燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第19話 曙~追憶:少女の決意~

朝潮と夕雲の2つの艦隊は、幸いにもその後戦闘になる事が無いまま横須賀への帰投を果たす。

夜の明かりが見えてきた頃、薄雲という少女を抱えた伊勢と日向は別行動を取る事になった。

旗風という少女を連れて帰って来た時の高雄と愛宕のように、彼女達は回り道をして………少女を皆から隠すように戻っていった。

 

「いつかあの理由が分かるのかしら………。」

 

夕雲は特に朝潮達に問いただす事はせず、真っ直ぐ横須賀の桟橋へと向かう。

そこには朝霜と………少女に上着を貸した風雲の為だろうか、わざわざスペアの制服を持った意外な駆逐艦娘が待っていた。

 

「か、陽炎さん!?」

「やっほ、久しぶり!………やっぱりみんな顔つき良くなったね。はい。」

 

陽炎は、そう笑顔を浮かべると風雲に制服を渡す。

それをさっと着た風雲は陽炎に問う。

 

「あの、陽炎さん………電から聞いたのですが………。」

「やーね、私も陽炎って呼び捨てでいいわよ。………朝霜に頼んで、食堂に残りの夕雲型を全員集めてるわ。装備品保管庫で艤装を返却したら、夕雲達も集まってくれないかしら?」

 

多分、予め連絡が行って全てを理解しているのだろう。

陽炎はそう夕雲達に言うと、朝潮達を見る。

 

「朝潮、悪いけど報告書纏めてお願いできる?」

「こっちは大丈夫。………重要な案件だし。」

「しまかぜは船渠(ドック)に行くねー。流石に毎回血を吐くのはやってられないかもー。」

「背中の艤装が爆発しないだけマシでしょ?前はオーバーヒートさせた事もあるんだから………。とにかく、夕雲達は陽炎に付いてって。」

「ありがとうございます!」

 

夕雲は朝潮に礼をすると装備品保管庫へと風雲達を促した。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

夜間遅くというだけあって、食堂には夕雲型の面々と秘書艦の五月雨しかいなかった。

そこに夕雲達が速足で駆け付け、空いている席に座る。

陽炎は五月雨の横に座るとコホンと軽く咳払いをした。

 

「まず、練度向上おめでとう。正直、私の想像以上にみんな強くなってるわ。」

「ありがとうございます、ですが陽炎さん………。」

「まあ、前置きよりも本題が知りたいわよね。でも、悪いけど順序を追って説明させて貰うわ。」

「順序………ですか?」

 

陽炎はうんと頷くと、食堂の天井を見上げながら呟く。

 

「まずは過去話から。………これは第十四駆逐隊がまだ今よりも未熟だった頃の話なんだけど………民間船の護衛任務があったのよ。」

 

懐かしむように彼女は………静かに語り始めた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

それはとある冬の日だっただろうか。

陽炎、霰、長月、皐月、潮、曙の第十四駆逐隊は横須賀から北の大湊へと向かう民間船の護衛を務めていた。

その頃はまだ改二になれるのは潮だけで、陽炎達はまだ不完全な改二も使いこなせない状態であった。

そして、実は民間船にはもう1人艦娘が乗っていた。

普段は横須賀で秘書艦を務めている五月雨である。

 

「え?五月雨って、艤装持ってきて無いの?」

「うん、何か大湊で新しく作った物を取りに行くって聞いたわよ。」

 

海上で隊内無線を使って会話をするのは陽炎と曙。

長い船旅になるので、2人ずつ交代で彼女達は海上の見張りを対処していた。

ここら辺は、深海棲艦が出現しそうだという深海棲艦警報も出ていない為、見張りは最低限で良かった。

しかし、冬の海であり北方へ向かう為、海域は寒い。

注意を欠かしてはいけないが、何かを話して無いとやっていられなかった。

そんなこんなで出てきたのが五月雨の事である。

 

