燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第12話 敷波~長女の焦り~

敷波が夕雲に提示した条件は簡単だった。

1つは、敷波がジャズバンドの夜間練習や早朝練習をする日はそちらを優先させて貰う事。

もう1つは、敷波と訓練をする日は、初風との実戦形式の訓練からは外れる事。

 

「前者はともかく、後者の意味は………?」

「まあ、その内分かるよ。初風は承諾してくれた?」

「はい。」

 

初風には敷波の言う通りに伝えたが、特に悪い顔はしなかった。

夕雲は、何かあるのだろうかと思いつつも、艤装を背負った敷波と一緒に練習海域に出る。

 

「んじゃ、まずアタシが改二になるね………ほい。」

 

言葉と共にVサインをした敷波の姿がスパークして変わる。

大きな変化としては制服の色が変わった事だろうか。

また、少しだけ身長が高くなり、大人っぽくなったようにも夕雲は思った。

 

「感想は?」

「えっと………正直に言えば、そこまで大袈裟な変化では無いですよね。陽炎さんは武装のギミックその物が変わっていましたし。」

「まあねえ、凄く容姿が変わる娘もいるから見てる分には飽きないよね。………じゃ、次は夕雲の番。」

「あ、はい。」

 

敷波に促され、夕雲はスパークして、自身の身体を変化させる。

駆逐棲姫と対峙した時と同じように、改二になる事が出来た。

 

「出来ました。それで………。」

「このまま突っ立ってて。」

「え?」

 

何か時計を見ながら手で夕雲が動くのを止める敷波の姿に、彼女は首を傾げる。

一体何が………と思った瞬間、違和感が彼女を襲った。

 

ぐらり………。

 

(!?)

 

まるで、荒波に揉まれた船に揺られるように………夕雲は急激な眩暈に包まれた。

そして真っ直ぐ立っていられなくなり、脚の踏ん張りも利かなくなり、彼女は海面にうつ伏せに倒れる。

改二の姿は解けてしまっていた。

 

「こ………これは………。」

「大体20秒か。よーく思い出してみれば分かると思うけどさ、夕雲、駆逐棲姫倒した後、気絶してるじゃん。」

「あ………。」

「改二は本来、相当な練度が伴わないと姿を保てないんだ。だけど、夕雲は練度が低い段階で改二に目覚めた。それは凄い事だけど、とてつもない精神力を消費してしまうの。」

「ど、どうしてそれを………敷波さんが知って………?」

「綾波も実はこの現象、起こしちゃってね。しばらくは実戦で逆に危ない目に合う事も多かったわけ。」

 

特に驚いた様子もない敷波の説明に、夕雲は愕然とする。

確かにこの状態では、とても実戦では活かせない。

それどころか、改二になる度に気絶や転覆を繰り返していては、味方の力になる所か足を引っ張る羽目になる。

新たな力を得られたと思っていたのに、これでは………。

 

「そういうわけだから、しばらくは、改二は封印して練度向上を目指すべきだね。」

「もう一度改二に………。」

「無理だって。立つ事もできないでしょ?」

 

敷波は呆れたように言うが、夕雲は腕に力を入れて無理やり立とうともがく。

そして、ゆっくりとだが片膝を付き、ふらつきながらも二の足で立ち上がり………。

 

「もうい………ちど!」

 

身体をスパークさせた所で精神力が尽き、今度は仰向けに倒れて気絶する。

その姿を黙って見ていた敷波は溜息を付き、改二の姿のまま夕雲を引っ張って岸に向かった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「あ………れ………?」

「おはよ。と言ってももう夕方だけどね。」

 

夕雲が目を覚ました時、彼女は岸で艤装を外された状態で仰向けになっていた。

隣には改二を解き、同じく艤装を外した………というか返却していた敷波が座りながら、あられ菓子を頬張っていた。

 

「夕雲型のみんなはもう帰投してるよ。事情を話して先に駆逐艦寮に帰って貰った。」

「そうですか………。」

 

何とか身を起こした夕雲は自分の手を見つめる。

知らぬ内にその手に力が入り、震わせ拳を作って握りしめていた。

 

「強くなれたと思ったのに………!」

「徐々には強くなってるよ。一朝一夕じゃ無理なだけ。」

「でも、私は………!このままじゃ………!」

「………そういう所まで綾波と一緒だね。」

「え………?」

 

夕雲は敷波を見る。

彼女は懐かしそうに赤く染まりつつある空を見上げて言う。

 

