ウマ娘 恋愛ダービー『あなたはトレーナーである』読者参加型 作:雅媛
あなたはとても健全なので
学園指定のスクール水着
が勝利をおさめました。
ひもじゃなかった。
あなたはアグネスタキオンのトレーナーである。
そして、日本ダービーの後といえば、夏合宿である。
あなたは、タキオンに連れられて、デートと称して水着を買うのに付き合わされていた。
「いやでも、夏合宿は学園指定のスクール水着で十分だろう?」
「トレーナー君は、私のいろいろな水着姿、見てみたくないかい?」
「……みたい」
あなたは正直であった。
あなたとタキオンは、府中にあるデパートの水着コーナーを訪れていた。
タキオンは、あなたに、試着した姿を見せてくれるらしい。
「トレーナー君。いいよ」
そういうので、あなたは試着室に顔を突っ込んだ。
それはそれでいろいろ問題ある光景にも思えるが、第三者にタキオンの水着姿をむやみやたらに見せたくないという、あなたの気分の問題もあった。
最初に見せてくれたのは、赤いビキニ水着だった。
各所にひらひらがついていてかわいらしい。
アプリイベントをすべて消化している読者諸君ならわかると思うが、イベント「ウマ娘夏物語」でダイワスカーレットが着ていたものと同じ水着である。
「どうかな?」
「うん、とても似合っていてかわいいよ。でもトレーニングにはあまり向いてなさそうな気がする」
似合ってるか似合ってないかで言えば、とても似合っていると思う。
タキオンが赤を選んだのが少し意外だったが、こういう派手なのもいいだろう。
だが、さすがにトレーニング用ではないだろう。
「ふむ、確かに夏合宿には不向きだな。トレーナー君に今度、遊べるプールに誘ってもらうことにしよう」
「なるほど、この前行ったウマーランドには室内プールがあるからね。楽しみにしてるよ」
夏合宿で使うかどうかは置いておいて、買うことにしたようだ。
今度、タキオンを遊べるプールに連れていくことをあなたは決意した。
「じゃあ次は、これだね」
タキオンが着ているのは、競泳用のハイカット水着である。
白い脚が覗く水着はとても艶めかしい。
アスリートとしての鍛えられたスラリとした脚。
よく食べるようになって、女性らしい丸みが非常に増した胸や尻。
引き締まったお腹。
「素晴らしくかっこいいよ、タキオン」
あなたはタキオンを褒めた。
「ふふん♪ ではこれにしようかな」
「いや、それはやめておいた方がいいと思う」
「? なんでだい?」
「走るのに向いていないよ。競泳水着は競泳用だからね」
水の抵抗を減らすために小さ目で、体を締め付ける競泳水着は走るのには向いていないし、結構脆いのだ。
おそらくすぐ破けてしまうだろう。
「むむ、そうかい……」
タキオンは残念そうに水着を元に戻すことを決めた。
あなたは、こんなタキオンが第三者に見られることで、みんながタキオンに惚れてしまい、ストーカーなどが発生するのも危惧していたが、それはあえて言わなかった。
「で、最後はこれだよ」
「……‥タキオン。それは良くないよ……」
最後にタキオンが見せてきたのは、スリングショットといわれるセクシー水着だ。
Yフロント、Iバックの黒の水着であり、セクシーすぎた。
なぜこれを選んでしまったのだろうか。
あなたは、タキオンを止めるべく説得をしようとするだろう。
「ふむ、しかし、どうだい?」
「ポーズとらないでくれ」
両手を頭の上で組むタキオン。
食べるようになって成長した、タキオンの90オーバーのバストや、同じく90オーバーし始めたヒップは、極めて暴力的だ。
あなたに、鋼の意思がなければ即死だっただろう。
みんなも取ろう、鋼の意思。
「しかしトレーナー君。トレーナー君は毎日私にマッサージをしてくれているじゃないか」
「効果的だからね」
「受けている私としては、服越しよりも直接触られた方が効果的に思えるんだ。この格好ならば、やりやすいだろう?」
「ふむ……」
クールダウンのマッサージは強く揉むので、あまり差はないが、ウォームアップのほうは優しくなでて血行を上げるので、確かに直接触ったほうがいい場合が多い。
それは確かだが……
「ということでトレーナー君。今後も頼むよ」
「あ、ああ」
タキオンに押され、マッサージ用としてセクシー水着を購入する方向になってしまった。
あなたの理性が試される日々が始まることは確実であった。
そうして夏合宿が始まった。
アグネスタキオンの目標は、三冠であり、次の菊花賞である。
距離適性的に、心配はしていない。
タキオンの心肺能力は高いので3000mを走ることに懸念はない。
だが、ライバルとしてマンハッタンカフェが出てくることが予想された。
タキオンが興味を寄せている相手であり、それだけ実力があるということだ。