「何でわざわざ横須賀じゃなくて、辺鄙な大湊で艤装の修理をしてるのよ?」

「さあ?」

「というか、艤装どこでぶっ壊したのよ、アタシ、五月雨が出撃している所なんて見て無いわよ?」

「分からないわよ、本人に聞いても最重要機密だって言うんだもの。」

 

陽炎が曙の問いかけに、首を振る。

秘書艦は提督に次ぐ権力者だ。

だからこそ、様々な機密事項を知っているのだが、時にはそれ故に理解不能な事を言う事もある。

 

「ドジっ子だし、案外何処かで転んでぶっ壊したのかもね。」

「笑えない冗談よ、それ。」

「そう思わないとやってられないでしょ?大体、秘書艦だから強いってワケでもないし。」

「それ、ネームシップの割に弱いアンタが言う?」

「余計なお世話よ。」

 

陽炎はフンとそっぽを向くとふと思い出したように曙に言う。

 

「そう言えば初期艦なんだっけ、五月雨。叢雲や漣はともかく、吹雪や電と合わせて何て言うか………パッとしない娘が多いわね。」

「だからアンタが言う?………後、初期艦は強い絆で結ばれてるって話があるから漣達には言わないでよ、それ。」

「曙が注意するなんてビックリ。………経験談?」

「第七駆逐隊の時に話題に出したのよ………五月雨って弱そうよねって。そしたら、目が吊り上がった漣にいきなり回し蹴りを喰らわされて乱闘になった。」

「マジ?………あの漣がねぇ。」

 

漣は明るい性格で提督の事を「ご主人様」と呼ぶ癖のある艦娘だ。

その駆逐艦が本気で怒るって事は初期艦の繋がりは本当に強いのだろう。

 

「ま、私も第十四駆逐隊の誰かをバカにされたら、回し蹴り位喰らわせるから同じような物か。」

「アンタ、たまに平然と物騒な事言うわよね………。」

 

そんなこんなで時間が来たので交代になる。

長月と潮が昇降用フックを使い降りてくる。

 

きちんと交代の手続きをすると陽炎と曙はフックを使い登って行った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「あ、お帰り。寒かった?」

「寒いに決まってるでしょ。次はアンタ達だから注意しなさい。」

「艤装の準備に………抜かりは無いから………大丈夫。」

「みんないつも通りで助かるわ。」

 

船内に入って、皐月と霰に出迎えられた陽炎と曙は、普段通りに艤装の準備を念入りにしている2人を見てホッとする。

艦娘は軍の機密である為、基本は一般客とは別室で待機だ。

その為、船室には当然、もう1人の艦娘も座っていた。

 

「お疲れ様、寒い中ありがとね。」

「別に気にしなくていいわよ、五月雨の件は民間船の護衛のついでだし。」

 

先程まで陽炎達が話題に出していた、海色の髪を持つ駆逐艦娘五月雨だ。

正直陽炎達はこの頃、五月雨の事を、実力等を含めあまり信用していなかった。

いつも提督に付いて回るドジっ子の秘書艦。

それが、彼女に対する皆のイメージだったからだ。

 

「帰りは艤装を持っているから、私も護衛手伝うね。」

「あー………慣れない内は無理に実戦に参加しない方がいいと思うわよ。」

 

戦闘中にドジを起こされたらマズイ。

そう思ってしまった陽炎は、とりあえず適当な理由を付けて五月雨の好意を退ける。

 

「実戦なら横須賀の近海を使って………。」

「陽炎!敵だ!!」

『!?』

 

その時だった。

民間船から深海棲艦の出現を示す警報が鳴り響き、長月の通信が入る。

陽炎達は急いで艤装を装着すると、船外へと出る。

見れば、正面に黒い煙。

長月が煙幕を使って戦っているのだ。

そして………。

 

「潮!?」

 

右腕を押さえた潮がこちらに戻ってくると、何とか片腕で昇降用のフックにつかまり登ってくる。

登って来た潮は、艤装は無事だったが制服がボロボロで、右腕は敵の砲撃の影響か焼けただれていた。

 

