燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第21話 五月雨~追憶:少女の罪~

「どういう………事なのよ………。」

「そのままの意味だよ。私達5人の初期艦が横須賀の鎮守府に着任した時、当然だけどまだちゃんとした戦法が確立されてなくて………戦いに凄く苦労したの。」

 

どんな敵深海棲艦がいるのか。

どんな陣形が有効なのか。

どうやって「艦娘」という戦力を活かせばいいか。

全てが探り探りの状態で進められていた。

 

「だから………毎日死と隣り合わせの戦いが続いて………ある日、犠牲者が出てしまったの。それが私。駆逐艦五月雨は轟沈してしまったんだ。ほら、私はドジっ子だから………。」

「それで………深海棲艦になったって………どうして?」

「原理とか理屈とかは未だに分からない………。でも、私は気づいたら深海棲艦になってた。深海棲艦になって………船………とか………を………。」

「五月雨!?」

 

突如まるで適正外の艤装を装着したかのように、ガタガタと身体を振るわせる五月雨を見て、慌てて陽炎が駆け寄る。

その愛らしい目は、今は見開かれていて恐怖と後悔に染まっていた。

 

「ゴメン!言いたくないならいい!聞いた私が悪かったから………!」

「ううん、言わせて………!私ね、船を襲ってたの………。何の抵抗も出来ない民間船を………よりにもよって笑いながら………!」

 

過去を思い出してしまった五月雨の声が必然的に大きくなる。

爆発を起こす船から響く弱々しいエンジン音。

鉄骨が軋み歪み折れる不協和音。

そして、人々の恐怖と絶望の悲鳴と断末魔。

全てが最高の味を生み出す贅沢な料理のフルコースであった。

 

「酷いよね………!深海棲艦五月雨はそんな事をして楽しんでたんだよ………!でも、でもそれだけならまだマシだった………!私、私………!」

「五月雨!五月雨!!」

「その手に持った主砲で撃ち抜いていったんだ!船から転げ落ちて溺れそうになっている人達を!1人1人丁寧にその頭を!!」

 

陽炎が必死に肩を押さえるが五月雨の声は止まらない。

それこそさっき対峙した深海棲艦のように、無邪気な笑顔で1人ずつ絶望を与えていった。

必死に命乞いをする者もいた。

恐怖に泣き喚く子供もいた。

まだ生まれたばかりの赤子を抱えてこの子だけはと懇願する母親もいた。

その哀れな願いを全て無視して………五月雨は命を摘み取っていった。

 

「おかしいよね!!私………私は………!!人間の為に戦う決意をしたはずなのに、人間の敵になったんだよ!?人殺しになったんだよ!?大量殺人犯だよ!?私なんか!私なんかが居たからみんなっ!!」

「五月雨ーーーっ!!」

 

気が付けば、大量の脂汗と涙をこぼして声の限りに叫んでいた五月雨に陽炎が抱き着いていた。

潮と皐月が慌てて部屋に用意してあったタオルを絞って額に乗せる準備をしており、曙と長月と霰は扉の外に誰かいないか厳重に警戒していた。

幸い外には誰も居らず、五月雨の言葉はこの中の6人だけに聞こえていた。

しばらく陽炎に抱擁されて落ち着きを取り戻した五月雨は、潮によって額に濡れタオルを乗せられる。

 

「ゴメンね………取り乱して………。」

「取り乱さない方がおかしいわよ。本当にゴメン、聞いちゃいけない事聞いてしまって。」

「ううん、言おうとしたのは私………。だから、最後まで聞いて。」

 

五月雨はふうっと息を吐くと話の続きをする。

 

「私が深海棲艦としての最後の記憶は海の中に沈みそうになった時………艦娘達に撃沈されそうになった時なの。その手をね………電が掴んでくれていたんだ。」

 

手を掴んだ電の姿はボロボロあった。

深海棲艦五月雨との戦闘で傷ついたからであろう。

でも………それでも彼女は微笑んで言ってくれた。

いつか平和な海で友達になろうと。

沈んでしまった大切な仲間達の分も幸せになろうと。

 

「その言葉を聞いた時………、私の中で封じられていた艦娘としての記憶が蘇ったの。そしてね………心の底から願った。「戻リタイ」って。そしたら………元に、戻れたんだ。」

 

