こんなご時世ですが、だからこそ何かしなくてはと思いました。
なので今年の抱負は、何か1つでも作品を完結させることです(できるとは言っていない)。
《七耀暦1204年7月某日》宰相執務室
『Ⅶ組』の級友達が運命とでも言うべき出会いを果たしてから早数か月が経った頃、帝国の象徴たる皇族が暮らす皇城に存在する帝国政府の宰相執務室での話。
ノルド高原での事件の顛末と近く開催される夏至祭に関しての対応をクレア・リーヴェルト大尉から聞き、その後に訪れたカール・レーグニッツ帝都知事との話し合いも終わり、現在のこの部屋の主である男性が一人考え込んでいた。
帝国解放戦線と名乗るテロリストの対応や議会での演説や政策、貴族派への工作や懐柔、そしてあの結社をも巻き込む今後の計画。鉄血として考えるべき事は多く、今現在での少しの失敗が未来において災厄となると思うと気を緩める事は出来ない。
「……また考え事ですか、
大窓から見える帝都の賑わいを傍目に深い思考の海に潜っていると、突然こちらを諫める声が聞こえてきた。その声に振り返ってみると、何時の間にか女性が頭に手を当てながら困ったように立っていた。
「考えるのは宜しいですが、昔からの癖であるその雰囲気を改善して下さると、私に相談が来なくなって嬉しいのですが」
「……いつもすまないな」
本人は大して意識していないのだろうが、思考中に溢れ出る圧力――所謂『今は考え中だから邪魔すんな。○すぞ。』的なオーラ――を誰が見ても明らかなほどに放出しており、偶々部屋の前を通りかかった人間が思わず踵を返してしまう程であった。
なお、その所為かどうかは分からないが宰相執務室前の廊下を通るのは出来るだけ避ける……というのが政府官僚たちの間で暗黙の了解になっているとかいないとか。
女性からの小言と視線を受けて反射的に言い訳しそうになったが、これまでの経験上素直に謝罪した。怒った女性は敵にすべきではないと学んでいる。
特に妻や子供からの諫言は素直に受け入れた方が身のためでもある。人は学習する生き物であり、過去の反省を活かす生物なのだ。
過去に同様の事があった時の妻や息子の拗ねた姿も愛おしいが、それ以上に口を利いてくれないのは辛かったと、つい思い出してしまう。いや、正直に言えば此方の事が気になっているのを必死に我慢している姿も良かったが……
――
「ウウン……それで、例の件については? アウィ……いや、
過去に何度も言われた自身の悪い癖を責める視線を咳払いで誤魔化し、改まった表情と口調で女性に問う。
「我が『
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《七耀暦1204年7月21日》トールズ士官学院
鮮やかな花弁が散って木々の緑が深みを増し、日が長くなりつつある初夏を迎えたトールズ士官学院Ⅶ組。
事の始まりは、Ⅶ組にとって恒例である実技試験が終わり、遂に実習地と班分けが発表された直後であった。
受け取った紙を見て一瞬見間違いかと思ったが、瞬きを繰り返しても紙面に書かれた文章は変わらず、班分けを見た全員が思った事を代表して
「――サラ教官」
「何かしら、リィン君?」
「君付けはやめてください。それよりも……」
「どうしてA班がこの6人何ですか?」
そう、B班がアリサ、エマ、ユーシス、ガイウスの4人なのに対して、A班はリィン、ラウラ、フィー、マキアス、エリオット、そしてアイフェというアンバランス且つ問題ありなメンバーだけで構成されていた。
特別演習での数多の苦難と強敵、そして各々の柵を乗り越えて団結しつつある彼等だったが、未だ解決していない関係性もある。騎士と猟兵の流儀の違いから確執が起きつつあるラウラとフィー、そして何処か気まずい雰囲気のアイフェとマキアスという二つの問題だ。
前者は兎も角、後者は決して仲が悪いわけではない。日常では普通に会話を交わし、誰かのようにいがみ合っていた訳でも戦術リンクを結べない訳でもなく、寧ろ戦闘では連携が出来ていて、戦術リンク無しではクラスで一番の連携を誇っている程だ。
アイフェが剣と銃撃で相手を牽制し、マキアスがショットガンで体勢を崩して隙をつくり、最後はアイフェが神速の突きを、マキアスが徹甲榴弾を同時に放ち戦闘終了。魔獣は死ぬ。実技テストでも大変良いコンビネーションなのだが…。
なのだけれども、やはり二人の間に見えない壁があり、それがクラスの気がかりでもあった。
そんな問題を抱えているメンバー(リィンとエリオットを除く)をA班だけに集めたことの説明を求めるが、サラは珍しく真面目な表情をしつつ口を開いた。
「最初に言っておくけど、この班分けは既に決定事項よ」
「今回の実習での依頼内容を鑑みて、このメンバーが適切であると考えたわ」
「特にアイフェ、貴方は覚悟を決めておくべきよ。」
何時かの戦闘のように真剣な声音と眼をしながらそんな事を言い残したかと思うと、何事もなかったかのように普段の調子で解散を宣言して去っていった。
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《七耀暦1204年7月25日》帝都ヘイムダル
そして、そんな事が事前にありながらも遂に特別演習を迎え、一行が帝国の首都『ヘイムダル』へ到着して二日目の今日。
いろいろあった初日が終わり、多少の疲労を見せながらも二日目の演習依頼を確認するA班の面々。ヘイムダル港の手配魔獣、新製品のテスト、迷い猫の捜索、そして……
