燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第14話 電~突きつけられる現実~

電は主砲を撃ちながら駆逐水鬼を翻弄していた。

しかし、その戦いは絶望的に思える物であった。

敷波が大破した以上、逃げるのはほぼ不可能になってしまった為、完璧な勝利条件を満たす為には駆逐水鬼を撃沈するしかない。

そして、それが可能なのは5人の中では電しかいなかった。

 

「ソノ絶望ニ………心ヲ染メナサイ!!」

「嫌なのです!」

 

だが、電はそれがどうしたと言わんばかりに自分の主砲を何度も何度も叩きこんでいく。

酸素魚雷も腰に残った4本の内の2本を撃ち、艤装の右腕の主砲を破壊する。

しかし、駆逐水鬼の再生能力は衰える事を知らず、またメキメキと腕が伸びてくる。

 

「何度ヤッテモ無駄ナノヨ!!」

「電は諦めの悪い駆逐艦………なのです!」

 

反撃の雷撃を巧みなジグザグ移動で避けた電は最後の2本の酸素魚雷も同じ場所に炸裂させる。

それでも、駆逐水鬼の再生能力は衰えない。

 

「終ワリヨ!」

「まだなのです!」

 

駆逐水鬼は右腕が再生している間に、艤装の左腕の魚雷発射管を、切り札の無くなった電に向ける。

しかし、電の狙いはここにあった。

彼女は一気に距離を詰めると、その左の人差し指の指先………1つの発射管に向けて主砲の砲弾を叩きこむ。

放たれようとした深海高速魚雷は指の中で信管が作動し………。

 

「ギャァァァアアアッ!?」

 

今度こそハッキリと駆逐水鬼の苦悶の叫びが響いた。

左腕の艤装が自らの魚雷によって次々と引火して爆発を起こし、焼けただれる。

 

「ヨクモ!ヨクモッ!!」

「長波ちゃん、魚雷を一本こっちに投げて下さい!」

「お、おう!?」

 

後ろで夕雲達を庇っていた長波が、言われた通りに左ふくらはぎの魚雷発射管から1本酸素魚雷を引き抜き、電へとぶん投げる。

 

「どうするんだ!?暁型じゃ、夕雲型の魚雷を発射する事なんて………!」

「良く見ていて下さい!」

 

電は魚雷を片手でキャッチすると、雄たけびを上げながら艤装の左腕を再生しようとする駆逐水鬼へと突撃する。

そして、その再生しつつある異形の腕の筋肉に至近距離で挟みこむと、すれ違い様に砲弾を魚雷に叩き込んで信管を作動させる。

 

「グギャァアアアアッ!?」

 

先程よりも凄まじい駆逐水鬼の悲鳴。

再生途中の腕に酸素魚雷を突っ込まれ爆発を起こされたのだ。

その痛みは深海棲艦とはいえ、想像しただけで恐ろしい。

哀れにも、その左腕は根元から吹っ飛び、再生能力を失う。

 

「バカナ!?バカナ!?コンナ小娘ニ!?」

「岸波ちゃん、次!」

 

そのまま駆逐水鬼の周りを反時計回りに一周してきた電は、今度は岸波から魚雷を受け取る。

しかし、その受け取る時の僅かな隙に、敵の苦し紛れの砲弾がかすり、左腕から血が零れる。

 

「電!?」

「かすり傷なのです!次は風雲ちゃんが用意して!」

「………っ!」

 

電は魚雷を受け取ると、バランスを崩しながらも怒りの形相で砲弾と魚雷を飛ばしてくる駆逐水鬼に向け、今度は弧を描くように酸素魚雷を投擲。

そのまま空中で主砲を当てて信管を作動させ、派手に破片を撒き散らす。

 

「ア………アア………!?」

 

破片は駆逐水鬼の魚雷発射管や砲塔に降り注ぎ、その機能を封じていく。

 

「後少し………!風雲ちゃ………っ!?」

 

荒い息を吐き始めた電は、風雲から魚雷を受け取ろうとし、自分の認識の甘さを痛感してしまう。

風雲はいつの間にか魚雷を発射できる距離まで接近していた。

そして、発射体勢に移行する。

 

「今の状態なら………!私だって………!」

「待つのです!危険です!」

「化け物の武装が使えないなら………!」

「違います!まだ砲塔が1本生きて………!」

「え………?」

 