その時の電の喜びようは忘れることが出来ない。

彼女は、沈んでしまった五月雨の分まで強くなろうと誓っていたのだ。

だからこそ、泣きながら五月雨を力いっぱい抱きしめてくれた。

こんな罪深き五月雨を………受け入れてくれたのだ。

 

『………………。』

「軽蔑するよね、私の事。」

「ううん。」

 

全ての会話が終わった時、五月雨の自嘲気味の言葉に対し、陽炎は首を振った。

その顔に偽りはない。

霰も、長月も、皐月も、潮も、曙も。

 

「ようやく私も理解したわ。五月雨は今まで犠牲にしてしまった分、何が何でも船に乗っている人達を救いたかったのね。」

「うん………こうしてまた艦娘になれたのは、きっと運命だから。」

「ボクも分かったよ。艤装は修理に出したんじゃなくて、新しく新調したんだね。わざわざ大湊で用意して貰ったのは、横須賀だと色々と目立つから………かな?」

「大体皐月の解釈であってるよ。」

 

皐月の言葉に五月雨は親切に答える。

艦娘が深海棲艦になって戻って来たなんて前代未聞の出来事だ。

軍上層部はなるべく静かに事を運びたかったのだろう。

 

「艦娘に戻ったのは………そのなんだ、上からの命令なのか?」

「それもあるけど、ほとんど自分の意志。だって、私は………咎人だから………。」

「違うよ………五月雨は咎人じゃない………。だって………。」

「心配してくれてありがとう、長月、霰。でも、事実は目を背けても消えないから。」

 

尚も扉の外を見張っている2人にも五月雨は笑顔を向ける。

そんな彼女の前に、曙と潮も出てきた。

 

「五月雨………アタシ、アンタの事誤解してた。弱い艦娘だって思ってたけど、実際はその逆で、とても意志の強い駆逐艦娘だわ。だから………ゴメン!」

「謝らなくていいよ。でも、曙に頭を下げられるなんて貴重かなぁ………。」

「みんな、五月雨さんの強さに感服しているんです。私も謝らないといけません。ごめんなさい。」

「ううん、私こそ潮の艤装壊しちゃってゴメンね。」

 

その仲間達の姿を見ていた陽炎は、決めたと言って立ち上がる。

一体なんだ?と思った一同の視線が彼女に集まる。

 

「五月雨が艤装を新調したら、私達第十四駆逐隊がしばらくリハビリに付き合うわ。その………深海棲艦といきなり戦うのは、きついでしょうし。」

「陽炎………うん、ありがとう。言葉に甘えさせて貰うね!」

 

五月雨は笑顔で応える。

第十四駆逐隊の仲間達も異論は無いと言わんばかりに力強く頷いた。

 

こうして、ここに駆逐艦魂旺盛な艦娘が1人蘇る事になる。

今度こそ五月雨として………駆逐艦五月雨として、戦う為に。

その一歩がここから始まった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

陽炎の口から全ての過去が語られた時、夕雲達は絶句していた。

彼女の隣に座っている五月雨は、目に影こそあったが至って普通の表情だ。

 

「あ、あの………この話………私達が聞いて良かったのでしょうか………?」

 

ようやく夕雲が一同を代表して聞き始める。

これは五月雨のプライベートであり、軍の最重要機密事項だ。

色んな意味で聞いたらマズイ気がしていた。

だが、陽炎は首を振ると敢えて軽く答える。

 

「心配はいらないわ。ある程度練度を積んだ艦娘達には全員伝えるように司令と五月雨から周知されているから。」

「ど、どうして………!?」

「そりゃ、勿論本当は隠しておくべき事なんだろうけど、あの後状況が変わったのよ。五月雨以外にも、深海棲艦から元に戻る艦娘や、深海棲艦自体が落としていく艦娘が出てきたの。夕雲達は思い当たる節があるでしょ?」

 

その言葉に夕雲達はハッとする。

旗風や薄雲といった少女達の事を指しているのだ。

ある程度予想はしていたとはいえ、彼女達は、元々は艦娘………過去に深海棲艦との戦いで轟沈した駆逐艦娘だったのだ。

 

「司令はこの現象を「奪還(ドロップ)」と呼ぶ事にしたらしいの。そして、五月雨の過去を轟沈に対する戒めとしてみんなに話していく事を決意したのよ。」

 

