燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第10話 初風~挟撃、そして………~

いつもの海域に出る頃には、暴風雨が吹き荒れ、雷が鳴っていた。

今日の任務は戦闘では無く、横須賀へ向かう輸送船の進路を確保する事であった。

 

「私達は何をすればいいのでしょうか?」

「特に何も無いわ。雨風に吹かれながらここに立って輸送船が通り過ぎるのを待つだけよ。」

 

初風の言う通り、間もなく波に揺られて巨大な輸送船がやってくる。

彼女は探照灯でサインを出すと、船の乗組員と連絡を取り合い、通り過ぎていくのを待った。

 

「朝ちゃん………どんどん風が強くなってくるわね。」

「あたい達の制服もびしょびしょだな~。」

 

岸波と朝霜が空を見上げる。

雨と風と、序に雷はどんどん強くなってきており、何か嫌な予感を覚えていた。

 

「輸送船は横須賀に向かいましたね。私達はここで訓練を………。」

「いいえ、今日は輸送船を追いかけるわよ。」

「???」

 

夕雲は首を傾げる。

荒天時の訓練は、艦娘の練度を向上させるには、絶好の環境だ。

荒れ狂う波と風はバランス感覚を鍛え、特に陣形の訓練の役に立つ。

だが、初風は何かを恐れるように去り行く輸送船を凝視していた。

 

「夕雲、面白い事教えてあげる。」

「面白い事………ですか?」

「深海棲艦ってね………悪天候が大好きなのよ。」

 

訓練学校で習った言葉を今更また言われて、余計に訳が分からなくなる夕雲。

その意味を問いただそうとした所で………。

 

「待て!アレは何だ!?」

 

突如隊内無線で響く長波の言葉。

見れば、単縦陣で先頭になっていた初風から見て左側に3隻の深海棲艦が出現していた。

異形の巨大な口を持ち、赤く輝くエリート級の軽空母ヌ級を2隻従えているその深海棲艦は………。

 

「アレは………駆逐棲姫!?」

 

風雲の言葉に、一瞬だが夕雲型全員の背筋が凍る。

角の生えた兜のような物を被った青白いヒューマノイド型の娘。

しかし、その脚部は巨大な歯を持った口が2つと魚雷発射管2つに置き換わっていた。

 

「初風さん!?」

「もう鎮守府と輸送船に入電してるわ!とにかく、足止めして撤退するわよ!魚雷を叩きこめるだけ叩きこんでこの海域から脱出を………!」

「夕雲っ!初風ぇっ!!」

『!?』

 

しかし、そこで再び長波の警告が響き、初風と夕雲は咄嗟に回避行動を取る。

「右側から」すぐ顔の横を飛んで行った砲弾を見て、2人は今度こそ戦慄する。

そこには、エリート級の重巡リ級を従え、駆逐棲姫がもう1隻こちらを向いて笑みを浮かべていたからだ。

 

「「姫」クラスが………2隻!?」

「挟み撃ちかよ!?」

 

同航戦で5隻の深海棲艦に挟撃を受ける形になった夕雲達は、判断に迷う。

こんな戦い等、経験した事が無かったからだ。

そうしている内に、ヌ級が口から攻撃機を飛ばし始める。

 

「輪形陣!とにかく撃ち落として!輸送船に被害が行ったらお終いよ!」

 

初風の言葉に羽虫のような攻撃機を夕雲達は連装機銃で撃ち落としていく。

 

「長波サマ舐めるなよーーーっ!!」

 

一度に発艦する攻撃機は2隻で6機。

幸い、左翼を担当する事になった長波が一度に2機落としてくれたお陰で何とかなった。

初風はそのまま夕雲達5人に輪形陣を守るように言うと、右翼の2隻を睨みつける。

 

「初風さん、どうします!?」

「私が………右の2隻を何とかするわ!」

「エリート級の重巡と姫ですよ!?どうやって………!?」

 

そこで夕雲の言葉が止まる。

初風は信号用に持参していた探照灯で敵を照らし、敢えて挑発すると体をスパークさせる。

それは、演習で陽炎達が使っていた改二への変化。

だが………初風の姿は変わらない。

 

「今のは………?」

「そっちは攻撃機の迎撃と回避に集中しなさい!」

 

初風はそう言うと、夕雲の視界から………消えた。

何事かと思い横目で追うと、スパークした初風はマジックアーム状の武装を展開しながら、駆逐棲姫と重巡リ級の砲撃を尋常じゃない速力を発揮して回避をしている。

 

「久々に………本気出すわよ!!」

 

そのままリ級のゼロ距離まで突撃すると、顔面に砲弾をぶち込み序に蹴りを喰らわせてあっという間に沈める。

驚いた顔をする2隻の駆逐棲姫は、砲撃を初風に喰らわせようとするが、彼女はそれもジグザグに移動しながら回避をして、アームの1つに備わった魚雷発射管を構えると全て右の駆逐棲姫に向ける。

 

「1番、2番、3番、序に4番も全部受け取れーーーっ!!」

「グ、グァァァァーーーッ!?」

 

一斉に発射された酸素魚雷に駆逐棲姫の1隻は炎を上げながら撃沈していく。

姫クラスをも物ともしない初風の攻めに、夕雲達は呆気に取られていた。

 

「ほら、ボサっとしない!魚雷は使ったから、ヌ級も仕留めたら離脱するわよ!」

「は、はい!」

 

そのまま、動揺するもう1隻の駆逐棲姫を睨みつけながら初風は狙いを変える。

だが………一転不利になったはずの駆逐棲姫の顔が笑みに変わった。

 

「え………?」

「初風っ!!」

 

ドゴオオオオオンッ!!

