燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第15話 岸波~自ら選んだ道だから~

横須賀へと進路を取る岸波達は、周囲を警戒していた。

雨はやんでいたが、夜を迎えており周辺は暗い。

駆逐艦にとっては闇に紛れて最大限の火力を発揮できる絶好の機会でもあったが、残念ながら今の状態ではとてもそうはいかなかった。

実質、戦闘になったら岸波しか戦える艦がいないのだから当然だ。

正直長波はともかく、今の精神状態の夕雲や風雲に実戦をやらせたくは無かった。

岸波は方位を確認するふりをして、隊内無線のチャンネルを密かに変える。

それはジャズバンドで使用しているチャンネルであり、今の面々では敷波と1対1での会話が可能となっていた。

 

「敷波、速力はそれが限界?」

「限界かな。かなりふらつく。」

「長姉の代わりに電を担いだら?」

「一緒に沈むね、間違いなく。旗風を担いでも同様。」

「そう。」

 

旗風が何者かについては、今は詮索しなかった。

彼女が聞きたかったのは、深海棲艦に見つかった時の対処だ。

 

「………で、アタシと趣味用の無線を繋いだ意味合いは?」

「どっちが敵艦隊と出会った時に「捨て艦」になるかの相談よ。」

「成程、姉達には聞かせられないわけだ。」

 

時たまゴホゴホと咳き込む声が聞こえてくるが、岸波は敢えて気にしないようにした。

旗艦となった以上、1人より隊全員の無事を優先しないといけない。

しかも、要救助者がいるのならば、猶更だ。

言ったら悪いが大破状態とはいえ、曳航をしていない熟練の敷波は、今は隊の中で2番目に頼りになっていた。

 

「で、旗艦岸波としての意見は?」

「私が突っ込むわ。」

「ドラムのメンバーを探すのは苦労するからやめて欲しいんだけどね。」

「悪いけど、そっちは敷波に任せる。………あんなの、大破状態の貴女じゃ、すぐ沈むもの。」

 

岸波は右舷に敵を視認した。

戦艦リ級と重巡洋艦ル級を中心とした艦隊だ。

煙を多少上げている所を見ると、昼間遭遇した個体だろう。

重雷装巡洋艦チ級に、軽巡洋艦ホ級と駆逐艦ハ級2隻も混じっていた。

同航戦に移行しており、こっちに砲門を向けようとしている。

岸波は取舵を指示し、左に隊を曲げると、自分だけは右へ抜けていく。

 

「おい、岸波!?」

「今の陣形を崩すな!旗艦を長波に引き継ぐ!このまま横須賀まで突っ切れ!!」

 

敢えて勇ましく叫ぶ事で夕雲達が要救助者を手放す事を封じる。

夕雲と風雲はもう叫ぶ事も出来ない。

でも、長波はそれでも叫んだ。

 

「お前が沈んだら意味が無いだろう!?みんな後悔を背負う事になるんだぞ!?」

「ならば、その後悔を背負ったまま生き抜け!!夕雲型ならば、それでも耐えられるだろう!!」

「この………大馬鹿野郎ーーーっ!!」

 

長波は思いっきり咆哮したが、電を支えていた身体は動かなかった。

理屈では分かってしまっていたのだ。

今の状況では、これが最善策であると。

 

(これが、私達を庇った初風さんや敷波さん達が思っていた感情ね………。)

 

岸波は敢えて敵艦の注意を向ける為に、射程外にも拘らず出鱈目に砲弾を撃ちまくる。

心強い嚮導艦達が仲間を絶対に沈めないと誓った時に湧き上がる感情。

多分、自分を含め、今の夕雲型には早すぎる重みだ。

それを最期に体感出来る事は光栄にも思えた。

 

「私は夕雲型15番艦岸波!これより突撃する!!怯むな!増速だ!!」

 

自分を鼓舞するように大声で叫びながら酸素魚雷を贅沢に放つ。

なるべく時間を稼ぐ為に戦艦リ級や重巡洋艦ルから敢えて狙っていき、そのバランスを崩す。

重雷装巡洋艦チ級を始めとした深海棲艦が強力な魚雷を発射する。

出鱈目に撃たれた為か、途中で魚雷同士がぶつかり合って爆発を起こし、破片が撒き散らされて、逆にそれが岸波の制服や艤装を傷つけた。

大幅に速力を落とした所にリ級やル級の砲が飛んでくる。

後はじわじわとダメージを受けていくだけだった。

 

