獅子戦役からなんて聞いてない。   作:産業革命

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思ったよりも間隔が空いてしまいました。

書いていると新しい設定が出てきて、意外と書き直すことが多くて…。


覚醒~百日戦役《七耀暦1192~1193年》

《七耀暦1192年》4月中旬

 

 獅子戦役で別れる事になったドライケルスと再会し、その後特に何事もなく軍人として職務に励んでいたある日の事だった。

 

 ギリアス・オズボーンが指揮する部隊から転属して、帝国軍第一機甲師団の戦車小隊長となっていた私は一週間に一度の休日を迎え、駐屯地近郊の街に借りているアパートメントの自室で椅子に寄りかかりつつ趣味である読書をしていた。

 

 

 

 そして二冊目の中程までを読んだ頃、突然呼び鈴が鳴り来訪者の存在を報せてきた。

 

 読み途中の頁に栞を挟んで近くのテーブルに置き、返事をしながら玄関の扉を開くと、そこには元上官であったギリアス・オズボーンがやや窶れた顔をしながら子供――おそらく、嫡男系シスコン男子を装った喰いまくりのリア充野郎主人公――を抱えて立っていた。

 

 そうか、この時だったのか。あの『鉄血』覚醒の引き金を引いた事件があったのは。

 

 そんな原作知識を思い出すと同時に、帝都決戦後の時の様にふと胸の奥が痛んだ。

 

 

 

 とりあえず彼等を家の中に招き入れ急いでお茶を淹れようとするが、子供をソファーに寝かせた彼はそれを制止して口を開いた。

 

「この子を…リィンを、テオに託そうと思う…。」

 

 唐突に子供の事を話す彼に、原作で知ってはいるが確認の為に連れてきた子供に何があったのかという事情を尋ねる。

 

 内容としては原作同様にカーシャさんとリィン君が猟兵の襲撃を受けて致命傷を負った。彼が駆け付けた頃には親子共々瀕死で、彼の奥方であるカーシャさんが子供であるリィン君の事を託して死んでしまい、自分の心臓を彼に移植して生き延びたとの事。

 

 その後も自分が『呪い』を背負っている事、これからの行動の為に子供とは離れなければいけない事、出来ればで良いので再び仕えてほしい事などを言われた。

 

 だが、事情を聴く前から私の返事は決まっている。

 

「勿論です、陛下。この身は、我が主君の為に。」

 

 私の返事をある程度分かってはいたのか、彼は唯一言「そうか…。」と少し安堵した表情で呟く。

 

 

 

「ただ、一つだけ御聞きしても宜しいでしょうか?」

 

 私のその言葉に、彼は確りと私の目を見つめ返す。原作で分かってはいたが、臣下として、何よりも友人として今一度彼に問わねばなるまい。

 

「貴方様は、本当にその選択を御選びになるのですね?」

 

 

 

 一瞬とも数時間とも思えた静寂がこの場を支配し、長い沈黙の中苦渋の判断と表情をした彼がその鋼の意志をもって答える。

 

「あぁ、これが私の…父親としての決意だ。」

 

 そういった彼の瞳に強い意志と未来への希望を感じる。そうか…結局こうなるのか。

 

 

 

 分かった…。彼がそう決めたのだ。ならば、私は友として全力をもって応えるまでの話。

 

「分かりました…。では行きましょうか、陛下。既にシュバルツァー卿には手紙で知らせているのでしょう?」

 

 彼は私の言葉に頷くと子供を背負い私の手を掴むと、魔法陣が足元の床に現れて眩い閃光を放つ。

 

 次の瞬間、部屋には誰もいなくなった。

 

 

_____________________

 

《七耀暦1192年》ユミル近郊

 

 春となっても未だ雪が積もる帝国北部にある郷、温泉で名を知られるユミル近郊の森林地帯。その中をロングコートを着た女性と男性、そして一人の子供が毛布に包まって寝ている。

 

 

 

 彼らが暫く雪中を歩いていると森林でも一際目立つ巨木に辿り着き、その根元に子供を置いた男性は子供の頭を優しく撫で語りかける。

 

「どうか、この子に女神の加護が有らん事を…。」

 