「綾波もネームシップだからねぇ。最初はこれで艦隊のみんなを守れると思ってとても喜んでたっけ。でも、今の自分には扱いきれない力だと分かった時、凄く悔しそうだった。アタシが本気で強くなりたいと思ったのもその時だったっけ。」

 

敷波が夕雲の頼みを二つ返事で了承してくれたのも、もしかしたらその辺の事情があるのかもしれない。

もしかしたら、敷波と綾波の絆は想像以上の物なのかもしれなかった。

 

「夕雲は………妹達を守りたいの?」

「そこまでの力があるとは思ってないですが………でも、妹達は私の背中を見て追いかけて来ています。」

「つまり、恥ずかしい姿は見せられないってわけだねぇ。」

「でも………恥ずかしい姿を見せてばかりですね………。」

 

初風を救おうとして、旗艦として艦隊を全滅させそうになった。

改二の力を扱おうとして、自分の精神力を制御出来ていない。

こんな空回りばかりしているネームシップを、妹達はどうみているだろう?

 

「普段はみんな頼りにしてくれています。でも………。」

 

内心、本当は頼りにされていないのでは?

目標とするべき存在からはかけ離れているのでは?

本当は………彼女達の本心は………。

 

「仕方ないなぁ………。じゃあ、1つだけ今の夕雲が改二を使いこなす方法を教えてあげる。」

「え、あるんですか!?」

「簡単な話だよ、20秒だけ改二になれるなら、その間にやる事をやって自発的に解除してしまえばいい。要は切り札の8門の酸素魚雷を撃ち尽くす事だね。」

「そ、そうすれば、私も………!」

「但し!1日1回切りの裏技だし、練度がまだ低いのには変わりないからね。そこの所、忘れないでよ。」

「はい!!」

 

敷波が示してくれた裏技に思わず満面の笑みで応える夕雲。

彼女は艤装を背負うと、それをしまう装備品保管庫へと向かう。

その姿を見送った敷波は、さてと………と、息を吐くと、鎮守府庁舎の執務室へと向かっていった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「夕雲が………焦っている?」

「うん。妹達の手本になりたくて、失態を見せないように必死になってるよ。」

「そうか。」

 

執務室では、提督がやはり五月雨と共に書類と格闘をしながら敷波の話を聞いていた。

そこには丁度、報告書を提出していた初風、深雪、雷、長月もいる。

 

「改二艦が出ると、やっぱりみんな気に出すからねぇ。特に初風の艦隊じゃ、みんな興味津々だったんじゃない?」

「図星ね。中でも風雲がかなり熱心に聞いてきていたわ。逆に岸波は一番興味なさそうだったけど………直接夕雲の改二を見てないからかしら。」

 

夕食前だというのに、また提督への差し入れの菓子を摘まみながら初風が答える。

彼女の方は、朝霜や岸波の態度もあってか、暗い感情を割り切る事が出来たらしい。

まあ、嚮導としてしっかりしないといけないと思って、背伸びをしている部分があるのかもしれないが。

 

「夕雲型にとっては、あまりいい傾向じゃないわね。司令官、そっちはどうなってるの?」

「悪い知らせが入ってきてる。夕雲の改二を知った上層部は何て言ってきたと思う?」

 

雷の疑問に対し、謎かけをしてきた提督の言葉に深雪が冗談半分で言う。

 

「今すぐ夕雲型を全員改二にせよ!」

「いや、深雪。流石にそれは言い過ぎでは?」

「それもある。」

「あ、あるのか?司令官?」

 

滅茶苦茶な命令に長月が思わず眩暈を覚える中で、提督はその命令書を破り捨てながら、もう1つの命令書を取り出す。

 

「問題なのは、比較的まとも且つ無茶苦茶な命令をしてきた場合だ。流石に口実を作るのに苦労する。」

「………と言うと?」

「何故、戦闘力の高い駆逐艦を、近海警備に回しているのか?………だ。」

「今すぐ遠方への任務に回せと言う事か。」

「駆逐艦を集めて集中的に強化をしているのならば、遠方任務も必要だろうと。」

「全く………近海でも姫クラスが出没しているというのに………。」

 

腕を組んで深く溜息を付いた長月の肩を深雪と雷がポンと叩く。

一方で提督はどうした物かと書類をひらひらさせながら五月雨を見る。

かくいう五月雨も困った顔をしており、決断は出せないらしい。

 

「じゃあ………アタシが面倒見よっか?」

「敷波………?」

 

間髪入れず挙手をしたのは敷波であった。

提督は驚いたように彼女を見る。

 

「お前………そんな積極的な性格だったか?」

「ま、綾波型2番艦として何となく放っておけなくてさ。」

「お前、そんな過保護な性格だったか?」

「何、悪いの?」

「いや………。」

 

