燃える駆逐艦魂を抱えて   作:擬態人形P

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第26話 神風~自分の存在意義~

錯乱する神風をどうにか落ち着かせた風雲達は、長月を先頭にして横須賀に戻って来た。

桟橋では陽炎が待っており、春風が無事に船渠(ドック)入りをして高速修復材(バケツ)の使用許可を貰った事を教えてくれた。

風雲は心配そうに後ろで見守る朝風達に食事と風呂を済ませて自室で待機する事を告げる。

朝風達は春風の看病をしたそうだったが、神風の事も考えてくれたのだろう。

その場は風雲の言葉を素直に聞いてくれた。

そして、肝心の神風は放心状態でずっと俯いていた。

 

「まずは栄養を取って寝る。明日になれば、元気になった春風と会えるわ。」

 

風雲はそう4人を鼓舞すると装備品保管庫へと行かせる。

とりあえず落ち着くだけの時間を確保させた方が良かった。

特に、神風には………。

 

「陽炎………神風を奪還(ドロップ)した時、彼女は何て呟いてたの?」

「「私………なんてことをしてたんだろう。」………完全な後悔だったわね。」

「そう………。」

「終わった事を気にしても何も始まらないわよ。嚮導は失敗も含めて経験を積んで一人前になるんだから。」

「ありがとう………。」

 

そう言って風雲は陽炎と別れるが、やはり後悔は残っていた。

これなら出撃前に、もう一度神風達とカウンセリングを行っておくべきであった。

身勝手かもしれないが、少しでも彼女達の気持ちに寄り添えるように………。

 

(ダメだ、ネガティブになる。私も、少し頭を冷やそう………。)

 

風雲は自分の頬を叩くと装備品保管庫へと歩いて行った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

その日の夜、風雲は夜間訓練の申し出を出していた。

そして補給の終わった艤装を再び装着すると、練習海域へと歩いていく。

相変わらず天気は荒れていたが、訓練には打ってつけの気候といえた。

風雲は、ここ最近は神風型と演習を繰り返す日々を送っていた為、実戦からは遠のいていた。

だからこそ、こういう時に勘を取り戻しておきたかったのだ。

勿論、日中の出来事を紛らわせたいという意味もあったが………。

 

「さて………まずは何から始めようかな………。」

「風雲!?………風雲だよな!?何でここにいるんだ!?」

「あ、深雪?」

 

風雲は当直であった深雪が制服をずぶ濡れに塗らしながら走ってくるのを見る。

その目は何か信じられない物を見るようであった。

 

「どうしたの?私の顔に何か付いて………?」

「神風と一緒じゃないのか!?」

「………どういう事?」

 

怪訝な顔をした風雲の反応を見て、深雪がみるみるうちに青ざめるのが分かった。

彼女は風雲の肩を掴むと訓練の時のような凄みのある顔で睨みつけてくる。

 

「風雲!昼間に出撃した時、何があったんだ!?」

「な、何って………神風の事!?」

「簡潔に全部話せ!!」

 

風雲はいつも以上に真剣な深雪の瞳に押され話す。

神風が実戦で誤って春風を誤射してしまった事を。

そして錯乱した神風は、自分は深海棲艦なんだと叫んでしまった事を。

 

「くっそ!そういう事だったのか!!」

「ねえ!?何が起こったの!?私にも分かるように………!?」

「………神風が脱走した。」

「え?」

「さっきこの天候の中を1人、桟橋から抜錨してったんだ。呼び止めても反応しなかったし、お前が夜間訓練の申し出を出していたからてっきり沖合に出て2人で訓練するのかと思ってたけど、その顔が何かに憑かれたような感じで………おかしかったからお前を探してたんだ。」

「嘘!?」

 

いきなり告げられた深雪の言葉に風雲は混乱する。

どうしてそんな簡単に脱走が出来るのか?