「潮、しっかり!」

「て、敵深海棲艦………未確認の個体が1隻います!強さが………今まで出会ったのとは比べ物にならないです!」

 

潮の報告に、陽炎は船内で待機していた救急隊員を呼び寄せ彼女の応急手当をして貰う。

そして、とりあえず潮の艤装を外して楽な状態にさせた。

この状態では彼女は、戦闘継続は難しい。

 

「どんな奴なのよ!?潮にここまでの傷を負わせるなんて!?」

「あ、曙ちゃん気を付けて………改二の力を使っても………全然手傷を負わせられなかったから………。」

「潮は自分の事考えて!とにかくボク達4人で早く長月の援護に………!」

「待って、私も行く!」

「え………?」

 

意外な言葉に陽炎達は驚かされる。

五月雨が船外に出てきており、腕まくりをして準備をしていた。

 

「戦うって………艤装が無いじゃない!?どうやって………!?」

「艤装ならここにあるよ。」

 

そう言うと五月雨は迷う事無く潮の艤装を装着しようとする。

 

「待って………!適正外の艤装を装着すると………!」

 

ビキッ!!

 

霰の忠告を無視した五月雨の身体に電気が走り、痙攣し蹲る。

艤装には個人の適性があり、それ以外の艦娘が装備すると身体が拒絶反応を起こす。

増してや白露型の五月雨が綾波型の潮の艤装を装着したのだ。

とても動ける状態では無いだろう。

だが………。

 

「………フフ、可愛い艤装だね。何か嬉しく………なっちゃうよ………。」

 

五月雨は脂汗を拭って立ち上がるとふらつきながらも陽炎達の方を見る。

その笑顔には間違いなく闘争本能が宿っていた。

 

「嫌と言っても出るよ………。私、秘書艦だから………。」

「五月雨………。」

 

1人で足止めをしている長月の事も考えると迷っている暇は無いだろう。

陽炎は五月雨にも出撃して貰う事を決断する。

 

「分かったわ。但し、その状態じゃまともに動けないだろうから船の護衛に従事する事。船長と連絡を取り合ってとにかくジグザグ航行で敵の攻撃を受けないようにして。」

「はい!」

 

敢えて笑顔で応えた五月雨に念押しをすると、陽炎は叫んだ。

 

「第十四駆逐隊抜錨!敵深海棲艦を撃沈し、船を守るわよ!!」

 

陽炎達は北の海へと飛び込んでいった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

長月は煙幕を張りながら逃げまくっていた。

船へは近づけさせられない。

仲間の到着を待たないといけない。

しかし、その身体と艤装はもうボロボロだ。

そんな彼女を嬲るように敵深海棲艦は攻撃をしてくる。

まるで明確な悪意があるかのように。

不気味な笑顔を浮かべながら。

 

「長月!無事!?」

「陽炎か………何とか生きてる。だが………私も戦闘続行は難しそうだ。」

「下がって!………って、何なのよ、この深海棲艦は!?」

 

霰、皐月、曙と共に敵深海棲艦の元へと辿り着いた陽炎は、その容姿に驚愕する。

その深海棲艦は、レインコートのような頭巾を被ったヒューマノイド型であり、屈託のない笑顔が特徴だった。

だが、その長いヘビのような尻尾は凶悪な深海棲艦独特の顔を持っており、多数の砲門と魚雷発射管を備えていた。

敵は、陽炎達を………新しい標的を確認した瞬間に可愛らしい笑顔が挑発的な物に歪む。

 

「ギャハハハハハハハハ!!」

 

何かおかしい物を見たように相手をコケにして見下したように笑う敵。

1隻しかいないとはいえ、その姿は陽炎達に畏怖の感情を植え付けるには十分だった。

 

「………一筋縄ではいかなそうね。」

 

艦娘の直感で悟った陽炎は、倒すべき敵を睨みつける。

これが後に、戦艦レ級と呼称が付けられる敵航空戦艦との出会いであった。

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