燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第13話 夕雲~慢心~

「いい風ですね、こないだの荒天が嘘のようです。」

「そだね。でも、雲は出てるから要注意だよ。」

 

任務の日は暴風雨とかではなく、普通に曇り空であった。

そんな中で敷波を旗艦とした艦娘達は、横須賀を後にして遠距離偵察任務へと赴いていた。

基本は単縦陣の状態で進み、敷波以下、夕雲・風雲・長波・岸波・電と並んでいる。

 

「電さんもわざわざありがとうございます。」

「気にしないでほしいのです。電も最近は遠征が多かったので、たまにはこうして出撃したかったのです。」

 

夕雲は最後尾の電に微笑みかける。

彼女は以前、夕雲の面倒を見てくれた事がある。

その為、彼女からの印象は勿論良く、また、その優しそうな喋り方から他の面々もほのぼのとした物を感じ取っていた。

 

「長距離の航行になるから燃料の残りには注意ね。後、基本は途中で出くわす深海棲艦は軽く叩くだけでいいよ。」

 

あくまで「偵察」なのだ。

敵深海棲艦の状態を把握し、脅威と感じたら後で主力部隊に叩かせておけばいい。

そういう意味では、速力が高く小回りが利きコストが安い駆逐艦にとって適任の任務であった。

 

「勉強になります。」

「ま、沖ノ島沖は結構前に掃討作戦を行ってるからそこまで脅威の深海棲艦はいないはずだけどね。………と、敵来たかな。」

 

前方に戦艦ル級と重巡洋艦リ級を中心とした艦隊が出現する。

空母がいないのは有難い事だった。

魚雷は勿体ないから使わないで、という敷波の言葉と共に、彼女と夕雲を中心とした複縦陣になって一気にその中心を突っ切っていく。

序に主砲による砲撃を喰らわせていった事で、背後の敵艦隊から煙が上がった。

 

「何か………あっさりしてますね………。」

「油断せずに次弾は装填しておいて。いつ何が起こるか分からないのが海だし。」

 

敷波は今の敵艦隊の種別と大体の位置をメモに取りながら更に遠海へと進んでいく。

このままもう少し奥まで進んでいくつもりであった。

 

「これだと、夕雲姉さんが改二を使う機会も無いかも………。」

「そうですね。一応、覚悟はしていましたが………。」

 

風雲の言葉に、夕雲も拍子抜けといった顔をする。

しかし………。

 

「ん、雨………?長波サマが調べた予報だとこんなのは………。」

 

変化は突如起こった。

それまで何も無かった海域に突如灰色の雲が混ざり、雨が降ってくる。

雨量はどんどん増えてきて風が強まり、雷も鳴り響き始める。

 

「これ、まるで………あの時と同じような………。」

「敷波ちゃん、意見具申です。どうしますか?」

「ここら辺で撤退かな。いや………。」

 

そこで敷波は速度を落とすように指示。

何事かと思いきや………正面に長い髪の深海棲艦の姿を視認した。

その服は巨大な口を持つ駆逐艦をモチーフとしており、背中の艤装は魚雷発射管を備えた指と主砲を備えた手の甲を持ち、人間と化け物の中間のような姿を持っていた。

 

「駆逐………水鬼!?」

「ちょっと遅かったかな。電、後ろは?」

「フラッグシップ級に挟まれてます。空母がいないのが幸いですね。」

 

電の言葉に夕雲達が後ろを見ると黄色く輝く戦艦ル級と軽巡ヘ級、駆逐艦ハ級が横から回り込んでいた。

その数は2隻、1隻、2隻といった所。

 

「さっきまでいい風が吹いてたのにこれかよ!?」

「敷波、私達は何をすれば………!?」

「回避行動。」

「え?」

 

キッパリと言ってのけた敷波の言葉に風雲を始め夕雲達が驚く。

彼女は前を見たまま分かりやすくもう一度言う。

 

「絶対に戦うな。刺激もするな。アタシと電に任せてひたすら回避、以上。」

「そ、それって………!?」

「足手纏いって事。んじゃ、電………後ろ任せるよ!」

「はいなのです。」

 

