燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第2話 夕雲~愉快な夕雲型の着任~

「た、確かに殴り合いは多いけれど、実力は確かだから………。」

「実際、「姫」クラスの深海棲艦の撃破に成功していますから、気にしないで。」

 

時雨と五月雨に慰められながら、夕雲はトボトボと営倉を後にしていた。

高雄と愛宕とは別れ、提督に付いていきながら執務室に戻る為だ。

しかし、その途中………。

 

「し・れ・い!待ってました!」

「雪風か。どうした?」

 

見れば、駆逐艦の中でもひと際小柄な艦娘が執務室の前で手を振っていた。

 

「雪風さん………あの方が、「呉の雪風」?」

「そこまで畏まらなくていいよ。僕も雪風も君と同じ駆逐艦なんだし。」

 

驚く夕雲に対し、時雨はそう言うが、彼女もまた英雄クラスの艦娘なのだから、どうしても身体が強張ってしまう。

だが、その後ろで同じく緊張している艦娘達を見て、夕雲は更に驚く事になる。

同じ制服を着て、大所帯で待っていたその娘達は、夕雲の妹である夕雲型の艦娘だったからだ。

 

「巻雲さん、皆さん!?もう着任していたのですか!?」

「というより、着任報告をする為に、司令官様を待っていました!雪風さんが案内をしてくれたんです!」

 

サイズ間違いなのか、ひと際大きな制服を着た小柄な眼鏡の艦娘………夕雲型2番艦の巻雲が一同を代表して答える。

ここに集った夕雲型は16人。

実は陽炎型でありながら夕雲型の制服を着ている茶髪のポニーテールの娘である秋雲を合わせれば17人だが、とにかく姉妹意識の強い艦娘達が揃っていた。

 

「着任報告を聞こう。順番に執務室に入ってきてくれ。後、夕雲は最後に話があるから申し訳ないが待っていて欲しい。」

「分かりました。」

 

そう言って一足先に秘書艦の五月雨と一緒に執務室に入っていった提督に手招きされる形で、まず巻雲が入っていく。

こうして流れ作業で着任報告が行われる中、夕雲は最後に報告する形になる秋雲に聞かれる。

 

「そういや夕雲!陽炎さんは何処にいるか聞いてる?秋雲、一応陽炎型だから、陽炎さんにも挨拶しておきたくて。」

「そ、そうねぇ………今は止めておいた方がいいと思います。」

「???」

 

思わず冷や汗を流す夕雲に対し、首を傾げる秋雲。

懲罰での営倉入りから鎮守府を一周しているなんて流石に言えないからだ。

そんなこんなで秋雲の出番も来て、最後に夕雲が再び呼ばれる事になった。

 

「さて、五月雨から駆逐艦宿舎での部屋割りを聞いておいてくれ。それと、一応の確認だが、訓練を通して艦娘として身体はもう順応しているか?」

「はい、全員妹共々大分慣れて来たと思います。」

 

艦娘になると、超常的な身体能力と敵の砲弾にも耐えられる肉体の頑丈さ、そして船渠(ドック)入りと高速修復材(バケツ)を駆使する事で可能な再生力を手に入れる事が出来る。

極論だと、頭と心臓さえ残っていれば、肉体の再生は可能であるらしく、実際に戦闘中に四肢が無くなったケース等は見受けられるらしい。

ここら辺は、まだ夕雲達は座学で学んだだけであった。

 

「成程、今は訓練学校でも必要最低限の事はしっかりと教えてくれているみたいだな。」

「訓練があるから実戦があるのでは………?」

「ここら辺、実戦ならではのテクニックもある。敵を屠る為、生き残る為の様々な技術がな。」

 

どうやら、自分達は想像以上に学ぶべき事が多いみたいである。

そう思った夕雲であったが、そこに提督がもう1つ質問をしてきた。

 

「君が旗艦だと仮定した話をしよう。現時点で妹達の16人から5人実戦に連れて行く艦娘を選ぶとしたら、誰にする?」

「5人ですか………。訓練学校での実戦での成績ならば、風雲・長波・岸波・朝霜・早霜でしょうか。」

 

座学も交えれば別だが、現時点での実戦経験の成績を元に正直に答えた夕雲に、提督はニヤリと笑みを浮かべて言葉を発する。

 

「ならば、明日の合同演習にその6人で参加しろ。相手はそうだな………第十四駆逐隊がいいだろう。」

「ええっ!?」

 

いきなりの宣言に、夕雲は面食らった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

その日、駆逐艦寮の食堂で夕食を終えた後の夕雲は、他の駆逐艦娘達が去った後、明日開かれるという合同演習に参加する事になった5人の面々を集めて作戦会議を開く事になった。

と言っても話を聞いた5人の面々は、夕雲と同じく面食らった後に愚痴を呟く羽目になる。

 

「落ち着いて下さい。この状況を打開するにはどうすればいいか、各々の意見を聞きたいのです。まずは、3番艦の風雲さんから。」

「夕雲姉さん、諦めて。これは提督の新人いびりという名の嫌がらせよ。」

 

と話すのは、駆逐艦の中ではかなりの長身のポニーテールの真面目そうな娘。

 

「では、4番艦の長波さん。」

「陽炎さんって田中少将に劣らない指揮力持ってるんだろ?無理じゃね?」

 

