燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第11話 夕雲~目覚め~

「す、すげえ………アレが夕雲の………夕雲型の改二………!」

 

うつ伏せに倒れていた朝霜が、興奮したような顔で言う。

夕雲の制服は、長袖のボレロジャケットにジャンパースカートとなっていた。

艤装に関しては右太ももの魚雷発射管が対空機銃に置き換わっており、そこにあった魚雷発射管は艤装後部にマウント格好に変更。

艤装を背負う左ストラップに爆雷がアクセサリー状に添えられていた。

 

(身体が軽い………!)

 

改二の力なのか、計8門の魚雷が復活していた。

駆逐棲姫は、夕雲に砲門を向けて発射してくるが、彼女はそれよりも速く水面を走り、狙いを付けさせない。

 

(全てが………私の全てが変わっている!?)

 

焦った駆逐棲姫は、再生した魚雷を発射するが、夕雲は爆雷をばら撒いて全部信管を作動させ、起爆させる。

周りの全ての時間が、ゆっくりだと感じた。

 

(これなら………行ける!!)

 

左太ももの酸素魚雷を全部発射する。

その威力と衝撃は、明らかに先程までとは違っており、明らかに駆逐棲姫が仰け反った。

 

「馬鹿ナ!?貴様ハ………!?」

「これで………!今度こそ終わりよっ!!」

 

更に、腰にマウントした酸素魚雷も構えると発射する。

強力な8門の酸素魚雷が全て突き刺さり、今度こそ駆逐棲姫は苦悶の表情と共に動きを止める。

 

「ワ、私ハ………!?何故………!?」

 

自身の敗北が信じられないような顔をしながら、駆逐棲姫は沈んでいく。

それを確認した後、力を使い果たしたのか夕雲は元の姿に戻り、海面に仰向けに倒れる。

姫クラスの深海棲艦を倒したからか、気づけば雨も風も弱くなり始めていた。

 

「だ、大丈夫姉さん!?」

「大丈夫………です。味方は………?」

「長月さん達が間もなく来てくれます!」

「良かった………。」

 

これで、初風も岸波も朝霜も助かる。

そう思った所で緊張が解けた夕雲の意識は闇に沈んだ。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「ん………?」

「あ、夕雲姉さん。目が覚めましたね、良かった!」

 

気付けば、夕雲は巻雲に支えられて曳航されていた。

周りを見ると、長月と高波が無線で会話をして周辺の警備をしており、清霜は朝霜を曳航していた。

初風は一番背の高い風雲が曳航しており、まだ気を失っている岸波は長波と浜波の2人掛かりで抱えられていた。

 

「母港は………。」

「もうすぐです!輸送船も無事に着きましたし、初風さんの部隊も全員無事です!」

「そう………ですか………。」

 

巻雲の話だと、横須賀に戻ったら救急隊員が待っており、初風・岸波・朝霜は即座に船渠(ドッグ)入りして高速修復材(バケツ)も使用して貰えるように手配されているらしい。

一気に姫クラス2体に挟まれるという絶望的な状況を乗り切った夕雲達は、全員で生き残る事が出来たのだ。

だが………。

 

「私の指示は………私達の戦いは………正しかったのでしょうか………?」

「ちょ!?夕雲姉さん!?」

 

力なく呟く夕雲の姿に、思わず巻雲が驚く。

 

「何言ってるんですか!?夕雲姉さんが改二になれましたし、何より初風さんが助かって………!」

「一歩間違っていたら、岸波さんと朝霜さんが沈んでいました………。」

「で、でもこうしてみんな助かって………。」

「分かっています。でも、どうしても後悔が出てくるんです。もっと良い方法があったのでは無いかって。」

「う………。」

 

予想外の言葉に連発に、巻雲は何も言えなくなる。

旗艦を引き継いだ夕雲は、改二になって妹達と共に深海棲艦を蹴散らした。

でも、それでハッピーエンドとして片づけられるかと言えばそうではないだろう。

夕雲は間違った選択肢をしてはいない。

だが、正しい選択肢でも無かったのではないかとどうしても思ってしまうのだ。

 

「改二なんて偶発的な力でしたし、私は………みんなを沈める選択肢を選んだのかも………。」

「は、初風さん!夕雲姉さんは………ちゃんと!」

「何も言えないわ………。失態を………夕雲が悩む原因を作った私が………何も言う権利なんて………無い。」

 

