風とは循環の原動力であり、変化の兆しであり、ゆえに生命の源である。
生物は体内より吹く風―呼吸によって生き、その風が止まる時その命も尽きる。
南風薫れば酒
太古、風は星から吹き込むとされ、星はまた龍たちの座処であった。
天を翔ける見えざる力。春には生命を呼び起こし、秋には奪い去っていく。
罪を清めるシナトの風、すべてを吹き滅ぼすアカシマの風。
炎をより一層燃え上がらせ、その気炎を高め続ける。
根源の息吹。原初の神性。
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オオオオオオオオ!
谷を吹き抜ける風音のような咆哮と、どこか金属めいた余韻。あたりに巻き起こっているのは灌木を根こそぐほどの豪風。
泉を囲う土手をよじ登って伺い見れば、竜巻の中心に浮かぶのは巨大な白龍だ。
「あいつは…イブシマキヒコ?」
「何者だい?」
「昔から方々で暴れまわっている迷惑な奴さ。最近は大人しかったんだけどねえ。」
風神龍イブシマキヒコ。ここらでは有名な暴れ古龍だ。番探しで定期的に土地を荒らし、やがてどこかへ去っていく。はっきり言って関わりたくないタイプである。
とはいえ、自分のテリトリーを荒らされては黙っていられない。理性とは別にモンスターの本能がそう強く主張していた。
モンスターになってからたびたび感じることだが、普段は理性の面で恐怖している相手でも、いざ本能の部分で敵と認識すると怖くなくなる。これも野生の性ってやつか。
「風の古龍よ。なぜ俺の縄張りを荒らす?お前の探し物は人間の古巣のどっかじゃなかったのか?事と次第によっちゃあ…歓迎が手荒になるぜ。」
巨大な古龍に対して威嚇の咆哮を浴びせかける。
こちらの咆哮に対して数秒沈黙した古龍は、やがてゆっくりと口を開いた。
「左様…。対の在りし処…すでに見つけたり…。よもや海原に沈み込んでいようとは…不覚。彼の地はもはや、我らが楽土には相応しからず。」
「あん?」
「貴様の泉…貰い受ける‼」
特徴的な二重顎が幌のように開き、圧縮された空弾が射出される。それは泉を囲う土手の中腹に激突した。
バキッ
瞬間、異様な音とともに“大気が軋んだ”。
ドッッッッパァァン!!
炸裂した衝撃波が土手を吹き飛ばし、土砂と飛沫を盛大にまき散らす。余波で泉が揺さぶられ、住み着いていた環境生物の一部までもが吹き飛ばされた。
『縄張りに対する明確な攻撃』に俺の体中で怒りが爆発する。
「おい、そいつはつまり…殺してくれってことだよなあ!」
再度の咆哮。風の古龍がニヤリと笑う
「…やれるものなら。」
…コイツ、沈める。
「泉の君。私も手伝おう。ここを潰されるのは我々としても困る。」
頭が真っ白になりかけたところ引き戻したのは隣からの声だった。溟龍が臨戦態勢に入った結果、空は瞬く間に曇天になり早くも雨が落ち始めている。
「ありがとうございます。ネロミェールさん。助かります。」
なんといっても相手は古龍だ。俺一人では到底手におえないだろう。
「ヨツミワドウ殿。我々は…。」
「あいつとは相性が悪いと思うんで、周辺の見張りをお願いします。これ以上モンスターが混ざってこないように。」
「…承知いたしました。」
古龍同士の争いに混ざろうとするもの好きはそうそういないのが普通だが…。残念ながらそういうイカれがここら辺は多い。特にバゼルギウスやラージャンが混じってくるといよいよ終わりだ。
「ナズチ、お前も下がってろ。」
「冗談。僕だって戦えるよ。」
「…ほどほどに頼むぞ。」
「ふふん、任せておいてくれ。」
次話で決着。