驚愕する夕雲型4人を置いて、敷波と電は身体をスパークさせる。

敷波は姿が改二に変わり、駆逐水鬼に向かっていく。

一方で電は弧を描くようにフラッグシップ級の敵達に砲撃を浴びせていく。

完全に夕雲型4人は取り残されてしまった。

 

「待って下さい、私達も戦い………っ!?」

 

夕雲の言葉は前方から飛来し、横を通過していった鉛球の風圧に、思わずバランスを崩しそうになる。

駆逐水鬼が発砲したのだ。

その威力と水柱は後ろのフラッグシップ級の戦艦にも劣らない物であった。

 

「ど、どうするのよ、姉さん!ねえ、みんな!?」

「んな事言ったって、今の長波サマ達じゃあ、本当に足手纏いだぜ、アレ!?岸波は!?」

「横須賀に入電しているわ。悔しいけれど、長姉の言う通りだと思う………。」

 

本当に悔しそうに話し合う妹達を他所に夕雲は回避行動を取りながら考え込む。

今の自分に出来る事は………今の自分がやるべき事は………。

 

そうしている内に後ろの電は巧みにル級等の砲撃を避け、逆に酸素魚雷を1本ずつ発射していた。

直撃したル級は次々と沈んでいく。

 

「ごめんなさい………。」

 

更に残ったヘ級とハ級にも主砲を撃ちながら向かっていく。

その動きは正に電光石火という言葉が相応しく、熟練の実力者である事を否応なく示していた。

 

一方で敷波は駆逐水鬼の指から次々と放たれる高速深海魚雷を回避しながら、自分のふくらはぎの酸素魚雷を向ける。

彼女の持ち合わせは左右3本ずつの6本。

まずは右の1本放ち、戦艦並の威力を誇る主砲を持った艤装の右手の破壊を狙う。

 

「ふん!」

 

放たれた魚雷は寸分たがわず命中。

駆逐水鬼は火を上げるがその右手が即座に再生されてしまう。

 

「知ッテル………?駆逐艦ハネ、シブトイノヨ!?」

「はいはい、よーく御存じですよ。参ったね、こりゃ。」

 

響き渡る深海棲艦の声に対しても怯む様子を見せることなく、左の魚雷を今度は2本放ち、右手をもう一度狙う。

今度も両方命中するが、破壊された艤装の右腕は即座に再生し、敷波にお返しの砲撃を放つ。

 

「こりゃぁ、根競べかな?」

 

敷波はわざと隊内無線でその感想を流した。

夕雲達に知って欲しかったからだ。

例え練度の高い改二の力を持っていても、凶悪無比な深海棲艦にはそう簡単に勝てないという事を。

恐らく、電がそろそろ後ろのフラッグシップ級を片付けてくれるだろう。

その時が引くタイミングだ。

 

「電、そっちは………。」

「敷波ちゃん!?」

 

電の警告に敷波はギョッとする。

敷波に注意が向いている隙に………何と正面から、あの夕雲が旗艦の命令を無視して、改二になって魚雷を撃ち込もうとしていたからだ。

 

何も出来ない長女ではいられない。

何かの役に立たなければ妹達に示す立場が無い。

何より駆逐艦として、仲間の危機を見逃す事なんて出来なかった。

その優しさが、強さが、何よりも焦りが、夕雲から正常な判断能力を奪っていた。

彼女は20秒の間が勝負だと思い、駆逐水鬼へと向かっていく。

幸い注意は敷波に向いていた為、接近は容易であった。

それが余計に判断を狂わせている事に気づかず………。

 

「沈みなさい、駆逐水鬼………!!」

 

彼女は8本の強化された酸素魚雷を次々と駆逐水鬼の胴体へと放っていく。

それは瞬く間に命中し、派手な水柱を上げ、駆逐水鬼を炎に包む。

 

「アアァーーーッ!?」

 

派手な悲鳴を確認した事で、夕雲は改二を解く。

多少眩暈はしたが、ふらつく程では無かった。

しかし………。

 

ドンッ!!

