燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

20 / 83
第20話 霰~追憶:少女の戦い~

「長月!奴の特徴は!?」

「恐ろしい敵だ………何の艦か分からんが、奴は「何でも出来る」!」

「え!?何でもって………?」

 

その意味合いを陽炎達は早速思い知る事になる。

笑みを浮かべたレ級の巨大な尻尾のような口から爆弾を積んだ攻撃機が次々と飛び出してきたのだ。

同時に戦艦並の砲撃と雷巡並みの強力な魚雷が全て同時に展開される。

 

「全部撃ち落として!船には近づけたらダメ!!」

 

五月雨はここまでたどり着いてないし、長月はもうほとんど動けない状態である為、4人しかおらず輪形陣は使えない。

陽炎達はとにかく個人の技量でどうにかしていく。

皐月が戦艦並の砲撃をあわやという所で回避をし、霰が羽虫のような攻撃機を対空機銃で器用に撃ち落とす。

曙は主砲で魚雷の信管を起爆させて派手な爆発を起こした。

 

「コイツ!!」

 

手の空いた陽炎はアームの1本に備え付けられた魚雷を1発放ち、主砲で起爆させ大量の破片を飛ばす。

破片はレ級の尻尾に突き刺さり砲塔や魚雷発射管をボロボロにしたが、次の瞬間には再生されていた。

 

「何!?「姫」クラスか「鬼」クラスなの!?」

「或いは………それと同等だと思う………。」

 

レ級は特に痛がる様子も見せず、尚も攻撃機を飛ばす。

しかし、今度はその攻撃機の動きが違った。

3機の編隊は水面ギリギリを飛行すると、爆弾を抱えたまま皐月を集中的に狙ってきたのだ。

 

「特攻!?低すぎて機銃じゃ落とせない!?」

 

皐月は慌てて主砲の照準を定めると、先頭の攻撃機を撃ち落とす。

2番目の攻撃機は横合いから霰が撃ち落としてくれた。

そして、最後の攻撃機を撃ち落とそうとする。

 

「当た………!」

 

だが、そこにレ級はそこに主砲を放ち、自らの攻撃機を破壊する。

大量の破片が、虚を突かれた皐月に襲い掛かった。

 

「うわあああああああっ!?」

「ギャハハハハハハハハ!!」

 

指を刺して嘲笑うレ級。

皐月は大量の破片で制服と艤装を傷つけられ、戦闘能力を封じられる。

 

「くっ………頭良すぎだって………!?」

「皐月、生きてる!?」

「死んでないよ………でも、主機がもう………!」

 

血を吐く皐月に後退を命じた陽炎は、出鱈目に撃たれる砲撃を色んな手段で回避していく。

魚雷に関しては後ろの船に当たらないようにしないといけない。

そんな陽炎達に尚も攻撃機を飛ばすが、霰が同じ轍を踏まないように早めに撃ち落としていく。

 

「相手の攻撃機は何とかするから………、攻撃に移って………!」

 

レ級を睨みつけてそう霰が無線で言うが、突如レ級の笑顔がまた歪んだ。

すると、今度は見当違いの咆哮に魚雷を放つ。

いや、違う。

その方向には………。

 

「長月!?」

 

艤装も主機もボロボロの状態になり、上手く動けなくなっていた長月に魚雷が迫る。

長月は主砲で起爆させようとするが、狙いがブレて言う事をきかない。

 

「この………!」

 

慌てて霰が向かい自身の主砲で魚雷を狙って、信管を起爆させる。

 

「霰!もう1本そっち行った!?」

「!?」

 

陽炎の警告が響き渡るが、そう何度も主砲は当たらない。

 

「避けろ、霰!!」

 

長月の叫びが聞こえるが、今の大破状態の長月に被弾させられるわけが無かった。

霰は進路上に入って防御状態を取り、魚雷を受け止める。

自分の魚雷は破棄したが、それでも爆発が起き、トレードマークの煙突帽子が吹き飛んだ。

 

「霰!?」

「大丈………うっ………!」

 

ボロボロになった霰は海にうつ伏せで倒れる。

だが、レ級はトドメを刺す事をせずに、今度は陽炎に向かって武装を向ける。

攻撃機、砲撃、魚雷、様々だ。

 

「アタシ達の嚮導に何する気なのよ!!」

 

次々と仲間達がやられていった事で頭に血が上った曙が魚雷を発射し、レ級の武装を破壊しようとする。

しかし、再生能力は衰えておらず、破壊した傍から元に戻っていく。

陽炎は後ろに船がいない事を確認しながら、主砲で攻撃機を狙い、魚雷を避け、更に砲撃を回避する。

絶望的な作業であったが、曙の魚雷の援護もあってどうにか1回目の総攻撃は耐え切る。

反撃でレ級に魚雷を1本叩きこんでやったが、それでもまだ再生する。

 

