GATE:エターナルズ 彼の地にて斯く戦えり 作:マーベルチョコ
牧場での一件から数日が経ち、平穏な毎日が過ぎていた。
カイはこの日もいつもの仕事を終えて、一旦自宅に戻ろうとすると村の入り口で人が集まっているのが見えた。
何かを興味深そうに見ており、カイも気になって近づく。
「何かあったのか?」
「あら、カイ。いやね、不思議な格好をした人たちが来たもんでさ」
視線の先には緑の服を来た人、日本の自衛隊員が村長と話をしているところだった。
その自衛隊員達は村長と話すと何処かに行ってしまった。
「村長!大丈夫だったか?」
「何かされなかったか?」
「うむ、特に何もされとらんよ。あの者たちは道を尋ねに来ただけらしい。言葉もカタコトだったから他所の国から来た者かもしれん。あとは『金色の神々』についても聞かれたわ」
「『金色の神々』?何でまた?」
「うーむ……分からん」
首を傾げる村長達の会話をカイは遠くから聞いており、1人その場から離れて行った。
○
日本からゲートを通ってきた自衛隊はアルヌス周辺を占領し、異世界もとい『特地』のことを調べるためいくつかの偵察部隊を設立した。
その偵察部隊の中で第3偵察隊は帝国軍が銀座を襲撃した際に帝国軍から襲われる市民を率先して助け、『二条橋の英雄』と呼ばれている伊丹が率いる部隊だった。
その伊丹達はコダ村で情報を得て、エルフの集落があるという森に向かっていた。
「やっぱり特地の人達は知っていましたね」
伊丹が乗る車両を運転する倉田が話しかけて来て、伊丹は気怠げな顔のまま反応する。
「何が?」
「ほら、あのヒーローについてですよ。こっちじゃ『金色の神々』って言われてる」
「ああ……そのことね」
銀座で人々を助け、帝国軍を無力化した男は日本で大々的に報道されていた。
助けられた人の中に動画を撮っていた者がおり、男の活躍の姿をしっかりと撮影していた。
異世界への扉が現れたことも話題になっていることだが、その男の能力についても日本だけでなく世界で注目されていた。
何千、何万の敵を圧倒するその力に各国は門と共に欲しがり、日本に情報共有と密偵を送り込み情報を探らせているが一向に情報は手に入らない。
日本でもその男の調査のために捕まえた帝国兵から聞き出そうとしているが譫言のように『金色の神々の怒りに触れた』、『金色の神々が我らに天罰を与えになった』と呟く始末で、詳しいことは分からずじまいだった。
更に日本では色々な憶測が飛び交っており、『アメリカで作られた最新鋭のロボット』、『秘密結社で作られた超人血清で超人になった兵士』、『突然変異で高速移動が可能になった人間』等がネット、メディアでは議論されている。
ゲートが現れたと同時に現れ、特地の人間から『金色の神々』と呼ばれていることから、あの男は特地と関係があると日本政府は推測し、特地の情報を調査するのと同時に男について調査することになった。
「「金色の神々』ってのは昔からある神話っぽい感じだな。しかし、上も無茶なこと言うよ。接触したら会話できるか試せなんて」
上からの命令に絶対な自衛隊だが、伊丹はただでさえ面倒なことは嫌いな質なのに隊長を任せられ、更には件の男と接触したらコンタクトをとってみろと言われているのだ。
伊丹は更に面倒くさそうな顔してしまう。
その時、目的地である森から煙が上がっているのが見えた。
○
自衛隊がコダ村を訪ねてから翌日、カイはいつも通り仕事をしようとすると村の入り口で騒がしくなり、目を向けると村人達は慌てた様子で家に戻って荷造りを始めていた。
村人を1人捕まえ、何があったか聞き出す。
「どうした?なにがあったんだ?」
「炎龍だよ!近くのエルフの集落が襲われたらしい。ここも襲われるかもしれないからみんな村を出て行く準備をしてるんだよ。カイも早く準備しろよ!」
村人は自宅に戻り荷造りを始めてしまう。
カイは村人の話を聞いて、自宅に戻りため息を吐いた。