電の警告が飛んだ時には遅かった。

魚雷発射体勢を整えた風雲は、両ふくらはぎに備わった8門の魚雷を一斉に発射する。

しかし、それと同時に………駆逐水鬼の砲塔が………生き残った砲塔1門から発射された砲弾が、風雲に向けて飛んでくる。

 

(終わった………。)

 

風雲の脳裏に色んな光景が流れてくる。

夕雲達との喜怒哀楽の日々、長月や初風達との訓練の日々。

しかし、1回の視認不足で全てが水の泡だ。

 

(これが………駆逐艦………。)

 

改二でも無いのに時がゆっくりと流れた。

走馬灯のような物が見えているからだろうか?

だからこそ、気づいた。

凄まじい速度で………電がその進路に割り込むのを。

敷波のように防御は間に合わない。

仮に防御が出来ても、電が大破したらもう駆逐水鬼に敵う艦娘はおらず全滅だ。

ところが………。

 

「いな………づま………?」

 

時がゆっくりと流れているからこそ、風雲の目が見ひらかれた。

電は右手を出来るだけ伸ばして前にかざした。

飛来してくる戦艦並の威力を持った砲弾に向かって。

 

バゴオォォォォォオオオンッ!!

 

「い、いなづまーーーーーっ!?」

 

時が再び加速する。

風雲は見てしまった。

砲弾を受け止めた電の右腕が肩から文字通り木端微塵に吹き飛ぶのを。

強烈な爆風で彼女の身体が思いっきり仰け反るのを。

その余波によって風雲も尻餅を付くが、そんな事を気に出来る状態では無い。

だが、電は残った左腕で艤装の背中に吊り下げてあった錨の鎖を掴むと、下半身を踏ん張って、敵に向かって急加速する。

駆逐水鬼は皮肉にも、風雲の放った酸素魚雷によって完全に動きを止めていた。

そこに向かって電が突っ込みながら、無理やり体勢を立て直すと、反時計回りに回転しながら錨の鎖を伸ばしていく。

 

「電の………!」

 

遠心力で一回転していく巨大な錨。

駆逐水鬼も体勢を立て直そうとするが間に合わない。

 

「本気を………見るのですっ!!」

 

鎖が限界まで伸び、最大限の威力を持った錨のツメが駆逐水鬼の左胸………心臓へと突き刺さる。

派手な深海棲艦独特の黒い血しぶきが上がり、駆逐水鬼の動きが止まった。

 

「電!………電、しっかり!!」

 

敵が動かなくなった途端、風雲が血相を変えて電の元に駆けつけてくる。

自分の失態で、電の腕が吹き飛んだのだ。

気が動転しない方がおかしい。

長波と岸波は未だ沈まない駆逐水鬼に向けて、注意深く魚雷を向けていた。

だが………その2人を電は残った血の流れる左手で制すると、ゆっくりと駆逐水鬼へと向かっていく。

 

「電………?」

 

呆気に取られる風雲達を他所に、電は駆逐水鬼の傍まで来ていた。

敵は心臓に刺さった錨を抜こうと生身の方の手に力を入れていたが、もはや力が無いのか、やがて腕が垂れる。

電の姿を視認すると、恨めしそうに眺めてくる。

 

「ト………ドメヲ刺スツモリカ………。」

「いえ。」

「ナ………ニ………?」

 

電は静かに………残った左手でその駆逐水鬼の生身の左手を取って握りしめた。

その行為に、夕雲に支えられていた敷波以外は、唖然としてしまう。

 

「……………。」

「貴女とは、いつか平和になった海で友達になりたいです。」

「私ト………?バカゲタ事ヲ………。」

「いけませんか?」

 

嘘偽りの無い電の言葉に、駆逐水鬼の顔が明らかに動揺に変わる。

 

「私ハ………敵ダゾ?」

「沈んでしまう敵も、出来れば助けたいですから。………命は助けたいって思ったらおかしいですか?」

「ダ、ダガ………!?」

 

駆逐水鬼は自分が吹き飛ばした電の右腕を見る。

電はやっぱり優しいのですねと笑みを浮かべると言う。

 

「こんなの、船渠(ドック)で高速修復材(バケツ)を使えばすぐに治ります。」

「デ、デモ………アンナニ、私ヲ見下シテ………!?」

「ごめんなさい、電なりの挑発行為のつもりだったんです。許して貰えませんか?」

『……………。』

 