 子供との別れを告げる男性を見守っていた女性は、男性が言い終わったのを確認すると子供の額へ手を触れ、この時以前の子供の記憶を封印した。

 

「…では未来で会いましょう。帝国の英雄(リィン)様。」

 

 そう言うと女性は子供の手に魔術で創ったゼムリア大陸には無い花(ストレリチア)を持たせ、子供に微笑んだ。

 

 

 

 朧げな意識をしていた子供の最後の記憶は、そんな男性と女性の言葉と立ち去る姿だった。

 

 それから暫くして、その子供は記憶が曖昧な状態でシュバルツァー男爵家に保護された。

 

 

_____________________

 

《七耀暦1192年》4月26日

 

 ここ数日で急な配置転換を受けて帝国軍第十三機甲師団に転属して数日後、私は突如ある命令を請けた。

 

『宣戦布告と同時にリベール王国へ侵攻せよ。』

 

 たった一文ではあったが、原作知識を元にその文章から裏で起きた事を感じ取った。

 

 

 

 リベール侵攻という大義名分の生贄となったのは、きっと原作同様ハーメルの住民達なのだろう。同僚や上官達がハーメルの噂をしていたのを知っている。

 

 然し、犠牲になった人々には悪いとは思うが、この胸の奥に感じる想いに見て見ぬ振りをする。知っていたのに行動せず、結果として見棄ててしてしまったという罪悪感から。

 

 きっとこの想いを一度でも直視してしまったら、私は立ち直る事が出来ないだろう。悲劇に何も感じ無いという程に人間性は失っていないし、失いたくもない。

 

 この世界は遊びでもゲームでは無い。紛う事なき現実で、ゲームでのモブ一人一人にも役割と人生があると知っている。

 

 

 

 目の前の百日戦役が、いや、全てが終わったら一度ハーメルにもそれ以外にも訪れるとしよう。

 

 …その時が来るのは多分、十四年後(世界大戦後)位になるだろうけど…。

 

 

 

 まずは、この戦役で()()()をしなくては。

 

 

_____________________

 

《七耀暦1192年》リベール ロレント市

 

 『百日戦役』の緒戦において劣勢だったリベール王国軍が新兵器『導力飛行艇』を用いた反撃*1により王国各地の関所等などを奪取してから少し経ったある日の事。

 

 本国からの連絡と補給が途絶えて混乱の窮地に立たされていた帝国軍の一部は最後の悪足掻きとして都市部の象徴施設を破壊するという暴挙に撃って出た。

 

 轟く砲声と撃たれた砲弾の風切り音が空に鳴り響き、聞こえた数秒後に砲弾が時計塔に着弾。そして爆轟し閃光と熱、轟音が周囲に拡がると共に砲撃を受けた時計塔の瓦礫が付近にいた住人に降りかかる。

 

 その住人の一人、見る人に太陽の様な印象を与えるまだ幼い少女は急な出来事に体が動かず、自分に向かって落ちてくる人一人分程度の大きさの破片を見て幼いながらに死を悟った。母親である女性も少女を助けようとしていたが、女性が少女に駆け寄るよりも破片が当たる方が早い。

 

 

 

 少女自身も諦めて目を瞑って備えていたが、当たると思った次の瞬間に銃撃と剣戟音が聞こえた。

 

 驚いて目を開けると帝国軍の士官服を着た女性が少女の目の前に立っていて、周囲には砕けて切られた破片が散らばっていた。

 

「御無事ですか?空の英雄(お嬢さん)。」

 

 目の前の女性は少女にそう訊ねながら、女性を追いかけてきた部下らしい人達に負傷者の救助と瓦礫の撤去を命じている。少女は余り年が離れていない女性の他の帝国軍人(民衆の剣)と違う軍人()としての後ろ姿に目が離せなかった。

 

「エステルッ!」

 

 女性の言葉に返事をしようとした少女だったが、駆け付けてきた母親が女性に一礼すると少女の手を引き、感謝の返事をすることなく足早にこの場から去る事になってしまった。

 

 少女にとって敵国の軍人ではあるが、誰かを守るという強く格好いい姿が憧れになった瞬間であった。この時の守られた経験と女性の後ろ姿が、少女が後に遊撃士を志望した理由の一つになる。