少しご立腹な様子の敷波の姿に………提督は決断を下した。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「え!?敷波が夕雲達と一緒に長距離偵察任務をするの!?」

 

ある日の夜、庁舎の一部に備えられた体育館で、ジャスバンドの練習をしていた朝霜は、遅れて練習に参加してきた敷波が持つ命令書に思わず叫んでしまっていた。

 

「と言っても、まだ鎮守府近海から沖ノ島沖方面に出るだけだけどね。」

「すげぇ!改二になれるだけじゃなくて、そういう任務も任されるようになるなんて流石夕雲だ!」

 

本人はいないのに即興のお祝い用の曲を、愛用としたトランペットで吹き鳴らす朝霜。

一方、ドラムを練習していた岸波は、何か考え込むような顔でその命令書を見ていた。

 

「朝ちゃん………この任務、私と風姉と長姉も入ってる。」

「え………?あたいは?」

「残念だけど、今回は外れて貰うかな。もう1人護衛が欲しかったから電に頼んだ。」

「マジかよー………。」

 

途端に派手に落ち込む朝霜。

彼女はその性格故か、このバンドのムードメーカーになっていた。

そんな朝霜を横目で見ながら岸波が敷波に質問をする。

 

「電の実力を疑うわけでは無いけれど、何故、護衛を彼女にしたの?」

「初期艦だから。後は、アタシの直感と提督を含めたとある人達の推薦。」

「相当な人望があるのね………。」

「電ちゃんも頑張り屋だから。」

 

感心する岸波に対し、優しそうな笑顔で会話に参加したのは、黒のセミロングの髪を2つの三つ編みに纏めた艦娘。

巨大な弦楽器であるコントラバスを弾いている、吹雪型9番艦の磯波だ。

 

「でも、こないだの駆逐棲姫の事といい、深海棲艦の生息地も急激に変わっているんだよね?」

「近海で姫クラスが2体も出たって巷での噂になったら相当パニックになるよね。」

「敷波ちゃん、岸波ちゃん………大丈夫なの?」

「どうだろう………。」

 

磯波の質問に対し、岸波は正直に答えた。

その様子を敷波は黙って横目で見ている。

 

「正直に答えれば、今の私では敷波や電に頼りっぱなしになると思うわ。」

「そ、そこは姫クラスなんて私が蹴散らしてやる!とか………言えたら初風さんをもっとちゃんと守れているか。」

 

岸波を鼓舞しようとして、彼女の言いたげな事を理解した朝霜はうなだれる。

共に初風を守ろうと意気込んで沈みかかった艦娘同士だ。

ある程度は、自分の身と力量を弁えているのだろう。

 

「勿論、やるからには全力よ。でも………常に次があるとは約束されないのが艦娘………そして駆逐艦。」

「そだよね。それは私達、第四駆逐隊も散々指導と訓練を受けている。」

「駆逐艦だからこそ、俺達はその水雷戦隊の魂を抱えてこうして生きられるからな。」

 

岸波の言葉に呼応したのは、陽炎型15番艦の野分と陽炎型16番艦の嵐。

野分は美しい銀髪を持っており、男装の麗人に近い外見をしている。

それ故に真面目っぽいと思われている所が密かな悩みであり、自分の殻を破る為に敷波のジャズバンドでピアノを弾く事になった。

嵐は燃えるような長い赤髪を持っており、言動からも分かる通りオレっ子。

こう見えて艦の記憶から夜が苦手であり夜間練習も密かに探照灯持参。

それでも快活で朝霜とは別のベクトルのムードメーカーである。

尚、楽器はテナーサックスを担当している。

この6人が敷波をリーダーとしたジャズバンドのメンバーとして活動をしていた。

 

「出発はいつ?」

「明日。」

「明日!?早いっすね!?」

「だから、アタシと岸波は悪いけど今日は早めに切り上げるね。」

 

そう敷波は言うと、来たばかりなのに早々に片付けに移る。

岸波もそれに習ってドラムの片づけをし、2人は宿舎へと戻っていった。

 

「………なんか、心配だな。」

「お、朝霜。お前もか?」

「最近、夕雲が改二になったものね。喜ばしい事だけど、逆に………。」

「……………。」

 

野分の言葉に朝霜は珍しく黙って考え込む。

もしかしたら………もしかしたら夕雲は………。

 

「な、なあ………。」

「いいと思うよ。」

「え?磯波?」

「後で練習が終わったら、みんなで提督にお願いしに行こう。」

 

朝霜に笑みを見せながら、磯波が皆に提案した。

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