巻雲の問いかけに対し、初風は俯いたまま隊内無線で呟く。

元気が無いのは負傷だけが原因では無かった。

彼女もまた、嚮導艦として夕雲と同じように後悔していたのだ。

同じように風雲も、長波も、朝霜も何も言えなくなっている。

 

「み、みんな………どうして………?」

「巻雲、悪いが今だけは全員そっとしてやってくれ。色々考えるには疲れすぎている。」

 

遂には泣きそうになった巻雲に対し、長月が言葉を発する。

 

「全ては岸波が目覚めてからだ。それまでたっぷりと悩ませてやれ。」

 

そう纏めると、彼女は先頭になって横須賀に入港した。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

母港に戻った夕雲達は、深雪と雷率いる夕雲型駆逐隊の面々に拍手で出迎えられる事になる。

だが、沈痛な面持ちの英雄駆逐艦達の姿に、みんな戸惑ってしまう。

長月は深雪と雷に事情を話すと、同じように彼女達にもしばらくそっとして貰うようにお願いする。

夕雲達は静かに船渠(ドック)で初風達の修復を待った。

初風と朝霜はすぐに高速修復材(バケツ)で身体が治ったが、岸波は中々目覚めなかった。

布団をかぶり、眠り姫のように瞼を閉じる彼女の傍で、夕雲達5人は壁に背を預けて膝を抱えて座っていた。

 

「ねえ、夕雲………。」

「何ですか、初風さん………怒るなら怒って下さい。」

「海でも言ったけど、私に怒る資格なんて無いわよ。………むしろ、岸波になんて顔すればいいのかってずっと悩んでる。」

「私もです………。朝霜も、本当にごめんなさい。」

「私もごめんね。」

「だから気にするなって!魚雷を撃ち落とせなかったあたいの練度が低かっただけなんだし。」

 

岸波、初風に続いて3番目に大きな傷を負う事になった朝霜は、夕雲と初風に対し歯を見せて笑う。

ここら辺、細かい気配りが出来るのは彼女の長所であった。

そして、朝霜は岸波を見ると、呟く。

 

「案外………岸波も自分が攻撃機を撃ち落とせなかっただけだって言うと思うぜ。」

「本当かしら………。」

「初風さんも岸波の性格は分かってるだろ?恨み節吐く程、根に持つタイプじゃねぇよ。」

「でも………。」

「今後、どう向き合えばいいか分からない………って所でしょうか。」

「そうそう………って、うわぁ!?」

 

初風を始め、座っていた艦娘達が思いっきり引く。

最後に喋ったのは眠っていたはずの岸波だったのだ。

彼女は布団から上半身だけ起こすと5人の艦娘達を見る。

 

「ごめんなさい。目を開くタイミングを失ってしまっていて………。」

「え、えと………その………岸波………。」

「訓練を厳しくしてください。」

「え………?」

 

初風が謝罪に言葉を述べる前に、岸波は彼女の眼を真っ直ぐに見て言う。

いきなりの言葉に面食らったような彼女に対し、更に言葉を続けた。

 

「練度を高めれば、改二になれなくても初風さんのような力を発揮する事が出来ると分かりました。ならば、姫クラス等に対抗するには、練度向上が一番の近道です。だから、これからも私達が一人前になれるまでは厳しく鍛えて貰えませんか?」

「えっと………、私に他に言いたい事は無いの………?」

「私の一番言いたい事は朝ちゃんが言ってくれました。」

 

岸波は特に表情を変えずに初風に言った。

端的に言えば、彼女は今よりももっと強くなりたいと言っているのだ。

それこそ、姫クラスや鬼クラスの群れに自分達でも対抗できるまでに。

 

「今回は初風さんのお陰で紙一重で生き残れました。でも、それでは今後もみんなと深海棲艦と戦っていけないです。私は………このままでは終われない。」

「岸波………貴女………。」

「どうか、これからも宜しくお願いします。………それと夕姉。」

「は、はい。」

 

岸波は夕雲に視線を移すと彼女に言う。

 

「今回の事で自分を責めないで下さい。どうして私達が助かったのかは実はまだ把握して無いのですが………それでも夕姉達をけしかけたのは私です。」

「そ、そんな!?旗艦は私ですし………!?」

「それでも、初風さんの指示を真っ先に遮ったのは私です。だから………本当にごめんなさい。」

『ちょ!?』

 

一気に言い切って皆に頭を下げる岸波に、風雲や長波も含め、慌ててみんなで止める。

頭を下げるべき艦娘が間違っていると思ったからだ。

その傍から見れば滑稽な様子に、1人傍観していた朝霜は笑い出す。

 

