うのならば、あの壊滅的な絵画の腕だけはどうにかしてほしい。何がどう変化すれば猫が
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《七耀暦1190年》4月 帝国軍駐屯地
真面目に勉学に励み、後の後輩の様に単位が足りなくて留年の危機という事もなく、トールズ士官学院第206期生として卒業した。
あっという間の学生生活を謳歌し、卒業後の進路を考える時期であった2学年末は少し鬱な状態であったが、結局私は帝国軍へ就職する事を決めた。
昔とは違い義理ではなく本当の親と感じている今の両親からは、彼らの勤務先である帝都庁の職員を勧められて割と真剣に迷ったりもしたが、ドライケルス…いや、今は文字通りの意味で生まれ変わった『ギリアス・オズボーン』に会うという目標の為に諦めた。今でもちょっとだけ後悔している。
入隊式を終え、司令部からの辞令を受けてこれから配属されて勤務する帝都近郊の駐屯地に勤務する初日。
軍人として働く事の緊張から早朝に帝都の実家を出て、まだ朝早くの時間に駐屯地についてしまった私が集合地点であった駐屯地司令部の前で待っていた時。
「…ム。君が今日配属される士官候補生かな?」
後ろから声を掛けてきた男性の問いかけに答えようと振り返ったその時、男性を見て身体に衝撃が奔る。
若さを過ぎた大人特有の雰囲気に圧されて体が固まってしまった訳ではない。ただ、本能で感じたのだ。
私が知っている彼とは姿形は確かに別人だ。だが、確かに彼と解る。
これでも一時期はローゼリアさんの弟子でもあったのだ。霊力や魔法についても学んでいる。
そして、『魂』についてもまた同様。
常人は一生の中ですら魂の変化を繰り返す。人の心とは、感情とは、常に変化しなければ壊れゆくものだから。
魂とは移ろいゆくモノだ。同じモノなどは存在しない。そう、常人なら。
こちらの感覚では別れていた期間は5~6年だが、現実では200年程の月日が経っていたにも関わらず、その在り様は変わっていない。
この世界の歴史を知って彼がドライケルスとしての生を全うしたのは分かっていたが、こんなにも変わらず且つ未だ燃えている強い意志を秘めているのは流石『獅子心皇帝』と言うべきだろう。
だからこそ、あのリアンヌも彼を見つけたと判断できたのだろう。普通の人物ならば無理な話だ。
嗚呼、何故だろうか。原作の知識として彼が生きているは分かっていたが、まさかこんなにも気持ちが溢れてくるとは。
「…?どうした?大丈夫か?」
固まっている私を心配して彼が声を掛けてくれるが、感情の処理が追い付かず内容が頭に入ってこない。
意外と私は彼に依存していたらしい。最初に出会った事もそうだが、転移前のこの世界の私を知っている人に初めて出会えた事が嬉しくてたまらない。
「…ッ、陛下ッ!ドライケルス様!」
思わず涙が溢れ、はしたないと思いつつも目の前の彼――ギリアス・オズボーンについ抱き着いて泣いてしまう。
心の中でリアンヌとカーシャさんに謝罪しつつ、今しばらくはこうする事を許してほしい…。
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己が嘗て皇帝として導いた祖国に転生してから三十年少々。
辺境勤務時代に出会った愛しき妻との間に子供も出来、あの『黒』からの干渉を受けることなく職務に励んでいたある日のこと。
今年も新兵達が入って来る時期になり、駐屯地司令としての新兵歓迎の為に妻と子供に見送られて自宅を出た自分が職場に着くと、この春から配属されることになった新兵であろう少女が集合場所として指定した司令部前に立っていた。
自分も早めに家を出たつもりだったが、集合時刻として指定した時間よりもかなり早い時間に来るとは見込みがある。案外我が子の様に遠足前の緊張で寝れなかっただけ、みたいなのかもしれないが。
それに、配属予定の人材には気になる人物もいる。母校であるトールズの後輩であり、実技教官として赴任していた同僚からは自分と互角に打ち合える人材と聞いている。特に集団戦の指揮で真価を発揮するとも。
その名前を聞いた時に前世であの時失ってしまった彼女の事を思い出してしまったが、あり得ないと判断した。
前世でのロゼとの別れ際に尋ねて、「奴の事は諦めろ。」と言われたのだ。つまりはそういう事なのだろう。
嫌な記憶を頭を振りかぶって思考の奥にしまい、それよりも今の事を考える。
事前に送られてきた履歴書の写真から司令部前で立っている彼女が件の人物と判断し、近寄って声を掛ける。
「…ム。君が今日配属される士官候補生かな?」
こちらの声に反応して目の前の彼女が返事をしようと振り向き、一度口を開くと何かに衝撃を受けたかのように固まってしまった。
いったい何に驚いているのか気になってつい後ろを見てしまったが、特に何もなかったので改めて尋ねる。
「…?どうした?大丈夫か?」
そう彼女に話し掛けると彼女は何故か突然涙を浮かべ、自分の体に抱き着いて泣きながらこう言った。
「…ッ、『陛下』ッ!『ドライケルス様』!」
『陛下』?『ドライケルス様』?
