龍歴院の研究においても、古龍の繁殖方法は謎が多いと言わざるを得ない。
雌雄個体として有名なテオ・テスカトルとナナ・テスカトリにしても、胎生か卵生かすらいまだ議論の決着を見ていないのだ。
ネルギガンテの様な単為生殖型の観測事例もあり、『繁殖しているのは間違いないが、方法は想像もつかない』と言うのが正直なところである。
ヤマツカミのように観測数が極めて少ない古龍の場合、絶滅種の生き残りに過ぎないのか、繁殖スパンが長いだけでまた増加する危険があるのかはかなり重要な点である。
今後、雌雄個体の古龍の新発見や古龍による求愛・繁殖行動が新たに観測されれば、人類にとって非常に有益な情報となるだろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「また助けられてしまったね…。恩に着るよ。
いやに芝居がかった言葉とともに、泉の真ん中に鎮座している龍がぺこりと頭を下げた。
「その呼び方、ムズムズするから止めて欲しいんですけど…。」
嘴を撫でながらそう返す俺。こっちもこっちでしゃべり方が少しぎこちない。
だが、それもしょうがないのだ。
何せ目の前にいる存在こそは、かの溟龍ネロミェール。他種族とは隔絶した力を持つ、古龍種モンスターの一角なのだから。
水を操る力を持つ古き龍。その鱗はこの世ならざる複雑な発色を示しており、背負う翼膜は夜空を縫い合わせたような漆黒をしている。
頭部から垂れる触手状の髭も相まって、どこか別世界の生き物を思わせる妖美の威容を誇っていた。
「それで、今日はどうしてここに来たんですか?」
「久方ぶりに古き友人を訪ねに来た…ではダメかな?」
「それでも俺は構いませんが。」
「ふふ…冗談だよ。以前と同じく、“これ”を頼みに来たんだ。」
そういうと、ネロミェールが長い首を垂直に立てた。同時に、首の下の部分がポコリと少しだけ膨らむ。
膨らみはまるでエレベーターのように首元から頭部方向へと移動する。喉元まで差し掛かると同時に、ネロミェールがそっと頭を地面に向かって下げた。
吐き出されたのは白く艶やかな卵だった。
「今回は一つだけだ。頼めるかい?盟友よ。」
「…陸珊瑚の大地はそんなにも危険なのですか?」
「我らは未だ諸生物を平伏させるだけの勢力であるつもりだ。とはいえ、古き龍の数は僅かずつだが減り続けている。加えて、外敵も増えた。ラージャン、イビルジョー、人間どもも。一族はリスクを分散させる必要に迫られている。」
「ここにもラージャンとハンターは居ますよ。」
「ここはまだましな方さ。知っているかい?おぞましきシュレイド族の営巣地を圧伏していた祖なる龍が、つい数年前に人間どもに狩りだされたのを。」
「え!?」
ミラボレアス様が?冗談だろ?見たことがあるわけじゃあないが、別格の古龍の中でもさらに別格の存在なはずだ。
「無論、世界を見渡せば人は小勢に過ぎず、古龍はおろか祖なる龍も減ったとはいえまだまだいる。うるさい様ならまた叩くが…。」
「我らもひ弱になったつもりはない。一族の死もまた龍脈を巡りて我らの力となることを、おこぼれに与って喜んでいる無知な新生物どもは知るまい。だが、生まれる前に死ぬのでは流石に不憫だ。この子が生まれてしばらくたてば、以前同様引き取ろう。」
「…」
「そういうわけだが、引き受けてくれるかい?
そう言って覗き込んでくるネロミェール。
「…交換条件が成立すればやりますよ。俺の泉が古龍の卵にとっていい環境だってのも悪い気はしないですし。」
「ふふ、君ならそう言ってくれると思っていたよ。条件の方は請け負おう。」
そう言って、麗美の古龍は薄く笑った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
里の農民たちの話だけでなく、里の公式の記録でも年々の収穫は確認できる。
そこから分かることなのだがカムラの里には何十年かに一度、極めて豊作の年がある。
農民たちの主張では、実りがよいのはカムラの水源に近い順であり、これは河童神様のお恵みなのだそうだ。
里人は、この年の秋になると危険を侵して水源に向かう。河童神へのお供えをするためだ。
やがて河童神の泉から不思議な瑠璃色の光と小さな白い光が飛び立てば豊穣の年は終わりを迎え、農民たちはそれを祝して小祭を催すのが仕来りである。
特に子育てパートとかはないです。
実際のところ、ミラボさんてなんでずっと瓦礫だらけの都市にいたんでしょうね。繁殖方法だけでなく食性についても古龍の皆さんは難しいので、案外人工物の中にミラボさんの好物とかあったのかも。
クシャさんは錆びるから雨が嫌いなので絡んできただけです。ネロミェールの降らす雨は水属性バリバリに乗ってるので錆びやすいらしい。