 

「え………。」

 

その身体が後ろに押し飛ばされる。

敷波が駆逐水鬼と夕雲の間に割り込むのと同時に、爆音が響く。

夕雲の目の前で、彼女の身体が炎に包まれた。

 

「あ………。」

「………いい?強力な深海棲艦は再生するの。だから武装から潰していかないといけないんだよ。」

 

気付けば、自分よりも一回り小さな艦娘は、制服も艤装もボロボロになっていた。

咄嗟に魚雷を投棄して防御状態を取っていた為に轟沈だけは避けていたが、改二状態が解け、口からは明らかにダメージによる吐血をしていた。

 

「あ、ああ………。」

「後、酸素魚雷は命中すると水柱が派手に上がるから、慢心してると反撃を受ける諸刃の刃なんだよね。だから、雷撃後に止まってるなんて持っての他。」

 

夕雲の顔が青ざめる。

自分が何をしてしまったのか、瞬時に理解した。

雷撃で駆逐水鬼は沈まなかった。

それどころか反撃の砲撃を仕掛けてきたのだ。

敷波は夕雲を………庇った。

 

「敷波!………敷波ぃ!?敷波っ!!」

「大袈裟だって………。大破しただけだから………さ。」

 

振り返らず敷波は前を向いて言った。

まるで最初からこうなる事を覚悟していたように………夕雲が慢心するのを知っていたかのように、彼女は怒りもせずに優しく言った。

そして、その状態で尚も夕雲を庇うように両腕を広げた。

駆逐水鬼の砲門はまだこちらを向いていたからだ。

 

「敷波!逃げて!!」

「全く本当にこんな所まで綾波とそっくりだなぁ………。アタシが慢心した綾波を庇った時も泣き喚いてたっけ………。」

 

敷波は動けない。

いや、動かないのか。

駆逐水鬼が不気味に笑った。

 

「悪いけど、綾波達に宜しく伝えといてよ………。」

「ダメーーーっ!!」

 

夕雲の絶叫が響く中、その砲門に何者かの主砲が炸裂し、放たれた弾が僅かに逸れる。

 

「あ………。」

「夕雲ちゃんは敷波ちゃんを連れて下がってほしいのです。」

 

夕雲が涙で塗れた眼で見ると、後ろのル級達を片付けて来た電が彼女達の前に出ていた。

その小柄な姿を視認した駆逐水鬼が大袈裟に笑い始める。

 

「ソンナ貧弱ナ姿デ………!私ヲ沈メラレルト思ッテルノカ?」

 

その言葉に電は特に表情を変えなかった。

だが、魚雷は腰に搭載された6発の内2発を既に使っており、不完全な改二状態もかなり長時間使っていた。

味方から見ても、状況はかなり不利ではあるが………。

 

「抵抗シナイナラ、楽ニ沈メテヤル。サッサト………。」

「怖いのですね。」

「何………?」

 

しかし、駆逐水鬼は………いや、夕雲達も驚かされる。

電は今の状態に反し、ニヤリと笑みを浮かべ………事もあろうか駆逐水鬼を見下していた。

それこそ、哀れな子羊を見つめるような瞳で。

 

「俺は電。フフ………怖いか、駆逐水鬼。電がそんなに怖いか?」

「キ………!」

「怖いなら見逃してあげますよ。水平線の向こうまでさっさと去って下さい。」

「貴様ーーーッ!?」

 

思わず激高する駆逐水鬼は艤装の魚雷も砲門も全て電に向ける。

彼女は横滑りをし………その豹変ぶりに呆気に取られている夕雲と大破状態の敷波に当たらないようにうまく横軸をずらし、直後に大量に向かってきた魚雷と砲撃を回避していく。

 

「沈メル!沈メテヤル!!貴様ダケハ海ノ藻屑ニシテヤルーーーッ!!」

「天龍さんと龍田さんから教わった力………貴女に見せてあげます。」

 

電はそう呟くと、凶悪な深海棲艦へと果敢に挑んでいった。

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