何故だ?なぜ彼女は自分がドライケルスだと知っている?
そうだ。彼女の履歴書を見た時に何かこう、運命的な何かを感じた事を覚えている。
戴冠式後、ロゼにテロ現場を見てもらった時、彼女は時属性の力を感じると言っていた。
履歴書では、自分が戴冠式を行った『ヘイムダル大聖堂』で彼女は発見されたと書かれていた。
その時、自身の名前を彼女と同じ『アウィナ・ウェレンドルフ』と名乗ったとも。
あの時に彼女が死んだと思っていたが、思い返せば『黒の史書』でもハッキリと死んだとは書かれていなかった。
今までは点でしかなかった全ての状況証拠が、目の前の彼女に繋がっている。
まさか、まさか彼女は本当に…
「君は……君は本当に、我が臣下にして盟友の『アウィナ・ウェレンドルフ』、なのか…?」
答えを聞くのが怖い。もし彼女が本物では無かったらどうしようか。
然し、彼女は自分を一目でドライケルスであると解ったようだった。なら、期待しても良いのか?
自分の問いかけに彼女は暫く「陛下ッ…、陛下ッ…」と呟きながら泣き続け、ようやく落ち着いた頃に泣き跡がついた笑顔で返答する。
『
運命とも言うべき200年以上の時を隔てた再会が成ったのは、七耀暦1190年の春の事であった。
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●主人公(アウィナ・ウェレンドルフ改めて、アウィナ・ツェレナー)
遂にトールズ士官学院に入学する事が出来た憑依現地人(転移の影響で入学時は16歳の姿)。
憲兵隊に保護された後に貴族に引き取られたが、そこでこの世界に来てから初めての家族を得ることが出来た。
当初は彼等を警戒していたが、彼等の真摯な姿に徐々に絆されていった。両親からは誘拐事件で人間不信だったのが治っていく様に見えたとか。
学院生活は全力で満喫した。勉強にも部活にも打ち込み、結構優秀な成績を残していたりする。
学生後半は憑依前の記憶から就活という言葉に憂鬱気味だったり、就職という事実を前に結構病んでいた。
家族もできて少しだけ精神値が回復していたが、やはり本当の自分を誰も知らないというのと、この世界の自分のルーツであるドライケルスがいないというのがダメージとして積み重なり疲労限界を起こしていた。メンタルは意外と弱い。
ドライケルスと再会した際には溢れる想いに身を任せて行動。長年の女性生活の結果、大分精神が女性側に傾いている。
実は士官学院に入学した直後あたりで妹が産まれた。(特に意味のない伏線)
●ギリアス・オズボーン(39歳)
ドライケルスが生まれ変わった人物。愛妻家兼子煩悩な帝国軍人。自我の割合はギが7にドが3。
この時点では仕事もキャリア街道まっしぐらで、美人な妻に可愛い子供もいる人生の勝ち組。
黒いアイツの声が聴こえなくなって一番幸せな時期にいる。
主人公の事は死んだと思っていた。前世での後悔その1。
なお、その2はリアンヌで、その3は黒いのだったりする。
然し、なんと主人公と運命の再会を果たす事に成功。
精神値はかなり回復し、最早過去最高を更新し続けている。
このあと主人公との謎の関係を部下に見られたりして、それ経由でカーシャさんから目の笑っていない笑顔で主人公との関係性を問い詰められたりする事を、彼はまだ知らない。
初めて誤字報告を貰えました。
ありがとうございます。