 

警告は岸波から出た。

しかし、初風が気付いた時には背中から魚雷を受けていた。

爆風で艤装がボロボロになる。

更に、破片が制服に刺さり、こちらもボロボロになってしまう。

 

「う………ぁ………?」

「初風!?………この!!」

 

岸波が爆雷を数個水中に放り投げ、大破した初風を抱えて下がる。

一瞬の後爆発が起こって、海面がめくり上がる。

そして浮かんできたのは長い髪の深海棲艦。

 

「潜水艦ヨ級!?まだ隠れていやがったのか!?」

 

朝霜が悔しそうに叫ぶ。

右翼にいたのは2隻ではなく3隻だったのだ。

荒天と姫クラスの出現に惑わされ、夕雲達は敵影の誤認をしてしまった。

 

「初風!大丈夫、初風!?」

「き、嚮導より伝達………旗艦夕雲を筆頭に、輸送船と共に海域を………離脱しなさい。」

「無理よ!初風の曳航をしながらでは逃げられない!」

「置いていけ………って言ってるのよ………。」

『え?』

 

岸波の呼びかけに応じた初風の言葉に、夕雲達は攻撃機を迎撃しながら動揺する。

それはつまり………。

 

「自分1人で沈む気!?」

「このままじゃ全員沈むわ………。確実な手段を選びなさい………。」

「バカを言わないで!!」

「ぐ………!?」

 

岸波が思わず吠えた時だった。

初風は突如身体を痙攣させると、思いっきり咳き込む。

見れば口の中から血反吐が出ており、彼女の綺麗な顔を汚していた。

 

「ダメージが………!?」

「違うわよ………。これは改二の力を持たない艦娘が改二の力を無理に使った時の代償なの………。」

「え………?」

「長月達もそうだけど………、その気になれば練度を高めた艦娘は不完全な改二の力は使えるのよ。でも………こんな無様な反動があるってワケ………。」

 

つまり、初風は夕雲達の道を切り開く為にわざわざこのハイリスクな力を迷わず使ってくれたのだ。

最悪、自分が動けなくなる事を覚悟の上で………。

 

「置いていけるわけないでしょう!?そんな駆逐艦魂溢れる艦娘を!!」

「曙も言ってたけど、貴女、意外と熱血ね………。でも………これは嚮導命令よ………指示を………。」

「聞けない!!………夕姉!風姉!長姉!朝ちゃん!!」

「………嚮導艦を守るのも、駆逐艦の使命です。」

「やるわよ………私達で!」

「燃えて来たぜ!!」

「あたい、これでもエースだからな!!」

 

初風の言葉を遮った岸波に4人の艦娘は呼応した。

そんな夕雲達を嘲笑うかのように駆逐棲姫が、初風を曳航している岸波に砲撃を集中させていく。

当然、岸波は素早く動けないので、徐々にだが砲撃による破片が刺さり、かすり傷を負っていく。

そこに、ヌ級が攻撃機をまた飛ばして来た。

 

「輪形陣のままで!岸波達を守って!!」

 

夕雲の指示で6機の攻撃機に向けて、再び連装機銃を全員が発射。

夕雲が1機、風雲が1機、長波が2機、朝霜が1機撃ち落とす。

だが、最後の1機は爆弾を抱えながら岸波を狙う。

 

「これ位は自分で………なっ!?」

 

だが、そこに駆逐棲姫の砲弾が飛来し、岸波の連装機銃が吹き飛ぶ。

慌てて砲塔を構えようとするが遅かった。

攻撃機から爆弾が切り離され岸波へと降下する。

 

「岸波っ!!」

「初風は………沈めない!!」

 

岸波は初風を抱いたまま、身を屈めて咄嗟に後ろを向く。

そして、砲塔で初風の頭部を守り自分の身体で彼女を隠し、魚雷と爆雷を全て放棄する。

直後に背中の艤装に爆弾が突き刺さり、大爆発を起こし炎に包まれた。

 

「岸波!?………この野郎がーーーっ!!」

 

最後の攻撃機を撃ち落とした朝霜の怒りの声が響く。

岸波は初風を庇った姿勢で動かなかった。

轟沈はしていないからまだ艤装の浮力はあるみたいだが、服も含めてボロボロだ。

何も言葉を発しない所を見ると、気を失っているのかもしれない。

そこに、追い打ちをかけるように駆逐棲姫が魚雷を発射した。

 