「いい加減に………!」

 

ジグザグに動きながら左側の魚雷発射管から残りの2本も叩きこんでやろうかと思った瞬間、そのアームが敵の主砲により吹き飛ぶ。

 

「なっ………!?」

 

器用にも背後でアームごと吹き飛んだ魚雷発射管に、もう一発砲が炸裂し爆発を起こす。

 

「わざと………アームだけを狙った!?」

 

敵の驚異的な腕と舐められた態度に陽炎は怒りを覚え、右側の高角砲を叩きこもうとするが、これも主砲の連射によってアームだけを吹き飛ばされ、着水する前に爆発させられる。

 

「どういう技術してるのよ、アレ!?」

 

残った手持ちの高角砲を使おうとするが、更にギョッとさせられる。

レ級はいつの間にかそれこそ駆逐艦並みの速度で陽炎の前に迫っており、無邪気な笑顔と共に、顎に思いっきりアッパーを喰らわせてきたのだ。

 

「ァ………ガ………!?」

「陽炎!?」

 

吹き飛ばされた陽炎は脳震盪を起こし、高角砲を落としてしまい起き上がれなくなる。

尚も踏みつけようとするレ級の姿を見て、曙が主機を全開にして突撃してきた。

しかし、レ級はその正確な射撃をくるりと舞うように回避すると、曙に向けて砲撃を連発し始めた。

 

「コイツーーーっ!?」

 

1対1で勝てる相手であるはずも無く、程なく曙も抵抗空しくボロボロになって倒れてしまう。

 

「ギャハハハハハハ!!」

「グ………。」

 

散々第十四駆逐隊を嬲った後、レ級は陽炎の首を掴んで強引に持ち上げる。

尚も陽炎は鋭い視線で睨みつけたが、レ級はにやりと笑うと今度こそ船を見た。

 

「あ、アンタ………!?」

「レ?」

 

敢えて今更気づいた様子で船を凝視すると今度こそ必殺の魚雷を放つ。

第十四駆逐隊の面々に、完全なる敗北を見せつけるかのように。

 

(終わった………!?)

 

そう思った陽炎だったが、横目でその視線を追って驚愕する。

魚雷の進路上に、航行すらまともに行えない状態の五月雨が………手を広げて立っていたからだ。

そして、魚雷は彼女にぶつかると、音を上げて爆発を起こす。

 

「レレ?」

 

その様子を滑稽に思ったのか、レ級は陽炎を投げ捨てると五月雨の元へと向かう。

五月雨は荒い息を吐きながら、何とか立っていた。

レ級はその傍まで行き、不思議そうに見つめ………その笑顔を邪悪に歪めると思いっきり腹に拳を叩きこむ。

 

「グ………ァ………!?」

「ギャハハハハハハハハハハ!!」

 

口から大量の血反吐を吐き散らした五月雨の様子を見て、レ級は面白いおもちゃを見つけたかのように次々とその身体を殴ったり蹴ったりしていく。

艤装が合わない五月雨は抵抗する術も無く、文字通りなすがままだ。

 

「や………やめろよぉ………!」

 

皐月の悔しそうな声が隊内無線で聞こえてくるが、陽炎達は身体が動かない。

むしろ、この屈辱が最初から狙いだったかのようにレ級は五月雨を殴り続けた。

 

「レレレ?」

 

どれだけ殴った後だろうか?

レ級は五月雨の髪を掴むと強引に彼女を起き上がらせ血に汚れた顔を見る。

五月雨は目を開くと弱々しく睨みつける。

そして、何とか右腕を振るうと、その顔を殴ろうとする。

だが………。

 

ベキッ!!

 

「あ………。」

 

その拳が尻尾の巨大な口によって噛みつかれそこから血が噴き出す。

レ級の笑みがまた邪悪に染まる。

 

ブチブチブチブチブチブチブチブチッ!!

 

「ああああああああああああーーーっ!?」

 

肉が割ける音と骨が砕ける音と声にならない悲鳴が同時に響き渡る。

五月雨の右肘から下が、その巨大な顎によって強引にむしり取られたのだ。

腕からはおびただしい血が流れていく。

 

「五月雨さん!!」

 

船の甲板で応急処置を受けていた潮はもう艤装が無いにも関わらず海に飛び込もうとしていた。

慌てて救急隊員達に止められる物の、彼女を含め、第十四駆逐隊の怒りの沸点は限界を超えていた。

 

「こん………の………!!」

 

陽炎は歯を喰いしばり何とか起き上がろうとするが、脳震盪を起こした頭はそう簡単には働いてくれない。

それでもこのまま仲間がなぶり殺しにされるのを黙って見ていてたまるか、と思った瞬間だった。

 

ボッ!!