「簡単に………負けるもんか………!」

 

仲間達の離脱を待つまでは耐えて見せる。

そう思った岸波の背中の艤装が吹き飛ぶ。

リ級の砲撃が掠ってしまったのだ。

 

「あ………。」

 

浮力を完全に失った岸波は、海中へと落ちていく。

 

(終わり………か。)

 

後悔は無かった。

これは自分で選んだ道だ。

でも、出来ればまたドラムを叩きたいとは思ってしまった。

そして、可能ならば………。

 

(ぼの先輩と、F作業したかったな………。)

 

これが艦娘の最期の気持ちかと思った岸波は目を閉じた。

意識も闇に沈み………そうになった所で、その手が力強く引き上げられる。

 

「ゴホッ、ゴホッ!?………え?」

「ぎ、ギリギリ間に合ったね!良かった!!」

 

空気を吸って咳き込んだ岸波は、自分を抱えている艦娘を見て驚く。

それは、バンドメンバーの磯波。

彼女は身体をスパークさせて………不完全な改二を発動させて岸波の所まで急行していたのだ。

そのまま雷撃を放って来たチ級達を主砲でけん制しつつ、自分達の隊内無線を送る。

 

「不知火ちゃん!曙ちゃん!こっちは大丈夫!」

「不知火です。頑張りましたね、磯波。」

「曙よ!敷波達は後方の野分達に回収させたわ!」

 

その言葉と共に、改二の姿になった娘達がそれぞれの主砲を連射しながら突っ込んでくる。

陽炎と似たような武装を備えたピンクのセミロングのポニーテールの髪の眼光が鋭い駆逐艦と、気の強そうな紫のサイドテールの駆逐艦。

前者は陽炎型2番艦の不知火、そして後者は岸波が合同演習で対峙した第十四駆逐隊の曙だった。

 

「不知火………?ぼの先輩………?」

「おや、曙。可愛い後輩が出来ているんですね、不知火は少し驚きました。」

「勝手に呼ばれてるだけよ。そう言えば、秋刀魚好きだったんだっけ?秋になったらF作業に連れて行ってあげるから少し待ってなさい。」

「羨ましい物です。」

「アンタだって誰かに「ぬい先輩」って呼ばれて付きまとわれてるんじゃないの?」

「……………。」

「あ、いやゴメン………冗談だって。」

 

軽口を叩き合いながらも、2人は敵の砲撃や雷撃を物ともせずに逆に次々とお返しと言わんばかりに主砲や魚雷、果てには爆雷を投げつけ殴り蹴りとやりたい放題をして暴れまわる。

勿論、散々岸波を嬲った敵艦隊を1隻も逃がすつもりは無かった。

形勢が逆転した事により、戦艦リ級や重巡ル級が次々と沈められていく。

 

「あの後、提督にお願いしたんだ。何かあった時の為に出撃準備はさせて欲しいって。」

「それで………磯波は、その力を使って………。」

「一応、私も古株だからね。岸波ちゃんが駆逐水鬼と交戦した事を入電した時、偶然帰港していた不知火ちゃんと曙ちゃんにお願いして、臨時の駆逐隊を作ったの。野分ちゃんと嵐ちゃん、朝霜ちゃんもいるよ。」

「そう………あ………。」

 

磯波に抱えられていた岸波は、自分がいつの間にか涙を流している事に気づく。

あんなに決意は固かったのに。

捨て艦になる道を、自ら選んだのに。

 

「いいよ………。今は、凄く頑張ったんだから。」

「私………。」

 

磯波に抱き留められ顔を隠された岸波は、静かに涙を流しながら彼女にだけ分かる声で言う。

 

「強くなりたい………もっと、もっと強く………。私も、もっと………。」

 

生きていることを実感し、泣きながら彼女は目を伏せた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

その後、長波を旗艦としたボロボロの艦隊は、不知火を旗艦とした艦隊に守られながら航行を続ける。

以後は特に敵に遭遇する気配も無いまま、横須賀の明かりが見えて来た。

 

「やっと戻れたのか………ん?」

 