 

 

_____________________

 

《百日戦役経過報告書》

 

 我が帝国軍は4月23日に発生した例の事件を理由に、4月26日にリベール王国に宣戦布告。それとほぼ同期して帝国軍第十三機甲師団が国境の『ハーケン門』に攻撃を開始。《百日戦役》が開戦。

 

 開戦一ヶ月でリベール王国首都のある『グランセル地方』及び王国軍の一大拠点である『レイストン要塞』以外のリベール王国全土を占領し、ツァイス市の導力工房設備も接収完了。

 

 ~(中略)~

 

 王国軍が新兵器『導力飛行艇』を用いた反撃作戦を開始。王国各所の関所を電撃的に制圧され、我が帝国軍は補給及び指揮系統が崩壊。

 

 その数日後、ロレント市に駐在していた帝国軍部隊の一部が独断で時計塔を砲撃し市民数十人が負傷。砲撃を指示した将校は軍法会議にて処罰済み。

 

 ~(中略)~

 

 王国政府と帝国政府との間に講和条約が締結。この時をもって《百日戦役》が終結。

 

 

 

 この戦役によるリベール王国軍及びエレボニア帝国軍の死傷者及び行方不明者は多数。

 

 行方不明者については撤収時に各部隊の軍務記録を元に捜索が行われたが、指揮系統の崩壊により詳細は不明。

 

 なお、撤退中に魔獣の襲撃を受けて死傷者が発生したとの報告あり。犠牲者の名前は…。

 

 

_____________________

 

《七耀暦1193年》帝都ヘイムダル近郊

 

 帝国に端を発した《百日戦役》はリベールとエレボニア両国に死傷者と悲劇を齎し、軍事学や導力学的には『導力飛行船』という革新があったが歴史書の一頁にたった4文字の単語を創り出しただけで終結した。

 

 帝国とリベール間で講話条約が締結されると出征していた兵士達が帰還し、広場や酒場、各々の家庭では再会や無事を喜ぶ声や仕草で溢れている。

 

 そして、不幸にも戦役で戦死してしまった者達の遺品や遺灰を前に泣く家族や恋人もまた然り。故郷ではなく異国の地で散っていった人々に悲しみの涙と啜り泣く音が止まらない人々もいる。

 

 

 

 人々が笑顔で祝杯を挙げて和気藹々としている帝都の眩い街中から離れた墓地である『ヒンメル霊園』では、喪服を着て暗い表情をした夫婦と娘、使用人達が涙と泣き声を流しながら埋葬の儀式を見ていた。

 

 墓穴に埋められた棺に遺体はなく、代わりに胸のあたりに風穴が空いた血塗れの軍服の一部と家族から入学祝いに送られたという砕けた銀の髪留めが入れられている。

 

「御嬢様…。」

 

「ウッ…ヒック…。お姉さま…どうして…。」

 

「私が…。私があの時、軍人になりたいと言った『あの娘』を止めていれば…。」

 

「貴方…。」

 

 彼等は嗚咽と後悔を繰り返し、埋葬が終わっても墓石の前から暫く離れようとしなかった。

 

 

 

 

 

 そんな義理の両親と妹、使用人達の様子を、私は崖上の遠くから眺めていた。

 

 自分の埋葬を眺めているというのは私の心を実に不思議な気持ちにさせる。

 

 私は本当にこの世に生きているのかという漠然とした疑問に近い気持ちと、私の事をそれ程までに想ってくれていたのかという感動と騙す事の罪悪感。それと少しの愉悦を感じている。

 

 ギリアスからは転移前にも自分の葬式をしたと聞いたが、獅子戦役の時代にビデオがあればその光景も観られたのだろうか。もし観られるのならドッキリを仕掛ける側の気持ちが今ならよく分かる。ネタバレは200年以上後になってしまっただろうが。

 

 

 

 そんな冗談はさておき、改めてこの世界での家族の姿を見る。

 

 厳しくも優しく、義妹が生まれてからも私の事を気に掛けてくれた両親。引き取られて直ぐの頃は彼等を警戒してしまって、余所余所しい態度をとって申し訳なく思っている。

 