「やっぱり岸波は岸波だな~!あたい、心配して損しちゃったぜ!」

「お前も止めろ、朝霜!岸波に頭下げられたら長波サマ達の立場が無くなる!」

 

こうしている内に、いつの間にか夕雲達の表情は崩れていた。

もしかしたら、朝霜も岸波もこうやって隊の雰囲気を和ませようとしてくれているのかもしれない。

 

(強い妹達ね………私も………もっと、しっかりしないと………。)

 

一通り騒ぎを止めて、岸波に布団を被せてもう少し眠らせると、夕雲は自分の手を握りしめる。

改二という新たな力を獲得した彼女は………自分ももっと強くなろうと誓った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

岸波を眠らせ、看病を朝霜に任せて夕食を取る為に食堂に戻った夕雲達は、様々な艦娘達に囲まれることになった。

何しろ駆逐棲姫の挟み撃ちを乗り切ったのだし、何よりも夕雲型の初めての改二が見られたのだ。

ここら辺、噂が伝導するのが早いのが駆逐艦の特徴である。

とにかくそういう面において、夕雲は風雲や長波と一緒に話題の中心となっていた。

 

(初風さん………、食堂を避けたのはこのためだったのね………。)

 

矢継ぎ早に質問が飛んでくる中で、内心夕雲は提督の執務室に向かった初風を思い出す。

報告書は長月が纏めていたが、嚮導として確認しておくというのが彼女の言い分であり、逃げる為の口実であった。

ひと際色んな艦娘達の質問に答えた後で、ようやく解放された夕雲達は文字通り泥のように疲れていた。

 

「ど、怒涛の質問攻めでした………。」

「改二がここまで話題になるなんて………。」

「やっぱり、夕雲姉の覚醒はとんでもない事だったんだな………。」

「まあ、改二になりたい艦娘なんて幾らでもいるからねぇ。」

 

そう3人の言葉に答えたのは、いつの間にか同じテーブルに座っていた敷波であった。

ぶっきらぼうな言葉が多い彼女であったが、夕雲達には比較的フレンドリーに接してくれていた。

実は先日、岸波と朝霜が彼女のジャズバンドのメンバー入りを果たしたという経緯があり、彼女とは他の艦娘よりも距離が縮まっていた。

 

「そうですよね………不完全な改二はかなりのリスクが伴いますし。」

「そうそう、アタシも正式に改二になれるまでは、無茶した時は血を吐いてばっかりいたっけ。」

「へぇ………敷波さんも………ん?」

 

感心した所で夕雲と風雲、長波がそれぞれ顔を見合わせる。

そして、さっきまでの疲労が吹き飛んだかのように、テーブルに手を付き、身を乗り出すと一斉に叫ぶ。

 

『敷波(さん)、改二になれるの!?』

「………アタシの事、相当見くびっている事だけはよく分かったよ。」

 

ふん!と拗ねた顔をして憤慨する敷波に対し、慌てて3人掛かりで謝る夕雲達。

しかし、長月の話が正しければ改二になれる駆逐艦は、遠距離任務や大型艦の護衛、鎮守府同士の貸し借りで引っ張りだこだと聞くが………。

 

「それで本当に全員貸し出しちゃったら、横須賀の鎮守府が危ないじゃん。上層部がうるさく言う中で、司令官は何とか色々口実を作って、ここに長い間居座らせている艦娘をなるべく作ってるの。」

「な、成程………勉強になります。」

「ま、流石に二つ名を持つ駆逐艦は難しいけどね。「佐世保の時雨」、「呉の雪風」、「ソロモンの悪夢夕立」、そしてアタシの相棒の「鬼神綾波」。」

「何か凄そうな名前ばかり………。」

「と言っても普段の性格は頼りなさげだけどね。綾波なんか凄くおっとりしてるよ?」

「岸波みたいにスイッチのオンオフが激しいのか?」

「それもあるけど、想いが強くて努力を欠かさなければ実力は伴う………そうアタシは思う事にしてるよ。」

 

だから、綾波は早い内に改二になれたのかもしれないけどね、と敷波は付け加えて笑った。

もしかしたら敷波にも、潮に対する曙のような感情があったのかもしれない。

風雲と長波が感心している中で、夕雲はその事情も踏まえ少し考えていた。

 

「敷波さん………。」

「ん、何?」

「私に改二の使いこなし方を教えてくれませんか?」

「いいよー。」

『え!?』

 

意外にも夕雲の頼みに二つ返事で了承してくれた敷波に、風雲と長波は揃って声を上げた。

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