装備保管庫は衛兵が常に見張っていて………。

 

「お前、今所属の第五駆逐隊の名義で夜間訓練の申し出をしただろ?同じ隊の神風も訓練するものだと衛兵が勘違いしてしまったんだ。」

「そ、そんな………でも、何で脱走なんて考えて………!?」

「春風に会わせる顔が無かったんだろう。深海棲艦だった記憶があるなら猶更だ。」

 

風雲の頭が真っ白になる。

深雪の言葉は全て的を射ていた。

むしろ、嚮導として真っ先に懸念すべき事だったのに。

事前に防がなければならなかったのに。

 

「失格だ………。」

 

風雲は膝を付き呆然として呟く。

 

「私、嚮導として………!」

 

バチンッ!

 

その頬に痛みが走る。

深雪が片膝を付き、風雲を叩いたのだ。

 

「しっかりしろ!お前は神風型の嚮導艦だろう!?」

「でも………でも、私………神風を………!」

「まだギリギリだけど、とっ捕まえるチャンスはある!………この天候で訓練するつもりだったのなら電探は持ってるな!?」

「え、うん………。」

 

自分を立ち上がらせた深雪の凄みのある言葉に思わず頷く風雲。

目の前の本来能天気な艦娘は、今は軽巡並に指導力のある嚮導の顔を見せていた。

背丈で負けているはずなのに、風雲はその迫力に押されてしまっていた。

 

「脱走する奴は基本何も考えずに真っ直ぐ遠くに行きたがる。神風が桟橋から出て行った方角を教えるから、そこに向かって飛び出して電探で探せ!」

「そ、そうすれば………もしかして………。」

「ああ!取り戻すんだ!お前の手で!!後、深雪さまが緊急時に使ってる無線のチャンネルも教えておく!マズイ時は迷わず連絡を取れ!」

「深雪………!」

 

その力強い言葉が、意志のある瞳が、風雲に力を与える。

そう、まだ神風を捕まえるチャンスは十分にあった。

彼女をこの嵐の中、再び海の藻屑にしてはいけない。

 

「分かった!私………行ってくる!」

「辛い嚮導の宿命だがお前ならやれる!深雪さまも、陽炎達を募って艤装を背負って追いかけるから、力付くでもいいから抑えて置けよ!」

「うん、ありがとう!深雪!!」

 

深雪に心の底から感謝をした風雲は、彼女と別れ桟橋へと走り抜錨する。

まだ時間はそんなに経ってないはずだ。

全速力で追いかければ………きっと、いや、絶対に!

 

(待ってなさいよ………神風!)

 

風雲は嵐の中で主機を全開にした。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

神風は荒れる海の上を航行していた。

何処に行く当ても無い。

只、横須賀から逃げ出したかった。

 

(私、本当に何をやっているんだろう………。)

 

これは皆の信頼を裏切る行為だ。

自分を慕ってくれた朝風達への。

自分を想ってくれた風雲への。

それでも、彼女はあの場所にはもういられなかった。

 

(もう………私は「化け物」になっちゃったから………。)

 

昼間の戦いの事を思い出してしまう。

彼女は見てしまった。

自分が傷つけてしまった春風を。

自分の砲撃で焼けただれた彼女の腕を。

そして………一瞬だが、自分に恐怖の目を向ける彼女の姿を。

 

(私………春風達に目を合わせられないよぉ………。)

 

自然と涙が溢れてくる。

海の上で散々泣いたのに。

部屋に戻った後も泣くだけ泣いたのに。

 

(だって、私はもう人間でも艦娘でもない………深海棲艦だから………!)

 

神風は弱々しく自分の雨に濡れた手を見る。

夏なのに氷のように冷たかった。

まるであの時の青白い手のように。

深海棲艦神風だった時のように。

 

「最初から………無理だったんだ………!神風型は………弱いから………!」

 

誰もいないのに言葉が漏れる。

深海棲艦だった頃の記憶が溢れてくる。

彼女は初期の頃に適性を見出されて艦娘になった少女だ。

だが、スペックが弱すぎた為に、激しい戦闘に耐え切れずに妹達と一緒に海に沈んだ。

その中で、唯一化け物の仲間入りになった彼女は、船を沈めて溺れる人達が絶望に陥っている中心で「仲間」と共に高らかに笑っていた。

 

「何で………何であんな残虐な事が出来たの………?」

 

