燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第22話 電~嚮導~

「うーん!夏は、朝は丁度いい風が吹くわよねー。」

 

朝日の見える横須賀の岬。

いつもより早起きをした風雲は照らされる陽光を受けながら伸びをしていた。

春に長月達に艦娘としての心構えを教えて貰い、電という偉大な先輩に導いて貰った事があったからか、彼女にとってこの場所はいつしか特別になっていた。

だからこそ、たまに当直の艦娘にお願いして駆逐艦寮の窓を開けて貰い、こうして岬へと赴いている。

 

「やっぱり風雲って名前だから、風が気持ち良く感じるわよね。私、案外人間だった頃も、こうして朝日を見ていたのかも。」

 

艦娘が人間だった頃の記憶は、艦としての記憶を植え付けられた時に無くなる。

しかし、名残みたいなのが僅かに残っている事はあるみたいで、例えば岸波はジャズバンドに入った際に、何故か卓越したドラムさばきを見せていた。

彼女曰く、人間だった頃は案外ドラムの達人だったのかもしれないとの事。

そういう感じで、意外な趣味や特技を見せる艦娘もいるのだ。

 

「代表的なのは秋雲よねー。何で同人作家としての技能があんなにあるのか………。」

 

陽炎型と夕雲型の中間に位置する秋雲は、事あるごとに艦娘をデッサンモデルにしてラフだの色んな物を描く。

それだけならまだしも、風雲を巻き込んで同人誌の販売を目論んでいるのだからたまった物では無い。

舞鶴に居た頃は、何故か冬に売り子を担当させられた事もあった。

 

「季節が移り変わって夕雲型のみんなも、鎮守府の色んな艦娘との交流が盛んになって来たけど、それに乗じて良からぬことを画策してそうなのよねぇ………。」

「色々と妹達の事を心配するのはやはり三女ですね。」

「あ………。」

 

過去を思い出して、水平線に対し微妙な視線を送っていた風雲は、優しい声と共に現れた艦娘達の姿に驚く。

そこにはくすりと笑う電と、風雲の話を聞いていたのか何とも言えない顔をしている長月がいた。

 

「電、長月………おはよう!2人も朝日を見に来たの?」

「はい。ちょっと相談事をしながら気を紛らわす為にこの岬に来ていました。」

「2人が気を紛らわすって事は………結構重大な事なんだね。」

「そうだな。それで………単刀直入に言う。風雲、私達を助けてくれないか?」

「助ける………?」

 

長月の言葉で電も真剣な顔になり、風雲を見る。

勿論、風雲にしてみれば、恩師である2人の助けにはなりたかった。

只、その内容は気になった。

 

「具体的にはどんな事をすればいいんですか?」

「嚮導をして欲しい。」

「え?」

「嚮導艦になって欲しいのです、風雲ちゃん。嘗て陽炎ちゃんや長月ちゃん達がやっていたように。」

 

嚮導艦。

簡潔に言えば、未熟な艦娘の教育をして実戦レベルにまで練度を高める精鋭艦娘の事だ。

それを………風雲が担当しろという事である。

 

「えーーーっ!?」

 

いきなり告げられた大役に、風雲は思わず素っ頓狂な声を上げた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

電と長月によって執務室に連れられた風雲が見たのは、昨晩の書類整理で疲れ果て、椅子にもたれながら眠っていた提督の姿であった。

 

「そう言えば、薄雲って艦娘が………えっと奪還(ドロップ)したから………。」

「私達がアンタ達に説明してたから、書類整理が大変だったらしいわよ。初風達を応援に読んだらしいけど、それでも時間は掛かったみたい。」

 

部屋には臨時で秘書艦補佐になった陽炎が、書類の束を彼の代わりに整理していた。

本来の秘書艦である五月雨は昨晩の話の事もあった為、今は就寝しているらしい。

 

「提督も五月雨も大変よね………。陽炎さ………陽炎もだけど。」

「私は経験あるし、四六時中やるわけじゃないからそんな苦じゃないわよ。要は慣れよね。」

「いずれは夕雲型も誰かが秘書艦補佐やるのかな?」

「適正の高そうな娘から選ばれるかもね。………と、そろそろ起こしましょうか。」

 

陽炎は提督の椅子を揺すり、彼を仮眠から起こす。

目が覚めた提督は少し息を付き、陽炎が用意したコーヒーを飲み干すと風雲を見る。

 