だからこそ、あなたは気を引き締める必要があった。
タキオンが、頑張りすぎないように、だ。
タキオンの体質はかなり改善されたが、本質的に脚部に不安があるのは間違いないのだ。
だから、人並みを超えた努力をするのは危険であり、効率的に、ほどほどのトレーニングをする必要があった。
だが、それがタキオンは不満そうだった。
なんせ、隣でマンハッタンカフェはすさまじい強度のトレーニングをしているのだ。
特にスタミナを鍛えるとなると、見ているだけでも過酷と分かるし、時間もかかるトレーニングばかりだ。
一方こちらは型通りのトレーニングに過ぎない。
トレーニング強度が全く違う。
そんなタキオンの焦りを感じ、あなたはお話し合いをするのだった。
「トレーナー君」
「タキオン、まずは落ち着いて話そう」
「……そうだね」
夏合宿が始まって、数日しかたっていない夜である。
タキオンは、あなたの部屋に来ていた。
寝巻、と称してタキオンが羽織っているのはあなたのシャツである。
そういえば何枚もシャツが無くなっているなと、あなたは気づいていたが、タキオンに取られていたらしい。
「まずそのシャツの話からかな?」
「トレーナーのシャツをパジャマにするのはウマ娘たちの流行りだからしょうがないんだよ」
「しょうがないのか」
「そう、流行りだからね」
ウマ娘の学生は、皆年頃の中学生、高校生だ。
よくわからない流行りがあるし、流行りに乗り損ねると窮屈な思いをする、そんな年頃である。
流行りならしょうがないのだ。
あとであなたが、他のトレーナーに確認すると、確かにどのトレーナーも服を取られていた。
嘘ではなかったようである。
あなたは体格がいいので、タキオンが来ているシャツは、太もものかなりを隠すぐらいの長さである。
だが、その恰好でタキオンはあなたの膝の上に座ってくるのだ。
少し刺激的である。
必死に煩悩を振り払う必要があるだろう。
「で、トレーニングのことなんだけど」
「タキオンは、不安?」
「そうだね。どうしても、不安になってきた」
今まで4戦4勝、GⅠ3勝という記録を持つタキオンだが、これだけの記録を持つウマ娘にしては出場レースが少ない。
これは裏を返せば脚部不安があるということだ。
ステップレースを使わないのは、使わなくても勝てる自信があるが、同時に使うだけの脚部の余裕がないということでもあった。
それが今回、マンハッタンカフェの登場で、勝つ自信が揺らいだのだろう。
これが皐月賞なら、おそらくタキオンの自信は揺らがなかった。
だが、菊花賞は3000m。
長距離適性が圧倒的に高く、スタミナもあるマンハッタンカフェに、長距離で本当に勝ちきれるのか。
確かに不安になるのはわからなくはない。
「だから、もう少し…… ハードなトレーニングをしようかと思って……」
タキオンも言葉を濁す。
タキオンが、本当にそうしたいと思っているなら、トレーナーに否定することはできない。
今のトレーニングは、タキオンが怪我をしない範囲で、最大限できるトレーニングとして、二人で考えてきたものだ。
これ以上というのは、多かれ少なかれ危険が生じるものだ。
だが、ある程度のリスクを負ってトレーニングするというのもまた、珍しくない話である。
「タキオン」
「ッ!!」
「俺は、して欲しくない。タキオンが、とても大事だから…… でも、したいというなら止めることはできない」
あなたにとって、菊花賞、無敗の三冠勝利と、タキオンの無事、どちらが大事か、と言われたらきっとタキオンの無事だろう。
それはトレーナー失格かもしれない。だが、それだけ彼女のことが大事なのだ。
柔らかいタキオンの体。
成長し、体格が良くなったといったとしても、やはり少女の、華奢な体だ。
出会った頃から変わらない、タキオンから漂うミントの香りが鼻をくすぐる。
「でも…… 負けたくない…… 私のために、トレーナー君のために…… 負けたくないんだ…… 何か、いい方法はないかい?」
タキオンが悲しそうにそう呟く。
こんなこと、タキオンにもわかっているのだろう。
それでも負けたくないのだ。
ここで一番必要なのは、自信だろう。
しかし、納得するほどのハードなトレーニングはできない。
だったら、脚に負担をかけないトレーニングをするしかないだろう。
「地味なトレーニングならいくつか調べているんだが、やってみる?」
「どんなのだい?」
「長距離で必要なのは、筋力以上に肺活量だ。タキオンの場合、長距離を走れる筋力はあるから、あとは肺活量を上げればいい。タキオンの不安は腱などの筋肉周辺だから、肺活量だけ鍛えるなら問題ないしね」
「なるほど…… で、肺活量だけ鍛えると」