「せっかくここの生活に慣れてきたのにな……クソッ、炎龍め」
カイは忌々しげに吐き捨てると荷造りを始める。
やがて手提げ袋一個の荷物を抱えたカイは村を出ようとするが、先日収穫を手伝って欲しいと頼んだ主婦が呼び止めた。
「カイ!どこに行くんだい?」
「いや、新しく住む場所を探そうと思って。馬車もないから歩いて行くよ」
「それならウチの馬車に乗って行きなよ。カイには何度も助けられているからね。いいよね?アンタ」
主婦は夫である男に同意を求めた。
「ああ、いいとも。ウチの子も勉強を教わっているし、是非乗ってくれ」
カイは少し困ったような表情になるとそこの娘であり、カイの教え子でもある髪を二つ括りにした女の子がカイの手を握った。
「先生も行こう?」
その言葉に根負けしたカイはその家族と共に行動することにした。
その家族の荷造りを手伝っていると外から大きな音が聞こえてきた。
外に出ると他の家族の馬車が壊れ、横倒しになっていた。
更にそれに巻き込まれていたのか、カイが手伝っている家の娘が近くで倒れていた。
「まずい……!」
カイはすぐさま娘の側に駆け寄り、容態を診る。
すると背後からレレイがやってきた。
「どういう状況?」
「恐らく馬車の車軸が折れたんだ。そして、この子はそれに巻き込まれたっぽい」
カイは娘を安静な姿勢にしようとすると、第3偵察隊の衛生兵、黒川がこちらにやってきた。
『大丈夫ですか!?…‥この子、脳震盪を起こしているわ。無理に動かすのはダメ』
日本語で話しているため、カイとレレイには理解できていないが慣れた手つきで娘を治療していき、その様子にレレイはポツリと呟いた。
「医者?」
その時、突然頭上から馬の甲高い声と悲鳴が起きた。
車軸が折れたことで驚いてしまった馬が暴れ出したのだ。
このままいけばすぐ近くにいるレレイは踏まれて怪我をしてしまうが、カイが間に入ってレレイを守るように抱きしめる。
しかし、馬はレレイ達に危害を加える前に自衛隊が馬に銃弾を浴びせて殺してしまう。
その様子というよりは見たこともない現象にレレイは驚き固まってしまっている。
「私たちを守ってくれた………」
「………」
そう呟くレレイとは違って、カイは手際よく手当てを行なう黒川と自分達を守ってくれた自衛隊を静かに見つめていた。
○
その後、コダ村の住人達は伊丹達を先頭に出発した。
途中トラブルが起こりながらも自衛隊と住人が協力しながら逃避行を続けている。
「ぅ……ここ、どこ……?」
「目を覚ましたか?大丈夫か?」
「アンナ!ああ、よかった!」
カイが世話になっている家族の娘アンナも目を覚まし、家族は安心する。
喜ぶ家族を尻目にカイは先頭で村人達を率いている自衛隊の車輌を警戒した目で見つめる。
「カイ、手綱を引いてくれてありがとう。代ろう」
「いいさ、乗せてもらっているんだ。これくらいさせてくれ。それよりあの子の側にいてやらなくていいのか?」
「また直ぐに寝てしまったよ。今は家内がいるから大丈夫だろう」
父親はカイの隣に座りながら先を見つめる。
その目には不安が募っていた。
「これからどうするんだ?宛はあるのか?」
「………正直に言うと何も無いんだ。最悪、帝国の悪所街に行けば最低限の生活はできると考えているけどね」
そう話す父親は落ち込んだ表情になる。
帝国の悪所街は治安が悪い事で有名だ。
幼い娘と妻を守っていけるか不安で仕方ないのだろう。
「……もしどこも頼れなかったら、オルガ王国に行ってくれ」
「オルガって……亜人都市の?でも、あそこは亜人しか入れないんじゃ……」
「そんな事ない。ヒト種も問題なく受け入れて貰える。それに俺の名前を使えば悪いようにされない筈だ」
不安そうにカイを見る父親だが、自信のあるカイの表情を見て信じる事にした。
「分かった。このままオルガ王国に行ってみるよ」
「ああ、そうしてくれ」
「君はいつも私達を助けてくれる、本当に感謝してるよ。村の全員がそう思ってる」