《件名:Ⅶ組一同との面会 依頼者:フリードリッヒ・ツェレナー》
「面会って一体…それにこの名前は…。」
「…はい。この住所は、間違いなく私の実家です。」
まさかのクラスメイトの親御さんからの依頼、しかも面会という中々に緊張する内容だった。ついでに必須の印も押されている。
ここに来て漸くあの不思議な班分けの意味がわかった。実家関連の依頼があるのなら、その円滑な進行をするのに確かに本人は必要だろう。
だが、教官の言っていた『覚悟』とは何だろうか?恐らくただ会うだけが目的ではなく、他の目的があるのだろう。それも、この歪な班編成でなければ対応できないような何かが。
依頼の真の思惑について皆は少し考えていたが、なんと一番最初に当の本人から意見が出た。思わず見てしまったその顔は、少し強張っている様にも見える。
「…すみません。この依頼は最後にしていただけませんか?」
それまでに『覚悟』を決めたいというアイフェの言葉を尊重し、その他の依頼を先に処理する事にした彼等であった。
依頼書には「詳細は到着後に説明するので、各自相応の準備を整えてから来てほしい」とも書かれており、その言葉に従って午後に訪れた邸宅――アイフェの実家であるツェレナー子爵邸では、使用人である男性が家の前で待っていた。
「お待ちしておりました、御嬢様とⅦ組の皆様! 当主様方は中でお待ちしておりますので、どうぞ中へお入りください」
「……ただいま、爺や。出迎えも有難う」
久しぶりの再会に喜びを感じさせる老人の歓迎に、アイフェは少し後ろめたそうに言葉を返す。恐らく、この様な形で実家に戻りたくはなかったのだろう。リィンとしても、在学中に自主的には故郷であるユミルへは戻らないと決めているので、その気持ちは分からないでもない。
アイフェ曰く爺や――より正確には家宰の老人から迎えを受けて家の中へ案内されると、直ぐに応接間に通された。扉の蝶番の具合が悪いのかやけに重々しく響く音、少しずつ開いていく扉の隙間からでも感じる寒気に似た空気の先には――
「よくぞ御出で下さいました、皆さま。そしておかえりなさい、アイフェ」
「ツェレナー家へようこそ、Ⅶ組の諸君。それに……無事で何よりだ、我が娘よ」
アイフェと同じ髪色をした夫婦――今回の依頼人であるツェレナー夫妻の姿があった。
「実習で忙しい所すまなかったな、Ⅶ組の諸君。ツェレナー子爵家が当主『フリードリッヒ・ツェレナー』だ。娘が随分世話になっていると聞いている」
「では私も改めて……初めまして、Ⅶ組の皆様。いえ、マキアス君は久しぶりと言った方がいいのかしら? アイフェの母である『ユーリエ・ツェレナー』です」
当たり障りのない自己紹介を無事に――但し、マキアス以外――すますと、世間話もそこそこに依頼の話となった。貴族的には本来出された茶菓子や茶でも楽しむべきなのだが、とてもそんな雰囲気ではなかった。
「それで子爵閣下、依頼の内容について説明をお願いしたいのですが……」
「……ああ、そうだな。だがすまない、その前に少しだけ話しておくべきことがある」
フリードリッヒはそう言うと目を閉じながら深呼吸をし、そして一拍開けてからアイフェを見詰め、真剣な表情と声音で話し出した。
「――アイフェ。お前は、士官学院を辞めろ」
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●主人公(『名無し』改め『ベルン・シュタイン』)
最初しか出番がないが、今作の一応の主人公。可愛がっていた義妹が何時の間にかⅦ組とかいう世界の特異点にいると知り、内心かなり驚愕していた。
偽名であるベルン・シュタインは文字通りドイツの国石である琥珀から。なお命名元であるベルンシュタインとは独語で『燃える石』という意である。
●アイフェ・ツェレナー(16歳)
今作主人公の妹。実家には卒業まで自主的に帰らないと決めていた。が、帝都が実習先と知らされた時点で嫌な予感がし、班分けの時点で確信していたが、まさかの依頼で実家に帰省する事になった。
実は実習の前にある手紙を受け取り、何かに深く悩む様子を見せていたが……?
●マキアス・レーグニッツ(17歳)
アイフェ・ツェレナーの幼馴染にして、ツェレナー家を知るA班で唯一の人物。但し、過去形。昔の記憶とは変わり果てた雰囲気と家族関係に驚愕中。そこに幼馴染の両親からの中退宣告も加わり、倍プッシュな衝撃を受けて放心中。
幼馴染とその両親の気持ちを知る彼が選んだ選択は――
●A班の面々(リィン、ラウラ、フィー、エリオット)
依頼で来たはずなのに、何時の間にか家庭問題に巻き込まれていたかわいそうな面々。前日までのフィーとラウラの問題が解決したと思ったら、この仕打ちである。教官を恨んでも良い。
とはいえ、この問題は決して他人事ではない。むしろ、学校生活でテロリストと命のやり取りをするのが異常なのだから。
●ツェレナー夫妻(共に50歳)
帝都庁に勤務する貴族で、主人公とアイフェの(義)両親。夏至祭の準備に追われるが、それらの仕事は強引に終わらせた。
夫の名は『フリードリッヒ・ツェレナー』、妻は『ユーリエ・ツェレナー』。共に銃と剣の世界においてそこそこ知られた名前の持ち主。
アイフェの事は家族として愛している。だが、それ故に想うのだ。あの娘のような軍人にしたくないと――。
大まかなストーリーの筋書きはあるので、(いるか分からないけど)気長にお持ちください。