こちらはウェーブのかかった長い髪を持つガキ大将のような話し方をする娘。

 

「15番艦の岸波さん。」

「「姫」クラス撃破というのは多分、駆逐棲姫の事よね。………隙はあるの?」

 

そう低めの声で言うのは、ダークオートミールのショートヘアの娘。

 

「………16番艦の朝霜さん。」

「あたい達、深海棲艦との実戦訓練は、駆逐艦イ級やロ級位だぜ?」

 

お手上げのような感じで椅子を揺らすのは、白めの銀髪のギザ歯の娘。

 

「最後に17番艦の早霜さん。」

「負け戦というものは………いつでも嫌なものね、夕雲姉さん。」

 

自嘲気味に最後に締めるのは、腰まであるダークグレーの髪を持つ娘。

5人全員のやる気のない意見を聞いた夕雲は頭を抱える。

分かっていたが、陽炎達とは元々の練度が違う。

普通に戦って勝てるわけが無い。

 

「あたい達に聞くだけ聞いてるけど、夕雲はどうなんだよ?」

「作戦が無いわけではありません。」

 

意外にも朝霜の文句に即答した夕雲の言葉に、5人全員が注目する。

夕雲は、昼間の第十四駆逐隊の牢の中での喧嘩について再度説明すると、そこに隙があるのでは無いか?と言う。

 

「つまり………私達で勝てる要素があるとすれば、訓練で培ったコンビネーションです。」

「陽炎さん達が常に喧嘩をしているわけでは無いとは思うけれど………。」

「だったら喧嘩をさせます。」

 

夕雲の冷静な言葉に、早霜は意外そうな顔をする。

 

「明日の演習………6人で陽炎さんを集中砲火します。砲も魚雷もとにかく全部駆使して。」

「集中砲火ぁ!?他は無視かよ!?」

 

驚いた長波に対し、夕雲は頷いて説明する。

陽炎は第十四駆逐隊の旗艦だ。

つまり、彼女を開幕の集中砲火で驚かせて戸惑わせてしまえば、指揮系統は乱れる。

指揮が乱れれば、艦隊の士気にも影響して作戦が成り立たなくなるし、あの喧嘩の様子を見ていれば、下手すれば演習どころじゃない展開に持ち込めるかもしれない。

 

「そんな上手く………。」

「面白い。」

 

呆れた風雲の声を遮ったのは、低い声を唸らせた岸波。

実はノリのいい彼女は真っ先にその作戦に賛同する。

 

「相手はこちらを怯えた鼠のような新米風情だと舐めているだろう。そこに勇猛果敢に噛みついてやるのは最高に駆逐艦らしくていいわ。ふふっ………窮鼠猫を噛むの精神で、エース駆逐艦を慌てふためかせられるかもしれないなんて………!」

「岸波………スイッチ入ってるわよ。でもまあ、今の私達に残された手段はそれしかないわね。その賭け私も乗るわ、夕雲姉さん。」

 

この二人は座学の成績もよく、艦隊指揮も優れている。

今回の演習では夕雲が旗艦だが、彼女達も十分務められると夕雲は思っていた。

 

「他の3人はどうです?」

「あたい、賛成!ハマったら最高じゃん!」

「長波サマも気に入った!今の夕雲姉、最高に旗艦らしくていいぜ!」

「司令官の見る目も変わるかもしれないわね………フフ………ウフフフ。」

 

この3人も旗艦としての才能はあるだろうと夕雲は見ていた。

それだけ闘志に溢れている娘達なのだ。

長女の見立てに間違いはない。

とにかく、こうして作戦を話し合って最高に駆逐艦魂が盛り上がってきたところで………。

 

「はーい、盛り上がってる所悪いけれど、もうすぐ就寝時間だよ。夜間訓練の申請を出して無いなら、さっさと風呂に入って部屋に戻って。」

『わ!?』

 

突如かかった声に、6人は思わずギョッとして振り向く。

見れば、黒茶色のポニーテールの無愛想そうな艦娘がパンパンと手を叩いて食堂に現れていた。

 

「貴女は………。」

「あー、君達が夕雲型だね。アタシは綾波型2番艦の敷波。今日の夜の当直だから早く部屋に戻った方がいいよ。」

「す、すみません………。えっと………。」

「そうそう、今盛り上がっていた話は内緒にしておくから心配しないで。アタシも陽炎達が慌てふためく姿は見てみたいし。」

 

そう言うと敷波はちょっと悪そうな笑みを浮かべる。

どうやら全部聞かれていたらしい。

夕雲達は彼女に感謝をしながら、風呂場にそそくさと向かっていった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

6人で風呂に入った後、夕雲が部屋に戻ったら、着任報告で疲れていたのか、同部屋の巻雲はとっくに眠っていた。

彼女を起こさないようにしながら、夕雲も就寝準備に取り掛かる。

 

(明日の合同演習………横須賀に来たからには只では終わらせないわ。)

 

憧れの姿とは違っていたとはいえ、陽炎達はやはりエース格なのだ。

そんな彼女達に着任早々ぶつかる事が出来るのは光栄だった。

しかし、自分達もまた、最新鋭の夕雲型艦娘であるのだ。

 

(一泡吹かせる………夕雲型の駆逐艦魂オブ駆逐艦魂を見せ付ける!)

 

そう決意しながら布団に入って眠りに付いた。

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