「そうか、ありがとう」
「初めて来た時は身一つで現れたから疑いはしたが何も返りを求めずに私達を助けてくれた。まるで神様か聖人だよ」
『神様』と言う言葉にカイの表情は少し曇る。
「俺はそんな高尚な者じゃないさ」
そう言うカイの表情は少し悲しげだった。
暫くして、アンナも元気になり普通に過ごせるようになるとコダ村の一行が動きを止めた。
荷台の方でアンナの相手をしていたカイが顔を外に出して尋ねる。
「どうしたんだ?」
「どうやら前の方でロゥリィ聖下がいらっしゃったらしいんだよ」
「え"っ……そ、そうなのか」
カイは顔を引き攣らせて前の方を見る。
「カイはロゥリィ聖下に拝礼をしに行かなくていいのかい?」
「あー、いや俺はエムロイ信者じゃないからいいや。ここでアンナを見てるよ」
カイは荷台の奥へと引っ込んで行った。
○
神エムロイに仕える亜神ロゥリィは自衛隊の前に現れ、自衛隊と接触していた。
「隊長、あのゴスロリ娘なんなんですかね?」
「なんか村人達は拝礼してるけど、宗教上の偉い人なのか?」
伊丹達はロゥリィの様子を遠目に見ていた。
『彼らは何者でぇ、みんなは何をしに行くのかしらぁ?』
『あの人達は誰か分からないけど凄く優しいんだ!』
『私達は炎龍に追われて村を出ました。今は新しい地を目指しております』
『そうなのぉ……』
ロゥリィは自衛隊の車輌を興味深く観察していると村人達に尋ねた。
『私、探し人がいるのぉ。カイという名の男性なんだけどぉ?』
『カイなら僕たちと一緒に行動してるよ。今は後ろの方にいるんじゃないかな?』
『そぉう……』
ロゥリィはキャラバンの後ろを見て舌舐めずりした。
「え、えーとぉ……『ご機嫌よう。調子はいかがですか?』」
伊丹は代表として話しかけると、彼女はまた興味深そうに伊丹たちを見た。
○
ロゥリィとの出会いがあったが、キャラバンは進み続けていた。
日差しが強いが穏やかな時間が過ぎていた。
カイも母親と談笑するアイナを見て、穏やかな気持ちになる。
どこまでも広がる空を見上げていると突然影がかかった。
影の方向を見るとそこにはエルフの森を襲った炎龍がいた。
「っ!!逃げろ!今すぐに!!」
「え……なにがーー」
次の瞬間、カイが乗っていた馬車は激しい衝撃と共に横転してしまい、カイは外に投げ出されていた。
咄嗟にカイはアイナを抱き締めて庇っており、気絶してしまっているが怪我はなかった。
アイナの無事を確認し、安心したカイは馬車に目を向ける。
横転した馬車には火が燃え盛っていた。
残骸の中から傷だらけの腕が伸びており、アイナの両親は助からなかった。
「くそっ……」
悔しそうに呟くカイの耳に炎龍の雄叫びが聞こえて来る。
空を滑空してキャラバンを襲い続ける炎龍をカイは睨み付ける。
そこに馬車と自身に防御魔法をかけたレレイとカトー老師が来た。
「カイ!無事!?」
「ああ、俺とこの子はな。親は助からなかった。この子を頼む」
カイはアイナを抱き上げてレレイ達に預けると炎龍の下に歩いて行く。
「カイ、どこに行く!?」
「一緒に逃げるぞい!」
カイはレレイ達の方に顔だけを振り向き、力強く告げた。
「炎龍を倒す!」
カイは空中に浮かび上がり、炎龍へと飛んで行った。
○
自衛隊は突如現れた炎龍に向かって攻撃を繰り返していたが、豆鉄砲同然で全て弾かれたしまっていた。
「クソッ!全く効いてねぇ!」
「隊長!このままじゃジリ貧ですよ!?」
「今は避難民から炎龍を遠ざける事だけを考えろ!!撃ちまくれ!!」
伊丹達は自分達に炎龍の注意を向けるために撃ち続ける。
やがて煩わしく思った炎龍は口に火を溜めていく。
「ブレス!!来るぞ!!」
それに気づいた伊丹が全車に注意を呼びかける。
炎龍がブレスを放とうとした瞬間、炎龍の頭が激しく揺れた。
「何だぁ!?」
『隊長!上空に人が!』
「はあ!?何言ってんだ?」