「ひとまず息を止める方法と、大きく呼吸する方法があるけど…… どちらも地味なんだよね。まずは一緒にやってみようか」
あなたはストップウォッチを取り出す。
二人で息を止め続けたり、ロングブレスをしてみたりと、その日はいくつかの練習を行ったのであった。
こういう地味な練習は、タキオンは好まないと、あなたは思っていたが、カフェの件がよほど気になっていたのだろう。
毎日しっかり練習するようになった。
地味であり、効率もよくない。
効率を上げるなら動きながらやるのが一番であり、例えば泳ぎながらやるべきだろうが、水中は重力負荷が少ない一方で抵抗が大きいので、腱などへの負荷はむしろ大きいともいわれる。
だから、ただ、呼吸だけするという時間になってしまう。
二人で向かい合って、坐禅を組みながら、ただただ、ストップウォッチに合わせて、呼吸を止めたり、息を吸ったり吐いたり、そんなことをするだけの時間である。
効果がないわけではない。それなりに肺活量がついてきており、これなら十分、長距離でも戦えるだろう。
最近は歌を歌うのも追加した。ライブ練習も兼ねるのでちょうどいいのだ。
マンハッタンカフェは相変わらず、とんでもない量の練習をし続けている。
じりじりとした焦燥感が、タキオンを焦がしているのを、あなたは感じていた。
夏祭りの夜。
あなたは浴衣を着て、タキオンと一緒に出掛けた。
タキオンもまた浴衣である。いつもと違い、髪も結っている。
うなじが非常にセクシーに感じてしまう。
そんなタキオンと二人、露店を回り、チョコバナナを食べて、射的で遊び、くじ引きを引いたりして遊び、花火を見たそのあと……
タキオンがぼそっと話し始めた。
「カフェ君は、頑張っているね」
「そうだね」
「でも、私が勝つと思うかい?」
「タキオンが勝つと思うよ」
才能はある。努力もしている。
だが、勝つのはタキオンだと、今ではあなたは確信していた。
ただ、トレーニングを重ねていただけだったとしても、タキオンのほうが有利だと、あなたは思っていた。
それに、さらに肺活量を鍛えるトレーニングをしている。
地味だが、長時間練習しているだけあって、効果はそれなりに積み重なっている。
全く負ける気がしなかった。
「私もそう思う」
「でも、何を悩んでいるんだい?」
分析能力なら、おそらくタキオンのほうが高いのだ。
同じ結論は出ているのだろう。
「笑ったり、怒ったりしないかい?」
「タキオンの真剣な悩みをバカにするはずがないよ」
「では言うけど、勝っていいのか、悩んでいる」
それは非常に傲慢で、しかし、タキオンにとっては非常に切実な悩みなのだろう。
他の人が聞けば、笑われたり、怒られたりするような悩みであるのは間違いない。
だからこそ、あなたにも言い辛かったのだろうと、あなたは気づいた。
「カフェのあれだけの努力を見ると、どうしても、彼女が勝つべきなんじゃないかという思いが、私の中から消えないんだ」
「……タキオンも、すごい努力をしてきたじゃないか」
「え?」
「周りから白い目で見られようとも、怪訝な目で見られようとも、実験を止めなかった」
「……」
「タキオンは、自分の脚を少しでも良くするため、あれだけの実験を重ねてきたんだ。あれは、誰でもマネできるものじゃないよ」
アグネスタキオン。天才的な才能を持つウマ娘だ。
だが、一方でそのガラスの脚は、ただでさえ繊細なのに、その速さゆえに余計脆く壊れやすい。
普通のやり方ではメイクデビューすら怪しかっただろう。
確かに、速くなるための努力、というならば、タキオンの努力量は平凡以下かもしれない。
だが、走れるようになるための努力は、他人の何十倍もしているのだ。
どんなに痛くても、どんなに辛くても、どんなに苦しくても。
タキオンは走れるために努力をしてきた。
「確かにカフェさんの努力はすごい。でも、俺が今まで見てきたタキオンの、レースに参加するまでの努力は、それにも勝っていると、俺は思ってるよ」
「……」
「あと」
「?」
「カフェさん、多分そこまで甘い相手じゃないよ。油断していたらぶち抜かれるさ。だから、全力で走らないと」
「そうだね。はは、トレーナー君の言うとおりだ」
流れ星が一つ、花火が終わって静かになった夜空を流れていた。
夏合宿は無事終了し、タキオンは菊花賞へ直行した。
菊花賞では、マンハッタンカフェを押さえ、タキオンが優勝した。
最も、想定をはるかに超えるマンハッタンカフェの走りに、タキオンもまた限界以上の走りをしてしまう。
疲労がたまりすぎてしまったタキオンは、怪我はなかったが、しばらく休養が必要な状況になってしまうのであった。
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