「マズイわ!?」

「上等だ!あたいが相手になってやる!!」

 

その進路上に朝霜が立ちはだかり同じように魚雷を発射し、相殺を狙う。

最初の4発は上手くいった。

だが、次に放たれた4発は荒れ狂う波の影響で、上下に揺れて相殺しきれず1本が朝霜の所へ向かう。

主砲も撃って信管の起爆を狙うが当たらない。

 

「ちいぃっ………!エースは損な役回りだぜ!!」

 

岸波と初風にだけは当てられない。

そう思った朝霜は自分の身体で受け止めた。

爆発に巻き込まれ、また彼女も大破しうつ伏せに倒れる。

これで、動けない艦娘は3人。

 

「長波!とにかく数を減らすわよ!姉さん!」

「左舷、雷撃戦用意!目標、ヌ級!!」

「任せろ!………よくも妹達をやってくれたな化け物!!」

 

風雲と長波が更に攻撃機を飛ばそうとするヌ級に対し、酸素魚雷を4門発射。

しかし、エリート級だからかそれだけでは沈まない。

尚も攻撃機を飛ばそうとする深海棲艦に対し、残りの酸素魚雷も発射してようやく沈める。

 

「姉さん!ゴメン、魚雷全部使った!援護するから何とかそっちの全発駆逐棲姫に当てて!!」

「分かったわ!!」

 

夕雲は砲撃支援をする風雲と長波に返事をすると、静かな怒りを覚えながら駆逐棲姫へと向かっていく。

残り1隻になってしまえば幾ら姫クラスとはいえ、裸の王様だ。

太ももに備わった魚雷を慎重に向ける。

幸い、朝霜が身を挺して受けてくれたお陰で敵艦の魚雷はまだ再生してなかった。

撃つなら今しかない。

 

「8門の酸素魚雷………妹達が受けた痛みの分、全部受けなさい!!」

 

右ふくらはぎから4門、更に時間差で左ふくらはぎから4門発射する。

魚雷は嵐の海の中を正確に突き進み、駆逐棲姫に炸裂した。

一瞬だが、水柱で夕雲の視界が塞がる。

だが、その中で煌めく物を見た瞬間、反射的に夕雲の身体が動いていた。

 

「嘘………!?」

 

彼女のいた場所に飛来したのは砲弾。

水柱の中から、尚も健在で………余裕の表情を浮かべる駆逐棲姫の姿が出現していた。

 

「何………で………?」

「脆弱ナ艦娘メ………。」

「!?」

 

そこで、初めて夕雲は声を聞いた。

嘲笑うような深海棲艦の声を。

文字通り深海の底から響くような駆逐棲姫の声を。

 

「オ前達ノ様ナ艦ガ、敵ウト思ッテタノカ?」

 

夕雲は冷や汗を垂らしながら主砲を構える。

だが、自分の最大限の破壊力を持った攻撃………8門の酸素魚雷を受けてもビクともしない駆逐棲姫に、これ以上何をすれば勝てるのだろうか?

 

「逃げ………て………。」

 

隊内無線で、初風の声が聞こえて来た。

気を失っている岸波にしっかりと庇われていた彼女は………泣いていた。

 

「お願い………だから………もう、私の為に………犠牲にならないで………。」

 

確かに逃げるだけならば、まだ可能性はあるかもしれない。

だが、それだと初風は勿論、岸波と朝霜も捨てる事になる。

しかし、敵と自分達の実力差を考えればこれは恥ではない。

やれる事はやったのだ。

逃げたって………。

 

「嫌………。」

 

けれど、夕雲は数週間前に自分に笑顔を見せた巻雲達の姿を思い出す。

彼女達は言った。

夕雲達には堂々と前を向いて欲しいと。

追いかける背中があるからこそ、頑張れると。

もし、ここで逃げ出したら………。

ここで大切な仲間を見捨てたら………。

自分達は巻雲達になんて顔をして会えばいいのだろう。

 

「絶対………嫌!!」

 

夕雲はいつもの礼儀正しい姿からは想像できない位に吠えた。

 

「私達は仲間を見捨てない!私達はここで沈みもしない!!」

 

駆逐棲姫は相変わらず余裕の顔だ。

だが………突如、その顔が驚愕に変わる。

味方である風雲と長波も。

 

「夕雲………姉さん………?」

 

夕雲の全身がスパークし始めていた。

その変化に気づいているのかいないのか、夕雲は有りっ丈の声で叫ぶ。

 

「駆逐棲姫!お前は私が絶対に倒してみせる!!絶対に………!絶対にーーーっ!!」

 

夕雲の頭上に雷が落ちた。

いや、逆だ。

雷が龍のように立ち上ったのだ。

その青白い稲光が彼女を包んだかと思ったら………艤装、制服共に姿が変わっていた。

 

「夕雲………改二?」

 

初風の唖然とした声だけが、無線に響いた。

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