 

「………レ?」

 

レ級の尻尾が突如吹っ飛んだ。

いきなり起こった現象に誰も判断が追いつかない。

レ級すらポカンと口を開いている。

その口の中に、五月雨の左拳が強引に突っ込まれた。

 

「モガ!?」

「私の………右腕………そんなに美味しかったですか………?」

 

息も絶え絶えに言う彼女は………レ級にあろう事か微笑みかけていた。

散々殴られ、腕をもがれ、血まみれになっても………その闘争本能は失われてなかった。

 

「だったら………左腕も………爆雷たっぷりサービスして………くれてやります!!」

 

その言葉で先程右腕を喰らった尻尾が派手に爆発したのも、今から起こる事も、全てを悟ったレ級の顔が初めて恐怖に歪む。

しかし、時すでに遅し。

レ級の口の中が光に包まれた瞬間………派手な爆発が、五月雨とレ級を包んだ。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

五月雨は海の中を沈みかけていた。

その両肘から先は無くなっており、身体もボロボロで動かない。

自分はこのまま沈んでいくのだなと思った五月雨は見た。

目の前で頭が吹っ飛ばされた深海棲艦が、最期の力を振り絞り、五月雨の心臓をむしり取ろうと、その鋭利な爪を伸ばしてくるのを。

だが、別にそれでも構わなかった。

一緒に沈んできているって事は、陽炎達や船は無事だという事だ。

それに………むしろ、以前自分がしでかした事を考えれば、ここで一思いに殺して欲しかった。

 

(みんなに迷惑かけちゃったな………。)

 

そう思った五月雨は最期に陽炎や吹雪を始めとした鎮守府の皆の姿を思い描いた。

その中には、あの横須賀で今も書類と格闘をしている提督の姿もあった。

 

(さよなら、みんな………。)

 

そう呟き、目を閉じようとした時であった。

細い魚雷がレ級に炸裂し、トドメを刺す。

そして、その口に新鮮な空気が出てくるマスクが押しあてられる。

 

(???)

 

五月雨は見た。

黒い髪の潜水艦娘の姿を。

そのまま彼女は、運貨筒の中に入れられて、気を失った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

五月雨が、次に目が覚めた時、彼女の周りには第十四駆逐隊の面々が揃って並んでいた。

いずれも心配そうな顔をして彼女を見ていた。

身体を見下ろすと、どうやら船渠(ドック)入りをしているらしく、高速修復材(バケツ)で両腕は元に戻っていた。

まだ上手く動かせないが、その内順応するだろう。

 

「ここは………どこ………?」

「大湊警部府よ。」

「船………無事に着いたんだね………。」

「ええ、アンタのお陰で私達は英雄扱いね。」

「もしかして………怒ってる………?」

「凄く怒ってるし、同時に自分達の力の無さに腹が立ってるわ。」

 

第十四駆逐隊を代表して陽炎が五月雨の質問に静かに答えていく。

その顔は五月雨の目覚めに対しての嬉しさよりも、むしろあのような選択肢を取らせてしまった事への悔しさに変わっていた。

 

「ねえ、答えて五月雨。どうしてあんな滅茶苦茶な相打ち覚悟の戦いをしたの?偶然、幌筵から出張していたまるゆが私達に会いにこっちに向かってきていなかったら、アンタ轟沈してたのよ?」

 

咄嗟に五月雨を救ってくれたのは、真面目でか細い潜水艦娘であるまるゆであったのだ。

彼女は同じく幌筵から出向してきた軽巡の木曾と一緒に、今は大湊の秘書艦である涼風に陽炎達に変わって報告をしてくれているらしい。

五月雨は沈痛な面持ちの第十四駆逐隊の面々を改めて見渡すと覚悟を決めたように言う。

 

「みんなには迷惑を掛けたから………私の事聞く権利があるよね。」

 

そして、彼女は静かに………自分に言い聞かせるように呟く。

 

「私ね………昔、本当に轟沈した事あるんだ。」

『え?』

 

訳の分からない言葉に陽炎達の顔が強張る。

それに構わず五月雨は続けた。

 

「轟沈して………気づいたら、深海棲艦になっていたの。」

 

更に続いた衝撃的な言葉に、船渠(ドック)内の空気が固まった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。