素直に安堵の気持ちを表現した長波は、こちらに重巡の高雄と愛宕がやってくるのを見る。

ここまで来て更に迎えかと思ったが、それを確認した不知火の艦隊が隊内無線で何かを会話していた。

そして、一通り会話を終えた不知火が2つの艦隊に静止の命令を掛け、夕雲と風雲………旗風という少女を曳航している2人に前に出るように指示を出す。

わけが分からないと思いながらも、言われた通りに高雄と愛宕の前に出る夕雲と風雲と少女。

 

「よくこの子を守ってくれたわね、ありがとう。」

 

高雄はそう感謝をすると、鎮守府から持ってきたであろう厚めの毛布を少女に包んでその身体を完全に隠す。

そして、2人から受け取ると、お姫様抱っこをしてしっかりと海に落ちないようにする。

愛宕は上半身が下着だけになっている風雲に、同じ毛布を掛けてあげていた。

 

「………どういう事なんだよ!?その子!?」

 

長波が思わず叫ぶ。

電を曳航していた為近づく事が出来なかったが、その声は届いたらしい。

愛宕が指に口を手に当て、夕雲、風雲、岸波、朝霜、そして長波を見渡す。

少女の事は黙っていてくれって言いたいらしい。

 

「機密事項なんだ。だから、横須賀に戻っても絶対誰にも喋ったらダメだよ。」

 

隊内無線で、敷波の声が掛かる。

彼女は何回か咳き込むと、夕雲や風雲、岸波にも伝わるように言う。

 

「最悪裁判沙汰になるかもしれないからね。」

「本当にどういう事なんだよ………。」

「近いうちにちゃんと話すべき人が話してくれるさ。それまでの辛抱。………今は、帰って休もう。」

「……………。」

 

これ以上、大破している敷波に質問攻めをするのは酷だと思った長波は、納得はいかないままだが諦める。

今度は夕雲に敷波の曳航を、風雲に岸波を抱えている磯波の手伝いを指示すると、横須賀へと向かった。

別の方に………まるで回り道をして少女が見つからないように横須賀へと向かおうとしている高雄と愛宕を見送りながら。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

夜の横須賀の桟橋には、巻雲を始めとした残りの夕雲型の艦娘と嚮導の長月・深雪・雷・初風、秘書艦の五月雨、提督、そして数名の救急隊員が待っていた。

もう就寝時間は過ぎているのにこんなに艦娘達が集っているという事は、提督が特例で認めてくれたのだろう。

今回は、駆逐水鬼を撃沈する事に成功した。

だが、誰も拍手をして祝う事が出来なかった。

 

「長波以下………、敷波、夕雲、風雲、岸波、電………帰還した。」

「ご苦労だった。」

 

海から上がった長波は、激しい疲労に包まれながらも提督にしっかりと報告をする。

今の旗艦は自分だから、やる事はやらなければならなかったからだ。

提督は救急隊員を促すと、すぐに船渠(ドック)と高速修復材(バケツ)の手配をする。

運ばれていくのは敷波、電、岸波。

後は不完全な改二を使い口から血反吐を流していた磯波も対象であった。

それを見送った後で、それまでずっと黙っていた夕雲がようやく提督に話しかける。

 

「私と風雲は………営倉入りでしょうか?」

「違う。」

「では、せめて看病を………。」

「朝霜と雷に任せる。残りの夕雲型は指示があるまで全員自室で身体を休めろ。」

「休めません………。」

「命令だ。」

「………………。」

 

それ以上は何も言えず、何かに憑かれたようにうなだれながら夕雲と風雲は艤装をしまう為に、装備品保管庫へと歩いていった。

夕雲型の出迎えの面々も、その姿を見て何かを覚えながら駆逐艦寮へと歩いていく。

長波は夕雲達を追う前に、一緒に装備品保管庫に艤装をしまいに行く朝霜に言う。

 

「朝霜、長波サマは部屋の前に立ってるから、何かあったら報告してくれ。」

「風雲と同部屋だろ?一緒に休まないのか………?」

「今の風雲姉は1人にしておいた方がいい気がして………。それと………。」

 

長波は拳を握りしめて心の内を吐き出すように言う。

 

「情けない………夕雲姉を………追い込んでしまってた………。」

「………それは、あたいもだよ。改二になった時、誇りあるネームシップだって思ってしまったから。………あたい達、全員の罪だ。」

「ありがとな………朝霜。そっちは任せた。」

「ああ。」

 

そう長波と朝霜は会話をすると、敢えて気合を入れるように走っていった。

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