夕雲達は、深海棲艦に優しいとか許してくれとか言った艦娘を見た事が無い。

それは、駆逐水鬼もそうだったのだろう。

ここで更に驚くべき事が起こる。

駆逐水鬼が………透明な涙を流し始めたのだ。

 

「コンナニ………優シクサレタノハ、初メテダ………。海ノ中ハ暗クテ寂シイノニ………!」

「帰りませんか?」

「エ?」

「鎮守府へ。電達の元へ。仲間達の元へ。」

 

笑ってみせた電に対し、駆逐水鬼は呆然とし………何かを悟ったように首を振る。

 

「ムリダ………。私ハオ前達ノ元ヘハ行ケナイ………。」

「そうですか………。」

「デモ………オ前に………貴女ニナラ託セルカモシレナイ………。」

「え?」

 

電の傍で駆逐水鬼は浮力を失い、沈んでいく。

その手を電は支えようとしたが、片腕だけでは力が入らず抜けていく。

しかし、その瞬間………駆逐水鬼は電に穏やかな笑顔を向けて言った。

 

「彼女ヲ………帰シテヤッテクレ………。」

 

駆逐水鬼は海の底へと消えていった。

 

「アリガトウ、心優シイ………艦娘………。」

 

そう最後に優しい言葉を残して。

電は、その沈んでいった先を見て、静かに言葉を発した。

 

「ありがとうございます、駆逐水鬼さん………。」

 

変化はすぐさま起こった。

駆逐水鬼がいた海面上が光り、何かが浮かんできたのだ。

それは人影。

 

「何………これ………?」

 

見た事の無い現象に驚愕したのは風雲だけでなかった。

夕雲も長波も岸波も、衝撃を受けていた。

 

「………………。」

 

一糸纏わぬ栗色の髪の長い髪の少女が海の上に突如出現していたのだ。

まるで、駆逐水鬼からのプレゼントだと言わんばかりに。

 

「わ、たくしは………。」

「名前………言えますか?」

「神風型………5番艦………旗風………です。」

「お帰りなさい、旗風ちゃん。電なのです。」

「電さん………。ああ、わたくし………ようやく帰れるのですね………。」

 

一粒涙を流した少女はそれで眠るように気を失う。

電は自分の服を見て………ボロボロになっているそれを見て、優しい顔で振り向き風雲に言う。

 

「すみませんが風雲ちゃん。彼女に上着を貸してあげて下さい。そして、夕雲ちゃん。風雲ちゃんと一緒に彼女を曳航していってくれませんか?大丈夫です、彼女は幽霊じゃないから………。」

 

そこまで電は言うと、ぐらりと傾き血を吐き出して倒れる。

 

「電!?」

「電さん!?」

「言いつけを守れ!風雲姉、夕雲姉!!」

 

思わず電に駆け寄ろうとした風雲と夕雲に対し、怒声は背後から飛んできた。

長波が指で旗風と呼ばれた少女を見る。

光は小さくなりつつあり、徐々にその身体が沈みかけていた。

 

「電に申し訳ないって思うなら………!電の想いをちゃんと最後まで守れ!!」

「………!」

 

その言葉に、涙目になっていた風雲は上着を丸ごと脱ぐと、旗風と呼ばれた少女に着せる。

下着が丸出しであったが、そんな事を気にする余裕なんてもう無かった。

夕雲も同じように旗風の元に駆け寄ると、黙って2人で少女を担ぐ。

長波は電の左腕を自分の首に回し曳航する形を取った。

皮肉なことに小柄な少女は片腕が吹っ飛んだ分、更に軽くなっていた。

岸波は敷波を曳航していこうとしたが、自分で動けるからと手で制すると、彼女に旗艦を務めるように指示を出す。

とはいえ、他は曳航している艦と大破している艦ばかりだったので、岸波は慎重に指示を出す事になる。

 

「長姉、魚雷補充させてくれない?」

「………分かった。」

 

長波だけに聞こえるように岸波は直接言うと、魚雷を1本受け取り、自分の撃てる本数を最大まで補充しておく。

輪形陣と言葉で指示を出すと、旗風を中心として前を警戒しながらゆっくりと7人は進んでいった。

しばらくの間、全員無言だった。

誰も何も話せる雰囲気では無かった。

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