燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第25話 朝風~再び戦地に赴いて~

『かんぱーい!!』

 

風雲が神風型の面々と大乱闘をした日から数週間後の夕方、提督の執務室の横に設置されている秘書艦室では、陽炎、霰、長月、皐月、潮、曙の6人が久しぶりの再会を楽しんでいた。

机には無料で配布されているジュースや売店で買ってきた菓子類が並んであって、さながらパーティのような雰囲気だ。

その部屋に訓練後に資料を漁りにやって来た風雲は思わず怪訝な顔をする。

 

「………あの、陽炎。ここ、秘書艦室よね。第十四駆逐隊の再会パーティに勝手に使っていいの?」

「私は秘書艦補佐よ?五月雨に許可貰えば自由に使う権限はあるでしょ?」

「そ、そうだけど………。」

 

肝心の五月雨はというと、机に座っていつもの笑顔で書類を整理していた。

陽炎達の振る舞いにとやかく言うつもりは無いらしい。

とはいえ、これは秘書官補佐という権限の悪用では無いか?とも思ってしまう。

 

「まあ、いいじゃないの。何なら風雲も混じる?噂は聞いているわよ?神風型の練度向上に嚮導として一役買ってるんだって?流石、長月の元で力を付けただけあるわね。」

「私では無く初風や電のお陰だ。特に電はああ見えて肝が据わっているし、今も彼女のサポートをしてくれている。」

「夕雲と………挨拶した時も………姉として誇らしいって言ってた………。」

「ボクもその時の夕雲の満面の笑顔、覚えてるよ!とても嬉しそうだったなぁ………。」

「ね、姉さんが………?それは嬉しいけど………うーん………。」

「まだ何か悩みがあるのですか?」

 

菓子類を分けて運んできてくれた潮の言葉に風雲は正直に答える。

元々艦娘をやっていただけあって、神風達の練度は春頃の風雲達よりは数段高い。

海への恐怖心を克服した後は、的当ても陣形練習も模擬戦もそつなくこなしていた。

だが、肝心の深海棲艦との実戦をまだ経験していないのだ。

実戦より前に遠征では無いかという意見もあったが、そちらも完全に安全とは言えない為、風雲としてはまず実戦をやってみたかった。

とはいえ………。

 

「最近は近海でも重巡クラスが出る可能性が僅かだけどあるんでしょ?アンタ達や初風に至っては駆逐棲姫の挟み撃ちを受けたんだし、簡単には抜錨できないわよね。」

「うん、稀な例だったとはいえ………何処に出ても危ない可能性がある以上、完全なギャンブルになると思う。」

「更に言えば………神風さん達が深海棲艦と対峙した時にどんな反応をするのかも未知数ですよね。」

「でもさ、上層部もいつまでも黙って無いんだよね?今頃司令官の元には滅茶苦茶な苦情が届いてるんじゃないの?」

 

皐月がチラリと五月雨を見る。

彼女はその視線にコクリと頷く。

どうやら、提督は本当に上層部との対応に追われているらしい。

 

「どうしようかな………。」

「ちょっとの間だけど、アタシ達全員横須賀にいるわよ?サポートに回るから、1回近海に出てみたらどう?」

「いいの………?」

 

何気なく言ってのけた曙の言葉に、風雲は申し訳なさそうな顔をする。

彼女は1回、風雲達を救ってくれている。

また頼むのは少し気が引けた。

 

「遠慮するのは………良くないと思う。使える者は使えばいい………それが駆逐艦流………。」

「霰の言っている事は少し過激な気がするが………私達も久々に6人で出てみたいからな。今から明日、沖に出る許可を貰ったらどうだ?」

「長月………分かった、宜しくお願いするね!」

 

風雲はそう言うと、潮が持ってきてくれたチョコレートを遠慮なく頬張った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「いよいよ深海棲艦と対峙するのね!よし!腕が鳴るわ!」

 

神風達には、夕食の時に食堂で明日の説明をした。

朝風達4人は緊張の面持ちで聞いていたが、事情が事情だからか神風は腕まくりをして意気込んでいた。

 

「あくまで近海で1回戦闘をするだけだからね。幾ら第十四駆逐隊のサポートが入るとはいえ、無茶はしたらいけないから。引くタイミングがあったら迷わず引くわよ。」

「分かってるわ!でも、恐れていたら何もできないでしょ!」

「そこら辺はバランスが大事ね。神風、妹達の面倒もしっかり見てよね。」

「任せて!」

 