無線から入った言葉に疑問を持ちつつ、双眼鏡で上空を見るとそこにはカイが上空で浮かんでおり、炎龍を睨んでいた。
「浮いてる……」
伊丹は呆然と呟くしかなかった。
炎龍は突然殴ってきたカイに狙いを変えて噛みつこうとするが、カイはそれを避けて炎龍の顔を何度も殴りつける。
その度に衝撃波が発生し、炎龍はたたらを踏むが致命傷にはならなかった。
「イッテェ……思った以上に硬いな」
自身の拳が赤くなっていることを確認している隙に炎龍はカイにブレスを放ち、カイは炎に包まれてしまう。
「ブレスが直撃した!」
「やられたか!?」
その様子を見ていた伊丹達は心配するが同じ車輌に乗っていたロゥリィは笑みを浮かべる。
「いいえ、まだよ」
炎がおさまるとカイは無傷の状態で空中に浮いているが服装は先までの普段着とは違い青色に所々白の模様と金色の線が入っている戦闘服になっていた。
カイは目に力を込めると目が金色に輝き、目から宇宙エネルギーが凝縮されたビームを放つ。
「目からビーム!?」
「あの人、スーパーマンか何かかよ!?」
ビームをぶつけられた炎龍の鱗には裂傷ができ、炎龍は痛みで苦しむ。
カイは炎龍の攻撃をかわしつつビームを放ち続けるが、炎龍は一向に倒れる気配がない。
「ちまちまやってもキリがない。デカいの入れるか」
カイは右拳を握り、腕に力を込めると宇宙エネルギーが腕に凝縮されていく。
炎龍はカイの次の攻撃が自分にとってまずい物だと本能で理解し、体を捻って尻尾をぶつけようとしてくる。
カイはそれに気づいており、左腕にもエネルギーを凝縮すると手を手刀の形にするとその形に沿って、エネルギーが剣の形になり尻尾を切り裂いた。
切り落とされた尻尾は地面に落ち、炎龍は悲鳴を上げる。
なりふり構わなくなった炎龍はカイに突撃しようとするが、また自衛隊が攻撃を始める。
「撃て撃て!!あのスーパーマンを援護しろ!!」
「隊長!あのスーパーマン、味方なんですか!?」
「知らん!けど、炎龍を攻撃してるから味方!……だと思う!」
「そんな適当なぁ!?」
伊丹の指示により、カイの援護を始める自衛隊はロケットランチャーを取り出して撃つ。
その時、車輌が石で揺れてロケットランチャーが大きく外れてしまうがロゥリィがハルバートを投げて炎龍の足場を崩し、ミサイルは炎龍の左腕に着弾して吹き飛ばした。
悲鳴を上げる炎龍にカイはエネルギーを溜めた右腕を突き出す。
「くらえ!」
目からのビームより何倍も太い光線は炎龍右肩を抉り、背後の翼にも穴を開けた。
炎龍は悲鳴を上げて、その場に倒れる。
カイは倒れた炎龍を確認すると伊丹が乗る車輌近くに着地し近づいて行く。
「た、隊長。あのスーパーマン近づいてきますよ?」
「だ、だよな……倉田、代わりに行ってくんない?」
「嫌ですよ!ビームをくらいたくありません!」
伊丹は緊張した顔で車輌を降りてカイに近づく。
「え、えーと……『こんにちは、ご機嫌はいかがですか?』」
「…………」
「あ、あれぇ?通じてない?」
「隊長……!やっぱりそんな駅前留学じゃダメですよ!」
「うっせ!じゃあお前がやれよ!」
伊丹と倉田が言い合いをしているのをジッと聞いていたカイは口を開いた。
「大丈夫だ。君たちの言葉は分かった」
「え……今、日本語話した?」
「ああ、君たちの言葉を学んだからな。もう話せる」
「すご……」
驚く伊丹だったが、その時倒れた筈の炎龍が動き出した。
「まだ生きてたのかよ!?全車攻撃態勢!!」
伊丹が指示を出すと一斉に銃を向けるがカイが手で制する。
すると炎龍はカイ達に見向きもせず、ふらつきながら空に逃げて行った。
「逃して良かったのか?」
「あの傷じゃ放って置いても死ぬ。それよりまず怪我人達の手当てをお願いしたいんだ」
「あ、ああ!そうだった。全員、怪我人の救助を最優先に動け!」
『了解!』
自衛隊は怪我人達の手当てに動き出し、カイもそれを手伝おうと動く。
こうして炎龍の襲撃は終わったのだ。