 私が士官学校に入学した直後に産まれて、実家に顔を出した際には必ず笑顔で迎えてくれた妹。物や御菓子をあげると目を輝かせ、実家では一緒に寝たいと言って私の寝台に入ってきて可愛かった。

 

 偶に御菓子をくれたり、武術や勉学を教えてくれた使用人達。私が何かを達成すると必ず喜んでくれたし、私の事を温かく見守ってくれていた第二の(憑依前も含めれば第三かもしれない)両親と感じている。

 

 

 

 彼らに対して家族としての愛情は確かにある。だがそれでも…いや、それ故に私は…。

 

「…今までありがとう。どうか、女神の加護が有らんことを…。」

 

 最後に家族であった彼等から目を背け、逃げ出す様にこの場から走って立ち去る。何故か漏れ出る声と歪んでゆく視界を手で振り払い、これからの決意を新たにする。

 

 

 

 この日、『アウィナ・ツェレナー』という帝国軍人だった者はこの世から消えた。

 

 

_____________________

 

●主人公(アウィナ・ツェレナー改め『名無し』)

 

 未来の主人公達に出会った現地人憑依女性(20歳)。実は妹(5歳)が生まれていて、両親含め家族仲は良好。

 

 軍人として百日戦役に出征し、その最中にあのブライト家の娘さんを助ける事になった。そして最後にギリアスの計画に参加、協力する為に死亡を偽装した。

 

 義理の家族であった彼等との繋がりがなくなる事に抵抗があったが、帝国の呪いを清算するためにとその想いを振り切った。

 

 精神面では、ハーメルやオズボーン邸襲撃という悲劇を防げなかった事から、断罪を求めていたり贖罪したいという一面があったりする。クレアさん状態に近い。

 

 なお、この時の別れが妹の運命を変えたという事を、彼女は後々になって知る事になる。

 

●ギリアス・オズボーン(41歳)

 

 人生のどん底に落とされて『鉄血』へと覚醒した超帝国人。所謂隠れ光落ちの闇落ちをした状態。

 

 これまで干渉してこなかった『呪い』が家族に降りかかった事で、皇帝としても父親としても帝国の『呪い』を失くす事を決意した。以後、彼の正体と本質を知っている者達は、彼にどこかの軍事帝国の総統閣下の様な(陰ではあるが)『英雄』を観ている。

 

 転移前の事件もあって主人公を計画に巻き込んでよいのか迷ったが、自分を知っている数少ない人物だったことから協力を頼んだ。

 

●エステル・ブライト(6歳)

 

 時計塔砲撃事件に巻き込まれた未来の主人公その1。

 

 この世界では母親が彼女を庇うことなく存命で、主人公が因果を捻じ曲げたともいえる。

 

 敵国の軍人ではあったが主人公の誰かを守るという姿と強さに憧れ、(軍人は両親から猛反対された為)原作と同じ遊撃士の道を進むことにした。

 

 父親は百日戦役後に「家族を失いたくない」として退役し、遊撃士として活躍している事も遊撃士を選んだ理由だったりする。

 

 棒術を学び始めたが、主人公や過去の父親の姿から剣を使うことに密かに憧れていたりいなかったりする。

 

●リィン・シュバルツァー(5歳)

 

 将来は恋愛的にも剣術的にも超帝国人になるかもしれない主人公その2。

 

 襲撃時に原作同様の致命傷を負っていたが、父親の闇医者まがいの臓器(以外も含めた)移植によって復活。その後は雪山でテオ・シュバルツァー男爵に拾われた。

 

 拾われる前の記憶が曖昧なのは、死に掛けだった事と主人公に記憶を封印されたからであり、原作の様に徐々に思い出していく。

 

 

_____________________

 

 因みに、主人公の家族は帝都在住で両親は帝都庁勤務です。

 

 両親の仲の良い同僚にはカールという人物がいて、家族ぐるみの付き合いがあったりなかったり。

 

*1
気球も飛行船もない世界とはいえ、この頃の帝国軍には『対空』という概念が無かった。勿論軍事教本にも載っていない。

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