既に闘志をみなぎらせている長女の姿に、頼もしさ半分危うさ半分の感情を抱いた風雲は念押しする。

流石に数週間一緒に訓練をしたからか、風雲は、神風を始め神風型5人とはそれなりに打ち解けていた。

しかし、彼女達の過去が過去である為に、どうしても慎重になってしまう部分がある。

こればかりは今後、更に時間を掛けるしか無かった。

 

「とりあえずそういうわけだから、今日は早く寝て明日に備えてね!」

 

軽くミーティングをすると、風雲達は解散をした。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

次の日は暴風雨と雷が襲い掛かる荒天だった。

これまでの間に荒れた日の訓練はしていた為、それだけで転覆する艦娘はいなかったが、流石に朝風達は緊張した面持ちだった。

唯一、神風だけが昨日のように高揚した面持ちで抜錨を待っている。

 

「こっちはいつでも抜錨できるわよ!」

 

ちゃんと働くか確認するという目的で、隊内無線で陽炎の声が流れてくる。

見れば、バラバラの艤装を背負った艦娘6人………第十四駆逐隊が隣で準備をしていた。

 

「お願い。」

「じゃあ久々にこの言葉が使えるわね!………第十四駆逐隊、抜錨します!!」

 

陽炎、長月、皐月、霰、潮、曙の順で次々と海に抜錨していく第十四駆逐隊。

その姿と声に、今更ながら風雲は疑問を浮かべた。

 

「そう言えば………私って今は何処の所属なんだっけ?」

「え?各艦隊に分かれてるんじゃないの?」

「春から「夕雲型」で一括りされて訓練していたから………。えっと、神風達は?」

「私が第一駆逐隊、朝風達4人が第五駆逐隊よ?」

 

神風との会話で頭を悩ませた風雲は朝風を見る。

 

「ゴメン。悪いけど、しばらく旗艦借りていい?」

「いいわよ、嚮導だし。後で返してくれれば。」

「じゃあ………第五駆逐隊、抜錨!」

 

風雲の号令で、以下、神風、朝風、春風、松風、旗風の順に海へと飛び込んでいった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

任務の都合上、先行するのは風雲率いる第五駆逐隊だ。

陽炎率いる第十四駆逐隊は、後から追いかけて貰う形を取って貰っている。

その為、単縦陣の先頭で進む風雲は、電探で慎重に敵影を探していた。

 

「そう言えば、風雲。キミは近海で重巡クラスと戦った事があるのかい?」

「横須賀で初めて出た時に1隻。その後私が旗艦になった時に2隻。………他にも出る時は結構出た気がする。」

「輸送船の運行に影響が出ていると聞いた事はありましたが、ここまでとは………。」

「物資は陸路でも届くけどね。………でも、そういう関係もあって定期的に掃除をしないと色々と困るのよ。」

 

後ろの神風型駆逐艦達の質問に答えながら風雲は周りを見渡す。

特にこの荒天時は潜水艦の潜望鏡に気を付けなければならなかった。

 

(初風とかはこういう細かい気配りも出来てたんだな………。)

 

改めて偉大な嚮導達に感謝しつつ風雲は嵐の中を突き進んでいくが………。

 

「………ゴメン、みんな。多分、最悪のパターン来た。」

『え?』

「右方から敵艦6隻!順に駆逐艦ロ級2隻、軽巡洋艦ホ級1隻、重巡洋艦リ級3隻!」

『リ級3隻!?』

 

風雲の言葉に背後で悲鳴にも似た叫びが上がる。

久々の戦闘で重巡が3隻というのは結構キツイ。

初風型はスペックだけ見れば睦月型よりも劣っているのだ。

装備もあまり高品質の物を積んでいない為、重巡を倒すのも一苦労であった。

 

「反航戦用意!雷撃戦を仕掛けるわよ!私が重巡1隻受け持つから、ホ級に3本、ロ級に1本ずつ魚雷を喰らわせて!」

 

神風型の魚雷は連装魚雷であり、基部ユニットの両側に2本ずつ上向きに設置されていた。

その為、軌道が独特で真っ直ぐ飛ばすにはコツがいる物だった。

風雲は、敵の砲撃を逸らす為に持参してきた探照灯を付けた。

 

「風雲!朝風、春風、松風、旗風が遅れてる!」

 

しかし、そこに後方から艦隊の様子を確認してくれていた陽炎からの隊内無線が入る。

思わず風雲は舌打ちをしたくなるが、これは予測出来ていた事だ。

それに、もう敵の横を通過する。

 

「発射!」

 

後方から一斉に魚雷が発射する音。

風雲の4本の酸素魚雷は砲撃の雨の中だったが、リ級1隻を確実に仕留める。

序に残り2隻の腕に砲撃も撃ち込んで、戦闘能力も半分奪ってやる。

 