「すまない。少し情けない所を見せた。」

「いえ………お気になさらず。それであの………嚮導になれって言われたのですが。」

「電の推薦だ。夕雲型の三女であるお前ならば、適性が高いと思ったそうだ。」

「こういうの、普段は真っ先に夕雲姉さんが………ってそうか、姉さんがいないと夕雲型が纏まらないのか。」

「理解が早くて助かる。」

 

提督はそう言うと、書類を5枚見せる。

そこには5人の艦娘の姿が記されていた。

その内の1枚を見て、風雲の目が見開かれる。

 

「こ、これって………!?」

「このタイミングで上から再指導の命令が下ったのは何かの運命かもな。」

「待って下さい、彼女達は私達より先輩で………!」

「だが、就任期間と練度は、今は君の方が上だ。改二にもなれるようになったのだろう?」

「はい。でもまだ、私は敷波の指導の元でも1分半保つのが限界です。」

 

今の所、春から夏にかけての訓練や実戦の中で、夕雲型の中では巻雲と風雲が改二になれるようになった。

ここら辺は電の言う通りであり、彼女の先見の目が的中した形だ。

だからこそ、風雲は真っ先に彼女に対し、感謝の言葉を伝えに行ったのを覚えている。

しかし、それでもまだまだ不十分な所があり、長時間改二の姿は保てない。

そんな半端な自分が嚮導という大役を果たす事ができるのだろうか?と思ってしまった。

 

「心配はいらない。第十四駆逐隊を率いる陽炎も元々は改二になれて無かったし、お前達を指導している初風達も改二にはまだ目覚めていない。」

「確かにそうですが………でも、私は彼女達を実戦に出せるようにしないといけないんですよね?正直、昨晩の話も含めて思ったのですが………。」

「その懸念は俺も抱えている。実際、五月雨の時も少し時間は掛かったからな。だから、しばらくは電をサポートに付ける。それで頼まれてくれないか?」

 

提督はそう言うと、何と風雲に対し頭を下げてきた。

これには思わず彼女も面食らう形になって慌てて止める。

 

「わ、分かりました!嚮導の役目、受けますから!だから、やめて下さい!」

「すまん………何か気になる事があったら五月雨でも陽炎でも誰でも構わん。色々と聞いてみてくれ。」

 

そう言った提督は必要な書類を陽炎に用意して貰うように言うと、また同じように仮眠を取り始める。

どうやら奪還(ドロップ)に伴う作業は相当な物であるらしい。

 

(当然か。………多分上層部でも考えが分かれていそうな案件なんだし。)

 

季節が移り変わる中で、夕雲型の面々は初風達からこっそり上層部の艦娘に対する考え方………只の道具としか見ていないという事もしっかりと教えて貰っていた。

だからこそ、面倒な命令書等の対応に追われる提督の気持ちを風雲は理解できた。

実は、この理解力の速さと人の良さが風雲の魅力として育ってきているのでは無いか、と電は密かに思ったので嚮導に推薦をしようと考えたのだ。

とにかく………。

 

(まずは………どんな性格の艦娘達か知る所から始めないとね。)

 

風雲は陽炎から渡された書類を見る。

そこには、電と駆逐水鬼を撃沈した時に奪還(ドロップ)した旗風を含む、神風型5人の情報が記されていた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

次の日の朝、電と共に訓練海域に赴いた風雲は、艤装を背負った神風型の艦娘達の姿を見た。

基本、同じ艦種の艦娘達は似たような制服を着ている事が多いが、彼女達は皆女学生風の和装で揃っていた。

思わず綺麗だと思った風雲は、早速自己紹介を始める。

 

「もう伝わっていると思うけど、私は夕雲型3番艦の風雲。今日から貴女達の嚮導を担当する事になったわ。別にため口呼び捨てで構わないから遠慮なく言いたい事は言ってちょうだい。宜しくね。」

 

比較的フレンドリーに話しかけたが、神風型の面々は無言。

そっぽを向いていたり、頭をかいていたり、おどおどしていたり反応は様々だ。

あまり、自分に対していい感情を持ってなさそうだったが、それも当然だと風雲は思う。

一応は、彼女達は先輩になるのだから。

 

「じゃ、自己紹介始めよっか。まずは………一番端の黒と紺色の袴の艦娘から!」

「わたくし………ですか?」

 