自問自答が繰り返される。

その仲間達と一緒によく的当てで遊んだものだ。

その的とは人間の頭だ。

溺れる人の頭を綺麗に吹き飛ばせるかどうか。

そんなルールを決めて破壊本能に従っていた。

その砲を向けられた人間が死ぬ間際までどんな顔をしているかも脳裏に刻みながら………。

 

「う………うぇ………。」

 

その顔を思い出した神風は思わず海面に吐いてしまった。

忘れたくても忘れられない記憶。

辛くてきつくてでもいつまでも付き合っていかないといけない記憶。

 

「だから………だから………深海棲艦を1隻でも沈めようって決めたのに………!」

 

同じ経験をした五月雨の経験談を聞いた時、神風は再び艦娘に戻るしかないと思った。

今度こそ誇り高い神風型として、仲間達や妹達を守って贖罪をしたかった。

でも、その気持ちの空回りで、結局同じ過ちを繰り返してしまった。

 

「元に戻っても………奪還(ドロップ)されても………私は深海棲艦のままだったんだ………!あそこにいたら、春風達を沈めてしまうんだ!!」

 

人間の敵なのだ、自分は。

艦娘の敵なのだ、神風は。

 

「だから………さよ………なら………?」

「クスクス………。」

 

なりふり構わず進んでいた神風は、周りから聞こえてきた声に、目を見開く。

それは、人間の物でも艦娘の物でも無かった。

神風は電探を持ってきていなかった為、それが何かは分からなかった。

いや、直感的にそれは悟る事が出来た。

 

「これって………。」

「私達ハ貴女ノ仲間。」

「………嘘!?」

 

神風は驚愕する。

目の前には鎮守府近海であるにも関わらず、6隻どころか12隻以上の大量の深海棲艦が湧いて出ていた。

流石に夜間だからか空母系はいない。

だが、黄色い炎を上げるフラッグシップ級の駆逐艦ハ級、軽巡ツ級、雷巡チ級、重巡ネ級、戦艦ル級、潜水艦カ級………色々な種類が現れていた。

そして、駆逐棲姫を3隻従えて出てきたのは、鬼のような仮面を被ってその巨大な口を模した左腕に魚雷発射管や単装砲、そして青白い探照灯を備えた姫クラス………軽巡棲姫であった。

 

「何………で!?」

「迎エニ来タノヨ、神風。」

「え………?」

 

名前を呼ばれた事で神風は思わずたじろぎそうになるが、その足がカ級に捕まれる。

身動きが封じられた事で彼女は焦ったが、目の前を見て唖然とした。

探照灯で照らしてくる仮面に包まれた軽巡棲姫の顔は………いや、その周りの護衛達含め皆、慈愛に満ちていた。

まるで、哀れで孤独な子猫を受け入れるかのように………。

 

「私………。」

「貴女ハ仲間。モウ辛イ人間ノ元デ苦シマナクテイイノヨ?」

「貴女………。」

「コッチヘオイデ?コチラ側ニオイデ?神風………。」

 

ああ、そうだったのかと神風は思った。

彼女達は絶望に陥った自分を迎えに来てくれたのだ。

自分は………やはりあちら側だから。

 

(モウ………ソレデモイイカナ………。)

 

神風の身体から力が抜ける。

軽巡棲姫の右手が優しく伸びてくる。

それを受け入れてしまえば、自分は楽になれる。

いっそ大切な人達に迷惑を掛ける位なら、モウ一生………。

 

ドゴォン!

 

「………え?」

 

だが、その軽巡棲姫の冷たい右手が吹き飛ぶ。

その人物は、右手を再生させる為に一旦後ろに下がった敵の親玉と神風の間に割り込むと、彼女の脚を拘束しているカ級に連装砲を浴びせ、海の藻屑に変える。

長いポニーテールを靡かせてその長身で神風を覆い隠すように深海棲艦の前に立ちはだかるその艦娘は………。

 

「風雲………?」

「何、人の隊の仲間を取って食おうとしてるのよ!深海棲艦共!!」

 

夕雲型3番艦風雲が、怒りの形相で戦場に踏み込んできた。

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