それは、五月雨にとって相当な覚悟であっただろう。

大量殺人を犯した自分の深海棲艦としての過去を語るのだから。

下手すれば忌み嫌われるかもしれない役目を自ら背負うと決めたのだから。

 

「五月雨さん………。」

「軽蔑するなら幾らでもしてもいいよ。それで轟沈が少しでも防げるのならば願っても無い事だから。」

「そんな事………。」

「でも、もしも今の話で少しでも何かを感じ取ってくれたのならば、私は命を大事にして欲しい。駆逐艦とはいえ………人類の為に戦う艦娘とはいえ………貴女達は生きているんだから。」

 

五月雨は静かに言うと、優しく夕雲達に微笑みかけた。

夕雲は思ってしまう。

こんな心優しい少女が、罪の意識に縛られ続けないといけないなんて。

それこそ、自分の幸福を封じてしまう覚悟を持つ位に………。

 

「じゃ、各自思う所はあるでしょうけど、今日はここで解散。明日は臨時休暇取らせたからゆっくり休んでね。」

「はい………。」

 

陽炎がパンパンと手を叩いて集まった夕雲達を解散させた。

彼女達は部屋に戻る。

それぞれの想いを胸に。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

布団に潜った夕雲は眠れなかった。

陽炎の語った話で深海棲艦への見方が変わったから当然だ。

ネームシップとして五月雨の言葉も心に深く刻まれていた。

 

(命を大事に………か。)

 

「帰ろう、帰ればまた来られるから。」

「巻雲さん?」

 

夕雲は通路の向かいで同じく布団を被っている巻雲を見る。

パジャマ姿で眼鏡を取っている彼女は夕雲の方を見ずに呟く。

 

「どこかの誰かがそんな言葉をつぶやいていた気がします。………頭の片隅に入っていただけですが、何故か思い出してしまって。」

「そうですね………。私達は果敢に戦う事も大事ですけれど、同時に無事に帰ってくる事も大事ですからね。」

 

しばらく2人は無言になる。

夕雲は過去に色々な意味で仲間を沈めそうになった。

実力不足、旗艦としての指示、そして慢心。

どの経験も忘れられないし、忘れる気も無い。

大切な経験として心に刻み、糧として成長しようと決めたのだ。

そう改めて意志を固めた夕雲に対し、巻雲は呟く。

 

「私、考えたんです。もしも自分が深海棲艦になって無差別に破壊する存在になったらどうしようかと。」

「はい………。」

「その時は………可能ならば、夕雲姉さん達に雷撃処分して欲しいかなって。」

「そうですね………私も巻雲さん達にならば………。」

 

また2人は無言になる。

お互い、まだまだ不完全とはいえ改二になれるようになったのだ。

深海棲艦になった時、どうせ倒されるのならば………。

 

「これ以上考えるのは止めましょうか。今は色んな人達によって成り立っているこの命………大事にしましょう。」

「はい、お休みなさい………夕雲姉さん。」

「お休みなさい、巻雲さん。」

 

頭の中を整理する時間はまだまだあるはずだ。

今は疲れを取って次の出撃に備えようと2人は眠りに付いた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「厄介な事になったな………。どうした物か………。」

 

執務室では提督が目を瞑りながら呟いていた。

今回も薄雲の奪還(ドロップ)によって書類整理が大変な事になった。

この疲れが提督業の常となってしまっており、それ故に全てを片付けて眠りに付く時に一種の幸せを味わえる。

だが………頭に何かが引っ掛かっているとそれすらも許されない。

 

「悩んでいると睡眠の質が落ちて身体を壊しますよ?」

 

夕雲達との会話を終え、執務室に戻って来た五月雨が毛布を掛ける。

だが、提督は黙って5枚の書類を五月雨に渡し、深く溜息を付く。

それを見た五月雨の顔も曇った。

 

「いよいよこの時が来たが………さて、誰に任せるか。」

「提督業の難しい所ですね。………陽炎は?」

「アイツはしばらく秘書艦補佐でお前のサポートをさせる。………やはり、ここは電の直感を信じてみるか。」

「分かりました。」

「少しだけ仮眠を取る。後は………頼む………。」

 

すぐに寝息を立て始めた提督を見て………、こんな自分にも変わらぬ信頼を寄せてくれている男の姿を見て、五月雨は少しだけ微笑んだ。

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