風雲が指定したのは、おどおどしている毛先がポニーテールの栗色の髪の娘だ。

最初に指名した理由は簡単。

彼女の事を風雲の方は知っていたからだ。

 

「神風型5番艦旗風です。その………第五駆逐隊に所属しています。これで宜しいでしょうか?」

「ありがとう。じゃあ、次は濃い緑の袴の艦娘!」

 

その横で頭をかいている黒のショートヘアにグリーンの瞳の娘を指定。

彼女はふうとため息を付くと自己紹介を始める。

 

「神風型4番艦の松風さ。キミが嚮導?経験するのは初めてかな?」

「ええ。私も色々と勉強させて貰うつもり。」

「ハハッ、正直者だね。じゃ、僕の背中を任せようかな。」

「ありがとう。次は、その横の緋色の袴の艦娘ね。」

 

5人の中では一番整然としていたセミロングの茶髪の縦髪を縦ロールにしている娘を指定する。

彼女は物腰柔らかそうにお辞儀をすると自己紹介をする。

 

「神風型3番艦の春風と申します。わたくし達の嚮導を担当されるというのならば、ご指導ご鞭撻のほど宜しくお願いいたします。」

「一緒に頑張ろうね。で、その横の青と白の寒色系の袴の艦娘だけど………。」

 

こちらを睨みつけている亜麻色のロングヘアーに青い大きなリボンを付けている艦娘を指定する。

如何にもプライドが高そうだったが、しぶしぶ彼女も自己紹介を始める。

 

「神風型2番艦の朝風よ。第五駆逐隊では妹達4人の旗艦だったわ!」

「じゃ、今回も頼りにしてるわね。」

「う………も、勿論よ!私に掛かれば朝練のメニューだって!!」

「OK!朝練も期待できるわね!最後は桜色の袴の艦娘!どうぞ!!」

 

思ったより体育会系なんだなと頭の中の情報を修正した風雲は、最後にそっぽを向いている紅のロングストレートの艦娘を見る。

しかし、少女はそっぽを向いたまま何も話そうとしない。

残りの4人が思わず自己紹介をしろと声を掛けるが、それでも反応しない。

 

「確か、資料だと神風型1番艦………ネームシップの神風よね?自己紹介したく無いの?」

 

それでも黙っているのをみて、風雲は溜息を付くと、思い切って挑発してみる。

 

「神風型のネームシップは自己紹介も出来ない………と。」

「出来るわよ!それ位!!でも、電ならともかく、貴女のような新米が私達の嚮導なんておかしくない!?」

「文句は軍の上層部に言ってね。提督は相当頭を悩ませていたから。でもまあ、艦娘としての経歴は確かに神風型の方が遥かに先輩よね。睦月型よりも前に作られたんだから。」

「そうよ!私達は誇りある神風型よ!でも、夕雲型だっけ!?貴女は私達の事、旧式だってバカにしてるんでしょ!?」

 

噛みつく勢いで叫んでくる神風の姿を見て、風雲は頭の中で資料と比べた情報を修正しながら静かに喋り始める。

 

「確かに私、昔は最新鋭の自分が主力にならないといけないと思って他の艦を侮っていたわ。でも、偉大な睦月型や暁型の先輩のお陰でその見方は変わったつもり。貴女達神風型も………世界一の艦だって思っているんでしょ?」

「と、当然よ………!」

「だったらその想いを胸にお互い努力しよ。改めて宜しくね、神風。」

「フン………!仲良くする気なんて無いわよ!妹達を取って食ったら魚雷を撃ち込んでやるんだから!!」

 

風雲の素直な想いを感じ取ってくれたのか、結局言いたい事だけを言いながらも、その場は引いてくれた神風に対し、彼女はかなりの違和感を覚える。

チラリと斜め後ろに佇んでいる電を見つめると、彼女も同意と言わんばかりに目をつむり応える。

資料にあった神風の性格は妹想いの優しい艦娘である。

勝気で気が強く生真面目ではあるが、相手に喧嘩上等で噛みついてくる性格では無いはずだ。

多彩な性格の妹達を抱える風雲で無ければ、殴り合いになっていたかもしれない。

 

(これは………何かありそうね………。)

 

元々5人共過去に轟沈して文字通り深海から戻って来た艦娘達なのだ。

複雑な事情があってもおかしくないと、風雲は思った。

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