「各艦、報告!」

「神風、命中よ!だけど………!」

「あ、朝風!魚雷が春風のとぶつかって………!」

「ホ級に破片を撒き散らしただけです………!」

「松風!ロ級に回避された!」

「旗風………!外しました!」

 

だが、報告を聞いた風雲は先制攻撃が失敗に終わった事を悟る。

神風以外は、実際に深海棲艦と相対し殺気を受けた事で思わず主機の速力を落としてしまったのだ。

その為、間合いが遠すぎて魚雷が上手く当てられなかった。

 

「反転するわよ!とにかく速力は落とさないで!敵との距離を………!」

「風雲!神風が飛び出した!!」

「はあ!?」

 

尚も陽炎から入った通信に風雲は思わず叫ぶ。

危ないと思いながらも後方を見れば、後ろにいるはずの神風がおらず被弾したリ級の内の1隻に単装砲を連射しながら突っ込んで行っていた。

 

「コイツらさえ落とせば!みんなを!」

「ちょ、何やってるの神風!?」

「落ちてーーーっ!!」

 

無線で隊列に戻るように風雲は指示を出すが、神風は頭に血が上っており耳に入っていない。

この異常事態に朝風達はどうすればいいか分からず、隊列が余計乱れそうになる。

 

(深海棲艦としての記憶が、恨みの感情となって止められなくなってるんだ………!)

 

とにかく朝風達に隊列を立て直すように指示を出すと手負いの重巡リ級1隻に迫る。

後ろの朝風達は思わずブレーキをかけてしまうが、ここまで来ると気にしている余裕はない。

ゼロ距離で風雲はリ級に連装砲による砲撃を何度も喰らわせると沈めていく。

これで、残りの敵はリ級1隻合わせて4隻。

 

(神風は………!?)

 

未だに最後のリ級に張り付いている神風を見て今度こそ風雲の目が見開かれる。

彼女は繰り出される砲撃を回り込みながら避けていた。

それだけならいいのだが、単装砲を連射しながらだ。

完全に周りが見えていない。

 

「この!この!!」

「待った、神風!」

「沈みなさい!!」

「そこは、ダメーーーっ!!」

 

風雲の警告は遅かった。

3発の単装砲の内2発はリ級の急所に当たり撃沈させる事に成功するが、外れた残り1発が………。

 

「きゃああああああああ!?」

「え………?」

 

隊内無線を通して、つんざくような悲鳴を受けて、ようやく神風が我に返る。

狙いが外れた単装砲が事もあろうか、春風に命中してしまったのだ。

隊列の事も忘れて慌てて朝風達が転覆した春風の元に集うが、彼女の右腕は焼けただれていた。

それを視認したのだろう。

海上で敵がまだ健在にもかかわらず、神風は海上にペタンと座り込む。

 

「私………私、何を………。」

「朝風!旗風!春風を引っ張って戦域から離脱して!松風は牽制射撃!!陽炎、お願い!!」

 

身体をスパークさせ………改二の力を発揮させて最大船速で神風の元に向かった風雲は、その首根っこをすれ違いざまに引っ張ると同じように離脱していく。

残りの3隻の敵艦が隙だらけの神風達に砲撃や魚雷を浴びせようとするが、殴り込んできた陽炎達によってすかさず海の藻屑とされる。

 

「陽炎………!」

「長月、悪いけど春風と入れ替わって!私はひとっ走り飛ばして横須賀に彼女を連れていく!曙達は護衛として付いてきて!」

 

陽炎はそう言うと改二の姿になり、腕を押さえてうずくまっている春風の左脇の下に自分の身体を突っ込むと、そのまま曳航していく。

曙達も改二の姿になり、その姿を急いで追っていく。

一方で風雲は放心していた神風の頬を軽く何度か叩き、何とか正気に戻そうとしていた。

だが………。

 

「神風!神風!」

「私………私………春風を………!妹を………!」

 

彼女はその手を信じられない物を見つめるようにわなわなと震わせると頭をガシッと抱えた。

 

「うわあああああああああああああ!!」

「神風!?」

「私!?何て事を!?妹なのに!?私の事大切に想ってくれてたのに!?」

「しっかりして、神風!?」

 

思わず抱きしめようとするが、信じられない位のパワーで風雲は弾き飛ばされる。

その目は絶望と後悔に染まっていた。

 

「これじゃ私………私、やっぱり………!」

「神風!落ち着いて!!」

「私、深海棲艦だったんだーーーっ!!」

 

大粒の涙を流しながら天に向かって慟哭する神風。

その空は………未だに嵐が吹き荒れていた。

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